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第41話
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内奥で感じる欲望の脈動と、冷静さをかなぐり捨てた獣じみた低い声に、和彦の意識は一気に舞い上がる。
「はあっ、あっ、あぁっ――」
ビクッ、ビクッと体を震わせながら細い声を洩らし、熱い体にしがみつく。
賢吾に欲望を掴まれ、乱暴に扱かれていた。鋭敏になりすぎた体には強い刺激は苦痛ですらあり、和彦は子供のように首を横に振ったが、賢吾は強引だ。和彦は、賢吾の腕に爪を立てたまま達していた。
やはり今度も、わずかな精を吐き出しただけだった。ただ、体中の力はごっそりと失ったようだ。
「きつかったか?」
荒い息を吐きながら賢吾に問われたが、和彦は満足に返事もできない。破裂する勢いで心臓が鼓動を打ち、全身の血が目まぐるしく駆け巡っている。息苦しさに目が眩み、浅い呼吸を繰り返す。そのくせ内奥は、離すまいとして賢吾の欲望をきつく締め付けていた。
「――中、まだ痙攣してるぞ」
ひそっと囁きかけてきた賢吾が緩慢に腰を揺する。硬さと熱さを保っている欲望に濡れた肉を擦られ、掠れた声を上げた和彦は、大蛇の巨体の一部が彫られた肩に歯を立てる。内奥で、賢吾の欲望がビクンと震えた。
呼吸を整えている間、汗で湿った髪を手荒く掻き乱され、こめかみや頬に何度も唇を押し当てられる。深い情愛が伝わってくる賢吾の行為に応えて、和彦も背の大蛇にてのひらを這わせる。
「そいつばかり可愛がるな。……本気で妬きたくなる」
あながち冗談とも思えない口調でこぼした賢吾に、食い入るように見つめられる。和彦は純粋な疑問をぶつけた。
「〈これ〉は、あんた自身だろ」
「どうだろうな。ときどき、重いものを背負ってる気になるんだ。こいつを剥がしたら、俺は――善良な人間になるのかもしれねーな」
その善良な人間は、好きだという美術を仕事にして、世界中を飛び回っていたかもしれない。だとしたら、和彦と出会うこともなかっただろう。
つい眉をひそめ、賢吾の頬に指先を這わせる。
「あんたの背中にいるものは、あんたそのものだ。だから……、刺青がなかったとしても、今のあんたと違う人間にはならない気がする」
「つまり俺は、どう転んでも善良さとは無縁、と言いたいのか」
「ぼくは、悪い男のあんたしか知らないからな。それを承知で、可愛がってるんだ。この大蛇を」
「……ますます俺を骨抜きにして、どうするつもりだ。和彦」
ちらりと笑みをこぼした和彦は、賢吾の肩にてのひらを這わせ、次いで唇を押し当てる。さらに大蛇の鱗に舌先を這わせていると、賢吾が微かに喉を鳴らし、内奥で欲望を蠢かした。
賢吾の分身ともいえる大蛇の刺青に触れることに、まったく抵抗はない。それどころか、体の奥から尽きることなく情欲が溢れてくるぐらいだ。恐れながらも愛しい。怖いと思いながら、自分を庇護してくれる存在として信頼もしている。
あの男と、あの男が入れている刺青に対して、微塵も抱かなかった感情だ。
硬い筋肉に覆われた脇腹に張り付いた百足の姿が、ふいに和彦の脳裏に蘇る。
「――賢吾」
助けを求めるように賢吾を呼んでいた。
今この瞬間、和彦の中に自分以外の男の存在が居座っていると察したのか、賢吾が剣呑な目つきとなる。和彦は声を潜めて切り出した。
「あんたにもう一つ、言っておくことがある」
「南郷のことか」
頷くと同時に、内奥に収まったままだった欲望がズルリと引き抜かれた。全身を戦慄かせながら和彦は、自分の右脇腹に片手を押し当てる。
「……大きな百足がいたんだ。この辺りに」
「それで」
「黒い体に、頭と足が赤くて、今にも動き出しそうだった。……ゾッとするほど気味が悪かった」
「惹かれたんじゃねーか?」
すぐには和彦は、その問いかけの意味が理解できなかった。瞬きもせず見上げる先で、賢吾の顔から表情が消える。
「お前は、刺青に弱い。それを入れている男にも。絆されて体を許して、次に許すのは――」
「怖かったんだっ」
和彦は悲鳴に近い声を上げる。
昨夜、南郷が言っていた言葉がどれだけの不穏さを含んでいるのか、改めて実感していた。蛇だろうが油断すれば、百足は餌にすると、あの男は言っていた。賢吾に対して含むところがあると、露骨に仄めかしたのだ。
南郷は、賢吾を恐れていない。だからこそ和彦は、南郷を恐れる。百足の刺青が、見た目の不気味さだけではなく、不穏さを感じさせる存在として、心に刻み込まれてしまったのだ。そんなものに惹かれるはずがない。
怖かったんだと、今度は消えそうな声で呟くと、優しく唇を啄ばまれる。和彦はおずおずと口づけに応え、すぐにそれは激しいものとなっていた。
「はあっ、あっ、あぁっ――」
ビクッ、ビクッと体を震わせながら細い声を洩らし、熱い体にしがみつく。
賢吾に欲望を掴まれ、乱暴に扱かれていた。鋭敏になりすぎた体には強い刺激は苦痛ですらあり、和彦は子供のように首を横に振ったが、賢吾は強引だ。和彦は、賢吾の腕に爪を立てたまま達していた。
やはり今度も、わずかな精を吐き出しただけだった。ただ、体中の力はごっそりと失ったようだ。
「きつかったか?」
荒い息を吐きながら賢吾に問われたが、和彦は満足に返事もできない。破裂する勢いで心臓が鼓動を打ち、全身の血が目まぐるしく駆け巡っている。息苦しさに目が眩み、浅い呼吸を繰り返す。そのくせ内奥は、離すまいとして賢吾の欲望をきつく締め付けていた。
「――中、まだ痙攣してるぞ」
ひそっと囁きかけてきた賢吾が緩慢に腰を揺する。硬さと熱さを保っている欲望に濡れた肉を擦られ、掠れた声を上げた和彦は、大蛇の巨体の一部が彫られた肩に歯を立てる。内奥で、賢吾の欲望がビクンと震えた。
呼吸を整えている間、汗で湿った髪を手荒く掻き乱され、こめかみや頬に何度も唇を押し当てられる。深い情愛が伝わってくる賢吾の行為に応えて、和彦も背の大蛇にてのひらを這わせる。
「そいつばかり可愛がるな。……本気で妬きたくなる」
あながち冗談とも思えない口調でこぼした賢吾に、食い入るように見つめられる。和彦は純粋な疑問をぶつけた。
「〈これ〉は、あんた自身だろ」
「どうだろうな。ときどき、重いものを背負ってる気になるんだ。こいつを剥がしたら、俺は――善良な人間になるのかもしれねーな」
その善良な人間は、好きだという美術を仕事にして、世界中を飛び回っていたかもしれない。だとしたら、和彦と出会うこともなかっただろう。
つい眉をひそめ、賢吾の頬に指先を這わせる。
「あんたの背中にいるものは、あんたそのものだ。だから……、刺青がなかったとしても、今のあんたと違う人間にはならない気がする」
「つまり俺は、どう転んでも善良さとは無縁、と言いたいのか」
「ぼくは、悪い男のあんたしか知らないからな。それを承知で、可愛がってるんだ。この大蛇を」
「……ますます俺を骨抜きにして、どうするつもりだ。和彦」
ちらりと笑みをこぼした和彦は、賢吾の肩にてのひらを這わせ、次いで唇を押し当てる。さらに大蛇の鱗に舌先を這わせていると、賢吾が微かに喉を鳴らし、内奥で欲望を蠢かした。
賢吾の分身ともいえる大蛇の刺青に触れることに、まったく抵抗はない。それどころか、体の奥から尽きることなく情欲が溢れてくるぐらいだ。恐れながらも愛しい。怖いと思いながら、自分を庇護してくれる存在として信頼もしている。
あの男と、あの男が入れている刺青に対して、微塵も抱かなかった感情だ。
硬い筋肉に覆われた脇腹に張り付いた百足の姿が、ふいに和彦の脳裏に蘇る。
「――賢吾」
助けを求めるように賢吾を呼んでいた。
今この瞬間、和彦の中に自分以外の男の存在が居座っていると察したのか、賢吾が剣呑な目つきとなる。和彦は声を潜めて切り出した。
「あんたにもう一つ、言っておくことがある」
「南郷のことか」
頷くと同時に、内奥に収まったままだった欲望がズルリと引き抜かれた。全身を戦慄かせながら和彦は、自分の右脇腹に片手を押し当てる。
「……大きな百足がいたんだ。この辺りに」
「それで」
「黒い体に、頭と足が赤くて、今にも動き出しそうだった。……ゾッとするほど気味が悪かった」
「惹かれたんじゃねーか?」
すぐには和彦は、その問いかけの意味が理解できなかった。瞬きもせず見上げる先で、賢吾の顔から表情が消える。
「お前は、刺青に弱い。それを入れている男にも。絆されて体を許して、次に許すのは――」
「怖かったんだっ」
和彦は悲鳴に近い声を上げる。
昨夜、南郷が言っていた言葉がどれだけの不穏さを含んでいるのか、改めて実感していた。蛇だろうが油断すれば、百足は餌にすると、あの男は言っていた。賢吾に対して含むところがあると、露骨に仄めかしたのだ。
南郷は、賢吾を恐れていない。だからこそ和彦は、南郷を恐れる。百足の刺青が、見た目の不気味さだけではなく、不穏さを感じさせる存在として、心に刻み込まれてしまったのだ。そんなものに惹かれるはずがない。
怖かったんだと、今度は消えそうな声で呟くと、優しく唇を啄ばまれる。和彦はおずおずと口づけに応え、すぐにそれは激しいものとなっていた。
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