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第41話
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顔を上げた和彦がじっと見つめると、ふいに言葉を切って賢吾も見つめ返してくる。
危惧するまでもなく、和彦の気持ちは賢吾に伝わっていた。
「――……熱が上がっても、俺のせいにするなよ」
そんな言葉のあと、唇を塞がれる。和彦はうっとりと目を細め、口づけに応えていた。
互いを味わうように唇を吸い、舌先を触れ合わせる。緩やかに舌を絡ませていく最中、和彦は鼻にかかった声を洩らし、そんな自分に気づいて密かに恥じ入る。
ついさきほどまで、悲壮な覚悟を持って賢吾と相対し、話をしていたのだ。
いや、話はまだ終わっていない。
「あっ、待って、くれ……。まだ、話すことがある――」
「もう蕩けそうな顔をしてるのに、まともに話せるのか?」
賢吾の意地の悪い指摘に、ジンと体が疼く。なんとか身を捩ろうとするが、易々と胸元に抱き込まれ、するりと羽織を肩から落とされる。
「賢吾っ……」
「本気で嫌なら、そんな甘い声を出すな」
賢吾の声が笑いを含む。間近で目が合い、そのまま離せなくなったかと思うと、また唇を塞がれていた。
性急に唇を吸われ、さらに優しく歯を立てられる。強烈な疼きが背筋を駆け抜け、和彦は形ばかりの抵抗を放棄せざるをえなくなる。体と心が無条件に、この男を受け入れたいと訴えていた。
「……こんなつもりで、部屋に来たんじゃないんだ……」
熱っぽく唇を吸い合う合間に言い訳のように呟く。
「いいじゃねーか。この間みたいに弱り切って、俺の顔を見て泣き出すより。――本当は、昨夜のうちにお前とこうしたかったがな」
賢吾の言葉に怖い響きを感じ取り、反射的に体を強張らせた和彦だが、浴衣の合わせに片手を差し込まれ、荒々しく胸元をまさぐられているうちに、自ら賢吾にすり寄る。
瞬く間に興奮で硬く凝った胸の突起を、抓るように刺激される。和彦は小さく声を洩らして賢吾を見上げ、眼差しに応えて、目元に熱い唇を押し当てられた。
浴衣の帯を解かれ、腰を抱き寄せられて膝立ちとなる。賢吾に下着を引き下ろされて、じっくりと体を眺められる。その行為の意味を、和彦は痛いほど理解していた。
抱えられるようにして布団に横たわると、裸に剥かれる。ライトの明かりが照らす中、改めて体を眺め、検分される。
賢吾の眼差しが痛い。しかし和彦の中で確かに高まるものがあり、じっとりと肌が汗ばんでいく。
「賢吾……」
「そう、緊張するな。お前にひどいことなんてしねーよ」
そんなことは心配していないが、まさか、という考えが脳裏を過ったのは、罪悪感ゆえだ。
てのひらがゆっくりと肌に這わされて、和彦は大きく息を吸い込む。覆い被さってきた賢吾の唇が首筋に押し当てられると、熱く濡れた感触に体中の神経がざわついた。
「あっ、あっ」
柔らかく首筋を吸い上げられ、微かな湿った音が鼓膜を撫でる。舌先に肌をくすぐられて震える吐息をこぼすと、次の瞬間にはきつく吸われたうえに、噛み付かれた。和彦は上擦った声を洩らしながら、賢吾の頭を抱き締める。
所有される心地よさだった。少なくとも今は、この男から引き離されることはないのだと、強く実感できる。
だからこれは〈ひどいこと〉ではないと、誰に対してか、和彦はそう心の中で主張していた。
「……少しずつ、痛いのがよくなってきただろ?」
耳元でひそっと囁きかけてきた賢吾の片手が、下肢に這わされる。和彦の欲望は、緩く身を起こしかけていた。咄嗟に手を押し退けようとしたが、反対に強く握られて腰が震える。
「いやらしいオンナだ」
ひそっと耳元で囁かれた瞬間、強烈な疼きが背筋を駆け抜けた。
握られたものを、焦らすようにゆっくりと上下に擦られる。昨夜は別の男の手によって弄られ、精を振り撒いたというのに、また反応してしまう自分に惨めさを覚えるが、一方で安堵もする。賢吾の熱心な愛撫のおかげで、南郷との行為の記憶は急速にすり潰されていく。
両足を押し広げられ、内腿にもてのひらが這わされる。検分が終わると、すぐに賢吾が顔を埋めて肌に吸いついてくる。
所有の証のつもりなのか、丹念に鬱血の跡を散らされ、首筋にされたように噛み付かれた。ひっ、と声を上げた和彦だが、じわりと広がる痛みに反応して、掴まれたままの欲望の先端から、とろりと透明なしずくをこぼす。
「んっ……」
熱い舌が先端にまとわりつき、滲み出るものを舐め取られる。そのまま括れまで口腔に含まれ、唇で締め付けられると、心地よさに鳥肌が立つ。和彦は布団の上で仰け反り、深い吐息をこぼしていた。
危惧するまでもなく、和彦の気持ちは賢吾に伝わっていた。
「――……熱が上がっても、俺のせいにするなよ」
そんな言葉のあと、唇を塞がれる。和彦はうっとりと目を細め、口づけに応えていた。
互いを味わうように唇を吸い、舌先を触れ合わせる。緩やかに舌を絡ませていく最中、和彦は鼻にかかった声を洩らし、そんな自分に気づいて密かに恥じ入る。
ついさきほどまで、悲壮な覚悟を持って賢吾と相対し、話をしていたのだ。
いや、話はまだ終わっていない。
「あっ、待って、くれ……。まだ、話すことがある――」
「もう蕩けそうな顔をしてるのに、まともに話せるのか?」
賢吾の意地の悪い指摘に、ジンと体が疼く。なんとか身を捩ろうとするが、易々と胸元に抱き込まれ、するりと羽織を肩から落とされる。
「賢吾っ……」
「本気で嫌なら、そんな甘い声を出すな」
賢吾の声が笑いを含む。間近で目が合い、そのまま離せなくなったかと思うと、また唇を塞がれていた。
性急に唇を吸われ、さらに優しく歯を立てられる。強烈な疼きが背筋を駆け抜け、和彦は形ばかりの抵抗を放棄せざるをえなくなる。体と心が無条件に、この男を受け入れたいと訴えていた。
「……こんなつもりで、部屋に来たんじゃないんだ……」
熱っぽく唇を吸い合う合間に言い訳のように呟く。
「いいじゃねーか。この間みたいに弱り切って、俺の顔を見て泣き出すより。――本当は、昨夜のうちにお前とこうしたかったがな」
賢吾の言葉に怖い響きを感じ取り、反射的に体を強張らせた和彦だが、浴衣の合わせに片手を差し込まれ、荒々しく胸元をまさぐられているうちに、自ら賢吾にすり寄る。
瞬く間に興奮で硬く凝った胸の突起を、抓るように刺激される。和彦は小さく声を洩らして賢吾を見上げ、眼差しに応えて、目元に熱い唇を押し当てられた。
浴衣の帯を解かれ、腰を抱き寄せられて膝立ちとなる。賢吾に下着を引き下ろされて、じっくりと体を眺められる。その行為の意味を、和彦は痛いほど理解していた。
抱えられるようにして布団に横たわると、裸に剥かれる。ライトの明かりが照らす中、改めて体を眺め、検分される。
賢吾の眼差しが痛い。しかし和彦の中で確かに高まるものがあり、じっとりと肌が汗ばんでいく。
「賢吾……」
「そう、緊張するな。お前にひどいことなんてしねーよ」
そんなことは心配していないが、まさか、という考えが脳裏を過ったのは、罪悪感ゆえだ。
てのひらがゆっくりと肌に這わされて、和彦は大きく息を吸い込む。覆い被さってきた賢吾の唇が首筋に押し当てられると、熱く濡れた感触に体中の神経がざわついた。
「あっ、あっ」
柔らかく首筋を吸い上げられ、微かな湿った音が鼓膜を撫でる。舌先に肌をくすぐられて震える吐息をこぼすと、次の瞬間にはきつく吸われたうえに、噛み付かれた。和彦は上擦った声を洩らしながら、賢吾の頭を抱き締める。
所有される心地よさだった。少なくとも今は、この男から引き離されることはないのだと、強く実感できる。
だからこれは〈ひどいこと〉ではないと、誰に対してか、和彦はそう心の中で主張していた。
「……少しずつ、痛いのがよくなってきただろ?」
耳元でひそっと囁きかけてきた賢吾の片手が、下肢に這わされる。和彦の欲望は、緩く身を起こしかけていた。咄嗟に手を押し退けようとしたが、反対に強く握られて腰が震える。
「いやらしいオンナだ」
ひそっと耳元で囁かれた瞬間、強烈な疼きが背筋を駆け抜けた。
握られたものを、焦らすようにゆっくりと上下に擦られる。昨夜は別の男の手によって弄られ、精を振り撒いたというのに、また反応してしまう自分に惨めさを覚えるが、一方で安堵もする。賢吾の熱心な愛撫のおかげで、南郷との行為の記憶は急速にすり潰されていく。
両足を押し広げられ、内腿にもてのひらが這わされる。検分が終わると、すぐに賢吾が顔を埋めて肌に吸いついてくる。
所有の証のつもりなのか、丹念に鬱血の跡を散らされ、首筋にされたように噛み付かれた。ひっ、と声を上げた和彦だが、じわりと広がる痛みに反応して、掴まれたままの欲望の先端から、とろりと透明なしずくをこぼす。
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熱い舌が先端にまとわりつき、滲み出るものを舐め取られる。そのまま括れまで口腔に含まれ、唇で締め付けられると、心地よさに鳥肌が立つ。和彦は布団の上で仰け反り、深い吐息をこぼしていた。
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