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第41話
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「違い、ます……。ただ、あなたが何を考えているのか、気になって」
「頭のいい先生が考えるほどのもんじゃない。俺は、ただの欲深い男だ」
会話はここまでだと言うように、腰から這い上がってきた手がとうとう肩にかかる。力を込められたわけではないが、手を振り払えない圧力のようなものを感じ、それに和彦は屈した。
背を丸めて身を屈めると、南郷の脇腹におずおずと顔を寄せる。顔を背けるなという軽い脅しのつもりか、髪を梳かれた。
独特の艶まで描かれた百足の体に、和彦はぎこちなく唇を押し当てる。二度、三度と唇を押し当て、そこで顔を上げる。途端に南郷から言われた。
「おいおい、あんたは長嶺組長に、いつもそんなおざなりなことをしてるのか?」
怒りと屈辱と羞恥から、カッと全身が熱くなる。何より、賢吾に対するものと同じ行為を要求する南郷の驕りが、ひどく癇に障った。
こんな不気味なものを、愛してやれるはずがないのだ――。
百足を見下ろし、心の中で呟いた和彦だが、南郷の求めに応じないわけにはいかない。天井を見上げたまま、口元に笑みを湛えている南郷の様子を上目遣いにうかがってから、和彦は再び行為に及ぶ。
震える舌先を、百足の長い体に這わせる。賢吾の大蛇の鱗を丹念に一枚一枚、愛撫したように。そうしていると賢吾は焦れたように背を震わせ、それを合図として、和彦は舌全体で大蛇の巨体を浅ましく舐め回し、高まった情欲のままに吸いつくのだ。行為の最中、導かれて触れる賢吾の欲望はいつも熱く高ぶっており、その反応に和彦は歓喜し、安堵していた。
賢吾だけではない。三田村と千尋の背にある刺青を愛撫するのは好きだった。何より、素直な反応を示されると、愛しいのだ。
微かに濡れた音を立てて、南郷の肌を吸い上げる。腹筋がぐっと硬くなり、傲岸でふてぶてしい男が決して無反応ではないのだと知らせてくる。
実際、南郷の欲望は、萎えることなく勃ち上がったままだ。
和彦の目には、下腹部に彫られた百足の赤い頭とともに、南郷の〈分身〉はなんともおぞましく映り、心の内で悪趣味ぶりを罵る。追い打ちをかけるように、こんな言葉がかけられた。
「気に入ったんなら、これも舐めてくれてかまわないんだぜ」
これみよがしに南郷が己の欲望を軽く片手で扱く。和彦は慌てて体を離そうとしたが、腕を掴まれ、あっという間に毛布の上に転がされていた。
のしかかってきた南郷が両足の間に腰を割り込ませ、ぴったりと下腹部を密着させてくる。正確には和彦の下腹部に、百足の刺青を擦りつけてきたのだ。
ふう、と南郷が息を吐き出す。そして、当然のように和彦の首筋に顔を埋めてきた。
「うっ、あ……」
荒々しく唇を這わされ、舌で舐め上げられる。さらに軽く歯を立てられると、ゾクゾクするような感覚が全身を駆け抜けた。
恐怖のせいだと思った和彦だが、もう一度首筋に柔らかく噛み付かれて、上擦った声を上げる。無意識に腰を震わせていた。すると南郷が腰を緩やかに動かし、百足を――高ぶった欲望も擦りつけてくる。咄嗟に南郷の肩を押し上げようとしたが、両手首をしっかりと押さえつけられた。
「興奮してるな、先生。俺のを舐めて、よくなったか?」
「違っ……、何、言って――」
「俺は、よかった」
目を見開く和彦に向けて、南郷は皮肉っぽく笑いかけてくる。これ以上なく興奮している下半身とは対照的に、理性的で怜悧な表情に見えた。
「やっぱり、あんたは特別なんだ。触られるだけで、全身の血が沸騰しそうになる。そのうえ舐めてもらって……、危うく射精しそうだった」
どこまで本気で言っているのだろうかと思っているうちに、南郷に片手を取られ、高ぶったままの欲望を握らされる。和彦は、南郷の下腹部に視線を遣り、脇腹に潜んでいる百足の姿を確認する。今にも脇腹から這い出して、自分の手に食らいついてくるのではないかと、非現実的な危機感を抱いてしまう。
「先生、口を吸わせてくれ」
いくらか荒くなった息を吐きながら南郷に求められ、ためらう間もなく唇を激しく吸われる。それでも和彦は手を動かし続け、口腔に熱い舌を受け入れる頃には、南郷が、和彦の欲望をまさぐってくる。
互いの欲望を刺激し合いながら、濃厚に舌を絡め、唾液を交わす。
おぞましい百足に触れて興奮しているわけではないと、和彦は自分に言い聞かせていた。そうしないと、荒々しく粗野な情欲に押し流されてしまいそうだったのだ。
そんな和彦の胸の内を見透かしたように、南郷の目元が笑ったような気がした。
和彦は、二度目の絶頂を迎える。それを待って南郷が、和彦の手を押し退けて、性急に自らの欲望を扱いた。
「……ドロドロだな」
「頭のいい先生が考えるほどのもんじゃない。俺は、ただの欲深い男だ」
会話はここまでだと言うように、腰から這い上がってきた手がとうとう肩にかかる。力を込められたわけではないが、手を振り払えない圧力のようなものを感じ、それに和彦は屈した。
背を丸めて身を屈めると、南郷の脇腹におずおずと顔を寄せる。顔を背けるなという軽い脅しのつもりか、髪を梳かれた。
独特の艶まで描かれた百足の体に、和彦はぎこちなく唇を押し当てる。二度、三度と唇を押し当て、そこで顔を上げる。途端に南郷から言われた。
「おいおい、あんたは長嶺組長に、いつもそんなおざなりなことをしてるのか?」
怒りと屈辱と羞恥から、カッと全身が熱くなる。何より、賢吾に対するものと同じ行為を要求する南郷の驕りが、ひどく癇に障った。
こんな不気味なものを、愛してやれるはずがないのだ――。
百足を見下ろし、心の中で呟いた和彦だが、南郷の求めに応じないわけにはいかない。天井を見上げたまま、口元に笑みを湛えている南郷の様子を上目遣いにうかがってから、和彦は再び行為に及ぶ。
震える舌先を、百足の長い体に這わせる。賢吾の大蛇の鱗を丹念に一枚一枚、愛撫したように。そうしていると賢吾は焦れたように背を震わせ、それを合図として、和彦は舌全体で大蛇の巨体を浅ましく舐め回し、高まった情欲のままに吸いつくのだ。行為の最中、導かれて触れる賢吾の欲望はいつも熱く高ぶっており、その反応に和彦は歓喜し、安堵していた。
賢吾だけではない。三田村と千尋の背にある刺青を愛撫するのは好きだった。何より、素直な反応を示されると、愛しいのだ。
微かに濡れた音を立てて、南郷の肌を吸い上げる。腹筋がぐっと硬くなり、傲岸でふてぶてしい男が決して無反応ではないのだと知らせてくる。
実際、南郷の欲望は、萎えることなく勃ち上がったままだ。
和彦の目には、下腹部に彫られた百足の赤い頭とともに、南郷の〈分身〉はなんともおぞましく映り、心の内で悪趣味ぶりを罵る。追い打ちをかけるように、こんな言葉がかけられた。
「気に入ったんなら、これも舐めてくれてかまわないんだぜ」
これみよがしに南郷が己の欲望を軽く片手で扱く。和彦は慌てて体を離そうとしたが、腕を掴まれ、あっという間に毛布の上に転がされていた。
のしかかってきた南郷が両足の間に腰を割り込ませ、ぴったりと下腹部を密着させてくる。正確には和彦の下腹部に、百足の刺青を擦りつけてきたのだ。
ふう、と南郷が息を吐き出す。そして、当然のように和彦の首筋に顔を埋めてきた。
「うっ、あ……」
荒々しく唇を這わされ、舌で舐め上げられる。さらに軽く歯を立てられると、ゾクゾクするような感覚が全身を駆け抜けた。
恐怖のせいだと思った和彦だが、もう一度首筋に柔らかく噛み付かれて、上擦った声を上げる。無意識に腰を震わせていた。すると南郷が腰を緩やかに動かし、百足を――高ぶった欲望も擦りつけてくる。咄嗟に南郷の肩を押し上げようとしたが、両手首をしっかりと押さえつけられた。
「興奮してるな、先生。俺のを舐めて、よくなったか?」
「違っ……、何、言って――」
「俺は、よかった」
目を見開く和彦に向けて、南郷は皮肉っぽく笑いかけてくる。これ以上なく興奮している下半身とは対照的に、理性的で怜悧な表情に見えた。
「やっぱり、あんたは特別なんだ。触られるだけで、全身の血が沸騰しそうになる。そのうえ舐めてもらって……、危うく射精しそうだった」
どこまで本気で言っているのだろうかと思っているうちに、南郷に片手を取られ、高ぶったままの欲望を握らされる。和彦は、南郷の下腹部に視線を遣り、脇腹に潜んでいる百足の姿を確認する。今にも脇腹から這い出して、自分の手に食らいついてくるのではないかと、非現実的な危機感を抱いてしまう。
「先生、口を吸わせてくれ」
いくらか荒くなった息を吐きながら南郷に求められ、ためらう間もなく唇を激しく吸われる。それでも和彦は手を動かし続け、口腔に熱い舌を受け入れる頃には、南郷が、和彦の欲望をまさぐってくる。
互いの欲望を刺激し合いながら、濃厚に舌を絡め、唾液を交わす。
おぞましい百足に触れて興奮しているわけではないと、和彦は自分に言い聞かせていた。そうしないと、荒々しく粗野な情欲に押し流されてしまいそうだったのだ。
そんな和彦の胸の内を見透かしたように、南郷の目元が笑ったような気がした。
和彦は、二度目の絶頂を迎える。それを待って南郷が、和彦の手を押し退けて、性急に自らの欲望を扱いた。
「……ドロドロだな」
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