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第41話
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敷き直した毛布の上に仰臥した南郷は、傍らに座り込んでいる和彦に向けて手招きをしてくる。鷹揚な動作に反発する余裕もなく、毛布に包まった体を小刻みに震わせる。
逃げ道を探すように、どうしても視線を扉に向けてしまいそうになるが、それだけで南郷の機嫌を損ね兼ねないと思い直し、渋々――嫌々、横たわる逞しい体に目を向ける。隠す必要はないとばかりに南郷は、脇腹から下腹部にかけて這う百足の刺青だけではなく、興奮が鎮まる気配のない欲望を見せつけてくる。
そうやって、和彦の反応を楽しんでいるのだ。その証拠に、揶揄するように声をかけられた。
「いつまで、そうやっているつもりだ。俺の体が冷えちまう」
南郷の肌を汗が伝い落ちている。それがひどく生々しく感じられ、和彦は咄嗟に顔を背けた。
「やっぱり――」
「嫌だというなら、さっき言ったが、あんたをこの場で犯すだけだ。暴れられて、思わず手を上げるなんて事態にはしたくないから、申し訳ないが縛らせてもらうが。尻さえ突き出してもらえば、用は済む」
卑猥で下劣な言葉に、煽られているとわかっていながらも反応せざるをえない。屈辱感に唇を噛み、怯えを押し殺しながら南郷を睨みつける。どこまでも和彦を甘く見ているのだ。だからこそ無防備に、こうやって体を曝け出せるのだ。
いくら非力とはいっても、爪で肌すら傷つけることができなくても、目を狙うことぐらいはできるというのに。
「――怖いことを考えている顔だな、先生。普段は優しげなんだが、あんたはときどき、ゾッとするほど冷たい顔をする。感情が一気に欠落して、人間から人形になったような感じに……」
我に返った和彦が身構えようとしたときには、腕を掴まれ引っ張られる。抵抗する間もなく、分厚い胸元へと倒れ込み、間近から南郷と目が合っていた。さきほどまで皮肉げな色を湛えていたはずの両目に情欲の気配を感じ取り、和彦は息を呑む。
身じろごうとして、自分が南郷の右脇腹に手を置いていることに気づいた。そこから毒に侵入されたように、なぜか体が動かなくなった。
後頭部に南郷の手がかかり、ぐいっと引き寄せられる。
「んっ……うぅ」
情熱的な口づけを与えられながら、体を包んだ毛布を剥ぎ取られる。頑丈な腕に掬い上げられるようにして、抱き締められた。無言の攻防はすぐに決着がつき、仰臥したままの南郷の腰を跨がされる。
意味ありげに南郷の両手が尻にかかり、荒々しく肉を揉みしだかれたかと思うと、強く鷲掴まれる。和彦は思わず腰を揺らしたが、その拍子に、互いの高ぶった欲望が擦れ合い、うろたえる。南郷がそっと目を細めた。
「覚悟を決めろ、先生。近くで見たら、百足はけっこう可愛いだろ。自分から舐めるか、俺に無理やり頭を押さえつけられて舐めるか、違いはそれだけだ。だが、暴力が苦手なあんたにとっては、大きな違いのはずだ」
話しながら南郷の指がゆるゆると秘裂を行き来し、濡れてわずかに綻んだ内奥の入り口をまさぐる。堪らず和彦が喉の奥から声を洩らすと、二本の指を押し込んできた。
「ひぁっ、はあっ、あっ……」
誘い込み、逃すまいとするかのように、太い指をきつく締め付ける。気持ちはともかく、発情している体は見境がない。南郷は大胆に内奥を掻き回し、出し入れして、粘膜と襞を蹂躙する音を響かせる。そこに、和彦自身が発する呻き声が加わる。
「なあ、先生、早く舐めてくれ。さっきから疼いて堪らないんだ」
和彦は、自分のてのひらの下で息づいているものを意識する。ただの刺青だと、頭ではわかっている。実際に動き出すはずもなく、目を閉じてしまえば、わずかな肌の違和感でしか訴えてくるもののない存在だ。
しかし、錯覚だとわかっていながらも、不快なものが蠢いているのを感じる。気味の悪い百足の姿が脳裏に焼きついたからなのか、南郷という男の肌に彫られているからなのか。それとも、両方か。
内奥から指が引き抜かれ、腰を撫で上げられる。
「ほら、先生、早くしてくれ」
ゆっくりと上体を起こした和彦は、座った位置をわずかにずらしてから、改めて百足の刺青を見下ろす。和彦の視線に反応したように、南郷の胸が大きく上下した。
ふっと疑問が口を突いて出た。
「……あの人が、怖くないんですか?」
「あの人――、長嶺組長か」
「自分が会長の側近だから、平気なんですか? こんなことをしても……」
「まさか。俺はいつだって、長嶺組長が怖い。それに、尊敬もしている。何より、憧れている。逆立ちしたって、俺がなれない存在だ」
だが、と言葉を続けようとした南郷だが、和彦を見て口元を緩めた。
「もしかして、誰に手を出してるのかわかってるのかって、遠回しに俺を脅してるのか?」
逃げ道を探すように、どうしても視線を扉に向けてしまいそうになるが、それだけで南郷の機嫌を損ね兼ねないと思い直し、渋々――嫌々、横たわる逞しい体に目を向ける。隠す必要はないとばかりに南郷は、脇腹から下腹部にかけて這う百足の刺青だけではなく、興奮が鎮まる気配のない欲望を見せつけてくる。
そうやって、和彦の反応を楽しんでいるのだ。その証拠に、揶揄するように声をかけられた。
「いつまで、そうやっているつもりだ。俺の体が冷えちまう」
南郷の肌を汗が伝い落ちている。それがひどく生々しく感じられ、和彦は咄嗟に顔を背けた。
「やっぱり――」
「嫌だというなら、さっき言ったが、あんたをこの場で犯すだけだ。暴れられて、思わず手を上げるなんて事態にはしたくないから、申し訳ないが縛らせてもらうが。尻さえ突き出してもらえば、用は済む」
卑猥で下劣な言葉に、煽られているとわかっていながらも反応せざるをえない。屈辱感に唇を噛み、怯えを押し殺しながら南郷を睨みつける。どこまでも和彦を甘く見ているのだ。だからこそ無防備に、こうやって体を曝け出せるのだ。
いくら非力とはいっても、爪で肌すら傷つけることができなくても、目を狙うことぐらいはできるというのに。
「――怖いことを考えている顔だな、先生。普段は優しげなんだが、あんたはときどき、ゾッとするほど冷たい顔をする。感情が一気に欠落して、人間から人形になったような感じに……」
我に返った和彦が身構えようとしたときには、腕を掴まれ引っ張られる。抵抗する間もなく、分厚い胸元へと倒れ込み、間近から南郷と目が合っていた。さきほどまで皮肉げな色を湛えていたはずの両目に情欲の気配を感じ取り、和彦は息を呑む。
身じろごうとして、自分が南郷の右脇腹に手を置いていることに気づいた。そこから毒に侵入されたように、なぜか体が動かなくなった。
後頭部に南郷の手がかかり、ぐいっと引き寄せられる。
「んっ……うぅ」
情熱的な口づけを与えられながら、体を包んだ毛布を剥ぎ取られる。頑丈な腕に掬い上げられるようにして、抱き締められた。無言の攻防はすぐに決着がつき、仰臥したままの南郷の腰を跨がされる。
意味ありげに南郷の両手が尻にかかり、荒々しく肉を揉みしだかれたかと思うと、強く鷲掴まれる。和彦は思わず腰を揺らしたが、その拍子に、互いの高ぶった欲望が擦れ合い、うろたえる。南郷がそっと目を細めた。
「覚悟を決めろ、先生。近くで見たら、百足はけっこう可愛いだろ。自分から舐めるか、俺に無理やり頭を押さえつけられて舐めるか、違いはそれだけだ。だが、暴力が苦手なあんたにとっては、大きな違いのはずだ」
話しながら南郷の指がゆるゆると秘裂を行き来し、濡れてわずかに綻んだ内奥の入り口をまさぐる。堪らず和彦が喉の奥から声を洩らすと、二本の指を押し込んできた。
「ひぁっ、はあっ、あっ……」
誘い込み、逃すまいとするかのように、太い指をきつく締め付ける。気持ちはともかく、発情している体は見境がない。南郷は大胆に内奥を掻き回し、出し入れして、粘膜と襞を蹂躙する音を響かせる。そこに、和彦自身が発する呻き声が加わる。
「なあ、先生、早く舐めてくれ。さっきから疼いて堪らないんだ」
和彦は、自分のてのひらの下で息づいているものを意識する。ただの刺青だと、頭ではわかっている。実際に動き出すはずもなく、目を閉じてしまえば、わずかな肌の違和感でしか訴えてくるもののない存在だ。
しかし、錯覚だとわかっていながらも、不快なものが蠢いているのを感じる。気味の悪い百足の姿が脳裏に焼きついたからなのか、南郷という男の肌に彫られているからなのか。それとも、両方か。
内奥から指が引き抜かれ、腰を撫で上げられる。
「ほら、先生、早くしてくれ」
ゆっくりと上体を起こした和彦は、座った位置をわずかにずらしてから、改めて百足の刺青を見下ろす。和彦の視線に反応したように、南郷の胸が大きく上下した。
ふっと疑問が口を突いて出た。
「……あの人が、怖くないんですか?」
「あの人――、長嶺組長か」
「自分が会長の側近だから、平気なんですか? こんなことをしても……」
「まさか。俺はいつだって、長嶺組長が怖い。それに、尊敬もしている。何より、憧れている。逆立ちしたって、俺がなれない存在だ」
だが、と言葉を続けようとした南郷だが、和彦を見て口元を緩めた。
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