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第40話
(16)
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賢吾の言葉に歓喜したわけではない。しかし和彦の体が示した反応は、そう取られてもおかしくはないものだった。淫らに蠕動する内奥が、高ぶる一方の逞しい欲望をきつく締め付けながら、粘膜と襞をまとわりつかせる。
腕を掴まれ引っ張られた和彦は上体を起こし、背後から逞しい両腕に抱き締められる。両足の間に片手が差し込まれ、濡れた欲望を手荒く掴まれて扱かれていた。
「あっ、もう、無理だ――……」
内奥を突かれ、執拗な愛撫を与えられているうちに、泣きそうになりながら和彦は小さく喘ぎ声をこぼす。
和彦の欲望が何度目かの高ぶりを示し始めたと知り、賢吾が吐息とともに呟いた。
「ああ……、最高だ、和彦」
すぐ耳元で携帯電話が鳴っていた。
まるで深い水の底から引き上げられるように、意識が覚醒していくのを感じながら、和彦は枕の下をまさぐる。
電話に出ると同時に目を開けると、カーテンの隙間からわずかに光が差し込んでいる。まだ日は落ちていないようだった。
『よく寝られたか?』
起きてすぐに聞くには刺激的ともいえるバリトンに、一瞬眩暈に襲われた。和彦は声を発しようとして、軽く咳き込む。寝る前に加湿器を入れておくのを忘れていた。
『もしかして風邪を引いたのか――』
「違う、部屋が少し乾燥しているだけだ。……それより、筋肉痛がひどくなった気がする」
非難がましくぼそりと呟くと、電話の向こうから微かに笑い声が聞こえてくる。どうやら賢吾の機嫌のよさはまだ持続しているようだ。
『起こして悪かったが、また寝る前に、ダイニングに行ってメシを食え。笠野に言って、準備させておいた。俺が搾り取った分、またしっかりと精をつけてもらわないといけないからな』
起き抜けに自分は何を聞かされているのだろうと、和彦は絶句する。
『……和彦?』
「呆れてるんだ。あんた、組長だろ。威厳とか、そういうものを大事にしないと。いい歳なんだし」
『お前にだけだ。俺がこういうことを言えるのは』
ここでふと、微かな違和感を覚えた和彦は首を傾げる。一体なんだろうか考え、すぐにわかった。
行為の最中でも、激情に駆られているわけでもないのに、賢吾が、和彦を『お前』と呼んでいる。そして、『和彦』とも。
電話越しでも和彦の戸惑いが伝わったのか、聡い男はこう続けた。
『いいきっかけだろ。お前が〈初めて〉をくれて、俺だけのために痛みに耐えた。それに、格好がつかないからな。息子のほうは、お前を名前で呼んでいるのに、俺がよそよそしく『先生』と呼び続けるのも』
「……別に、誰も気にかけていないと思うが」
『俺たちは面子にこだわるんだ』
本人が言うのなら、納得するしかない。和彦としても、気恥ずかしさはあるが、人前で名で呼ばれるのは嫌ではなかった。
『これを機に、お前も人前で、俺をもっと名前で呼んでくれればいいんだがな』
「心配しなくても、あんたがいないところでは、名前を呼ばせてもらっている」
ほお、と芝居がかった声が上がり、和彦の頬はじわじわと熱くなってくる。きっと賢吾は、ニヤニヤとしているのだろう。
なんとか話題を変えなければと、寝る前にかかってきた御堂の電話のことを持ち出す。
「――御堂さんから、電話があった。本当に、行っていいのか?」
『知らん顔もできんからな。秋慈が動き回るのを見越して、復帰を唆したのは俺だ。期待通り、総和会を程よく引っ掻き回し始めていると思ったんだが……』
「思ったんだが?」
『自分のオンナの淫奔ぶりを、少しばかり甘く見ていた。伊勢崎側との、ああいう結びつきはさすがの俺も予想できなかった。おそらく、秋慈も』
賢吾が何について語り出したのか、即座に和彦は察した。急に落ち着かない気分になり、ベッドの中でもぞもぞと身じろぐ。
『俺としては、伊勢崎龍造の出かたに興味をそそられている。俺のオンナと自分の息子との間にできた縁について、これ幸いと、利用しようとしているんだ。秋慈を使ってな』
「ぼくのことで、あんたが脅されるなんてことは……」
『相手は、俺より長く極道をやっていて、うちのオヤジと同類の海千山千という存在だ。だからこそ、長嶺の男たちの不興を買うのは得策じゃないとわかっているはずだ。少なくとも今は。こっちで商売をするつもりもあるようだしな。だから、大っぴらにしない。あくまで秘匿だ。――佐伯和彦と伊勢崎玲との間にあった出来事は』
色っぽい話だと、どこかふざけた口調で賢吾が言い、相槌を打つわけにもいかない和彦は口ごもる。
腕を掴まれ引っ張られた和彦は上体を起こし、背後から逞しい両腕に抱き締められる。両足の間に片手が差し込まれ、濡れた欲望を手荒く掴まれて扱かれていた。
「あっ、もう、無理だ――……」
内奥を突かれ、執拗な愛撫を与えられているうちに、泣きそうになりながら和彦は小さく喘ぎ声をこぼす。
和彦の欲望が何度目かの高ぶりを示し始めたと知り、賢吾が吐息とともに呟いた。
「ああ……、最高だ、和彦」
すぐ耳元で携帯電話が鳴っていた。
まるで深い水の底から引き上げられるように、意識が覚醒していくのを感じながら、和彦は枕の下をまさぐる。
電話に出ると同時に目を開けると、カーテンの隙間からわずかに光が差し込んでいる。まだ日は落ちていないようだった。
『よく寝られたか?』
起きてすぐに聞くには刺激的ともいえるバリトンに、一瞬眩暈に襲われた。和彦は声を発しようとして、軽く咳き込む。寝る前に加湿器を入れておくのを忘れていた。
『もしかして風邪を引いたのか――』
「違う、部屋が少し乾燥しているだけだ。……それより、筋肉痛がひどくなった気がする」
非難がましくぼそりと呟くと、電話の向こうから微かに笑い声が聞こえてくる。どうやら賢吾の機嫌のよさはまだ持続しているようだ。
『起こして悪かったが、また寝る前に、ダイニングに行ってメシを食え。笠野に言って、準備させておいた。俺が搾り取った分、またしっかりと精をつけてもらわないといけないからな』
起き抜けに自分は何を聞かされているのだろうと、和彦は絶句する。
『……和彦?』
「呆れてるんだ。あんた、組長だろ。威厳とか、そういうものを大事にしないと。いい歳なんだし」
『お前にだけだ。俺がこういうことを言えるのは』
ここでふと、微かな違和感を覚えた和彦は首を傾げる。一体なんだろうか考え、すぐにわかった。
行為の最中でも、激情に駆られているわけでもないのに、賢吾が、和彦を『お前』と呼んでいる。そして、『和彦』とも。
電話越しでも和彦の戸惑いが伝わったのか、聡い男はこう続けた。
『いいきっかけだろ。お前が〈初めて〉をくれて、俺だけのために痛みに耐えた。それに、格好がつかないからな。息子のほうは、お前を名前で呼んでいるのに、俺がよそよそしく『先生』と呼び続けるのも』
「……別に、誰も気にかけていないと思うが」
『俺たちは面子にこだわるんだ』
本人が言うのなら、納得するしかない。和彦としても、気恥ずかしさはあるが、人前で名で呼ばれるのは嫌ではなかった。
『これを機に、お前も人前で、俺をもっと名前で呼んでくれればいいんだがな』
「心配しなくても、あんたがいないところでは、名前を呼ばせてもらっている」
ほお、と芝居がかった声が上がり、和彦の頬はじわじわと熱くなってくる。きっと賢吾は、ニヤニヤとしているのだろう。
なんとか話題を変えなければと、寝る前にかかってきた御堂の電話のことを持ち出す。
「――御堂さんから、電話があった。本当に、行っていいのか?」
『知らん顔もできんからな。秋慈が動き回るのを見越して、復帰を唆したのは俺だ。期待通り、総和会を程よく引っ掻き回し始めていると思ったんだが……』
「思ったんだが?」
『自分のオンナの淫奔ぶりを、少しばかり甘く見ていた。伊勢崎側との、ああいう結びつきはさすがの俺も予想できなかった。おそらく、秋慈も』
賢吾が何について語り出したのか、即座に和彦は察した。急に落ち着かない気分になり、ベッドの中でもぞもぞと身じろぐ。
『俺としては、伊勢崎龍造の出かたに興味をそそられている。俺のオンナと自分の息子との間にできた縁について、これ幸いと、利用しようとしているんだ。秋慈を使ってな』
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『相手は、俺より長く極道をやっていて、うちのオヤジと同類の海千山千という存在だ。だからこそ、長嶺の男たちの不興を買うのは得策じゃないとわかっているはずだ。少なくとも今は。こっちで商売をするつもりもあるようだしな。だから、大っぴらにしない。あくまで秘匿だ。――佐伯和彦と伊勢崎玲との間にあった出来事は』
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