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第39話
(28)
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否応なく快感を引きずり出されて和彦は上体を捩り、なんとか抗おうとしたが、南郷はそんな和彦を容赦なく追い詰め、攻め立てる。結局、深い吐息を洩らして、大きなてのひらの中で果てていた。
和彦が吐き出した精をわざわざじっくりと眺めてから、南郷が皮肉げな口調で言う。
「溜まっていたわけじゃないんだな、先生。あんまり愛想がいいから、欲求不満なのかと思ったが……、あの長嶺組長に限ってそれはないか」
和彦を射精させたからといってそれで満足する南郷ではなく、今度は自らの欲望を握り、まるで見せつけるように手早く扱いたあと、和彦の腹の上に精を迸らせた。
まるで儀式のように、南郷は自分の精を指で掬い取り、和彦の内奥の入り口をまさぐってきた。南郷はなぜか、和彦の中に己の証を残したがる。それとも、単に汚したいだけなのか。
嫌悪と困惑と怯えを含んだ目で見上げていると、薄い笑みを口元に湛えたまま南郷は内奥に指を挿入した。また指の数を増やされたが、苦しくはなかった。それどころか自ら迎え入れるように淫らな蠕動を始め、和彦はヒクリと下腹部を震わせた。
襞と粘膜を擦り上げるようにして、南郷の精を何度も塗り込められていく。必死に声を堪えようとしていると、それに気づいた南郷に、内奥の浅い部分を強く刺激された。
「あっ、ああっ……、あっ、んあっ」
「――俺は簡単に、あんたを押さえつけられるし、こうして体を開くこともできる」
南郷が唐突に話し始めるが、執拗な愛撫は止まらない。
「いままで何回もあんたに触れてきて、寝込みも襲った。さて、そんな俺の行動に疑問を感じなかったか?」
疑問なら、今この瞬間も感じている。どうして南郷は、危険を冒してまで自分に――長嶺の男たちのオンナに触れてくるのかということだ。しかし南郷が口にしたのは、違う答えだった。
「俺がどうして、あんたを犯さないか」
物騒な言葉を言い切った南郷が、内奥から指を引き抜く。和彦が顔を強張らせると、南郷はニヤリと笑った。
「先生、あんたを〈まだ〉犯せない。今はこうして触れて、互いに慣れておくだけだ」
「……慣れる、って……」
「あんたにとって大事なのは、長嶺の男にとって可愛く従順なオンナであることだけだ。そして――末永く長嶺組長に可愛がってもらってくれ。それこそ、他の男にはもう触れさせたくないと、お前は俺の半身だと言わしめるぐらいに。そうなったら、寛容な長嶺組長もさすがに、淫奔なあんたを檻にでも閉じ込めるかもな。……ああ、そうなると、うちのほうで進めているクリニックの話に支障が出るな。まあ、とにかく、長嶺組長と仲良くやってくれたらいい」
あの人はそれを望んでいる、と南郷は続けた。
『あの人』とは誰か、まっさきに頭に浮かんだ人物の名を口にしようとした和彦だが、覆い被さってきた南郷に唇を塞がれて言葉を奪われる。一方的に唇と舌を激しく吸われ、呼吸すらも止められかねない深い口づけに、厚みのある大きな体の下でもがいたあと、四肢を投げ出していた。力では、絶対に南郷には敵わない。
長い口づけのあと、ようやく満足したように体を起こした南郷は、一人さっさと身支度を整えてベッドを下りる。シェルフの上に置いたティッシュボックスを掴むと、枕元に置いた。
「俺がきれいにしてやろうか?」
「……けっこうです」
和彦は、だるい体をなんとか起こしたものの、頭がふらついてすぐには動けなかった。そんな和彦を、南郷は立ち去るでもなくじっと見下ろしてくる。寸前までの淫らな行為の余韻など一欠片もない、ひどく冴えた表情をしていた。
「南郷さん、さっきの――」
「今晩は、しゃべりすぎた。久しぶりにあんたに触れて、らしくなく浮かれていたようだ」
また、はぐらかされた。つまり、しゃべりすぎたというのは、本当なのか――。
和彦はなんとか思考を働かせようとするが、それをさせまいとするかのように、畳みかけるように南郷が切り出した。
「忘れてもらっちゃ困るが、あんたが最優先に考えないといけないのは、自分の父親と上手く渡り合うことだ。オヤジさんが、佐伯俊哉というエリート相手にどういう絵図を描いているのか、さすがの俺もそれはわからない。ひどく警戒している一方で、懐かしんでいることだけは、傍で見ていて感じるんだがな」
「――……ぼくは、守りますよ。長嶺の男たちを、父から」
南郷は一拍置いてから、わずかに唇の端を動かした。もしかして、笑ったのかもしれない。仮眠室を出ていきながら、南郷はこう言い置いた。
「俺は今晩、ここには来なかった。あんたも、ここで男と逢引なんてしたことはなかった。……いい取引だろ?」
和彦の返事を聞くことなく、南郷の姿はドアの向こうに消えた。
和彦が吐き出した精をわざわざじっくりと眺めてから、南郷が皮肉げな口調で言う。
「溜まっていたわけじゃないんだな、先生。あんまり愛想がいいから、欲求不満なのかと思ったが……、あの長嶺組長に限ってそれはないか」
和彦を射精させたからといってそれで満足する南郷ではなく、今度は自らの欲望を握り、まるで見せつけるように手早く扱いたあと、和彦の腹の上に精を迸らせた。
まるで儀式のように、南郷は自分の精を指で掬い取り、和彦の内奥の入り口をまさぐってきた。南郷はなぜか、和彦の中に己の証を残したがる。それとも、単に汚したいだけなのか。
嫌悪と困惑と怯えを含んだ目で見上げていると、薄い笑みを口元に湛えたまま南郷は内奥に指を挿入した。また指の数を増やされたが、苦しくはなかった。それどころか自ら迎え入れるように淫らな蠕動を始め、和彦はヒクリと下腹部を震わせた。
襞と粘膜を擦り上げるようにして、南郷の精を何度も塗り込められていく。必死に声を堪えようとしていると、それに気づいた南郷に、内奥の浅い部分を強く刺激された。
「あっ、ああっ……、あっ、んあっ」
「――俺は簡単に、あんたを押さえつけられるし、こうして体を開くこともできる」
南郷が唐突に話し始めるが、執拗な愛撫は止まらない。
「いままで何回もあんたに触れてきて、寝込みも襲った。さて、そんな俺の行動に疑問を感じなかったか?」
疑問なら、今この瞬間も感じている。どうして南郷は、危険を冒してまで自分に――長嶺の男たちのオンナに触れてくるのかということだ。しかし南郷が口にしたのは、違う答えだった。
「俺がどうして、あんたを犯さないか」
物騒な言葉を言い切った南郷が、内奥から指を引き抜く。和彦が顔を強張らせると、南郷はニヤリと笑った。
「先生、あんたを〈まだ〉犯せない。今はこうして触れて、互いに慣れておくだけだ」
「……慣れる、って……」
「あんたにとって大事なのは、長嶺の男にとって可愛く従順なオンナであることだけだ。そして――末永く長嶺組長に可愛がってもらってくれ。それこそ、他の男にはもう触れさせたくないと、お前は俺の半身だと言わしめるぐらいに。そうなったら、寛容な長嶺組長もさすがに、淫奔なあんたを檻にでも閉じ込めるかもな。……ああ、そうなると、うちのほうで進めているクリニックの話に支障が出るな。まあ、とにかく、長嶺組長と仲良くやってくれたらいい」
あの人はそれを望んでいる、と南郷は続けた。
『あの人』とは誰か、まっさきに頭に浮かんだ人物の名を口にしようとした和彦だが、覆い被さってきた南郷に唇を塞がれて言葉を奪われる。一方的に唇と舌を激しく吸われ、呼吸すらも止められかねない深い口づけに、厚みのある大きな体の下でもがいたあと、四肢を投げ出していた。力では、絶対に南郷には敵わない。
長い口づけのあと、ようやく満足したように体を起こした南郷は、一人さっさと身支度を整えてベッドを下りる。シェルフの上に置いたティッシュボックスを掴むと、枕元に置いた。
「俺がきれいにしてやろうか?」
「……けっこうです」
和彦は、だるい体をなんとか起こしたものの、頭がふらついてすぐには動けなかった。そんな和彦を、南郷は立ち去るでもなくじっと見下ろしてくる。寸前までの淫らな行為の余韻など一欠片もない、ひどく冴えた表情をしていた。
「南郷さん、さっきの――」
「今晩は、しゃべりすぎた。久しぶりにあんたに触れて、らしくなく浮かれていたようだ」
また、はぐらかされた。つまり、しゃべりすぎたというのは、本当なのか――。
和彦はなんとか思考を働かせようとするが、それをさせまいとするかのように、畳みかけるように南郷が切り出した。
「忘れてもらっちゃ困るが、あんたが最優先に考えないといけないのは、自分の父親と上手く渡り合うことだ。オヤジさんが、佐伯俊哉というエリート相手にどういう絵図を描いているのか、さすがの俺もそれはわからない。ひどく警戒している一方で、懐かしんでいることだけは、傍で見ていて感じるんだがな」
「――……ぼくは、守りますよ。長嶺の男たちを、父から」
南郷は一拍置いてから、わずかに唇の端を動かした。もしかして、笑ったのかもしれない。仮眠室を出ていきながら、南郷はこう言い置いた。
「俺は今晩、ここには来なかった。あんたも、ここで男と逢引なんてしたことはなかった。……いい取引だろ?」
和彦の返事を聞くことなく、南郷の姿はドアの向こうに消えた。
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