975 / 1,268
第39話
(26)
しおりを挟む
「もっとサービスしてくれてもいいだろう。俺があんたに触れられない間に、当のあんたはどんどん色艶が増してきている。鷹津がいなくなったことも、御堂のもとで新しい男と知り合ったことも、自分の父親と接触したことも、何もかもが、あんたをオンナとして磨き上げているってことだ。そんな美味そうなあんたの味見をしておかないと」
芝居がかった下卑た物言いが、たまらなく不快だった。和彦は眉をひそめ、必死に視線を逸らし続けたが、かまわず南郷は続けた。
「――ここで、鷹津と寝たことがあるだろ」
「あなたに、関係ないっ……」
「興奮したんじゃないか。人目を避けて会いに来てくれた男と、職場でするセックスは」
次の瞬間、腰を抱き寄せられ、半ば引きずるようにして歩かされる。南郷は、ドアを開けたままにしていた仮眠室を覗き込むと、そこに和彦を連れ込んだ。
足を引っ掛けられて、よろめいて上体をベッドに倒れ込ませる。南郷に乱暴に両足を抱え上げられた拍子に、履いていたスリッパが床の上に落ちた。
南郷も当然のようにベッドに乗り上がり、二人は言葉もなく視線を交わす。静かな室内に、雨音だけが響いた。
獰猛な獣と対峙したようなものだった。視線を逸らした瞬間に、相手が飛びかかってきて、急所に食らいついてくる。そんな恐れを抱きながら和彦は息を潜め、身じろぎすらできずに南郷の出方をうかがう。よりによって、ここ数日の残業続きで、クリニックから出る時間が遅くなっても不自然ではないのだ。外で待機している護衛の男たちが異変に気づく可能性は、限りなく低かった。
南郷の手が頬にかかり、和彦は嫌悪感を露わにする。手を振り払いたいが、そんなことをすれば、どんな痛い目に遭わされるのかと想像してしまう。南郷に対して、いつも和彦の反応は同じだった。普段は男たちによって守られているが、和彦自身は非力で、臆病なのだ。
「あんたは、捕えやすい獲物だ。ちょっと痛めつける必要も、大きな声を出す必要すらない。俺に射竦められると、ビクビクしながら体を差し出すしかない」
そう南郷に嘲弄された和彦は屈辱からカッとしたが、何も言えなかった。話しながら南郷の手が頬から首筋へと移動し、思わせぶりに撫でられる。着ているシャツのボタンを外されそうになり、短く声を上げ、南郷の手を押しのけようとしたが、低く凄みのある声で言われた。
「丁寧にされるのが嫌なら、シャツを引き裂いてもいいが。コートがあるなら、他人の目はなんとか誤魔化せるだろうし」
南郷なら本当にやりかねないと一瞬にして悟った和彦は、悔しさを噛み締めつつも手を下ろす。満足げに南郷は目を細めた。
言葉で嘲弄されながら、シャツのボタンを外されていく。しかし、屈辱感で打ちのめされる余裕すら、今の和彦にはなかった。胸元が露わにされ、さらに下肢にまで南郷の手が伸び、身につけているものを容赦なく奪い取られる。和彦の体を見下ろして、南郷は雨に濡れたジャケットをゆっくりと脱ぎ捨てた。
南郷の指先が胸元に這わされ、危うく悲鳴を上げそうになったが、寸前のところで押し殺す。
「――あんたは、汚れないな。何人もの男と寝ているくせに、汚くて触れたくないという気にならない。むしろ、俺が汚してやりたいという気持ちになる。長嶺の男たちに気に入られるということは、それだけ特別なんだろう。いや、これは俺の感じ方次第か……」
最後の言葉はほとんど独り言だ。和彦がうかがうように見上げると、興奮を抑えきれないような鋭い笑みを浮かべた南郷と目が合った。ゾッとして身じろごうとしたときには、大きな体が覆い被さってくる。
いきなり首筋をベロリと舐め上げられて息を詰める。硬い感触のてのひらに脇腹を撫でられ、まるで何かを確かめるように慎重に、這い上がってくる。自分ではどうしようもできない反応として、一気に鳥肌が立っていた。肌に触れている南郷が気づかないはずもなく、ふっと息遣いが笑った。
「いつまで経っても俺に慣れない。触れるたびに、律儀に嫌悪感を示す。そんなに俺が嫌いか、先生?」
和彦は顔を背けて返事をしなかったが、かまわず南郷は耳に唇を押し当て、熱い吐息を注ぎ込んできた。
「うっ……」
ねっとりと耳朶を舐められてから、柔らかく歯を立てられる。愛撫のようで、南郷のこの行為は静かな恫喝だと和彦は感じた。いつでも肌を食い破り、血を流させることは簡単なのだと示されているようなのだ。
いつの間にか南郷に顔を覗き込まれていた。力を持った男らしい傲慢な眼差しに、和彦は呆気なくねじ伏せられ、視線を逸らすこともできない。まばたきもできないまま、再び南郷に唇を塞がれていた。
芝居がかった下卑た物言いが、たまらなく不快だった。和彦は眉をひそめ、必死に視線を逸らし続けたが、かまわず南郷は続けた。
「――ここで、鷹津と寝たことがあるだろ」
「あなたに、関係ないっ……」
「興奮したんじゃないか。人目を避けて会いに来てくれた男と、職場でするセックスは」
次の瞬間、腰を抱き寄せられ、半ば引きずるようにして歩かされる。南郷は、ドアを開けたままにしていた仮眠室を覗き込むと、そこに和彦を連れ込んだ。
足を引っ掛けられて、よろめいて上体をベッドに倒れ込ませる。南郷に乱暴に両足を抱え上げられた拍子に、履いていたスリッパが床の上に落ちた。
南郷も当然のようにベッドに乗り上がり、二人は言葉もなく視線を交わす。静かな室内に、雨音だけが響いた。
獰猛な獣と対峙したようなものだった。視線を逸らした瞬間に、相手が飛びかかってきて、急所に食らいついてくる。そんな恐れを抱きながら和彦は息を潜め、身じろぎすらできずに南郷の出方をうかがう。よりによって、ここ数日の残業続きで、クリニックから出る時間が遅くなっても不自然ではないのだ。外で待機している護衛の男たちが異変に気づく可能性は、限りなく低かった。
南郷の手が頬にかかり、和彦は嫌悪感を露わにする。手を振り払いたいが、そんなことをすれば、どんな痛い目に遭わされるのかと想像してしまう。南郷に対して、いつも和彦の反応は同じだった。普段は男たちによって守られているが、和彦自身は非力で、臆病なのだ。
「あんたは、捕えやすい獲物だ。ちょっと痛めつける必要も、大きな声を出す必要すらない。俺に射竦められると、ビクビクしながら体を差し出すしかない」
そう南郷に嘲弄された和彦は屈辱からカッとしたが、何も言えなかった。話しながら南郷の手が頬から首筋へと移動し、思わせぶりに撫でられる。着ているシャツのボタンを外されそうになり、短く声を上げ、南郷の手を押しのけようとしたが、低く凄みのある声で言われた。
「丁寧にされるのが嫌なら、シャツを引き裂いてもいいが。コートがあるなら、他人の目はなんとか誤魔化せるだろうし」
南郷なら本当にやりかねないと一瞬にして悟った和彦は、悔しさを噛み締めつつも手を下ろす。満足げに南郷は目を細めた。
言葉で嘲弄されながら、シャツのボタンを外されていく。しかし、屈辱感で打ちのめされる余裕すら、今の和彦にはなかった。胸元が露わにされ、さらに下肢にまで南郷の手が伸び、身につけているものを容赦なく奪い取られる。和彦の体を見下ろして、南郷は雨に濡れたジャケットをゆっくりと脱ぎ捨てた。
南郷の指先が胸元に這わされ、危うく悲鳴を上げそうになったが、寸前のところで押し殺す。
「――あんたは、汚れないな。何人もの男と寝ているくせに、汚くて触れたくないという気にならない。むしろ、俺が汚してやりたいという気持ちになる。長嶺の男たちに気に入られるということは、それだけ特別なんだろう。いや、これは俺の感じ方次第か……」
最後の言葉はほとんど独り言だ。和彦がうかがうように見上げると、興奮を抑えきれないような鋭い笑みを浮かべた南郷と目が合った。ゾッとして身じろごうとしたときには、大きな体が覆い被さってくる。
いきなり首筋をベロリと舐め上げられて息を詰める。硬い感触のてのひらに脇腹を撫でられ、まるで何かを確かめるように慎重に、這い上がってくる。自分ではどうしようもできない反応として、一気に鳥肌が立っていた。肌に触れている南郷が気づかないはずもなく、ふっと息遣いが笑った。
「いつまで経っても俺に慣れない。触れるたびに、律儀に嫌悪感を示す。そんなに俺が嫌いか、先生?」
和彦は顔を背けて返事をしなかったが、かまわず南郷は耳に唇を押し当て、熱い吐息を注ぎ込んできた。
「うっ……」
ねっとりと耳朶を舐められてから、柔らかく歯を立てられる。愛撫のようで、南郷のこの行為は静かな恫喝だと和彦は感じた。いつでも肌を食い破り、血を流させることは簡単なのだと示されているようなのだ。
いつの間にか南郷に顔を覗き込まれていた。力を持った男らしい傲慢な眼差しに、和彦は呆気なくねじ伏せられ、視線を逸らすこともできない。まばたきもできないまま、再び南郷に唇を塞がれていた。
24
お気に入りに追加
1,391
あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…



塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。
そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる