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第39話
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痛みで意識が朦朧として、自分が今なにをしているのかわからなくなるが、皮肉にも、和彦の意識を正常に戻すのは、賢吾と千尋から与えられる痛みだ。正直、憎たらしいという気持ちさえ湧いてくる。
「んっ……」
背後からゆっくりと突き上げられ、千尋の胸に手を突いて体を支える。限界以上に広げられた内奥で、父子の欲望が擦れ合い、せめぎ合っている。仲がいいのかそうでないのか、よくわからない関係だなと思ったところで、気がつけば和彦は口元に淡い笑みを湛えていた。千尋が惚けたような顔で見上げている。
「和彦――」
千尋が片手を伸ばして、顔に触れてくる。唇をなぞった指が口腔に押し込まれてきたので、和彦は従順に吸ってやり、舌を絡める。一方の賢吾は、欲望を扱く手の動きを速めた。
父子は和彦の体を蹂躙しながら、献身的な愛撫を施してくる。痛みも快感も体に刻み込めと言うかのように。
「あっ、あっ、嫌、だ……、ゆっくり、してくれ……」
「してるだろ。ゆっくり、お前の体を愛してやってる」
賢吾に背後から突き上げられるたびに、頭の先まで駆け抜けるような痛みが走る。苦しくて堪らないが、二人の男の欲望を自分が包み込んでいるという実感は、奇妙な高揚感を生み出してもいた。苦痛から逃避するための錯覚だろうかと、ぼんやりと考えもするのだが、それで賢吾と千尋が悦ぶのであれば、なんでも受け入れてやりたかった。
自分は、この痛みは愛してやれるという確信が、和彦にはあったのだ。
「ふっ……、んっ、んんっ」
耳元で感じる賢吾の息遣いが切迫してくる。和彦はぎこちなく顔を動かし、賢吾と唇を吸い合う。一方で、千尋とはしっかりと手を握り合う。
時間はかかったが、父子は和彦の中でそれぞれ精を吐き出した。
ひどい有り様だと、浴衣に包んだ体を布団に横たえて、和彦はぐったりとしていた。仰向けになれないのは、もちろん理由がある。体を横向きにしていても、腰が――いや、全身が痛い。
こうなった原因である男はすぐ隣で横になり、さきほどから和彦の髪や頬を優しく撫でてくる。もう一人は、和彦の背後からぴったりとくっついたままだ。一応、無茶をさせた和彦を気遣っているつもりなのだろう。
「明日……、車に乗れないかもしれない」
どうするつもりだと、気恥ずかしさもあって和彦が睨みつけると、賢吾は口元を緩めた。
「先生の体調が落ち着くまで、ここに滞在してもいいぞ。三人で」
「三人で」
背後から千尋がすかさず復唱する。頬をつねり上げてやりたいところだが、体の向きを変えるのも今はつらい。
和彦は深々とため息をつくと、ぼそぼそと忠告した。
「……ああいうのは、もう嫌だからな。ぼくが壊れる。本当に、痛いのは嫌なんだ」
「だが、俺と千尋のために耐えてくれた」
「逃げるに逃げられない状態だったからだ」
「先生が泣き叫んだら、さすがにやめるつもりだったが」
ひどい目に遭ったのはこちらだが、なぜか分の悪さを感じる。
賢吾に片手を取られて、てのひらに唇を押し当てられる。お返しというわけではないが、和彦はその手で賢吾の頬を撫でた。
本宅に滞在しながら心のどこかで気になっていたことを、行為のあとの気だるさも手伝って、さらりと切り出すことができた。
「――ぼくのことで、総和会から何か言われてないか?」
「どうしてそう思う」
「ぼくには何も連絡が入らないからだ。だから……、あんたが止めているんじゃないかと思った」
「先生の父親から連絡がくるまで、そっとしておいてくれと言ってあるだけだ。総和会としても、文句はないだろう。本宅にいると、先生を連れ出すのに少々難儀するが、その代わり、安全だ。大蛇と犬っころが、しっかり先生を守っている」
賢吾の言いように小さく笑みをこぼした和彦だが、すぐに表情を引き締める。
「それでも……、線引きはしておきたい。あんたたちの世界では、確かにぼくは無力で何もできないから、守ってもらうしかない。だけど、佐伯家に関わることでは、手を出さないでほしい。あくまで接触するのは、総和会か、総和会に庇護されているぼくだ」
背後で千尋が身じろぐ気配がして、遠慮がちに腰に腕が回される。何か言おうとした様子だが、賢吾がわずかに首を横に振った。
「自分の父親から、組や俺たちを守るためか?」
「父さんがどういう人間か知っている会長は、ぼくと同じことを考えていると思う。会長にとっても、長嶺組に傷はつけたくないだろうし……」
でも、と和彦は言葉を続ける。
「んっ……」
背後からゆっくりと突き上げられ、千尋の胸に手を突いて体を支える。限界以上に広げられた内奥で、父子の欲望が擦れ合い、せめぎ合っている。仲がいいのかそうでないのか、よくわからない関係だなと思ったところで、気がつけば和彦は口元に淡い笑みを湛えていた。千尋が惚けたような顔で見上げている。
「和彦――」
千尋が片手を伸ばして、顔に触れてくる。唇をなぞった指が口腔に押し込まれてきたので、和彦は従順に吸ってやり、舌を絡める。一方の賢吾は、欲望を扱く手の動きを速めた。
父子は和彦の体を蹂躙しながら、献身的な愛撫を施してくる。痛みも快感も体に刻み込めと言うかのように。
「あっ、あっ、嫌、だ……、ゆっくり、してくれ……」
「してるだろ。ゆっくり、お前の体を愛してやってる」
賢吾に背後から突き上げられるたびに、頭の先まで駆け抜けるような痛みが走る。苦しくて堪らないが、二人の男の欲望を自分が包み込んでいるという実感は、奇妙な高揚感を生み出してもいた。苦痛から逃避するための錯覚だろうかと、ぼんやりと考えもするのだが、それで賢吾と千尋が悦ぶのであれば、なんでも受け入れてやりたかった。
自分は、この痛みは愛してやれるという確信が、和彦にはあったのだ。
「ふっ……、んっ、んんっ」
耳元で感じる賢吾の息遣いが切迫してくる。和彦はぎこちなく顔を動かし、賢吾と唇を吸い合う。一方で、千尋とはしっかりと手を握り合う。
時間はかかったが、父子は和彦の中でそれぞれ精を吐き出した。
ひどい有り様だと、浴衣に包んだ体を布団に横たえて、和彦はぐったりとしていた。仰向けになれないのは、もちろん理由がある。体を横向きにしていても、腰が――いや、全身が痛い。
こうなった原因である男はすぐ隣で横になり、さきほどから和彦の髪や頬を優しく撫でてくる。もう一人は、和彦の背後からぴったりとくっついたままだ。一応、無茶をさせた和彦を気遣っているつもりなのだろう。
「明日……、車に乗れないかもしれない」
どうするつもりだと、気恥ずかしさもあって和彦が睨みつけると、賢吾は口元を緩めた。
「先生の体調が落ち着くまで、ここに滞在してもいいぞ。三人で」
「三人で」
背後から千尋がすかさず復唱する。頬をつねり上げてやりたいところだが、体の向きを変えるのも今はつらい。
和彦は深々とため息をつくと、ぼそぼそと忠告した。
「……ああいうのは、もう嫌だからな。ぼくが壊れる。本当に、痛いのは嫌なんだ」
「だが、俺と千尋のために耐えてくれた」
「逃げるに逃げられない状態だったからだ」
「先生が泣き叫んだら、さすがにやめるつもりだったが」
ひどい目に遭ったのはこちらだが、なぜか分の悪さを感じる。
賢吾に片手を取られて、てのひらに唇を押し当てられる。お返しというわけではないが、和彦はその手で賢吾の頬を撫でた。
本宅に滞在しながら心のどこかで気になっていたことを、行為のあとの気だるさも手伝って、さらりと切り出すことができた。
「――ぼくのことで、総和会から何か言われてないか?」
「どうしてそう思う」
「ぼくには何も連絡が入らないからだ。だから……、あんたが止めているんじゃないかと思った」
「先生の父親から連絡がくるまで、そっとしておいてくれと言ってあるだけだ。総和会としても、文句はないだろう。本宅にいると、先生を連れ出すのに少々難儀するが、その代わり、安全だ。大蛇と犬っころが、しっかり先生を守っている」
賢吾の言いように小さく笑みをこぼした和彦だが、すぐに表情を引き締める。
「それでも……、線引きはしておきたい。あんたたちの世界では、確かにぼくは無力で何もできないから、守ってもらうしかない。だけど、佐伯家に関わることでは、手を出さないでほしい。あくまで接触するのは、総和会か、総和会に庇護されているぼくだ」
背後で千尋が身じろぐ気配がして、遠慮がちに腰に腕が回される。何か言おうとした様子だが、賢吾がわずかに首を横に振った。
「自分の父親から、組や俺たちを守るためか?」
「父さんがどういう人間か知っている会長は、ぼくと同じことを考えていると思う。会長にとっても、長嶺組に傷はつけたくないだろうし……」
でも、と和彦は言葉を続ける。
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