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第37話
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「ふむ。長年のつき合いがあるというのに、秋慈はどうやら、お前とのほうに友誼を感じているようだ。電話で聞いたが、お前と誰かがいい感じだなんて、一切教えてくれなかったぞ。薄情な奴だと思わないか?」
どこか嘲りも含んだ賢吾の物言いに、和彦はふと、料亭で守光から言われた言葉を思い出す。
『オンナ同士、相性がいいのかもしれんな』
賢吾も同じようなことを言うのだろうかと、和彦は強い眼差しを向ける。それに気づいた賢吾が、こめかみに唇を寄せてきた。
「冗談だ。お前が久しぶりに穏やかな表情をしているから、妬けたんだ」
「……誰に?」
ひそっと和彦は囁きかける。賢吾は短い言葉の意味を即座に理解したらしく、目を細めた。後ろ髪を掴まれたため、和彦はわずかに顔を仰向かせる。
「悪いオンナだ。――秋慈以外の誰が、お前を慰めてくれたんだ」
「慰めじゃない。求めてくれたんだ」
怖い男の両目を、怯みそうになりながらも和彦は見つめ続ける。賢吾は淡々とした口調でこう言った。
「浮気相手を見つけ出して、いろいろと切り落としてやるか」
和彦は短く息を吐き出すと、賢吾の挑発に乗った。
「――あんたが言ったんだ。遊びは許す、と」
「これまでの経験で、さんざん骨身に染みたと思ったんだがな。ヤクザの言うことを信用するなってことは」
和彦自身、玲に言ったことだ。なんとか不安や怯えを表情に出すまいと踏ん張っていたが、この瞬間、すがるように賢吾を見つめてしまう。
賢吾が首筋に顔を寄せ、じわじわと歯を立ててきた。このまま皮膚どころか肉まで食い千切られるのではないかと、硬い歯の感触に怖気立ったが、同時に和彦の胸の奥で熱いものがうねった。この行為が、賢吾の強い執着心を表していると、よくわかっているからだ。
「賢吾……」
思わず呼びかけると、首筋をベロリと舐め上げられる。
「本当に、性質の悪いオンナだ。浮気を許可してすぐに、相手を見つけ出して、咥え込んで。どうせ、相手の男も骨抜きにしたんだろ」
誰だ、と低い声で問われる。物騒な響きを帯びたバリトンに、甘い眩暈に襲われる。そこでまた、首筋を舐め上げられる。
「……わかって、るんだろ……」
「お前の口から聞きたい。どんな男に抱かれたか」
肩を抱いた賢吾の手が浴衣の合わせから入り込み、荒々しく胸元をまさぐってくる。てのひらで転がすように刺激され、緊張もあって瞬く間に胸の突起が硬く凝ると、すかさず指の腹で捏ねられる。
「ここは、弄られたか?」
「言いたく、ない」
そう答えた次の瞬間、布団の上に突き飛ばされ、浴衣の裾を捲り上げられた。和彦が下着を穿いていないと知り、賢吾がニヤリと笑む。
「準備万端だな。俺の機嫌を取るつもりだったのか?」
「どうしてぼくが、そんなことをしないといけないんだ。――あんたが、ぼくを欲しがると思ったから、準備しただけだ。機嫌を取るのは、あんたのほうだ」
ほう、と声を洩らした賢吾が笑みを消し、威圧的にのしかかってくる。両足の間に膝が割り込まされ、中心にあるものを露骨に刺激された。
「それは、どういう理屈でだ?」
「……鷹津の件で、あんたはずっと怒っている。だけど、ぼくに鷹津をつけたのは、あんただ。結果としてぼくは傷ついた。そこから癒されるための手段については、あんたには……、長嶺の男たちには、とやかく言わせない」
「すごい理屈だな。自分でも、どれだけ乱暴なことを言っているか、わかるだろ」
「だけど実際、ぼくは少し楽になった。〈彼〉のおかげで」
「――……つまり、高校生のガキとの遊びが、よかったんだな」
和彦は驚くことなく賢吾を見つめる。電話で玲のことを話していたこともあり、賢吾なら察しているだろうと思っていたのだ。
大きな手に顔を覆われそうになり、さすがに身を強張らせたが、手荒く頬や髪を撫でられて、おずおずと力を抜く。
「開き直ったお前は、怖い。怖い、オンナだ……」
「そうしたのは、誰だ」
「そうだな。俺たちの執着と環境が、お前をピカピカに磨き上げちまった」
低い笑い声を洩らした賢吾が、今度は強引に唇を重ねてくる。噛みつく勢いで唇を吸われ、舌先で歯列をこじ開けられて口腔を犯される。剥き出しとなっている腿を荒々しくまさぐられ、尻の肉を強く掴まれて和彦は呻き声を洩らす。それすら唇に吸い取られ、結局、余裕なく賢吾と舌を絡め合っていた。
久しぶりの賢吾との濃厚な口づけは、気が遠くなるほど気持ちよかった。
賢吾の手が両足の間に入り込み、いきなり柔らかな膨らみをまさぐられる。ここを弄られるのも、久しぶりだった。
「うっ、うぅっ」
どこか嘲りも含んだ賢吾の物言いに、和彦はふと、料亭で守光から言われた言葉を思い出す。
『オンナ同士、相性がいいのかもしれんな』
賢吾も同じようなことを言うのだろうかと、和彦は強い眼差しを向ける。それに気づいた賢吾が、こめかみに唇を寄せてきた。
「冗談だ。お前が久しぶりに穏やかな表情をしているから、妬けたんだ」
「……誰に?」
ひそっと和彦は囁きかける。賢吾は短い言葉の意味を即座に理解したらしく、目を細めた。後ろ髪を掴まれたため、和彦はわずかに顔を仰向かせる。
「悪いオンナだ。――秋慈以外の誰が、お前を慰めてくれたんだ」
「慰めじゃない。求めてくれたんだ」
怖い男の両目を、怯みそうになりながらも和彦は見つめ続ける。賢吾は淡々とした口調でこう言った。
「浮気相手を見つけ出して、いろいろと切り落としてやるか」
和彦は短く息を吐き出すと、賢吾の挑発に乗った。
「――あんたが言ったんだ。遊びは許す、と」
「これまでの経験で、さんざん骨身に染みたと思ったんだがな。ヤクザの言うことを信用するなってことは」
和彦自身、玲に言ったことだ。なんとか不安や怯えを表情に出すまいと踏ん張っていたが、この瞬間、すがるように賢吾を見つめてしまう。
賢吾が首筋に顔を寄せ、じわじわと歯を立ててきた。このまま皮膚どころか肉まで食い千切られるのではないかと、硬い歯の感触に怖気立ったが、同時に和彦の胸の奥で熱いものがうねった。この行為が、賢吾の強い執着心を表していると、よくわかっているからだ。
「賢吾……」
思わず呼びかけると、首筋をベロリと舐め上げられる。
「本当に、性質の悪いオンナだ。浮気を許可してすぐに、相手を見つけ出して、咥え込んで。どうせ、相手の男も骨抜きにしたんだろ」
誰だ、と低い声で問われる。物騒な響きを帯びたバリトンに、甘い眩暈に襲われる。そこでまた、首筋を舐め上げられる。
「……わかって、るんだろ……」
「お前の口から聞きたい。どんな男に抱かれたか」
肩を抱いた賢吾の手が浴衣の合わせから入り込み、荒々しく胸元をまさぐってくる。てのひらで転がすように刺激され、緊張もあって瞬く間に胸の突起が硬く凝ると、すかさず指の腹で捏ねられる。
「ここは、弄られたか?」
「言いたく、ない」
そう答えた次の瞬間、布団の上に突き飛ばされ、浴衣の裾を捲り上げられた。和彦が下着を穿いていないと知り、賢吾がニヤリと笑む。
「準備万端だな。俺の機嫌を取るつもりだったのか?」
「どうしてぼくが、そんなことをしないといけないんだ。――あんたが、ぼくを欲しがると思ったから、準備しただけだ。機嫌を取るのは、あんたのほうだ」
ほう、と声を洩らした賢吾が笑みを消し、威圧的にのしかかってくる。両足の間に膝が割り込まされ、中心にあるものを露骨に刺激された。
「それは、どういう理屈でだ?」
「……鷹津の件で、あんたはずっと怒っている。だけど、ぼくに鷹津をつけたのは、あんただ。結果としてぼくは傷ついた。そこから癒されるための手段については、あんたには……、長嶺の男たちには、とやかく言わせない」
「すごい理屈だな。自分でも、どれだけ乱暴なことを言っているか、わかるだろ」
「だけど実際、ぼくは少し楽になった。〈彼〉のおかげで」
「――……つまり、高校生のガキとの遊びが、よかったんだな」
和彦は驚くことなく賢吾を見つめる。電話で玲のことを話していたこともあり、賢吾なら察しているだろうと思っていたのだ。
大きな手に顔を覆われそうになり、さすがに身を強張らせたが、手荒く頬や髪を撫でられて、おずおずと力を抜く。
「開き直ったお前は、怖い。怖い、オンナだ……」
「そうしたのは、誰だ」
「そうだな。俺たちの執着と環境が、お前をピカピカに磨き上げちまった」
低い笑い声を洩らした賢吾が、今度は強引に唇を重ねてくる。噛みつく勢いで唇を吸われ、舌先で歯列をこじ開けられて口腔を犯される。剥き出しとなっている腿を荒々しくまさぐられ、尻の肉を強く掴まれて和彦は呻き声を洩らす。それすら唇に吸い取られ、結局、余裕なく賢吾と舌を絡め合っていた。
久しぶりの賢吾との濃厚な口づけは、気が遠くなるほど気持ちよかった。
賢吾の手が両足の間に入り込み、いきなり柔らかな膨らみをまさぐられる。ここを弄られるのも、久しぶりだった。
「うっ、うぅっ」
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