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第36話
(33)
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やはり、組長の息子というものは食えないと、和彦は苦々しく思う。脅されているのかもしれないが、玲の口調は切実で、悪意とは無縁に思える。それどころか――。
和彦は軽くため息をつくと、伸ばした片手で玲の頬を撫でる。それだけで玲は、心地よさそうに目を細めた。
「もう、気は済んだだろう。君は夢の中で〈オンナ〉に触れて、好奇心は満たされたはずだ。現実的に考えたら、ぼくは、君より一回り以上も年上の男だ。しかも、面倒な事情をたっぷり抱えている。脅すわけじゃないが、ぼくの背後にいるのは、怖い男と組織ばかりだ」
「俺のこと、心配してくれているんですね」
「都合よく受け止めるなっ。ぼくがっ……、これ以上の面倒は嫌なんだ」
「父さんが言ってました。特別なオンナには、面倒くさい環境や事情がつきものだって。だけどそれが、オンナを守る檻になるとも」
玲の発言を聞いた和彦は、前に御堂が、本物の檻に閉じ込められた経験があると仄めかしていたのを思い出す。誰がそんなことをしたのか、なんとなく察しがついた。
「俺はまだガキなんで、大人や組織の難しいことはわからないですし、考えたくないです。受験生だし」
「……便利な言い訳だな」
「便利だから、今のうちに使っておかないと、もったいないなって……」
悪びれない玲の物言いに、つい和彦は、ふふっ、と声を洩らして笑ってしまう。慌てて表情を取り繕おうとしたが、もう遅い。和彦が本気で怒っているわけではないと瞬時に理解したらしく、玲が再び覆い被さってきた。
「おい、こらっ、退くんだ」
和彦は窘めるが、すでに玲の目の色は変わっている。
「玲、くん……」
「オンナじゃなく、あなたを抱きたい。佐伯和彦という、一回り以上年上の男の人を」
玲の囁きが体の内に入り込む。繊細で感じやすい部分をくすぐられたようで、和彦は甘い眩暈に襲われていた。
昨夜、さんざん身をもって実感していたはずなのに、改めて思い知らされる。高校生とはいっても、自分に覆い被さっているのは紛れもなく、若くしなやかな体と心を持った青年――男なのだ。
「ダメ、だ。もう、君とは――」
「嫌です。したいです、あなたと。また、あなたの中に入りたいです」
困らせないでくれと言う和彦の声は、自分でもわかるほど弱々しかった。
これ以上の言葉は必要ないとばかりに玲が唇を重ねてくる。昨夜とは比較にならないほどの大胆さで激しく唇を吸ってきたかと思うと、口腔に舌を捻じ込んでこようとする。余裕がなく、覚えたばかりの行為をひたすら行おうとする玲にいじらしさすら感じ、そうなると、もう和彦はダメだった。
決して、同情したわけではない。玲がぶつけてくる情熱と情欲に、和彦の官能が刺激されたのだ。
意識しないまま玲の腕に手をかける。拒むためではなく、受け入れるために。和彦の変化に気づいた玲が動きを止める。
「……悪い子だな」
そっと和彦が洩らすと、玲はちらりと笑みを見せ、次の瞬間には引き締まった表情となった。
Tシャツの下に遠慮がちに手が入り込んできたが、和彦が制止しないとわかると、大胆に捲り上げる。
「あっ……」
電気をつける必要もないほど、外からの陽射しが差し込んでくる室内は明るい。昨夜、ささやかなライトの明かりの下で残された愛撫の跡を、こんな形で、残した本人に見られるのは、ひどく羞恥心を刺激される。同時に、被虐的な愉悦も。
和彦は顔を背け、震えを帯びた息を吐き出す。玲から向けられる眼差しは、まるで愛撫そのものだ。直接触れられているわけでもないのに、胸元を撫で回されているような錯覚を覚える。
「これ全部、俺がつけたんですね。こんなにはっきりと、キスマークを――」
指先が胸元を滑り、それだけで和彦の呼吸が弾む。さらに玲が胸元に唇を押し当ててきたとき、じんわりと肌に伝わってくる熱さに、小さく声を上げていた。それが若い情熱を煽ったらしく、強引にTシャツを脱がされた挙げ句、パンツにも手がかかる。
反射的に玲の手を押し退けようとした和彦だが、物言いたげに見つめ返されて、それ以上のことはできなかった。
「――この家で、俺と佐伯さんのことを咎められる人は、いないですよね」
きっと今、玲の脳裏にあるのは、自分の父親と御堂が畳の上で絡み合っていた光景なのだろう。悪い大人たちが、玲を刺激し、煽って、急速に成長させてしまった。
もちろん、その悪い大人の一人は、和彦だ。
玲にされるがままとなり、何も身につけていない体を畳の上で曝け出す。体をまさぐる玲の手は汗ばみ、燃えそうなほど熱かった。そして和彦自身の体も、熱を帯び始める。
和彦は軽くため息をつくと、伸ばした片手で玲の頬を撫でる。それだけで玲は、心地よさそうに目を細めた。
「もう、気は済んだだろう。君は夢の中で〈オンナ〉に触れて、好奇心は満たされたはずだ。現実的に考えたら、ぼくは、君より一回り以上も年上の男だ。しかも、面倒な事情をたっぷり抱えている。脅すわけじゃないが、ぼくの背後にいるのは、怖い男と組織ばかりだ」
「俺のこと、心配してくれているんですね」
「都合よく受け止めるなっ。ぼくがっ……、これ以上の面倒は嫌なんだ」
「父さんが言ってました。特別なオンナには、面倒くさい環境や事情がつきものだって。だけどそれが、オンナを守る檻になるとも」
玲の発言を聞いた和彦は、前に御堂が、本物の檻に閉じ込められた経験があると仄めかしていたのを思い出す。誰がそんなことをしたのか、なんとなく察しがついた。
「俺はまだガキなんで、大人や組織の難しいことはわからないですし、考えたくないです。受験生だし」
「……便利な言い訳だな」
「便利だから、今のうちに使っておかないと、もったいないなって……」
悪びれない玲の物言いに、つい和彦は、ふふっ、と声を洩らして笑ってしまう。慌てて表情を取り繕おうとしたが、もう遅い。和彦が本気で怒っているわけではないと瞬時に理解したらしく、玲が再び覆い被さってきた。
「おい、こらっ、退くんだ」
和彦は窘めるが、すでに玲の目の色は変わっている。
「玲、くん……」
「オンナじゃなく、あなたを抱きたい。佐伯和彦という、一回り以上年上の男の人を」
玲の囁きが体の内に入り込む。繊細で感じやすい部分をくすぐられたようで、和彦は甘い眩暈に襲われていた。
昨夜、さんざん身をもって実感していたはずなのに、改めて思い知らされる。高校生とはいっても、自分に覆い被さっているのは紛れもなく、若くしなやかな体と心を持った青年――男なのだ。
「ダメ、だ。もう、君とは――」
「嫌です。したいです、あなたと。また、あなたの中に入りたいです」
困らせないでくれと言う和彦の声は、自分でもわかるほど弱々しかった。
これ以上の言葉は必要ないとばかりに玲が唇を重ねてくる。昨夜とは比較にならないほどの大胆さで激しく唇を吸ってきたかと思うと、口腔に舌を捻じ込んでこようとする。余裕がなく、覚えたばかりの行為をひたすら行おうとする玲にいじらしさすら感じ、そうなると、もう和彦はダメだった。
決して、同情したわけではない。玲がぶつけてくる情熱と情欲に、和彦の官能が刺激されたのだ。
意識しないまま玲の腕に手をかける。拒むためではなく、受け入れるために。和彦の変化に気づいた玲が動きを止める。
「……悪い子だな」
そっと和彦が洩らすと、玲はちらりと笑みを見せ、次の瞬間には引き締まった表情となった。
Tシャツの下に遠慮がちに手が入り込んできたが、和彦が制止しないとわかると、大胆に捲り上げる。
「あっ……」
電気をつける必要もないほど、外からの陽射しが差し込んでくる室内は明るい。昨夜、ささやかなライトの明かりの下で残された愛撫の跡を、こんな形で、残した本人に見られるのは、ひどく羞恥心を刺激される。同時に、被虐的な愉悦も。
和彦は顔を背け、震えを帯びた息を吐き出す。玲から向けられる眼差しは、まるで愛撫そのものだ。直接触れられているわけでもないのに、胸元を撫で回されているような錯覚を覚える。
「これ全部、俺がつけたんですね。こんなにはっきりと、キスマークを――」
指先が胸元を滑り、それだけで和彦の呼吸が弾む。さらに玲が胸元に唇を押し当ててきたとき、じんわりと肌に伝わってくる熱さに、小さく声を上げていた。それが若い情熱を煽ったらしく、強引にTシャツを脱がされた挙げ句、パンツにも手がかかる。
反射的に玲の手を押し退けようとした和彦だが、物言いたげに見つめ返されて、それ以上のことはできなかった。
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きっと今、玲の脳裏にあるのは、自分の父親と御堂が畳の上で絡み合っていた光景なのだろう。悪い大人たちが、玲を刺激し、煽って、急速に成長させてしまった。
もちろん、その悪い大人の一人は、和彦だ。
玲にされるがままとなり、何も身につけていない体を畳の上で曝け出す。体をまさぐる玲の手は汗ばみ、燃えそうなほど熱かった。そして和彦自身の体も、熱を帯び始める。
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