血と束縛と

北川とも

文字の大きさ
上 下
864 / 1,268
第36話

(13)

しおりを挟む
 玲がさっそくスマートフォンを取り出し、何かを調べ始める。その様子を眺めているうちに、御堂の実家近くまでやってくる。
 すでに御堂は戻っているのか、家の前に車が停まっていた。さらに、辺りを警戒するように立っている男たちの姿もある。
「あれ――……」
 声を洩らしたのは玲だった。和彦と同じ方向を見て、軽く眉をひそめている。
「どうかした?」
「あっ、いえ、あそこに立っているの、父さんの組の人間です。車も、そうだ……」
 つまり、龍造が訪れているということだ。当然、御堂も一緒だろう。
 和彦は、預かっていた合鍵をキーケースから取り出す。どうやら今日は使う機会はなかったようだ。
「何か聞いてた?」
「何も。思いつきで行動するのはいつものことなので、いまさら驚きませんけど。護衛につく組員たちが、いつもぼやいてます。行き先も言わないで、一人でどこかに行ってしまうって」
 玲自身も苦労していそうな口ぶりに、和彦は微笑ましさを覚える。
 家の前で車から降り立つと、さっそく玲が、龍造の護衛についているという組員たちと会話を交わす。和彦は会釈をしてから先に家に入ると、玄関には二組の革靴が並んでいた。
 まっさきにリビングを覗いてみたが御堂と龍造の姿はなく、次にダイニングへと向かう。こちらには、テーブルで茶を飲んだ形跡があった。
 御堂の部屋にいるのだろうかと思いながら、廊下に出た和彦は一旦立ち止まって考える。大事な話をしているのなら邪魔をしたくなかったが、戻ってきたことを報告しておきたい気もする。なんといっても和彦は、組長の子息を連れ回していたのだ。
 荷物を置きに、使わせてもらっている部屋に向かっていた和彦の視界に、廊下を曲がった玲の姿がちらりと入った。他人の家だからと物怖じする様子のない玲は、まるで我が家のように堂々と歩き回っているようで、その様子に知らず知らずのうちに表情は緩む。
 今日は一体どうなるかと身構えていたのだが、玲のおかげでずいぶん楽しめた。あの泰然自若ぶりは、慣れからくるものなのか、生来のものなのかはわからないが、救われたことに変わりはない。
 部屋に入った瞬間に、ふっと一息つきそうになり、寛ぐ前に龍造にも挨拶をしておかなければと思い直す。すぐにまた部屋を出る。
 予想に反して、御堂の部屋からは人の気配は感じられなかった。和彦は広い家の中を、遠慮しつつ探索することになる。
 この家で一人で過ごすには、寂寥感と無縁ではいられないかもしれない。手入れはされているが、すでにもう生活感というものが薄れており、どこか寒々とした空気が漂っている。かつて家族と生活していた思い出が染み込んでいるとしても、それが人恋しさを癒してくれるとは思えなかった。
 当事者ではないというのに、ひどく感傷的なことを考えた和彦の脳裏に、まるで針で一突きされたように蘇る記憶――というより、感覚があった。
 ハッとして足を止め、咄嗟に壁に手を突く。得体の知れないものに足首を掴まれたような不安感に襲われかけたが、ここで和彦は、廊下の先に立つ人影に気づく。玲だった。
 しかし、様子がおかしい。ある部屋の前で、呆然として立ち尽くしているように見えたのだ。
 何事かと、和彦は足音を抑えて歩み寄る。
「何して――」
 玲に話しかけようとして、ぬるい空気にふわりと頬を撫でられた。空気が流れてきたほうをパッと見る。
 障子が開いた部屋の中で、蠢き、絡み合う姿があった。
「うっ、ああっ」
 艶かしい掠れた声に鼓膜を撫でられ、鳥肌が立った。和彦は、この声を前に聞いたことがある。
 畳の上に押さえつけられた御堂が、両足を大きく左右に広げられている。その間に、スラックスの前を寛げただけの格好で腰を割り込ませているのは、龍造だった。
 強烈な既視感に襲われたが、その正体にすぐに思い当たった。まだ最近と呼んでいい頃、和彦は今と同じような光景を目にしていた。
 あのときも御堂はこんなふうに男に組み敷かれ、欲望を受け入れていた。ただし、相手は綾瀬だった。
「ひあっ、あっ、うぅっ……」
 龍造が大きく腰を突き動かした途端、御堂の甲高い声に重なるように、生々しい湿った音が響く。御堂が龍造の背に強くすがりつき、腰が動かされるたびに両手がさまよう。
「――綾瀬とはずっと、情を交わしてきたのか?」
 龍造の問いかけに対して、焦点が怪しかった御堂の目に理性の光が宿る。そして、視線を逸らした拍子に、和彦と目が合った。意図していなかった状況なのか、わずかに表情を強張らせた御堂だが、すぐに龍造へと視線を戻す。
 対照的に龍造は、とっくに二人に気づいていたらしく、しっかりと玲のほうを見てニヤリと笑いかけてきた。

しおりを挟む
感想 80

あなたにおすすめの小説

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。 そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

処理中です...