849 / 1,268
第35話
(26)
しおりを挟む
和彦は答えず、千尋の髪を撫で続ける。千尋にしても追及してくるわけではなく、何事もなかったように和彦の胸元に甘えてくる。
何度も唇を押し当て、舌を這わせたあと、肌を強く吸い上げた。千尋は、自分がつけた鬱血の跡を食い入るように見つめたあと、同じ行為を繰り返す。まるで、和彦が自分のものであると確認しているような行為だった。
これが今の千尋にできる精一杯の所有欲の表し方なのだと思うと、ずっと強張っていた心を、羽毛のような柔らかな感触でくすぐられた気がした。
自分は度し難いほど欲深い人間だと、和彦は強く実感する。男たちから求められることに対して、底なしに貪欲だ。
一緒に逃げるかとまで言った鷹津が、警察を辞めたうえに消息不明となり、そこに俊哉の接触も重なって呆然とし、怯えてもいながら、千尋から求められることで、拠り所を得たような気持ちになるのだ。
現金なものだと自嘲しながらも、心の中に閉じ込めていた情愛がトロリと溢れ出してくる。
そんな自分を恥じた和彦は、千尋の肩を押し退けようとしたが、ムキになったように肌に吸い付かれる。
「千尋っ……」
「ダメだよ。先生は、俺のオンナなんだから、俺が求めるんなら、応えてくれないと。それに――」
千尋の舌先が、尖りを見せ始めた胸の突起をチロチロとくすぐってくる。微かに生まれた疼きに、和彦は息を詰めた。
「先生も嫌がってない」
「……突き飛ばす元気がないんだ」
「いいよ、俺が元気にしてあげる」
自惚れるなと、力ない声で呟いた和彦は、千尋を突き飛ばす代わりに、手荒に髪を掻き乱してやる。子供っぽい仕種で首を竦めた千尋が、次の瞬間には鋭い表情を浮かべ、上目遣いに和彦の反応をうかがいながら、再び胸の突起に吸い付いてきた。
「あっ……」
凝った突起を執拗に舌先で弄ってから、そっと歯を立ててくる。もう片方の突起は指先で擦り、摘まみ、抓り上げてきた。かと思えば、幼子のように一心に吸い上げ、和彦は痛みに声を上げるが、それでも千尋は離れない。
ビクビクと胸元を震わせ、押し退けようとして千尋の肩に手を置いたものの、必死になっている様子を間近で見て、強張った息を吐き出す。千尋の背を優しく撫でさすってやった。
「お前は、ぼくのツボを心得てるよ……」
苦笑交じりに和彦が呟くと、千尋がやっと突起から唇を離す。
「それはまあ、先生とは通じ合ってるからね」
「そうなのか?」
和彦の問いかけに、千尋は笑いもせず、両目に強い光を宿して上目遣いに見つめてくる。隠し事をしている後ろめたさのため、怯んだ和彦は顔を背けた。めげない千尋は胸と胸を合わせるようにして、ぴったりと身を寄せてくる。
相手が小さな子供なら、よしよしと抱き締めてやるところだが、実際は、千尋は大きな体の青年で、和彦はクッションとしなやかな筋肉の壁に挟まれる形となる。顔をしかめつつ横目でうかがうと、すぐ側に千尋の顔がある。和彦が相手をしてくれるのを、ひたすら待っているのだ。
他の男たちが、いわゆる大人の配慮で和彦を見守っている中、千尋だけは別だ。これが自分のやり方だといわんばかりに、和彦の視界に入り、懐に潜り込んでくる。
さきほど自分が言った言葉ではないが、よく和彦のツボを心得ていた。
「――……お前に見つめられすぎて、穴が開きそうだ……」
そう洩らした和彦は、正面から千尋を見つめ返す。千尋は、今度は額と額を合わせてきた。
「それができるなら、先生の心に穴を開けたい。中に、秘密が詰まってるんだろ。俺にも、オヤジにも言えない秘密が。それと、これまでいろんな男に抱いてきた、好きって気持ちとか」
「ああ、そんなもので、ぼくの中はいっぱいだ。……嫌いになるか? それとも、軽蔑する――」
「すげー、ゾクゾクする。いつかは、そんな先生の中を、俺のことだけでいっぱいにするんだと思ったらさ」
「……何げに自信家だよな、お前」
「長嶺の男だから」
これは冗談として笑っていいのだろうかと逡巡しているうちに、千尋の息遣いが唇にかかる。我慢しきれなくなったのか、強引に唇を塞がれた。痛いほどきつく唇を吸われてから、口腔に舌が押し入ってくる。和彦は宥めるように優しく吸い上げ、舌先を擦りつけ合う。
しかし、千尋は興奮を煽られたように、和彦の体を強くクッションに押し付け、のしかかってこようとしてくる。堪らず口づけの合間に訴えていた。
「がっつくなっ。ぼくは逃げないからっ」
「でも、誰かに連れ去られるかもしれないじゃん」
咄嗟に返事ができなかったことで、完全に千尋に火がついた。和彦の足の上からやっと退いたかと思うと、次の瞬間にはその和彦の足を掴んで引っ張ったのだ。
「うわっ」
何度も唇を押し当て、舌を這わせたあと、肌を強く吸い上げた。千尋は、自分がつけた鬱血の跡を食い入るように見つめたあと、同じ行為を繰り返す。まるで、和彦が自分のものであると確認しているような行為だった。
これが今の千尋にできる精一杯の所有欲の表し方なのだと思うと、ずっと強張っていた心を、羽毛のような柔らかな感触でくすぐられた気がした。
自分は度し難いほど欲深い人間だと、和彦は強く実感する。男たちから求められることに対して、底なしに貪欲だ。
一緒に逃げるかとまで言った鷹津が、警察を辞めたうえに消息不明となり、そこに俊哉の接触も重なって呆然とし、怯えてもいながら、千尋から求められることで、拠り所を得たような気持ちになるのだ。
現金なものだと自嘲しながらも、心の中に閉じ込めていた情愛がトロリと溢れ出してくる。
そんな自分を恥じた和彦は、千尋の肩を押し退けようとしたが、ムキになったように肌に吸い付かれる。
「千尋っ……」
「ダメだよ。先生は、俺のオンナなんだから、俺が求めるんなら、応えてくれないと。それに――」
千尋の舌先が、尖りを見せ始めた胸の突起をチロチロとくすぐってくる。微かに生まれた疼きに、和彦は息を詰めた。
「先生も嫌がってない」
「……突き飛ばす元気がないんだ」
「いいよ、俺が元気にしてあげる」
自惚れるなと、力ない声で呟いた和彦は、千尋を突き飛ばす代わりに、手荒に髪を掻き乱してやる。子供っぽい仕種で首を竦めた千尋が、次の瞬間には鋭い表情を浮かべ、上目遣いに和彦の反応をうかがいながら、再び胸の突起に吸い付いてきた。
「あっ……」
凝った突起を執拗に舌先で弄ってから、そっと歯を立ててくる。もう片方の突起は指先で擦り、摘まみ、抓り上げてきた。かと思えば、幼子のように一心に吸い上げ、和彦は痛みに声を上げるが、それでも千尋は離れない。
ビクビクと胸元を震わせ、押し退けようとして千尋の肩に手を置いたものの、必死になっている様子を間近で見て、強張った息を吐き出す。千尋の背を優しく撫でさすってやった。
「お前は、ぼくのツボを心得てるよ……」
苦笑交じりに和彦が呟くと、千尋がやっと突起から唇を離す。
「それはまあ、先生とは通じ合ってるからね」
「そうなのか?」
和彦の問いかけに、千尋は笑いもせず、両目に強い光を宿して上目遣いに見つめてくる。隠し事をしている後ろめたさのため、怯んだ和彦は顔を背けた。めげない千尋は胸と胸を合わせるようにして、ぴったりと身を寄せてくる。
相手が小さな子供なら、よしよしと抱き締めてやるところだが、実際は、千尋は大きな体の青年で、和彦はクッションとしなやかな筋肉の壁に挟まれる形となる。顔をしかめつつ横目でうかがうと、すぐ側に千尋の顔がある。和彦が相手をしてくれるのを、ひたすら待っているのだ。
他の男たちが、いわゆる大人の配慮で和彦を見守っている中、千尋だけは別だ。これが自分のやり方だといわんばかりに、和彦の視界に入り、懐に潜り込んでくる。
さきほど自分が言った言葉ではないが、よく和彦のツボを心得ていた。
「――……お前に見つめられすぎて、穴が開きそうだ……」
そう洩らした和彦は、正面から千尋を見つめ返す。千尋は、今度は額と額を合わせてきた。
「それができるなら、先生の心に穴を開けたい。中に、秘密が詰まってるんだろ。俺にも、オヤジにも言えない秘密が。それと、これまでいろんな男に抱いてきた、好きって気持ちとか」
「ああ、そんなもので、ぼくの中はいっぱいだ。……嫌いになるか? それとも、軽蔑する――」
「すげー、ゾクゾクする。いつかは、そんな先生の中を、俺のことだけでいっぱいにするんだと思ったらさ」
「……何げに自信家だよな、お前」
「長嶺の男だから」
これは冗談として笑っていいのだろうかと逡巡しているうちに、千尋の息遣いが唇にかかる。我慢しきれなくなったのか、強引に唇を塞がれた。痛いほどきつく唇を吸われてから、口腔に舌が押し入ってくる。和彦は宥めるように優しく吸い上げ、舌先を擦りつけ合う。
しかし、千尋は興奮を煽られたように、和彦の体を強くクッションに押し付け、のしかかってこようとしてくる。堪らず口づけの合間に訴えていた。
「がっつくなっ。ぼくは逃げないからっ」
「でも、誰かに連れ去られるかもしれないじゃん」
咄嗟に返事ができなかったことで、完全に千尋に火がついた。和彦の足の上からやっと退いたかと思うと、次の瞬間にはその和彦の足を掴んで引っ張ったのだ。
「うわっ」
29
お気に入りに追加
1,391
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

男子高校に入学したらハーレムでした!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
ゆっくり書いていきます。
毎日19時更新です。
よろしくお願い致します。
2022.04.28
お気に入り、栞ありがとうございます。
とても励みになります。
引き続き宜しくお願いします。
2022.05.01
近々番外編SSをあげます。
よければ覗いてみてください。
2022.05.10
お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。
精一杯書いていきます。
2022.05.15
閲覧、お気に入り、ありがとうございます。
読んでいただけてとても嬉しいです。
近々番外編をあげます。
良ければ覗いてみてください。
2022.05.28
今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。
次作も頑張って書きます。
よろしくおねがいします。

塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。
そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる