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第35話
(15)
しおりを挟む寝返りをうった拍子に、前触れもなく目が覚めた。和彦はぼんやりとした意識のまま、ここはどこだろうかと考えていたが、すぐに状況を思い出す。
伏せていた視線を上げると、ベッドの端に鷹津が腰掛けていた。向けられた背は真っ白のバスローブに包まれているが、普段の格好を知っているだけに、鷹津という男に白は似合わないなと、失礼なことを考えていた。そんな自分に気づき、和彦は唇を綻ばせる。
「――……寝ないのか?」
和彦が声をかけると、鷹津がゆっくりと振り返る。手には、缶ビールを持っている。
「まだ、宵の口だ」
時間の感覚が麻痺しており、和彦は瞬きを数回繰り返す。熟睡したような気もするが、ほんのわずかな間、ウトウトしていただけのような気もする。激しい情交に加え、昼間歩き回ったせいもあって、とにかく体はドロドロに疲れきっていた。
ただ、それは苦痛ではなく、どちらかといえば心地よさに近い。頭の先から爪先まで、鷹津に注がれた情愛に満たされているようだ。
「喉、渇いた……」
和彦はのろのろと手を伸ばし、鷹津から缶を受け取ろうとしたが、スッと躱される。
「お前にはルームサービスを頼んでおいた」
そう言って鷹津が立ち上がり、テーブルへと歩み寄る。和彦は再び寝返りを打って仰向けとなったが、その拍子に内奥で蠢く感触があってドキリとする。腰から下にはシーツがかかっているが、見なくても、自分の下肢がどういう状態になっているのかわかった。
ベッドに戻ってきた鷹津は、ワインが注がれたグラスを持っていた。
「……あんたにしては気が利いている」
和彦の言葉に、鷹津は鼻先で笑った。
「俺はいつでも、お前に甲斐甲斐しく尽くしているだろ」
「そうだったか?」
片手を掴んで鷹津に引っ張り起こしてもらうと、受け取ったグラスに口をつける。本当はただの水のほうがありがたかったのだが、せっかく鷹津が頼んでくれたのだから文句はなかった。一気に飲み干すと、鷹津がニヤニヤと笑う。
「ボトルでラッパ飲みしそうな勢いだな」
「だから、喉が渇いてるんだ」
鷹津はワイン瓶ごと持ってきて、恭しい動作でグラスに新たにワインを注いでくれた。
ようやく喉の渇きが治まって大きく息を吐き出すと、鷹津にグラスを取り上げられてベッドに押し倒される。腰を覆っていたシーツを剥ぎ取られ、両足の間に腰が割り込まされた。
見つめ合いながら和彦は、鷹津の頬にてのひらを押し当てる。いまさらながら、まどろむ前に鷹津と交わしたやり取りが、切迫感を伴って和彦の胸を苦しくさせる。
「――……あれは、あんたなりの冗談なのか?」
「あれ?」
「俺と一緒に逃げるか、って……」
「お前としては、本気と冗談、どっちのつもりで頷いたんだ」
和彦は答えに困る。快感に酔わされた状態で決断を迫られても、まともな思考力は働かない。しかし、鷹津はあえてそれを狙って、和彦から返事をもぎ取ったのだ。
和彦は顔を背け、さらに鷹津に問いかけた。
「あんたこそ、どっちなんだ?」
「俺は――本気だ。惚れた相手が、性質の悪い連中に囲われているんだ。なんとしても連れて逃げたいと思うのは、恋する男としては必然だろ」
思いがけないことを言われて、和彦は顔を背けたまま目を見開く。するとあごを掴まれ、正面を向かされた。声を発する前に唇を塞がれ、口腔に舌が押し込まれる。情欲はもう完全に冷めたはずなのに、冷たい舌に口腔をまさぐられているうちに、体の内でポッと小さな火が灯っていた。
和彦は口づけの合間に、鷹津の真意を確かめようとする。
「待っ……、今の言葉、本気で――」
鷹津はわざと聞こえないふりをしているのか、和彦の唇を甘噛みする一方で、着込んでいるバスローブの紐を解き、ぐっと腰を密着させてくる。信じられないことに、鷹津の欲望は熱くなっていた。
「なん、で……」
「俺がお前に欲情すると、おかしいか?」
何が鷹津を興奮させているのかわからないまま、和彦は内奥を指でまさぐられていた。さんざん広げられ、擦られた場所は、熱を持ち、疼痛を訴えている。それでも、武骨な指で撫でられてから、ヌルリと挿入されると、やはり快感めいたものは生まれる。
「は、あぁっ」
内奥から指を出し入れしながら、鷹津は口元にうっすらと笑みを浮かべた。
「たっぷり注いでやったから、ヌルヌルだな。掻き出してやらなかったから、奥から俺の精液が溢れ出してくる」
両足を抱え上げられたうえに、思いきり左右に広げられる。さんざん愛された部分は、どちらのものとも知れない残滓がこびりつき、まだたっぷりの湿り気を残していた。鷹津は、激しい行為の名残りを愛でているのか、機嫌よさそうに目を細めた。
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