血と束縛と

北川とも

文字の大きさ
上 下
811 / 1,268
第34話

(15)

しおりを挟む
「まだ、役目があるんだから、イッたらダメだ。その代わり、こっちを――」
 和彦は、中嶋の欲望をくすぐるように撫でてから、柔らかな膨らみをてのひらに包み込む。ビクリと中嶋の体が震え、間欠的に声を上げる。内奥を緩やかに突きながら、柔らかな膨らみを優しく揉みしだき、探り当てた弱みを指先で弄る。
 内奥が激しく蠢き、和彦の欲望を舐め上げるように刺激してくる。普段、自分もこんなふうに反応しているのだとしたら、男たちが執拗にこの部分を攻めてくるのもわかる気がした。
 中嶋の興奮を鎮めるため、柔らかな膨らみから手を離し、ビクビクと震えている内腿に指先を這わせてくすぐる。激しい律動は必要なかった。和彦は二度、三度と内奥から欲望を出し入れしたあと、ぐうっと奥深くへと押し入り、絶頂を迎える。
 精が注ぎ込まれていると感じたのか、中嶋の内奥が激しい収縮を繰り返し、まるで絞り上げるように和彦の欲望を咥え込む。
 腰から溶けてしまいそうな快感は数瞬のうちに去り、次に押し寄せてきたのは脱力感だった。和彦は大きく息を吐き出してから体を離すと、中嶋の隣に転がる。
 手足の指先にまで充足感が満ちていき、全身から汗が噴き出す。自分が主導して動くとやはり体の反応がいつもとは違う。これまでも中嶋とは体を重ねていたが、今夜は特別な気がした。
 中嶋がしどけなく髪を掻き上げて顔を上げ、熱っぽい眼差しを向けてくる。
「やみつきになりそうですよ。先生とのセックス。秦さんも三田村さんもいないから、本気を出しました?」
「君のほうこそ、いままでと反応が違った。本気でぼくに応えてくれたか?」
 ここで中嶋の目の色が変わり、しなやかな獣のような動きで身を起こし、和彦にのしかかってくる。
「――次は、俺の番ですね」
 力の抜けた両足を抱え上げ、中嶋が腰を密着させてくる。物欲しげにひくついている内奥の入り口に、欲望の先端が擦りつけられ、思わず和彦は喉を鳴らす。中嶋は一息に、内奥の深い場所までやってきた。
「んうっ……」
 和彦が仰け反ると、露わになった喉元を舐め上げられる。深く繋がったところで、貪るように唇と舌を吸い合い、汗とローションで濡れた肌をぴったりと重ねる。
「やっぱり、先生の中は気持ちいい。溶けそうですよ。熱くて、きつくて、柔らかくて。とても具合がいい」
「君の中も、そうだった」
 和彦の答えに、内奥で中嶋のものがドクンと脈打つ。小さく悦びの声を上げると、内奥深くを大きく一度だけ突き上げられ、今度は大きく喘ぎ声をこぼす。
 両足を大きく左右に広げられ、繋がっている部分を中嶋にじっくりと観察されながら、律動を繰り返される。
「はあっ、あっ、あっ……ん、んくぅっ、はっ、ああっ」
 中からの刺激によって、和彦の欲望は再び身を起こし、先端から透明なしずくを垂らしていた。
「いやらしいな、先生。さっき、俺の中でイッたばかりなのに」
 笑いを含んだ声でそう言った中嶋が、和彦の欲望を軽く扱く。反射的に上体を捩ろうとしたが、すかさず内奥を突かれ、痺れるような快感が腰から這い上がってくる。
 再び欲望を内奥深くまで埋め込んだ中嶋が、動きを止める。その代わり、ローションを手に取って体温で温めると、和彦の胸元や腹部へと施してきた。心地よさに吐息を洩らした和彦は、照れ隠しに呟く。
「あとで、新しいラグを買っておかないと……」
「共同責任ということで、あとで秦さんに謝っておきますよ」
 和彦は声を洩らして笑っていたが、中嶋が律動を再開し、すぐに尾を引く嬌声を上げる。中嶋に抱き締められ、両腕の中で滑る体を奔放に捩って乱れていると、ふいに、内奥から欲望が引き抜かれ、下腹部から胸元にかけて、中嶋の精が飛び散った。
「……さすがに、本部に帰る先生の中に、俺の精液を残すわけにはいきませんからね」
 息を乱しながらの中嶋の言葉に、納得せざるをえない。
「そんなことまで、頭が回ってなかった……」
 和彦が率直に告げると、中嶋がゾクゾクするほど挑発的な表情で応じた。
「そんなに、気持ちよかったですか?」
「気持ちよかった。自分が浅ましい人間なんだと実感させられた。……周りの男たちが大層な扱いをしてくれるから思い違いをしていた。ぼくは、オンナであろうがなかろうが、本来、こういう人間なんだ。プライドが傷ついたなんて発言は、おこがましかったな」
「先生は、自分を正しく客観視しようとしすぎですよ。誰も採点なんてしないんだから、気楽に」
 中嶋の発言に、正直驚いた。和彦は目を丸くしたあと、苦々しい顔となる。
「子供の頃からの癖だな。採点はされていた。――父親から」
 まるで慰めようとするかのように中嶋に頬を撫でられたが、ローションがついてしまい、思わず破顔する。
 唇を重ね、抱き合いながら、精がこびりついた下肢を密着させているうちに、中嶋を組み敷く格好となる。和彦は、高ぶった欲望をためらいもなく、潤んだ内奥に再び埋め込んだ。


 気だるさと、清々しさをまとった和彦が本部に戻ったとき、すでに日付は変わっていた。堂々の夜遊びだ。
 エレベーターを降り、ラウンジの前を通り過ぎようとして、ぎょっとする。誰もいないと思っていたが、ソファの背もたれの向こうで大きな影が動いたからだ。姿を見せたのは南郷だった。どうやら、ソファに深くもたれかかっていたらしい。
 和彦が全身の毛を逆立てる勢いで警戒すると、南郷は露骨に頭の先からつま先まで眺めてきた。そして、芝居がかった下卑た笑みを見せた。
「わかってはいるつもりだったが、あんたはやっぱり大したタマだ」
「……どういう意味ですか」
 和彦は、南郷から話しかけられたことに、不快さを隠そうともせず応じる。
「ほんの数日前に、あんたと三田村さんが熱い仲だという話をしたが、そのあんたが、今夜はあの中嶋と寝たのかと思ってな。三田村さんのことでムキになったあんたが、どんな気持ちで中嶋に抱かれていたのか、ぜひとも聞きたいもんだ」
「そんなことを言うために、ここで待っていたんですか。遊撃隊の隊長というのも、ずいぶん暇なんですね」
 冷ややかな眼差しとともに、ささやかな皮肉を返す。さすがに南郷は、少なくとも表立っては気を悪くした素振りすら見せず、それどころか興味深そうな表情を浮かべた。
「出かける前はイライラしている様子だったが、さすがにヌイてきたあとだと、余裕があるな」
「下品な言い方はやめてください」
 そう言い置いて立ち去ろうとしたが、大股で歩み寄ってきた南郷に肩を掴まれる。ゾクッと鳥肌が立つような感覚に襲われ、咄嗟にその手を払い退ける。睨みつけようとした先で、南郷は能面のような無表情となっていた。怒気を含んだ顔をされるより、よほどこちらのほうが凄みがあった。
 気圧され、後退りかけた和彦だが、寸前のところで堪える。ここで怯めば、ようやく〈マシ〉になった気持ちが、また揺れると思ったのだ。それは中嶋に申し訳ない。
 和彦は皮肉っぽい口調で南郷に言った。
「どうして――、抱かれていたと思うんですか?」
 意味がわからなかったらしく、南郷が首を傾げる。
「何が言いたいんだ、先生」
「簡単な話です。〈オンナ〉だって、男を抱けるんですよ、南郷さん」
 南郷がゆっくりと目を開く様子を見届けて、今度こそ和彦はその場を立ち去った。

しおりを挟む
感想 80

あなたにおすすめの小説

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

魔王に飼われる勇者

たみしげ
BL
BLすけべ小説です。 敵の屋敷に攻め込んだ勇者が逆に捕まって淫紋を刻まれて飼われる話です。

塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。 そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。

処理中です...