血と束縛と

北川とも

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第34話

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「――先日の法要のあと、噂というほど下世話なものではないのですが、それとなく情報が流れてきたんです。先生が、長嶺の三世代の男たちと〈盃〉を交わしたと」
 話しながら中嶋の手が、和彦の胸元へと這わされる。
「俺はてっきり、先生が文字通り盃をもらったんだと思ったんですが、翌日の様子を見て、事情を察しましたよ。ああ、この人は、三人の男たちに抱かれたんだって……。あの宿にいた誰もが俺のように、〈盃〉の意味を理解したはずです。先生は特別なオンナであると、周知させたかったんでしょうね。先生の立場上、堂々と文書を回すことができないので、あくまで伝聞として」
「特別なオンナ、か……。大層な響きだ」
 自虐的に和彦が洩らすと、再び中嶋が唇を重ねてくる。
「投げ遣りな態度は、先生に似合いませんよ」
 口づけの合間に中嶋に囁かれ、和彦はのろのろと両腕を動かす。ラグの上で中嶋と抱き合いながら、互いの体をまさぐる。中嶋にシャツのボタンを外されながら、和彦は、中嶋が着ているTシャツをたくし上げ、熱を帯びた肌に触れる。
 シャツの前を開いた中嶋がうっとりした様子で目を細め、和彦の胸元をてのひらで撫でてきた。
「総和会会長のオンナの体に、俺は触れているんですね。――先生の体は厄介だ。こうしていると、まるで自分が力を得たような錯覚に陥りますよ」
「……君もすっかり、総和会という組織に染まってきたな」
「というより、先生という人に、染まってきたのかもしれません」
 Tシャツを脱ぎ捨てた中嶋が覆い被さってきて、素肌同士が重なる。すでにもう条件反射になっているのか、和彦の中で、男としての本能がゾロリと蠢く。一方の中嶋も、今夜は〈女〉を感じさせない。野心家として、和彦に刺激されるものがあるのかもしれない。中嶋はあくまで、男のままだった。
「――俺は先生の遊び相手なんです。小難しい理屈は置いて、思いつくままに享楽に耽りましょう。この間の連休のときとは違って、今夜は三田村さんはいませんが」
 和彦は、中嶋の滑らかな背を両てのひらで撫でながら、掠れた声で呟いた。
「そのほうが、いい……。ぼくの淫奔ぶりを、呆れられなくて済む」
「先生が思っているより、みんな、先生のそんな部分をいとおしんでいますよ。――俺も」
 両足の間に中嶋がぐいっと腰を割り込ませてくる。布越しに欲望の高ぶりを感じ取り、和彦は声を洩らして笑ってしまう。
「君は本当に、遊び相手としても優秀だよ」
 二人は何も身につけていない姿となると、下肢を密着させ、欲望を擦りつけ合う。もどかしい刺激に、ラグに横たわった和彦は身をしならせ、中嶋が戯れに脇腹に指先を這わせてくる。
 和彦の欲望がゆっくりと熱くなってくると、中嶋が嬉々として握り締めてきたので、和彦も片手を伸ばし、中嶋の欲望に触れる。互いに緩やかに愛撫し合い、感度を高めていく。どちらの唇からも吐息がこぼれる頃になると、差し出した舌を絡め合っていた。
 体の位置を入れ替え、今度は和彦が、中嶋に覆い被さる格好となる。どこか千尋を思わせる、しなやかな筋肉の感触を指先でまさぐりながら、肌に唇を這わせる。中嶋の反応はわかりやすく、すぐに肌が紅潮し、熱を帯びてくる。
 触れないうちから硬く凝っている胸の突起を舌先で弄り、焦らすように軽く吸い上げてやる。もう片方の突起は、指先で強く摘み上げ、爪の先で苛めてみる。中嶋の息遣いが弾み、和彦の腰に両腕が回されて引き寄せられる。再び触れ合った欲望は、さきほどよりも熱く大きく育っていた。
「――先生」
 中嶋に呼ばれて顔を上げ、唇を吸い合う。お返しとばかりに中嶋の手が胸元に這わされて、やはり硬く凝っている突起を弄られる。
「こうやって君とずっとじゃれ合っているのも、楽しいかもしれない」
 ひそっと和彦が囁くと、中嶋が挑発的な眼差しで見つめてくる。
「ダメですよ。俺は先生の中に入りたいし、先生も、俺の中に入ってみたいでしょう。享楽に耽るなら、徹底してやらないと」
 さすがに和彦が返事に詰まると、裸のまま立ち上がった中嶋がベッドへと歩み寄り、ヘッドボードの引き出しから、何かを取り出して戻ってきた。ラグの上に置かれたものを見て、和彦は視線をさまよわせる。いまさら照れるのも変なのだろうが、これから行う行為をあからさまに示しているローションを前に、さすがに声が出なかった。
 中嶋が慣れた様子でローションをてのひらに垂らしてから、和彦の手を取る。てのひらを合わせ、指を絡め合うと、独特の滑りと湿った音が異様な欲情の高ぶりを呼び起こす。
「あっ」

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