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第34話
(3)
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「まったくだ。おかげで、俺もオヤジも妻帯はしたが失敗した。長嶺の家のやり方を、とことん嫌悪されてな。それでも、自分たちの血を継ぐものを残すことはできた。だが、それだけじゃ満足できないんだ。少なくとも俺は、先生の存在を知ってから、先生込みの将来を、夢見ている」
甘い毒を含んだ台詞に、少なからず和彦の気持ちはくすぐられるが、のぼせ上がるほど無邪気でもなかった。長嶺の男たちの毒を、これまでもたっぷり吸い込んできて、免疫ができつつあった。
「利用する気たっぷりのくせに。あんたが最初にどんな手を使って、ぼくの行き場をなくしたのか、よく覚えているからな。それに、逃げられないよう、何をしたのかも」
強い眼差しを向けながら、淡々とした口調で告げると、賢吾は悪びれることなくニヤリと笑った。
「先生は、甘い地獄に落としたほうが、本性が露わになると思ったんだ。優しげで品のある風情のまま、淫奔に男を咥え込んで、骨抜きにしていく。――今いる世界のほうが性に合っていると、心のどこかで感じているんじゃないか?」
「否定したところで、聞く耳なんて持たないくせに」
「おう、ようやく極道の気質がわかってきたようだな」
和彦は眉をひそめて体を離そうとしたが、賢吾は再び、今度は両手で尻の肉を掴んできた。思わせぶりな手つきで荒々しく揉まれ、最初は身を捩って抗っていた和彦だが、肉に指が食い込むほど強く掴まれたところで、息を詰める。痛いはずなのに、胸の奥で微かな疼きが生まれていた。
すかさず賢吾に指摘される。
「オンナの顔になってきたぞ、和彦」
「……うる、さい……」
賢吾に唇を吸われながら、腰を擦りつけられる。賢吾の欲望が高ぶっていることを知り、和彦はうろたえ、視線をさまよわせる。
「おい――」
「総和会から、今夜には先生を、本部に戻すよう言われている。オヤジの奴、すっかり先生の所有権を得たつもりになっているな。宿での〈あれ〉は、俺たち長嶺の男三人と、先生の契りだったはずなのに」
「……ぼくは途中まで、何も聞かされていなかった。盃だとか、契りだとか、あんたたちの理屈は、ぼくには難しすぎる」
「難しい? 単純だろ。先生は、長嶺の男たちの伴侶になった。形式的なものじゃなく、血を注ぎ、情を注ぎ、唯一無二の、大事な存在にしたんだ」
賢吾の言いたいことは、本当はわかっている。しかし、受け止めるのが怖いのだ。長嶺の男たちが分け与えようとしてくるものは、和彦にはあまりに重い。ただの〈オンナ〉であれば回避できたであろう責任や職務すらも、きっと背負うことになるはずだ。
和彦が不安に表情を曇らせると、賢吾にそっと髪を撫でられる。
「俺たちにとって、先生の存在の重みが増したということは、必然的に組織にも影響を与える。周囲の接し方が変わるかもしれないが、それはもう、覚悟してくれ。長嶺の男たちの〈オンナ〉は、つまり、そういう存在だってことだ」
物騒な世界に引きずり込み、あらゆるものを使って雁字搦めにしておいて、挙げ句に覚悟してくれとは、本当に身勝手で傲慢な男だと思いながらも、和彦はやはり、賢吾を恨み、憎むことはできないのだ。この世界の男たちが、打算含みとはいえ自分を大事にしてくれているのは事実で、そこに居心地のよさを見出しているのは、和彦自身だ。
この居心地のよさが、この先もずっと続くとは限らない。明日にでも残酷な現実が牙を剥くかもしれない。だが――。
「こうやってあんたに囁かれながら、ぼくはいろんなものをどんどん腹に呑み込んでいくんだろうな……」
「これまでも、先生はそうやってオンナっぷりを上げてきた。だから、手離せなくなった」
耳に唇が押し当てられ、鼓膜を声で嬲られるような感覚に鳥肌が立つ。ビクビクと体を震わせると、賢吾に片手を取られ、両足の中心へと押し当てられる。賢吾の欲望はますます大きくなっていた。
「――夜までまだ間がある。それまで、ここでゆっくりしていけ」
賢吾にそう命じられ、頭で考えるより先に和彦は頷いていた。
湯を浴びて和彦が部屋に戻ってくると、待ちかねていた賢吾にすぐに布団の上へと押し倒される。着込んだばかりの浴衣を剥ぎ取られ、どうせ無用だからと下着を穿いていなかったため、何も身につけていない姿をじっくりと観察される。
「凄まじく、いやらしい体だな。俺たちがつけた跡は薄くなっているが、その上から、三田村がつけた跡がくっきりと残っている。そして今から、俺がその上に――」
甘い毒を含んだ台詞に、少なからず和彦の気持ちはくすぐられるが、のぼせ上がるほど無邪気でもなかった。長嶺の男たちの毒を、これまでもたっぷり吸い込んできて、免疫ができつつあった。
「利用する気たっぷりのくせに。あんたが最初にどんな手を使って、ぼくの行き場をなくしたのか、よく覚えているからな。それに、逃げられないよう、何をしたのかも」
強い眼差しを向けながら、淡々とした口調で告げると、賢吾は悪びれることなくニヤリと笑った。
「先生は、甘い地獄に落としたほうが、本性が露わになると思ったんだ。優しげで品のある風情のまま、淫奔に男を咥え込んで、骨抜きにしていく。――今いる世界のほうが性に合っていると、心のどこかで感じているんじゃないか?」
「否定したところで、聞く耳なんて持たないくせに」
「おう、ようやく極道の気質がわかってきたようだな」
和彦は眉をひそめて体を離そうとしたが、賢吾は再び、今度は両手で尻の肉を掴んできた。思わせぶりな手つきで荒々しく揉まれ、最初は身を捩って抗っていた和彦だが、肉に指が食い込むほど強く掴まれたところで、息を詰める。痛いはずなのに、胸の奥で微かな疼きが生まれていた。
すかさず賢吾に指摘される。
「オンナの顔になってきたぞ、和彦」
「……うる、さい……」
賢吾に唇を吸われながら、腰を擦りつけられる。賢吾の欲望が高ぶっていることを知り、和彦はうろたえ、視線をさまよわせる。
「おい――」
「総和会から、今夜には先生を、本部に戻すよう言われている。オヤジの奴、すっかり先生の所有権を得たつもりになっているな。宿での〈あれ〉は、俺たち長嶺の男三人と、先生の契りだったはずなのに」
「……ぼくは途中まで、何も聞かされていなかった。盃だとか、契りだとか、あんたたちの理屈は、ぼくには難しすぎる」
「難しい? 単純だろ。先生は、長嶺の男たちの伴侶になった。形式的なものじゃなく、血を注ぎ、情を注ぎ、唯一無二の、大事な存在にしたんだ」
賢吾の言いたいことは、本当はわかっている。しかし、受け止めるのが怖いのだ。長嶺の男たちが分け与えようとしてくるものは、和彦にはあまりに重い。ただの〈オンナ〉であれば回避できたであろう責任や職務すらも、きっと背負うことになるはずだ。
和彦が不安に表情を曇らせると、賢吾にそっと髪を撫でられる。
「俺たちにとって、先生の存在の重みが増したということは、必然的に組織にも影響を与える。周囲の接し方が変わるかもしれないが、それはもう、覚悟してくれ。長嶺の男たちの〈オンナ〉は、つまり、そういう存在だってことだ」
物騒な世界に引きずり込み、あらゆるものを使って雁字搦めにしておいて、挙げ句に覚悟してくれとは、本当に身勝手で傲慢な男だと思いながらも、和彦はやはり、賢吾を恨み、憎むことはできないのだ。この世界の男たちが、打算含みとはいえ自分を大事にしてくれているのは事実で、そこに居心地のよさを見出しているのは、和彦自身だ。
この居心地のよさが、この先もずっと続くとは限らない。明日にでも残酷な現実が牙を剥くかもしれない。だが――。
「こうやってあんたに囁かれながら、ぼくはいろんなものをどんどん腹に呑み込んでいくんだろうな……」
「これまでも、先生はそうやってオンナっぷりを上げてきた。だから、手離せなくなった」
耳に唇が押し当てられ、鼓膜を声で嬲られるような感覚に鳥肌が立つ。ビクビクと体を震わせると、賢吾に片手を取られ、両足の中心へと押し当てられる。賢吾の欲望はますます大きくなっていた。
「――夜までまだ間がある。それまで、ここでゆっくりしていけ」
賢吾にそう命じられ、頭で考えるより先に和彦は頷いていた。
湯を浴びて和彦が部屋に戻ってくると、待ちかねていた賢吾にすぐに布団の上へと押し倒される。着込んだばかりの浴衣を剥ぎ取られ、どうせ無用だからと下着を穿いていなかったため、何も身につけていない姿をじっくりと観察される。
「凄まじく、いやらしい体だな。俺たちがつけた跡は薄くなっているが、その上から、三田村がつけた跡がくっきりと残っている。そして今から、俺がその上に――」
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