血と束縛と

北川とも

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第33話

(31)

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 欲望の先端をくすぐるように弄られて、数瞬意識が飛んだ。我に返ったとき、和彦は鼻にかかった甘い呻き声とともに、シャワーのぬるま湯とは違うもので腰を濡らしていた。息を喘がせながら三田村の腕にすがりつくと、抱き寄せられて唇を吸われる。
 この行為で得られる感覚は独特だ。強い羞恥と屈辱感と同時に、被虐的な悦びが体の奥から溢れ出てきて、恍惚となってしまう。
 三田村も、和彦がどういう状態に陥ったのかわかったらしく、狂おしい抱擁のあと、興奮を抑えた手つきで体をきれいに洗ってくれた。ただ、かろうじて理性的に振舞えられたのはここまでで、抱きかかえられるようにしてバスルームを出ると、体を拭く余裕もなくそのままベッドまで行き、一緒に倒れ込む。
「んあっ……」
 和彦はいきなり両足を押し広げられ、三田村が中心に顔を埋める。中途半端な熱を保ったままの欲望を口腔に含まれたかと思うと、きつく吸引される。身悶えながら和彦は、三田村の濡れた髪に指を差し込む。痛いほどの愛撫をやめてほしいのか、続けてほしいのか、自分でもよくわからなくなっていた。
「あっ、あっ、三田村、そこ、も――」
 さきほどさんざん揉みしだかれた柔らかな膨らみにも、三田村の舌が這わされる。さらに、その奥にも――。
 いまだに熱を帯びている内奥の入り口を舌先でくすぐられ、和彦は喉を反らして尾を引く喘ぎをこぼす。三人の男たちによって広げられ、擦られた部分を、今は自分の〈オトコ〉が舐めているのだ。罪悪感は、倒錯した興奮と高揚感へと姿を変え、和彦を惑乱させる。
「はっ、あぁっ、うっ、うっ、い、い――。あうっ、うぅ……」
 内奥の入り口をひくつかせて、放埓に悦びの声を上げていると、三田村の舌先がわずかに侵入してくる。必死に締め付け、もっと深い場所での愛撫を欲しがるが、三田村はそれ以上の行為に及ぼうとはしない。自分の体を気遣ってのことだと和彦は理解しているのだが、体は確かな熱で穿たれたがっていた。
「三田村、いいから、中にっ……」
 浅ましく求めるが、三田村は小さく首を横に振り、わずかに身を起こした和彦の欲望をじっくりと舐め始める。先端から滲み出るものがあったのか、唇が寄せられ、そっと吸われる。歯列を軽く擦りつけられて刺激されながら、柔らかな膨らみをやや乱暴に揉まれているうちに、穏やかな快感の波にさらわれていた。
 ようやく顔を上げた三田村に乱れた髪を掻き上げられ、額に唇が押し当てられる。和彦は深い吐息をこぼすと、三田村の背に両腕を回した。
「――いざとなると、あんたは激しい」
 甘さを含んだ口調でそう詰ると、耳元で三田村の息遣いが笑った。
 何度も唇を触れ合わせながら、抱き合う。背の虎を思う存分てのひらで撫で回した和彦は、三田村の両足の間に手を這わせる。
「先生、俺は――」
「さっき言っただろ。これ、欲しい、って」
 照れ隠しに三田村を軽く睨みつけてから、耳元に囁きかけて体の位置を入れ替えた。ベッドに仰向けとなった三田村の胸に顔を伏せ、湿った肌に舌先を這わせる。舌の動きに呼応して、三田村の筋肉がぐっと張り詰めた。
 大事なオトコの体を隈なく愛してやるつもりで、和彦は舌と唇を駆使する。いくつもの小さな鬱血の跡を散らしながら、少しずつ頭の位置を下げていき、下腹部に唇を押し当てたとき、三田村の欲望は逞しく反り返っていた。
 片手で扱きながら、先端に柔らかく吸い付く。低く呻き声を洩らした三田村が下腹部を強張らせた。和彦は、根元から欲望を舐め上げて、戯れに括れを舌先でくすぐる。その頃には先端には透明なしずくが滲み、三田村の強い視線を意識しながら舐め取り、先端を口腔に含んだ。
 掠れ気味の三田村の吐息に、和彦の背筋に痺れが駆け抜ける。自分が与えられるだけの快感を、この男に味わわせてやりたいと強く思う瞬間だった。
 喉につくほど深く欲望を呑み込み、しっとりと口腔の粘膜で包む。こうすると、三田村がどれほど興奮し、猛っているのかよくわかる。力強く脈打ち、大きくなっていくのだ。
「あまり、無理はしないでくれ」
 苦しげにそう言った三田村を上目遣いに見つめ、和彦は小さく首を横に振る。それすら刺激になったのか、三田村が唇を引き結んだ。
 頭を上下させ、口腔から欲望を出し入れする。舌を絡めるように動かすと、三田村の息遣いが切迫したものとなり、少し間を置いてから、和彦の頭に手がかかる。
「先生、もう――」
 和彦はもう一度、喉につくほど深く欲望を呑み込み、動きを止める。三田村の欲望が爆ぜ、迸り出た精はすべて喉に流し込む。ドクッ、ドクッと口腔で震える三田村の欲望は、それでも力を失うことはなく、和彦は嬉々として口淫を再開した。


 せっかく三田村が用意してくれた新しいパジャマだが、今夜は出番はないようだと、和彦は密かに笑みを洩らす。
「どうした?」
 和彦の肩の震えが伝わったのか、腕枕を提供してくれている三田村が耳元に唇を押し当て問いかけてくる。ついでとばかりに剥き出しの肩先をてのひらで撫でられた。
 ベッドの中でぴったりと裸の体を寄せ合っているというのに、それでもまだ相手の感触に飢えているようだった。
「パジャマ、今夜は着ないだろうなと思って」
 伏せていた胸元から顔を上げて和彦が答えると、三田村もちらりと笑った。和彦は、間近にある三田村の顔にてのひらを押し当てる。自分のオトコだと、心の中で繰り返し呟きながら。
 顔を寄せ、今夜何度目になるのかわからない口づけを交わす。舌を絡ませながら、片手を繋ぎ合っていると、それだけで満ち足りた気持ちになるのだが、それでもやっぱり、体の奥で三田村を感じたかったとも思ってしまう。
「……明後日まで、あんたとベッドの上だけで生活したい」
 和彦が洩らした冗談交じりの言葉に、まじめな顔で三田村が応じる。
「先生が望むなら」
「あんたがそう言うなら、本当に叶えてくれそうだな」
 顔を見合わせて笑ってから、それが自然なことのように抱き合う。欲しければ欲しいだけ与えられる口づけと抱擁に、和彦は夢心地だった。少し手を動かせば、いくらでも雄々しい虎を撫でることもできるのだ。
 三田村の温かさに浸りながら、ふと、昨夜自分の身に起きた出来事を思い返す。
 昨夜の今頃、長嶺の男たちと繋がり、快感によがり狂っていた。ただ、セックスをしたのではない。特別な儀式として、三人の男たちの精を体に受け入れたのだ。
 和彦が長嶺の男たちと〈盃を交わした〉と、三田村は知っているのだろうか――。
 聞きたい気もするが、三田村に心理的な負担を背負わせてしまう可能性を考えると、何も言わないほうがいいのだろう。
 和彦の一瞬の逡巡を感じ取ったのか、口づけとともに三田村にこう言われた。
「ここにいる間は、先生は難しいことは考えなくていい。――考えてほしくない」
「そうだな。せっかくの盆休みを、あんたのことだけを考えて過ごすか」
「いや、さすがにそこまでは……」
 三田村が本気でうろたえる姿に、和彦はクスクスと声を洩らして笑っていた。

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