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第33話
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「あんたの、いかにも清潔そうなきれいなうなじは、こうして日焼けすると、色気が増すな。そう思っているのは、俺だけじゃないだろ。鬱血の跡が残っている。昨夜誰かが吸い付いたんだな」
そんなことを言いながら、うなじをベロリと舐め上げられる。さらに首筋にも唇が這わされ、耳朶に軽く歯が立てられていた。足元がふらつき、堪らず和彦は窓に手を突く。
「髪はもう少し短くして、しっかりと耳を出したらどうだ。着物がもっと映える。あんたが自分で思っているより、あんたは着物が似合う。もっと着てほしい。色男がきちんとした格好をしているのは、見ていて気持ちいいしな」
勝手なことを言う男の片手が、ポロシャツの上から和彦の体を撫で回してくる。昨夜、三人もの男たちに愛された体はまだ脆いままで、容易に肌がざわつく。ただ、この男は違うと、けたたましい警告音が頭の中で鳴り響くのだ。
「やめてください、南郷さんっ……」
ようやく和彦が声を発すると、耳元で笑った気配がした。
「ヤりすぎて、ふらふらになっているあんたは、目の毒だ。今朝、宿を出て行った長嶺の男たちは、対照的に精力が漲って、溌剌としていたがな。あんたを抱くと、何かしらありがたい効能があるのかもな」
「……バカバカしい……」
吐き捨てるように応じて、南郷の腕の中から抜け出そうとしたが、それを許すほど甘い男ではない。肩を掴まれて体の向きを変えられていた。威圧的に南郷に迫られて後ずさろうとしたが、背に窓ガラスが触れる。
和彦の弱々しい抵抗を嘲笑うように、南郷は無遠慮な手つきでポロシャツの裾をたくし上げ、脇腹を撫で上げてくる。不快さばかりを訴える感触に、和彦は懸命に南郷を睨みつけるが、歯を剥き出すようにして笑いかけられ、反射的に目を逸らす。南郷の笑みは、まさに威嚇だった。
大きなてのひらが思わせぶりな動きで這い上がり、胸元をまさぐってくる。首筋に唇が押し当てられ、柔らかく歯が立てられたとき、和彦の足元から完全に力が抜けて崩れ込みそうになったが、逞しい片腕に支えられる。
「い、やだ……」
南郷の顔が眼前に迫り、拒絶の言葉を発した和彦だが、もちろん聞き入れられることはない。
まず下唇に吸い付かれた。強引に舌先が歯列に擦りつけられ、和彦が喉の奥から声を洩らしたときには、荒々しく上唇を吸われ、そのまま唇を塞がれていた。まさに和彦を食らわんとするかのように、南郷の口づけは激しかった。
これは暴力だと、勢いに圧された和彦はきつく目を閉じながら思う。
昨夜、三人もの男たちに愛された体に触れ、貪ることに一切の抵抗はないらしく、和彦の口腔を舐め回し、唾液を啜った挙げ句、舌を搦め捕ってくる。反発心を根こそぎ奪うような口づけに、簡単に和彦はねじ伏せられていた。
「――早く俺を満足させてくれないと、いつまでも続けるぞ。今のあんたなら、どれだけ唇を腫らしていようが、誰も不審には思わない。長嶺の男たちの寵愛を一身に受けたなら仕方ないと、みんな納得する」
嘲笑を含んだ囁きのあと、唇を舐められる。和彦は南郷を見ないよう視線を伏せたまま、南郷と舌先を触れ合わせていた。
「んっ……」
寸前までの荒々しさなど忘れたように、一転して南郷の口づけが優しくなる。焦らすように舌先を擦りつけられ、唾液が交じり合う。
淫靡な濡れた音を楽しむように大胆に舌を舐められ、吸われているうちに、和彦の息遣いが弾む。そんな和彦の体を窓ガラスに押さえつけ、南郷は両手を駆使して体をまさぐってくる。その手の動きに意識を奪われているうちに、口腔深くにまで分厚い舌が押し込まれていた。
見境のなくなっている体は、口づけで感じ始めていた。あと一押しでその状況を許容しそうになった和彦だが、微かな物音を聞いてハッと視線を上げる。大きな南郷の体で見えないが、誰かが部屋に入ってきたのだ。
和彦が肩を殴りつけても、南郷は最初無視しようとしたが、睨みつけると、ようやく唇を離した。
「どうした、先生?」
わざとらしい、と和彦は心の中で詰った。南郷ほどの男が、第三者の気配に気づかないはずがない。だからこそ悠然としている。
和彦は南郷の腕の中から逃れようとしたが、まるで頑丈な檻のようにびくともしない。
「離してくださいっ」
軽く揉み合っているうちに、ようやく部屋の出入り口を見ることができる。立っていたのは中嶋だった。この瞬間、和彦の頭に一気に血がのぼる。気がついたときには、南郷の頬を平手で打っていた。
打たれた南郷は平然としていたが、打った当人である和彦と、傍で見ていた中嶋は顔を強張らせる。
「カッとしたときのあんたは艶やかだな」
そんなことを言いながら、うなじをベロリと舐め上げられる。さらに首筋にも唇が這わされ、耳朶に軽く歯が立てられていた。足元がふらつき、堪らず和彦は窓に手を突く。
「髪はもう少し短くして、しっかりと耳を出したらどうだ。着物がもっと映える。あんたが自分で思っているより、あんたは着物が似合う。もっと着てほしい。色男がきちんとした格好をしているのは、見ていて気持ちいいしな」
勝手なことを言う男の片手が、ポロシャツの上から和彦の体を撫で回してくる。昨夜、三人もの男たちに愛された体はまだ脆いままで、容易に肌がざわつく。ただ、この男は違うと、けたたましい警告音が頭の中で鳴り響くのだ。
「やめてください、南郷さんっ……」
ようやく和彦が声を発すると、耳元で笑った気配がした。
「ヤりすぎて、ふらふらになっているあんたは、目の毒だ。今朝、宿を出て行った長嶺の男たちは、対照的に精力が漲って、溌剌としていたがな。あんたを抱くと、何かしらありがたい効能があるのかもな」
「……バカバカしい……」
吐き捨てるように応じて、南郷の腕の中から抜け出そうとしたが、それを許すほど甘い男ではない。肩を掴まれて体の向きを変えられていた。威圧的に南郷に迫られて後ずさろうとしたが、背に窓ガラスが触れる。
和彦の弱々しい抵抗を嘲笑うように、南郷は無遠慮な手つきでポロシャツの裾をたくし上げ、脇腹を撫で上げてくる。不快さばかりを訴える感触に、和彦は懸命に南郷を睨みつけるが、歯を剥き出すようにして笑いかけられ、反射的に目を逸らす。南郷の笑みは、まさに威嚇だった。
大きなてのひらが思わせぶりな動きで這い上がり、胸元をまさぐってくる。首筋に唇が押し当てられ、柔らかく歯が立てられたとき、和彦の足元から完全に力が抜けて崩れ込みそうになったが、逞しい片腕に支えられる。
「い、やだ……」
南郷の顔が眼前に迫り、拒絶の言葉を発した和彦だが、もちろん聞き入れられることはない。
まず下唇に吸い付かれた。強引に舌先が歯列に擦りつけられ、和彦が喉の奥から声を洩らしたときには、荒々しく上唇を吸われ、そのまま唇を塞がれていた。まさに和彦を食らわんとするかのように、南郷の口づけは激しかった。
これは暴力だと、勢いに圧された和彦はきつく目を閉じながら思う。
昨夜、三人もの男たちに愛された体に触れ、貪ることに一切の抵抗はないらしく、和彦の口腔を舐め回し、唾液を啜った挙げ句、舌を搦め捕ってくる。反発心を根こそぎ奪うような口づけに、簡単に和彦はねじ伏せられていた。
「――早く俺を満足させてくれないと、いつまでも続けるぞ。今のあんたなら、どれだけ唇を腫らしていようが、誰も不審には思わない。長嶺の男たちの寵愛を一身に受けたなら仕方ないと、みんな納得する」
嘲笑を含んだ囁きのあと、唇を舐められる。和彦は南郷を見ないよう視線を伏せたまま、南郷と舌先を触れ合わせていた。
「んっ……」
寸前までの荒々しさなど忘れたように、一転して南郷の口づけが優しくなる。焦らすように舌先を擦りつけられ、唾液が交じり合う。
淫靡な濡れた音を楽しむように大胆に舌を舐められ、吸われているうちに、和彦の息遣いが弾む。そんな和彦の体を窓ガラスに押さえつけ、南郷は両手を駆使して体をまさぐってくる。その手の動きに意識を奪われているうちに、口腔深くにまで分厚い舌が押し込まれていた。
見境のなくなっている体は、口づけで感じ始めていた。あと一押しでその状況を許容しそうになった和彦だが、微かな物音を聞いてハッと視線を上げる。大きな南郷の体で見えないが、誰かが部屋に入ってきたのだ。
和彦が肩を殴りつけても、南郷は最初無視しようとしたが、睨みつけると、ようやく唇を離した。
「どうした、先生?」
わざとらしい、と和彦は心の中で詰った。南郷ほどの男が、第三者の気配に気づかないはずがない。だからこそ悠然としている。
和彦は南郷の腕の中から逃れようとしたが、まるで頑丈な檻のようにびくともしない。
「離してくださいっ」
軽く揉み合っているうちに、ようやく部屋の出入り口を見ることができる。立っていたのは中嶋だった。この瞬間、和彦の頭に一気に血がのぼる。気がついたときには、南郷の頬を平手で打っていた。
打たれた南郷は平然としていたが、打った当人である和彦と、傍で見ていた中嶋は顔を強張らせる。
「カッとしたときのあんたは艶やかだな」
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