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第33話
(13)
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「浴衣が擦れても気になるんだ。だから、おとなしく横になっていたというのに、父子揃って――」
「海で泳いで日焼けか……。優雅でけっこうなことだ。俺たちはこの暑い中、ダークスーツで汗だくになっていたというのに」
バリトンで紡がれる皮肉は、なかなか痛烈だ。おかげで眠気がいくらかマシになり、しっかりと目を開けることができる。
「……そんな皮肉を言われるぐらいなら、ぼくはマンションで一人、のんびりと過ごしたかった。だいたい、誰のせいで、せっかくの連休に振り回されることになったと思うんだ」
賢吾と千尋は、それぞれ互いの名を出した。
和彦は大きく息を吐き出すと、体に回された千尋の腕を押し退け、緩慢な動作で体を起こす。賢吾がすかさず手を差し出してきたが、あえて無視したうえで、たっぷり恨みがこもった視線を向ける。
「ぼくだけ別の部屋を取ってくれてもよかったのに。知っているんだからな。あんたの名前で、別の部屋を取っていることを」
賢吾がちらりと苦笑を浮かべる。
「何かあったときのためだ。まさか、長嶺組の組長と跡目が同じ部屋にいるなんて、うちの者以外に知られるわけにはいかねーからな」
「だったら……、ぼくは今から、その部屋に移動する。ここだと落ち着いて寝られない」
「――素直に行かせると思う?」
無邪気な口調で、悪魔のようなことを言ったのは、千尋だ。和彦が露骨に顔をしかめると、賢吾がおかしそうに声を洩らして笑う。叩き起こされて不機嫌な和彦とは対照的に、長嶺父子は機嫌がよさそうだ。
賢吾が寝乱れた髪を掻き上げてきて、千尋は背後から首筋に顔を寄せてくる。大きな獣にじゃれつかれているような気分を味わいながら、和彦は仕方なくこの状況を受け入れる。法要を終え、賢吾も千尋もようやく気を緩められているのだろうと思うと、本気で抵抗するのも気が引けた。
「本当に肌が赤くなってるな。痛そうだ」
和彦の腕を取り、賢吾が浴衣の袖を捲り上げる。
「痛そう、じゃない。痛いんだ」
てのひらでそっと腕を撫でられて、その手つきの優しさに思わず口元を緩める。つられたように賢吾も表情を一層和らげた。
「久しぶりに海で泳いで楽しかったか、先生」
「プールとは違って、開放感があった。一緒にいてくれたのは、中嶋くんだったし。……三田村は、少し可哀想なことをした」
「先生はリラックスしていたようだったと、三田村が言っていたぞ。やっぱり、先生に遊び相手をつけるなら、中嶋が一番だな」
「明日は、俺と遊んでもらうから」
耳元でぼそりと千尋に囁かれ、苦笑しかけた和彦だが、あることに気づいて賢吾を見た。
「明日は何かあるのか? 宿を移ることぐらいしか、教えてもらってないんだが」
「今日は総和会のための行事。明日は長嶺組と長嶺家のため、だな」
そう言った賢吾だが、具体的に説明するつもりはないようだ。長嶺の男たちのこういうところにすっかり慣れてしまった和彦は、軽くため息をつきはしたものの、非難はしない。
「……話がそれだけなら、横になってもいいか?」
「お休みのキスがまだだな」
「いままでそんなこと、したことなかっただろっ」
肌掛け布団を掴んで急いで横になろうとした和彦だが、背後から千尋に抱きつかれているうえに、賢吾の手があごにかかり、見事に動きを封じられる。こういうときばかり本当に息が合う父子だと呆れているうちに、賢吾の顔が近づき、そっと唇が重なってきた。
和彦の感触を確かめるように丁寧に、上唇と下唇を交互に吸われる。おとなしくされるがままになっていると、抱きしめてくる千尋の腕の力が強くなる。うなじに唇が押し当てられ、濡れた舌先でちろりと肌を舐め上げられて、つい意識がそちらに向くと、抜け目ない男の舌がするりと口腔に入り込んできた。
千尋の片手が両足の間に這わされ、賢吾の手が浴衣の帯を解いてくる。さすがに和彦は制止の声を上げようとしたが、その頃には賢吾の舌が口腔で好き勝手に動き回っており、歯列や上あごの裏を舐められ、鼻にかかった甘い声が洩れていた。
浴衣を肩から落とされ、すかさず賢吾と千尋の指が左右の胸の突起を弄り始める。千尋の片腕に抱き寄せられ、やむなく体を預ける。ここで口づけの相手が千尋に代わり、激しく唇を吸われる。
千尋の情熱に唆されるように和彦は、差し出した舌を淫らに絡め合っていた。その間に賢吾に、下着を脱がされてしまい、父子に挟まれて、何も身につけていない姿を晒すことになる。
「日焼けのせいだな。もう肌が熱を持っている」
和彦の体を撫で回しながら、どこか楽しげな口調で賢吾が言う。両足を立てて広げられ、内腿にまでてのひらが這わされたときにはさすがに身を捩ろうとしたが、千尋に低い声で窘められる。
「海で泳いで日焼けか……。優雅でけっこうなことだ。俺たちはこの暑い中、ダークスーツで汗だくになっていたというのに」
バリトンで紡がれる皮肉は、なかなか痛烈だ。おかげで眠気がいくらかマシになり、しっかりと目を開けることができる。
「……そんな皮肉を言われるぐらいなら、ぼくはマンションで一人、のんびりと過ごしたかった。だいたい、誰のせいで、せっかくの連休に振り回されることになったと思うんだ」
賢吾と千尋は、それぞれ互いの名を出した。
和彦は大きく息を吐き出すと、体に回された千尋の腕を押し退け、緩慢な動作で体を起こす。賢吾がすかさず手を差し出してきたが、あえて無視したうえで、たっぷり恨みがこもった視線を向ける。
「ぼくだけ別の部屋を取ってくれてもよかったのに。知っているんだからな。あんたの名前で、別の部屋を取っていることを」
賢吾がちらりと苦笑を浮かべる。
「何かあったときのためだ。まさか、長嶺組の組長と跡目が同じ部屋にいるなんて、うちの者以外に知られるわけにはいかねーからな」
「だったら……、ぼくは今から、その部屋に移動する。ここだと落ち着いて寝られない」
「――素直に行かせると思う?」
無邪気な口調で、悪魔のようなことを言ったのは、千尋だ。和彦が露骨に顔をしかめると、賢吾がおかしそうに声を洩らして笑う。叩き起こされて不機嫌な和彦とは対照的に、長嶺父子は機嫌がよさそうだ。
賢吾が寝乱れた髪を掻き上げてきて、千尋は背後から首筋に顔を寄せてくる。大きな獣にじゃれつかれているような気分を味わいながら、和彦は仕方なくこの状況を受け入れる。法要を終え、賢吾も千尋もようやく気を緩められているのだろうと思うと、本気で抵抗するのも気が引けた。
「本当に肌が赤くなってるな。痛そうだ」
和彦の腕を取り、賢吾が浴衣の袖を捲り上げる。
「痛そう、じゃない。痛いんだ」
てのひらでそっと腕を撫でられて、その手つきの優しさに思わず口元を緩める。つられたように賢吾も表情を一層和らげた。
「久しぶりに海で泳いで楽しかったか、先生」
「プールとは違って、開放感があった。一緒にいてくれたのは、中嶋くんだったし。……三田村は、少し可哀想なことをした」
「先生はリラックスしていたようだったと、三田村が言っていたぞ。やっぱり、先生に遊び相手をつけるなら、中嶋が一番だな」
「明日は、俺と遊んでもらうから」
耳元でぼそりと千尋に囁かれ、苦笑しかけた和彦だが、あることに気づいて賢吾を見た。
「明日は何かあるのか? 宿を移ることぐらいしか、教えてもらってないんだが」
「今日は総和会のための行事。明日は長嶺組と長嶺家のため、だな」
そう言った賢吾だが、具体的に説明するつもりはないようだ。長嶺の男たちのこういうところにすっかり慣れてしまった和彦は、軽くため息をつきはしたものの、非難はしない。
「……話がそれだけなら、横になってもいいか?」
「お休みのキスがまだだな」
「いままでそんなこと、したことなかっただろっ」
肌掛け布団を掴んで急いで横になろうとした和彦だが、背後から千尋に抱きつかれているうえに、賢吾の手があごにかかり、見事に動きを封じられる。こういうときばかり本当に息が合う父子だと呆れているうちに、賢吾の顔が近づき、そっと唇が重なってきた。
和彦の感触を確かめるように丁寧に、上唇と下唇を交互に吸われる。おとなしくされるがままになっていると、抱きしめてくる千尋の腕の力が強くなる。うなじに唇が押し当てられ、濡れた舌先でちろりと肌を舐め上げられて、つい意識がそちらに向くと、抜け目ない男の舌がするりと口腔に入り込んできた。
千尋の片手が両足の間に這わされ、賢吾の手が浴衣の帯を解いてくる。さすがに和彦は制止の声を上げようとしたが、その頃には賢吾の舌が口腔で好き勝手に動き回っており、歯列や上あごの裏を舐められ、鼻にかかった甘い声が洩れていた。
浴衣を肩から落とされ、すかさず賢吾と千尋の指が左右の胸の突起を弄り始める。千尋の片腕に抱き寄せられ、やむなく体を預ける。ここで口づけの相手が千尋に代わり、激しく唇を吸われる。
千尋の情熱に唆されるように和彦は、差し出した舌を淫らに絡め合っていた。その間に賢吾に、下着を脱がされてしまい、父子に挟まれて、何も身につけていない姿を晒すことになる。
「日焼けのせいだな。もう肌が熱を持っている」
和彦の体を撫で回しながら、どこか楽しげな口調で賢吾が言う。両足を立てて広げられ、内腿にまでてのひらが這わされたときにはさすがに身を捩ろうとしたが、千尋に低い声で窘められる。
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