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第32話
(29)
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「――俺も味わいたくなった。お前をオンナにしている男たちの気分を」
快感で鈍くなった頭では、鷹津の言葉の意味を瞬時に理解するのは無理だった。和彦はゆっくりと瞬きを繰り返し、目の前で見たこともない表情を浮かべている男を凝視する。鷹津は、怖いほど真剣な顔をしていた。両目にあったドロドロとした感情の澱は払拭され、純粋な欲情だけを湛えている。
この男は誰だと、和彦は自問する。まるで知らない男が体の奥深くに居座っているようだった。
本能的な怯えから身を捩ろうとしたが、当然できるはずもなく、それどころか内奥を深く突き上げられて快感に身を震わせ、鷹津にすべてを委ねることしかできない。
「はあっ、あっ、くうっ……ん」
「なあ、俺のオンナになれ」
緩やかな律動とともに、鷹津が掠れた声で囁く。和彦は首を横に振ることも許されず、唇を塞がれる。体が鷹津に満たされ、窒息してしまいそうな危惧を覚える。
「ダメ、だ。それは……、そんなこと、知られた、ら……」
「長嶺の男たちに八つ裂きにされるか? なら俺が、そいつらを引き剥がしてやる」
無理だと言いたかったが、やはり鷹津は聞く気がないらしく、また口づけを与えられる。和彦から、欲しい返事をもぎ取る気なのだ。
律動が早くなり、和彦は必死に鷹津にしがみつく。下肢から送りこまれる肉の愉悦に、思考力が押し流されてしまいそうだ。そこに鷹津がつけ込む。
「そう、深く考えるな。仮にも俺は、刑事だ。お前の生活を支配できる力なんてない。言葉遊びのようなもんだ。俺はただ、お前をオンナと呼んで、愉しみたいだけだ」
「……どうして、そんなこと……。いや、ダメだ――」
「お前が認めないなら、ずっと続けるぞ。俺はそれでもいいが、外でお前を待ち続けている連中は、さすがに何事かと思うんじゃねーか。電話をかけて様子をうかがってくるか、いきなりここまで上がってくるか。どっちだと思う?」
鷹津がこんなことを言い出した意味を必死に考えようとするが、返事を急かすように鷹津は動き続け、快感に弱い和彦は耐える術がなかった。
「――……あんたは、頭がおかしい」
「ああ、おかしいな。だからお前に、手を出した」
「そのうえ、オンナなんて……」
「もっとおかしくなったんだろうな」
自分で言っておかしかったのか、鷹津は短く笑い声を洩らした。
内奥から欲望を引き抜かれていき、鳥肌が立ちそうになる。堪らずきつく収縮させると、鷹津が悪魔のように囁いてくる。
「言えよ。俺のオンナになると」
上唇を吸われ、和彦は微かに声を洩らすと、鷹津の唇を吸い返す。鷹津との口づけは、正直好きだった。自分に合っていると、和彦は思っている。
舌を絡め、互いの唾液を啜り合いながら、鷹津の欲望を内奥深くに迎え入れる。この瞬間、いつものように熱い精を注ぎ込んでほしいと願った。精は、鷹津の情念そのものだ。それを受け入れたいという衝動に駆られるということは――。
「あっ、あっ、あぁっ……」
単調な律動を刻まれて、和彦は歓喜する。喉を鳴らして悦びに震えていた。そこで鷹津が、最後の一押しをしてきた。
「俺のオンナになれ、和彦。大事にして、たっぷり愛してやる」
鷹津の口からその単語が出るたびに、頭の芯が蕩けていくようだった。これまで、淫靡さと同時に、後ろめたさを感じていた単語に、御堂という存在を知り、強烈な艶やかさと強さという印象が加わったのだ。
かつては和彦を軽蔑し、辱めようとしていた鷹津が、オンナを切望しているという事実に、和彦は愉悦を覚える。体と心が、鷹津という男に屈服していた。
「……な、る……。あんたの、オンナに」
「俺のオンナに?」
小さく頷いた次の瞬間、上体を起こした鷹津の動きが激しさを増す。まるで、鎖を引き千切った獣――狂犬だ。
鷹津は何も言わず、和彦の内奥深くで欲望を破裂させた。注ぎ込まれた熱い精が、和彦の内奥の襞や粘膜にすり込まれ、染み込んでいく。
「んあっ――」
和彦は仰け反り、全身に行き渡る鷹津という男を味わいながら、二度目の精を噴き上げていた。鷹津はてのひらを腹部や胸元に這わせながら、こう嘯いた。
「俺のオンナになって、悦んでるな」
和彦はぐったりとしながら、頭の片隅でふとあることに気づいていた。
餌云々というやり取りなしで、初めて鷹津と寝たかもしれない、と。
少なくとも今この瞬間、鷹津は和彦の番犬ではなかった。守るためではなく、和彦を貪るために側にいる狂犬だ。
なのに、愛しい。
鷹津の顔が近づいてくる。何度味わっても飽きない口づけを交わしながら、当然のように二人はしっかりとてのひらを重ね合わせていた。これ以上なく鷹津と重なり、繋がっていると実感する。
快感で鈍くなった頭では、鷹津の言葉の意味を瞬時に理解するのは無理だった。和彦はゆっくりと瞬きを繰り返し、目の前で見たこともない表情を浮かべている男を凝視する。鷹津は、怖いほど真剣な顔をしていた。両目にあったドロドロとした感情の澱は払拭され、純粋な欲情だけを湛えている。
この男は誰だと、和彦は自問する。まるで知らない男が体の奥深くに居座っているようだった。
本能的な怯えから身を捩ろうとしたが、当然できるはずもなく、それどころか内奥を深く突き上げられて快感に身を震わせ、鷹津にすべてを委ねることしかできない。
「はあっ、あっ、くうっ……ん」
「なあ、俺のオンナになれ」
緩やかな律動とともに、鷹津が掠れた声で囁く。和彦は首を横に振ることも許されず、唇を塞がれる。体が鷹津に満たされ、窒息してしまいそうな危惧を覚える。
「ダメ、だ。それは……、そんなこと、知られた、ら……」
「長嶺の男たちに八つ裂きにされるか? なら俺が、そいつらを引き剥がしてやる」
無理だと言いたかったが、やはり鷹津は聞く気がないらしく、また口づけを与えられる。和彦から、欲しい返事をもぎ取る気なのだ。
律動が早くなり、和彦は必死に鷹津にしがみつく。下肢から送りこまれる肉の愉悦に、思考力が押し流されてしまいそうだ。そこに鷹津がつけ込む。
「そう、深く考えるな。仮にも俺は、刑事だ。お前の生活を支配できる力なんてない。言葉遊びのようなもんだ。俺はただ、お前をオンナと呼んで、愉しみたいだけだ」
「……どうして、そんなこと……。いや、ダメだ――」
「お前が認めないなら、ずっと続けるぞ。俺はそれでもいいが、外でお前を待ち続けている連中は、さすがに何事かと思うんじゃねーか。電話をかけて様子をうかがってくるか、いきなりここまで上がってくるか。どっちだと思う?」
鷹津がこんなことを言い出した意味を必死に考えようとするが、返事を急かすように鷹津は動き続け、快感に弱い和彦は耐える術がなかった。
「――……あんたは、頭がおかしい」
「ああ、おかしいな。だからお前に、手を出した」
「そのうえ、オンナなんて……」
「もっとおかしくなったんだろうな」
自分で言っておかしかったのか、鷹津は短く笑い声を洩らした。
内奥から欲望を引き抜かれていき、鳥肌が立ちそうになる。堪らずきつく収縮させると、鷹津が悪魔のように囁いてくる。
「言えよ。俺のオンナになると」
上唇を吸われ、和彦は微かに声を洩らすと、鷹津の唇を吸い返す。鷹津との口づけは、正直好きだった。自分に合っていると、和彦は思っている。
舌を絡め、互いの唾液を啜り合いながら、鷹津の欲望を内奥深くに迎え入れる。この瞬間、いつものように熱い精を注ぎ込んでほしいと願った。精は、鷹津の情念そのものだ。それを受け入れたいという衝動に駆られるということは――。
「あっ、あっ、あぁっ……」
単調な律動を刻まれて、和彦は歓喜する。喉を鳴らして悦びに震えていた。そこで鷹津が、最後の一押しをしてきた。
「俺のオンナになれ、和彦。大事にして、たっぷり愛してやる」
鷹津の口からその単語が出るたびに、頭の芯が蕩けていくようだった。これまで、淫靡さと同時に、後ろめたさを感じていた単語に、御堂という存在を知り、強烈な艶やかさと強さという印象が加わったのだ。
かつては和彦を軽蔑し、辱めようとしていた鷹津が、オンナを切望しているという事実に、和彦は愉悦を覚える。体と心が、鷹津という男に屈服していた。
「……な、る……。あんたの、オンナに」
「俺のオンナに?」
小さく頷いた次の瞬間、上体を起こした鷹津の動きが激しさを増す。まるで、鎖を引き千切った獣――狂犬だ。
鷹津は何も言わず、和彦の内奥深くで欲望を破裂させた。注ぎ込まれた熱い精が、和彦の内奥の襞や粘膜にすり込まれ、染み込んでいく。
「んあっ――」
和彦は仰け反り、全身に行き渡る鷹津という男を味わいながら、二度目の精を噴き上げていた。鷹津はてのひらを腹部や胸元に這わせながら、こう嘯いた。
「俺のオンナになって、悦んでるな」
和彦はぐったりとしながら、頭の片隅でふとあることに気づいていた。
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少なくとも今この瞬間、鷹津は和彦の番犬ではなかった。守るためではなく、和彦を貪るために側にいる狂犬だ。
なのに、愛しい。
鷹津の顔が近づいてくる。何度味わっても飽きない口づけを交わしながら、当然のように二人はしっかりとてのひらを重ね合わせていた。これ以上なく鷹津と重なり、繋がっていると実感する。
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