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第32話
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急に引き返したくなったが、賢吾が引き戸を開けて玄関に入り、こちらを見る。手を差し出されると、逆らえなかった。
狭い玄関の横に受付窓があり、賢吾は何も言わず折り畳んだ万札を差し出すと、年配らしい女性の手が受け取った。玄関の正面にある勾配の急な階段を上がると、廊下には三つのドアが並んでいる。宿とは言っていたが、それらしい設備は見当たらず、民家と変わらない。宿泊施設としての営業許可など取っていないのだろうが、利用者が気にするとも思えなかった。
賢吾とともに部屋の一つに入る。三畳ほどの広さしかない和室で、スペースの大半を、すでに敷いてある布団が占めている。それ以外には、スタンド照明と小さな鏡台があるぐらいだった。
布団の傍らに置かれたスタンド照明をつけた賢吾が、襖の前に座り込み、手招きをする。この場ではとにかく賢吾に従うことにした和彦は素直に従い、賢吾の隣に座る。次の瞬間、この階に自分たち以外にも人がいるのだと知った。
襖の向こうから激しい衣擦れと、忙しい息遣いが聞こえてくる。ハッとして賢吾を見ると、唇の前で人さし指を立てた。隣の部屋とは壁ではなく、襖で仕切られているだけなのだ。
驚いたことに、賢吾が静かに襖を開ける。思いがけない行動に、制止することすらできなかった。
ふわりと和彦の頬を撫でたのは、むせるような熱気と妖しい空気だった。顔を背けながら咄嗟に賢吾の腕を掴む。そんな和彦の耳にはっきりと、男の掠れた喘ぎ声が届く。さらにもう一人、低くしわがれた声も――。
まさかと思いながらも、開いた襖の間から、おそるおそる隣の部屋を覗き込む。まっさきに和彦の目に飛び込んできたのは、布団の上に横たわり、大きく両足を広げられた御堂の姿だった。その両足の間で、人の頭が蠢いている。何をしているかは明らかだった。
激しい動揺のため、和彦の心臓の鼓動は狂ったように速くなり、息苦しくなる。意識しないまま口元に手をやり、荒い呼吸を繰り返す。そんな和彦の肩を抱き寄せながら、賢吾も隣の部屋を覗く。いや、〈覗く〉という表現は正しくないだろう。襖は数十センチ開いており、二人の姿はまったく隠れていないのだ。
「うっ、あぁっ――」
御堂がゾッとするほど艶めかしい声を上げ、腰を捩る。すると、御堂の両足の間から男が顔を上げる。特徴のある声だけではなく、大きな体から予測はついていたが、綾瀬だった。
数日前、総和会本部で平然と話していた二人が、全裸で淫らな行為に及んでいるということに、思考が追いつかない。しかし、そんな和彦を置いたまま行為は続けられる。
まるでこちらに見せつけるように、綾瀬が御堂の腰を引き寄せる。御堂の欲望は高ぶり、反り返っていた。その欲望を舐め上げながら、綾瀬の指が柔らかな膨らみをまさぐり、揉みしだく。上擦った声を上げた御堂が胸を反らし、布団に後頭部を擦りつけるようにして悶えた。
「はあっ、あっ、あっ……、い、い……」
すでにもう綾瀬の愛撫を受けたらしく、御堂の胸の突起は左右とも真っ赤に色づき、濡れていた。白い肌にはいくつもの鬱血の跡や、中にはうっすらと歯型も残されている。それが見て取れるほど、二人の距離は近い。御堂が洩らす吐息の熱さすら感じられそうなほど。
唾液で指を濡らした綾瀬が、御堂の片足を逞しい肩に抱え上げる。このとき綾瀬の上体が大きく動き、ここで初めて和彦は、綾瀬の右肩に影のようにのしかかっている存在に気づく。
精緻に彫られた刺青だった。右肩から腕にかけての一部しか見えないため、どういう図柄なのかはわからないが、墨一色でありながら、濃淡を使い分けて彫られた羽毛らしきものからは、柔らかな質感が伝わってくるようだ。
「うあっ」
綾瀬の指が、御堂の内奥をこじ開ける。秀麗な顔をわずかに歪めた御堂に、つい和彦は、自分もこれまで味わってきた苦しさを重ねてしまう。
もっと御堂を丁寧に扱ってほしい、という心の声が届いたわけではないだろうが、綾瀬の愛撫が淫らさを増す。さんざん指で嬲っていた柔らかな膨らみに舌を這わせ始めたのだ。御堂が大きく腰を揺らし、愛撫から逃れようとする素振りを見せたが、綾瀬が口元に笑みを浮かべた。
「逃げるな、秋慈」
綾瀬の舌は貪欲だった。柔らかな膨らみだけではなく、指を含まされた内奥の入り口にすら愛撫を施し、まさに御堂を舌で味わっている。震える欲望の先端から透明なしずくが垂れると、美味そうに啜りながら、内奥からゆっくりと指を出し入れする。
狭い玄関の横に受付窓があり、賢吾は何も言わず折り畳んだ万札を差し出すと、年配らしい女性の手が受け取った。玄関の正面にある勾配の急な階段を上がると、廊下には三つのドアが並んでいる。宿とは言っていたが、それらしい設備は見当たらず、民家と変わらない。宿泊施設としての営業許可など取っていないのだろうが、利用者が気にするとも思えなかった。
賢吾とともに部屋の一つに入る。三畳ほどの広さしかない和室で、スペースの大半を、すでに敷いてある布団が占めている。それ以外には、スタンド照明と小さな鏡台があるぐらいだった。
布団の傍らに置かれたスタンド照明をつけた賢吾が、襖の前に座り込み、手招きをする。この場ではとにかく賢吾に従うことにした和彦は素直に従い、賢吾の隣に座る。次の瞬間、この階に自分たち以外にも人がいるのだと知った。
襖の向こうから激しい衣擦れと、忙しい息遣いが聞こえてくる。ハッとして賢吾を見ると、唇の前で人さし指を立てた。隣の部屋とは壁ではなく、襖で仕切られているだけなのだ。
驚いたことに、賢吾が静かに襖を開ける。思いがけない行動に、制止することすらできなかった。
ふわりと和彦の頬を撫でたのは、むせるような熱気と妖しい空気だった。顔を背けながら咄嗟に賢吾の腕を掴む。そんな和彦の耳にはっきりと、男の掠れた喘ぎ声が届く。さらにもう一人、低くしわがれた声も――。
まさかと思いながらも、開いた襖の間から、おそるおそる隣の部屋を覗き込む。まっさきに和彦の目に飛び込んできたのは、布団の上に横たわり、大きく両足を広げられた御堂の姿だった。その両足の間で、人の頭が蠢いている。何をしているかは明らかだった。
激しい動揺のため、和彦の心臓の鼓動は狂ったように速くなり、息苦しくなる。意識しないまま口元に手をやり、荒い呼吸を繰り返す。そんな和彦の肩を抱き寄せながら、賢吾も隣の部屋を覗く。いや、〈覗く〉という表現は正しくないだろう。襖は数十センチ開いており、二人の姿はまったく隠れていないのだ。
「うっ、あぁっ――」
御堂がゾッとするほど艶めかしい声を上げ、腰を捩る。すると、御堂の両足の間から男が顔を上げる。特徴のある声だけではなく、大きな体から予測はついていたが、綾瀬だった。
数日前、総和会本部で平然と話していた二人が、全裸で淫らな行為に及んでいるということに、思考が追いつかない。しかし、そんな和彦を置いたまま行為は続けられる。
まるでこちらに見せつけるように、綾瀬が御堂の腰を引き寄せる。御堂の欲望は高ぶり、反り返っていた。その欲望を舐め上げながら、綾瀬の指が柔らかな膨らみをまさぐり、揉みしだく。上擦った声を上げた御堂が胸を反らし、布団に後頭部を擦りつけるようにして悶えた。
「はあっ、あっ、あっ……、い、い……」
すでにもう綾瀬の愛撫を受けたらしく、御堂の胸の突起は左右とも真っ赤に色づき、濡れていた。白い肌にはいくつもの鬱血の跡や、中にはうっすらと歯型も残されている。それが見て取れるほど、二人の距離は近い。御堂が洩らす吐息の熱さすら感じられそうなほど。
唾液で指を濡らした綾瀬が、御堂の片足を逞しい肩に抱え上げる。このとき綾瀬の上体が大きく動き、ここで初めて和彦は、綾瀬の右肩に影のようにのしかかっている存在に気づく。
精緻に彫られた刺青だった。右肩から腕にかけての一部しか見えないため、どういう図柄なのかはわからないが、墨一色でありながら、濃淡を使い分けて彫られた羽毛らしきものからは、柔らかな質感が伝わってくるようだ。
「うあっ」
綾瀬の指が、御堂の内奥をこじ開ける。秀麗な顔をわずかに歪めた御堂に、つい和彦は、自分もこれまで味わってきた苦しさを重ねてしまう。
もっと御堂を丁寧に扱ってほしい、という心の声が届いたわけではないだろうが、綾瀬の愛撫が淫らさを増す。さんざん指で嬲っていた柔らかな膨らみに舌を這わせ始めたのだ。御堂が大きく腰を揺らし、愛撫から逃れようとする素振りを見せたが、綾瀬が口元に笑みを浮かべた。
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綾瀬の舌は貪欲だった。柔らかな膨らみだけではなく、指を含まされた内奥の入り口にすら愛撫を施し、まさに御堂を舌で味わっている。震える欲望の先端から透明なしずくが垂れると、美味そうに啜りながら、内奥からゆっくりと指を出し入れする。
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