血と束縛と

北川とも

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第32話

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 唾液で濡らした指で、南郷が内奥の入り口を優しく擦り上げてくる。触れられると、少し痛い。しかしその痛みは、肉の悦びを伴っていた。
「うっ、うっ、やめ、て――」
 熱を持って疼いている肉を割り開くようにして、南郷の太い二本の指が内奥に挿入される。すぐに、まだ脆くなっている襞と粘膜を擦り始める。和彦は間欠的に声を上げて腰を揺らし、南郷の見ている前で、欲望を反り返らせていた。
 和彦の反応に、南郷が舌舐めずりをしながら、容赦なく指を付け根まで押し込んでくる。妖しく蠢く指が内奥深くをまさぐってきた。
「ああ、奥がまだ潤んでるな。長嶺組長が残したものだ。なんといっても、俺が見ている前で、抜かずの二発を決めたぐらいだ。あんたも、少しでも残しておこうと、必死で締め付けてたんだろう。風呂に入ったぐらいじゃ、洗い流せなかったか」
 南郷の言葉と愛撫に反応して、内奥で動き続ける指をきつく締め付ける。もっとも過敏に反応してしまう部分を指の腹で強く押し上げられ、腰を浮かせて悲鳴を上げる。和彦のいつにない乱れ方に感じるものがあるのか、南郷は、指で和彦を感じさせながら、もう片方の手で己の欲望を扱いていた。
「……愛しい男との激しいセックスのあとは、こうも違うものなんだな、先生。それでなくても感じやすいあんたが、どこに触れても反応しまくっている。俺の指すら、食い千切りそうなほど締め付けてな」
 次の瞬間、南郷が獣のような唸り声を洩らし、和彦の下腹部から胸元にかけて、迸り出た精を振り撒いた。和彦は呆然として南郷を見上げる。
「あっ……、何、を……」
「――俺も、あんたの中に残したくなった」
 南郷は、内奥から引き抜いた指で、和彦の肌を汚す白濁とした精を掬い取った。そしてその指で、再び和彦の内奥を嬲り始める。
「ううっ、うっ、うあっ」
 自分の精を塗り込めるように、南郷は内奥で指を出し入れし、また精を掬い取り――という行動を二度、三度と繰り返した。
 倒錯した行為に和彦は、動揺し、嫌悪し、怯えたあと、驚くほど感じ、乱れた。嫌だと首を振りながら、一方で内奥を蠕動させ、体は歓喜していることを南郷に知らせてしまう。褒美だと言わんばかりに、南郷に手荒く欲望を扱かれて、和彦は自らも精を迸らせた。
 内奥深くにしっかりと指を埋め込んで、南郷が顔を覗き込んでくる。唇を吸われて喘ぐと、満足げに南郷は笑った。
「あんたの中で何が起こっているか、わかるか?」
 唐突に南郷に問いかけられたが、和彦は何も言えなかった。南郷は気を悪くしたふうもなく、それどころか楽しげに続けた。
「俺と長嶺組長の精液が、あんたの中で混じり合っている。それを、いやらしい襞にたっぷりすり込んでやった。感じないか? じわじわと、二人の男の精液が染み込んでいくのが……」
 指を蠢かされ、和彦は甘い呻き声を洩らしながら腰を揺らす。そんな和彦を、南郷はせせら笑った。
「感じてるのか、先生。多淫すぎるのも、困りものだな。どれだけ嫌いな男だろうが、こうして攻められると、すぐに甘えてくる。長嶺組長も、気が気じゃないだろう。自分のオンナが、こうも快感に弱いと」
 一欠片の虚勢だけで南郷を睨みつけるが、内奥の浅い部分を執拗に擦り上げられ、強く押し上げられると、理性どころか意識すら揺らぐ。控えめに悦びの声を上げて乱れる和彦の髪を掻き上げて、南郷は忌々しげに呟いた。
「……本当に、惚れ惚れするほどいいオンナだ、あんたは――」
 南郷は、和彦の下腹部に残るどちらのものとも知れない精を掬い取り、今度は内奥ではなく、和彦の唇に指を押し付けてくる。強引に唇を割り開かれ、舌に独特の苦みが触れる。このとき、内奥に挿入されたままの指が蠢き、その刺激に和彦は、恍惚とするような感覚に襲われる。
「イッたな、先生」
 そう言って南郷が唇を塞ぎ、口腔を犯すように舌を押し込んできた。

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