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第32話
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そう洩らした賢吾が、挑発的な眼差しを南郷に向ける。当の南郷がどんな反応を示したか、和彦は確かめる気にはならなかった。南郷を見て、和彦が反応を示せば、さらに賢吾は挑発的な言動を取ると予測できたからだ。
和彦は賢吾の頭に手をかけて引き寄せると、唇を塞ぐ。さすがの賢吾も驚いた素振りを見せたが、即座に唇と舌を貪り始める。同時に、内奥で欲望を蠢かす。
きつく欲望を締め付けると、唇に触れた賢吾の息遣いが笑った。乱暴に内奥を突き上げられたかと思うと、動きが止まる。そして、たっぷりの精を注ぎ込まれた。和彦は全身を戦慄かせて、全身を駆け抜ける快美さに酔う。
満足げに息を吐き出した賢吾にあごを掴まれ、有無を言わせず南郷のほうに顔を向かせられた。締まりのない表情を取り繕うこともできず、和彦はぼんやりと南郷を見つめる。南郷は、無表情だった。完璧に感情を押し隠してしまっている。普段のふてぶてしさすら、陰を潜めていた。
賢吾が、そんな南郷に語りかけた。
「イイ顔してイクだろう、和彦は。淫奔で、どんな男でも咥え込んで骨抜きにするが、その男一人一人に違う顔を見せてるんだろう。性質が悪くて仕方ない。だが、俺が一番、こいつにイイ顔をさせていると自負している。――大事で可愛い、俺のオンナだ」
南郷から視線を引き剥がすように、再び賢吾のほうを向かされた。甘く優しい声で名を呼ばれ、恍惚として和彦は笑みをこぼす。重なってきた賢吾の唇を甘えるように吸い、口腔に自ら舌を差し込んで、男を求める。
内奥に収まったままの欲望を柔らかく締め付けているうちに、逞しさを取り戻していく。小さく歓喜の声を洩らした和彦は、本能のまま賢吾にすがりついた。
まだ身が燃えているようだった。
エアコンのおかげで程よく涼しい部屋だが、体の内側がじわじわと熱を発し続けていて、なんだか寝苦しい。和彦は寝返りを打って吐息を洩らしたが、その吐息すら熱を帯びている。
ほんの数時間前に味わった賢吾の体温は、厄介だ。いつまでも和彦の体に残っており、まだ抱き締められているような感覚に酔うことすら容易い。おかげで、眠りたくても目が冴えたままだ。
横になっているだけ無駄だと、ようやく諦めがついた和彦は布団を抜け出し、乱れた浴衣を直してからそっと客間を出る。深夜といえる時間のため、当然のように守光も自室に入っており、もう眠りについているだろう。
キッチンに入って水を飲もうと思ったが、気が変わった。足音を押し殺して廊下を通って玄関に向かうと、スリッパを履いて外に出た。
総和会本部の四階で暮らし始めて何日も経ち、和彦もわずかながら活動範囲を広げた。それは本当にささやかなもので、四階のエレベーター前のラウンジで過ごすようになったのだ。昼間は人の行き来があるため素通りするのだが、深夜ともなると、まず誰もいない。
一度、吾川に見つかったが、和彦が一人の時間を堪能していると感じ取ったのか、ただ目礼をして通り過ぎてしまい、それ以降、深夜のラウンジでは吾川はおろか、誰とも遭遇したことはなかった。
ぼんやりとした照明がついているラウンジには、今夜も人気はなかった。この一角だけを見ると、元は研修施設だったというが、雰囲気はホテルのラウンジそのものだ。調度品はすべて質のいい輸入物で、カウンターには自分で飲み物が準備できるよう、さまざまな種類のアルコール類が揃っている。ただし、ここが利用できるのは、限られた者だけのようだ。守光の住居スペースのすぐ側で寛ぐには、相応の資格が必要ということだ。
自分にもその資格があるとは言わないが、誰にも何も指摘されないということは、許容はされているのだろう。なんといっても、総和会会長のオンナなのだから。
自虐的な気分になるには、今夜はあまりに、賢吾の残した余韻が強烈すぎる。和彦は熱を帯びた吐息を洩らすと、ウォーターサーバーから紙コップに水を注ぎ、窓際に置かれたソファに腰掛ける。
窓に顔を向けても、外の景色は見えない。窓の向こうは鉄板のようなもので覆われており、外の様子を一切うかがうことはできず、外からも、中の明かりを一筋すら見ることはできないだろう。
それでも和彦は窓を見たまま、一人でいる気楽さもあり、しどけなくソファに身を預ける。窓ガラスに反射して映る表情は、自分でも認めるほど穏やかだった。賢吾から惜しみなく与えられた言葉や口づけが蘇り、どうしてもこんな表情になってしまう。
しかしそれも、わずかな間だった。ゆっくりと水を飲んだあと、無意識のうちに口元に手をやる。まるで心に影が差したように、ある男のことを思い出していた。
目を伏せた瞬間、背後から声をかけられる。
「――そういう顔もできるんだな、先生」
和彦は賢吾の頭に手をかけて引き寄せると、唇を塞ぐ。さすがの賢吾も驚いた素振りを見せたが、即座に唇と舌を貪り始める。同時に、内奥で欲望を蠢かす。
きつく欲望を締め付けると、唇に触れた賢吾の息遣いが笑った。乱暴に内奥を突き上げられたかと思うと、動きが止まる。そして、たっぷりの精を注ぎ込まれた。和彦は全身を戦慄かせて、全身を駆け抜ける快美さに酔う。
満足げに息を吐き出した賢吾にあごを掴まれ、有無を言わせず南郷のほうに顔を向かせられた。締まりのない表情を取り繕うこともできず、和彦はぼんやりと南郷を見つめる。南郷は、無表情だった。完璧に感情を押し隠してしまっている。普段のふてぶてしさすら、陰を潜めていた。
賢吾が、そんな南郷に語りかけた。
「イイ顔してイクだろう、和彦は。淫奔で、どんな男でも咥え込んで骨抜きにするが、その男一人一人に違う顔を見せてるんだろう。性質が悪くて仕方ない。だが、俺が一番、こいつにイイ顔をさせていると自負している。――大事で可愛い、俺のオンナだ」
南郷から視線を引き剥がすように、再び賢吾のほうを向かされた。甘く優しい声で名を呼ばれ、恍惚として和彦は笑みをこぼす。重なってきた賢吾の唇を甘えるように吸い、口腔に自ら舌を差し込んで、男を求める。
内奥に収まったままの欲望を柔らかく締め付けているうちに、逞しさを取り戻していく。小さく歓喜の声を洩らした和彦は、本能のまま賢吾にすがりついた。
まだ身が燃えているようだった。
エアコンのおかげで程よく涼しい部屋だが、体の内側がじわじわと熱を発し続けていて、なんだか寝苦しい。和彦は寝返りを打って吐息を洩らしたが、その吐息すら熱を帯びている。
ほんの数時間前に味わった賢吾の体温は、厄介だ。いつまでも和彦の体に残っており、まだ抱き締められているような感覚に酔うことすら容易い。おかげで、眠りたくても目が冴えたままだ。
横になっているだけ無駄だと、ようやく諦めがついた和彦は布団を抜け出し、乱れた浴衣を直してからそっと客間を出る。深夜といえる時間のため、当然のように守光も自室に入っており、もう眠りについているだろう。
キッチンに入って水を飲もうと思ったが、気が変わった。足音を押し殺して廊下を通って玄関に向かうと、スリッパを履いて外に出た。
総和会本部の四階で暮らし始めて何日も経ち、和彦もわずかながら活動範囲を広げた。それは本当にささやかなもので、四階のエレベーター前のラウンジで過ごすようになったのだ。昼間は人の行き来があるため素通りするのだが、深夜ともなると、まず誰もいない。
一度、吾川に見つかったが、和彦が一人の時間を堪能していると感じ取ったのか、ただ目礼をして通り過ぎてしまい、それ以降、深夜のラウンジでは吾川はおろか、誰とも遭遇したことはなかった。
ぼんやりとした照明がついているラウンジには、今夜も人気はなかった。この一角だけを見ると、元は研修施設だったというが、雰囲気はホテルのラウンジそのものだ。調度品はすべて質のいい輸入物で、カウンターには自分で飲み物が準備できるよう、さまざまな種類のアルコール類が揃っている。ただし、ここが利用できるのは、限られた者だけのようだ。守光の住居スペースのすぐ側で寛ぐには、相応の資格が必要ということだ。
自分にもその資格があるとは言わないが、誰にも何も指摘されないということは、許容はされているのだろう。なんといっても、総和会会長のオンナなのだから。
自虐的な気分になるには、今夜はあまりに、賢吾の残した余韻が強烈すぎる。和彦は熱を帯びた吐息を洩らすと、ウォーターサーバーから紙コップに水を注ぎ、窓際に置かれたソファに腰掛ける。
窓に顔を向けても、外の景色は見えない。窓の向こうは鉄板のようなもので覆われており、外の様子を一切うかがうことはできず、外からも、中の明かりを一筋すら見ることはできないだろう。
それでも和彦は窓を見たまま、一人でいる気楽さもあり、しどけなくソファに身を預ける。窓ガラスに反射して映る表情は、自分でも認めるほど穏やかだった。賢吾から惜しみなく与えられた言葉や口づけが蘇り、どうしてもこんな表情になってしまう。
しかしそれも、わずかな間だった。ゆっくりと水を飲んだあと、無意識のうちに口元に手をやる。まるで心に影が差したように、ある男のことを思い出していた。
目を伏せた瞬間、背後から声をかけられる。
「――そういう顔もできるんだな、先生」
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