血と束縛と

北川とも

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第31話

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 ほっとしかけた和彦だが、守光の話はこれで終わりではなかった。穏やかな表情のままこう切り出したのだ。
「――さて、ささやかとはいえ、総和会会長を危険に晒したことに対して、あんたに罰を与えねばならない。しかもあんたは、危険の元凶を庇った。わしに恥をかかせたんだよ」
 全身から一気に血の気が失せた。まっさきに和彦の頭に浮かんだのは、一体どんな痛みを与えられるのかということだった。
 和彦が見せた恐怖の表情を堪能するように、膝同士が触れるほど側に寄ってきた守光が、顔を覗き込み、さらに手を伸ばしてくる。頬を撫でられて、総毛立った。痛みを予期して、奥歯を噛み締めて耐えていると、守光は低く声を洩らして笑った。
「あんたを痛めつけたりはしない。大事で可愛いオンナだ。相応しい罰というものがある」
 守光の手が頬から肩へと移動し、そっと引き寄せられる。和彦はおずおずと座布団から下りると、肩を抱かれるまま守光へと寄り添う。優しくあごを持ち上げられて、唇が重なってきた。
 体を強張らせたまま、守光の意図が読めず戸惑う和彦は、視線を伏せることすらできなかった。優しいとも厳しいとも、冷ややかとも表現できる守光の双眸を、魅入られたように覗き込む。守光にしても、和彦の両目を見つめていた。
 自分の中には何もないというのに、と自嘲気味に考えていた和彦だが、ここで異変に気づく。肩を抱いていた守光の手が今度は背へと下り、ついには腰の辺りにかかる。帯を解かれながら、唇を吸われる。ぎこちなく口づけに応えているうちに、着物を肩から滑り落とされていた。
 羽織を脱いだ守光に、深く胸に抱き寄せられる。和彦は片手を取られ、着物の上から守光の高ぶりに触れさせられた。この瞬間、まるで初めて触れたように激しくうろたえ、守光に訴える。
「ぼくに対する怒りは当然だと思います。ですが、心臓に負担をかける行為は、まだ控えてくださいっ……。何かあったら――」
「それは承知している。いい機会だから、あんたに罰を与えると同時に、オンナとしての嗜みを教えるだけだ」
 再び守光に唇を塞がれ、口腔を舌でまさぐられているうちに、半ば条件反射として和彦も応える。舌を絡め合い、唾液を啜り合いながら、溶け合うほどに深い口づけを交わす。
 ようやく唇を離したとき、守光がよく通る声でこう呼びかけた。
「――南郷、入れ」
 和彦は守光の腕の中で、顔を強張らせて息を呑んだ。


 身が燃えるような羞恥から、全身から汗が噴き出し、まだ羽織ったままの長襦袢が肌に張り付く。その感触が奇妙な拘束感を生み出すが、一方で、腰から下を剥き出しにされているため、心許ない感覚も生み出す。
 和彦には、屈辱と羞恥を与えることが効果的だと、守光は知り抜いていた。それらを和彦から引き出すのに、誰が適任であるかも。
「ひっ……」
 内奥に潤滑剤を注ぎ込まれ、短く悲鳴を上げる。さらに指が突き込まれ、掻き回されると、ぐちゅぐちゅと濡れた音が室内に響き渡る。うつ伏せとなって突き出した腰が、痺れたように熱くなっていた。それ以上に熱いのが、腰にかかった南郷の大きな手だ。羞恥で身じろぐことすら許さないように、和彦の腰を押さえ続けていた。
 南郷に体をまさぐられ、何度もきわどい行為に及ばれているが、味わう屈辱も羞恥も慣れることはない。相手によっては、これらの感情すら媚薬のような効果をもたらせてくれるが、南郷に限っては――というより、今この状況においては、甘美な感覚は程遠い。
「ううっ、うっ、うあっ」
 内奥に深く挿入された指にじっくりと襞と粘膜を撫で回され、長襦袢の下で鳥肌が立つ。繊細な肉を何度も擦り立てられているうちに、半ば強引に肉の悦びを引きずり出されていた。
 自分の意思とは関係なく、南郷の指を締め付けた途端、たっぷり注ぎ込まれていた潤滑剤がトロリと内奥から溢れ出し、尻を伝って内腿へと垂れていく。南郷の興味が、ある部分へと移る。
「あっ、ああっ――……」
 腰にかかっていた南郷の手が、内奥から溢れた潤滑剤に塗れた柔らかな膨らみへとかかり、少し手荒に揉みしだかれる。ガクガクと腰を震わせながら和彦は、助けを求めるように自分の目の前に座っている人物を見上げる。
 さきほどから繰り広げられている行為をどう感じているのか、守光は口元に笑みを湛えていた。オンナと側近の従順ぶりを愛でているのだろうかと、快感に溶けかけている頭で和彦はそんなことを考える。
 守光に優しく頬を撫でられてから、あごの下に手がかかる。和彦は這うようにして守光にすがりつくと、優しく頭を撫でられた。いつものように守光は、端然とした佇まいを保ちながら、しかし容赦なく、淫らに和彦を攻め立てる。今日も同じではあったが、その手法が違っていた。

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