血と束縛と

北川とも

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第31話

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「ひっ……、あぁっ、それ、嫌っ……」
 柔らかな膨らみをゾッとするほど優しい手つきで包み込まれ、和彦は上擦った声を上げる。与えられる感覚を予期しただけで、腰が震える。なんとか腰を上げようとして、すかさず南郷の指が妖しく蠢いた。
「うっ、うぅっ」
 指先で弱みを探り当てられ、弄ばれる。
「総和会も長嶺組も、あんたと、あんたの実家のことは徹底的に調べ上げている。隙のない、完璧なまでの名家だ。オヤジさんは個人的に、あんたの父親について知っているようだが、詳しいことは俺も教えてもらっていない。ただ、絶対に佐伯家に手を出すなと厳命されている」
 容赦なく与えられる刺激に、和彦は必死に南郷の手を押し退けようとしたが、少し乱暴な手つきで柔らかな膨らみを揉みしだかれ、結局南郷の腕にすがりついていた。
「……本当に、よく躾けられている体だ」
 そう言って南郷が、反り返って震える和彦の欲望を軽く扱く。
「しっかりしろよ、先生。まだ、ここからが本番だ」
 怖い囁きに体が震える。だが、体の奥で肉欲のうねりが生じたのも確かだ。
「代々続く名家に生まれた、頭もいい色男のあんたが、どういう理由で親兄弟と距離を置きたがるのか。生まれも育ちも、俺とまったく対照的なあんたが、今はこうして俺の腕の中にいる。その過程にあるものが、知りたくて仕方ない。――先生、あんたのことが知りたいんだ」
 囁かれ、頬に手がかかって顔を横に向けると、南郷に唇を塞がれる。執拗に柔らかな膨らみを攻められ、半ば恫喝されるように南郷と激しく唇を吸い合い、舌を絡める。
 長い口づけの最中、南郷に手を取られ、和彦は自身の欲望を握らされた。すっかり熱くなった欲望の先端からは、快感を知らせるしずくが垂れていた。
「オンナのあんたが、ここを熱くして欲情している姿は、いやらしくて気に入っている。最初は、男の体になんてさほど興味はなかったんだがな。興味があったのは、長嶺組長やその跡目、うちのオヤジさんが骨抜きになっているオンナという存在に対してだった。……そのうち、俺もなるかもな」
 骨抜きに、と意味ありげに呟いた南郷が手を伸ばし、箱を引き寄せた。蓋を開け、中に収まっているものを和彦も見てしまったが、やはり、守光が所有しているものに間違いなかった。
 南郷が箱からまず取り出したのは、鮮やかな朱色の組み紐だった。
「足を開いてくれ、先生」
 耳元で囁かれ、和彦は逆らえなかった。南郷の胸に体を預け、両足を立てて開くと、欲望を握られて緩く扱かれる。快感を送り込まれながら、欲望に組み紐が巻き付き、ゆっくりと根本から絞め上げられる。
「あうっ、うっ、うくっ……ん」
 和彦の欲望を組み紐でいたぶりながら、南郷は興奮していた。首筋や耳にかかる息遣いは荒く、猛々しい獣がすぐ側にいるような錯覚すら覚える。
「よく似合ってる。普段、澄まし顔のあんたを知っているせいか、たまんねーものがある」
 組み紐を結んだ南郷の興味は、さらに奥にある場所に移る。尻の間をまさぐられ、内奥の入り口を軽く擦り上げられただけで、和彦は腰を揺すって反応していた。
「あっ、嫌っ……、触らないで、くださいっ……」
「さっきもそんなことを言ってたが、ずいぶん感じてたな。嫌がるということは、感じすぎると自分でわかっているということか。まあ、俺もさんざん触ってきたから、知ってはいるんだが」
 南郷が指にたっぷりの潤滑剤を取り、再び尻の間をまさぐってくる。ひんやりとした感触に身震いするが、かまわず南郷は内奥の入り口をまさぐりながら、潤滑剤を塗り込めてくる。そして、太い指がヌルリと内奥に押し入ってきた。和彦は異物感に呻き声を洩らし、南郷の腕に手をかける。爪も立てていたが、意に介した様子もなく南郷は指を付け根まで埋め込んだ。
 滑る指に、襞と粘膜を撫で上げられ、背筋に強烈な疼きが駆け抜ける。内奥は必死に南郷の指を締め付けていた。
「やっぱり好きだろ。こうやって、尻を弄られるの。必死に締め付けてくるぜ。これならすぐ、二本目もいけそうだな」
 言葉通り南郷が指の数を増やし、内奥の入り口を押し広げられる。自分の秘部が容赦なく男の指で犯される光景を、必死に視覚しないようにしていた和彦だが、淫靡に湿った音を立てながら、内奥を指で掻き回されるようになると、無関心を装うことは不可能だった。
 背けていた視線を自分の両足の間に向けると、組み紐で絞め上げられた欲望が、先端から透明なしずくを滴らせていた。苦しいはずなのに、明らかに快感で反応している。南郷はまるで見せつけるように、内奥から大胆に指を出し入れしていた。
「はっ、あぁっ、あっ――……」
 深々と押し込まれた指が、狭い内奥で曲げられる。思いがけず中を強く刺激され、甲高い声を上げた和彦はビクビクと腰を震わせていた。数瞬、頭の中が真っ白に染まる。
 気がつけば、上体を捩り、南郷の胸にすがりついていた。内奥から指を引き抜いた南郷が唇の端に笑みを刻み、ひそっと囁いてきた。
「――イッたな、先生」
 抱き寄せられ、唇を吸われる。たったそれだけで、体の奥が疼いていた。和彦はわけがわからないまま南郷の口づけに応え、唇を吸い返し、誘い込まれるまま、南郷の口腔に舌を侵入させていた。素直になった褒美のつもりなのか、組み紐が巻き付いたままの欲望を撫で上げられる。
 思う様、和彦の舌を味わったあと、南郷が楽しげな声で、怖いことを言った。
「尻も解れたことだし、あんたのお気に入りの〈オモチャ〉で遊んでやろう」
 いつの間にか南郷の手には、卑猥な道具が握られていた。賢吾と千尋には秘密のはずのそれを、南郷は知っているどころか、使おうとしている。
 そのことの意味を理解したときには、和彦の体は布団に横たえられていた。

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