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第30話
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布団に押し倒された和彦の上に、千尋がのしかかってくる。この部屋で、いつも和彦に覆い被さってきて、顔を覗き込んでくるのは賢吾だが、こういう形で千尋を見上げるのは、違和感よりも後ろめたさを感じる。そして、抗い難い高揚感も。
浴衣の帯を解かれて前を開かれる。二日ほど前に賢吾から与えられた愛撫の痕跡が、ようやく薄くなりかけていたところだが、まだ完全に消えてはいない。千尋は、和彦の体を見下ろしながら、それを確認しているようだった。
「こうして見ると、オヤジってやっぱり、先生のこと大事にしてるよね。優しく撫で回すんじゃなく、大蛇らしく、ギリギリと締め上げてる感じ。何かの拍子に先生を抱き殺しそう」
「……楽しそうな声で、不吉なことを言うな」
「でも、オヤジにそこまで想われるって、嬉しくない?」
この場合、どう答えればいいのか、和彦には咄嗟に判断がつかなかった。顔を背けると、千尋の唇が耳に押し当てられる。
「俺も、先生のことを想ってる」
熱い舌に耳朶を舐られたあと、チクリと痛みが走る。千尋が耳朶に噛みついたのだ。身震いしたくなるような疼きが背筋を駆け抜け、和彦はうろたえていた。
「――噛み付いて、先生の血も肉も味わいたいぐらい」
首筋を舐め上げられて呻き声を洩らす。すでに興奮している千尋を煽るのは容易く、和彦の体の上で獣が猛る。
浴衣と下着を剥ぎ取られ、肌に千尋が食らいついてくる。もちろん、血が出るほど噛み付いてくるわけではなく、強く肌を吸い上げ、自分の痕跡を残し始めたのだ。
「お前……、この部屋だから、興奮しているのか?」
千尋の髪を撫でながら和彦が問いかけると、上目遣いに見上げてきた千尋が、恨みがましい口調で応じる。
「俺は必死なのに、先生は余裕たっぷり……」
「びっくりしてるんだ。お前が……必死だから」
千尋は大きく息を吐き出すと、和彦の唇を軽く吸い上げてくる。
「俺はいつでも必死だよ。先生に触れるときは、頭がカアッとして、難しいことは考えられなくなる」
「……難しいことを考えるときがあるのか、お前……」
「まあ、たまーに」
屈託なく言って退けた千尋が唇を重ねてきたので、和彦は口づけに応じる。唇を吸い合い、舌先を触れ合わせているうちに、焦れた千尋が強引に口腔に舌を押し込んでくる。
「んっ……」
自分勝手に蠢く舌に口腔を舐め回されながら、唾液を流し込まれる。和彦が千尋の舌を吸ってやると、反対に舌を引き出され、強く吸われて甘噛みされる。口づけの間も、千尋に足を開かされ、腰が強く押し付けられてくる。千尋の無言の求めに応じ、和彦はハーフパンツの前に片手を這わせる。千尋の欲望は、すでに十分すぎるほど硬くなっていた。
「――……舐めてやろうか?」
口づけの合間に和彦が囁くと、千尋が囁き返してくる。
「ダメ。今夜は、俺が先生を舐め回す。この部屋で先生を辱めて、いやらしい声で鳴かせたいんだ」
甘ったるい千尋の囁きにゾクリとするが、それが怖さからくるものなのか、強烈な期待からくるものなのか、和彦には判断がつかなかった。
首筋に千尋の唇が這わされ、心地よさに吐息を洩らす。千尋の熱い素肌に触れたくて、Tシャツの下に手を忍び込ませる。脇腹を撫で上げてやると、千尋は小さく身を震わせてから、和彦の耳元で囁いてきた。
「背中には触れないでね」
千尋のその言葉に、やはり、と和彦は思う。意識しないまま、眉をひそめていた。
「お前、刺青を――」
「まだ下書き……筋彫りっていうのかな、それの途中。今、かさぶたになってて、うっかり掻かないよう気をつけてるんだ」
言いたいことはあった和彦だが、千尋なりの覚悟があることは知っているため、ぐっと呑み込む。和彦が頭を抱き締めてやると、千尋もしがみついてくる。
「すげー痛かったんだよ。痛みに耐えるだけでも体力は消耗するし、終わったあとは、傷が化膿しないようにケアしないといけないし。こういうことが、しばらく続く」
「……でも、後悔はしてないんだろ」
「うん。してないし、これから先も、絶対しない」
和彦は、Tシャツの上からそっと千尋の背を撫でる。ここに、どんな刺青を彫っているのか、知りたくて仕方ないのだが、千尋は今は話すつもりはないようだ。
「お前もとうとう、本当のヤクザになるんだな……」
和彦の言いように、千尋が声を洩らして笑う。
「刺青を入れたから、本当のヤクザになるわけじゃないし、入れないから本当のヤクザじゃないってことでもないよ」
「わかってる。でもなんとなく、いままでのお前とは違うと感じる。これからどんどん、怖い男になっていくんだろうな」
「でも先生、怖い男こそ、甘やかしたくなる性質だろ?」
浴衣の帯を解かれて前を開かれる。二日ほど前に賢吾から与えられた愛撫の痕跡が、ようやく薄くなりかけていたところだが、まだ完全に消えてはいない。千尋は、和彦の体を見下ろしながら、それを確認しているようだった。
「こうして見ると、オヤジってやっぱり、先生のこと大事にしてるよね。優しく撫で回すんじゃなく、大蛇らしく、ギリギリと締め上げてる感じ。何かの拍子に先生を抱き殺しそう」
「……楽しそうな声で、不吉なことを言うな」
「でも、オヤジにそこまで想われるって、嬉しくない?」
この場合、どう答えればいいのか、和彦には咄嗟に判断がつかなかった。顔を背けると、千尋の唇が耳に押し当てられる。
「俺も、先生のことを想ってる」
熱い舌に耳朶を舐られたあと、チクリと痛みが走る。千尋が耳朶に噛みついたのだ。身震いしたくなるような疼きが背筋を駆け抜け、和彦はうろたえていた。
「――噛み付いて、先生の血も肉も味わいたいぐらい」
首筋を舐め上げられて呻き声を洩らす。すでに興奮している千尋を煽るのは容易く、和彦の体の上で獣が猛る。
浴衣と下着を剥ぎ取られ、肌に千尋が食らいついてくる。もちろん、血が出るほど噛み付いてくるわけではなく、強く肌を吸い上げ、自分の痕跡を残し始めたのだ。
「お前……、この部屋だから、興奮しているのか?」
千尋の髪を撫でながら和彦が問いかけると、上目遣いに見上げてきた千尋が、恨みがましい口調で応じる。
「俺は必死なのに、先生は余裕たっぷり……」
「びっくりしてるんだ。お前が……必死だから」
千尋は大きく息を吐き出すと、和彦の唇を軽く吸い上げてくる。
「俺はいつでも必死だよ。先生に触れるときは、頭がカアッとして、難しいことは考えられなくなる」
「……難しいことを考えるときがあるのか、お前……」
「まあ、たまーに」
屈託なく言って退けた千尋が唇を重ねてきたので、和彦は口づけに応じる。唇を吸い合い、舌先を触れ合わせているうちに、焦れた千尋が強引に口腔に舌を押し込んでくる。
「んっ……」
自分勝手に蠢く舌に口腔を舐め回されながら、唾液を流し込まれる。和彦が千尋の舌を吸ってやると、反対に舌を引き出され、強く吸われて甘噛みされる。口づけの間も、千尋に足を開かされ、腰が強く押し付けられてくる。千尋の無言の求めに応じ、和彦はハーフパンツの前に片手を這わせる。千尋の欲望は、すでに十分すぎるほど硬くなっていた。
「――……舐めてやろうか?」
口づけの合間に和彦が囁くと、千尋が囁き返してくる。
「ダメ。今夜は、俺が先生を舐め回す。この部屋で先生を辱めて、いやらしい声で鳴かせたいんだ」
甘ったるい千尋の囁きにゾクリとするが、それが怖さからくるものなのか、強烈な期待からくるものなのか、和彦には判断がつかなかった。
首筋に千尋の唇が這わされ、心地よさに吐息を洩らす。千尋の熱い素肌に触れたくて、Tシャツの下に手を忍び込ませる。脇腹を撫で上げてやると、千尋は小さく身を震わせてから、和彦の耳元で囁いてきた。
「背中には触れないでね」
千尋のその言葉に、やはり、と和彦は思う。意識しないまま、眉をひそめていた。
「お前、刺青を――」
「まだ下書き……筋彫りっていうのかな、それの途中。今、かさぶたになってて、うっかり掻かないよう気をつけてるんだ」
言いたいことはあった和彦だが、千尋なりの覚悟があることは知っているため、ぐっと呑み込む。和彦が頭を抱き締めてやると、千尋もしがみついてくる。
「すげー痛かったんだよ。痛みに耐えるだけでも体力は消耗するし、終わったあとは、傷が化膿しないようにケアしないといけないし。こういうことが、しばらく続く」
「……でも、後悔はしてないんだろ」
「うん。してないし、これから先も、絶対しない」
和彦は、Tシャツの上からそっと千尋の背を撫でる。ここに、どんな刺青を彫っているのか、知りたくて仕方ないのだが、千尋は今は話すつもりはないようだ。
「お前もとうとう、本当のヤクザになるんだな……」
和彦の言いように、千尋が声を洩らして笑う。
「刺青を入れたから、本当のヤクザになるわけじゃないし、入れないから本当のヤクザじゃないってことでもないよ」
「わかってる。でもなんとなく、いままでのお前とは違うと感じる。これからどんどん、怖い男になっていくんだろうな」
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