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第29話
(26)
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見事な大蛇の刺青をまず目に焼きつけてから、広い背に丹念にてのひらを這わせ、衝動のまま唇を押し当てる。巨体の輪郭をなぞるように舌先を動かしていると、賢吾の背の筋肉がぐっと強張った。
もし、英俊に無理やり連れ去られるような事態になっていたら、この大蛇に触れることは二度とできなかったのだ。そう思うと、情欲とはまた違う、強い感情に胸を揺さぶられる。多分これは、愛しいという感情だ。そしてこの感情は、この大蛇を背負う男に対して向けられている。
「――俺とオヤジは、嫌になるほど似ている」
ふいに賢吾が話し始める。和彦は、背に唇を押し当てたまま耳を傾ける。
「優しくて愛情深くて、淫奔でしたたかな先生の性質を、俺は、この世界に繋ぎとめるために利用している。俺が許した男たちと関係を持たせて、先生を雁字搦めにしているんだ。こんなことをするのは、俺ぐらいのものだと思っていたが……、さすがは、俺のオヤジといったところだな」
賢吾の胸元に手を回すと、いきなりその手を掴まれ、下腹部へと導かれる。触れた賢吾の欲望は、いつの間にか熱く高ぶっていた。吐息をこぼした和彦は、しっかりと握り込むと、緩やかに扱く。
「オヤジは、先生と南郷を繋ごうとしている。なんとなく、目的が見え始めてはいるが、まだはっきりとしたことは言えない。今問い詰めたところで、とぼけられるのがオチだろうな」
賢吾が引き戸のほうに顔を向けたので、和彦もつい反応してしまう。同じ家の中に守光もいるのだと思うと、自分が今、とてつもなく恥知らずな行為に及んでいるのだと認識させられる。怖気づいたとも言えるかもしれない。
和彦は慌てて体を離そうとしたが、賢吾がそれを許さなかった。腕を引っ張られて布団の上に転がされてうつ伏せになると、さらに浴衣を剥ぎ取られ、下着も強引に脱がされる。
「おいっ――」
「総和会という枠の中じゃ、俺がオヤジに対して取れる抵抗は高が知れてる。父子であることは強みだが、同時に弱みでもあるんだ。俺は組を守る責任があり、組員たちの生活も守ってやらなきゃいけない。だが、このオンナを手放すこともできない」
背に、賢吾の熱い体がのしかかってきて、押し潰されそうな圧迫感に息が詰まる。和彦は逃れようと抗ったが、きつく抱き締められると、息苦しさすら心地よく思えた。これは、賢吾の執着心の強さの表れだと感じたのだ。
「いっそのことお前を、どこかに隠しちまおうかとも思うが、そうなると、お前に焦がれている男たちに、俺が恨まれかねないからな。――咥え込んだ男を片っ端から骨抜きにするんだから、お前は本当に性質が悪い。性質が悪いが、だからこそ、愛しい」
いつになく切迫したバリトンの響きに、鼓膜が蕩ける。腰を抱えられ、賢吾の片手が両足の間に差し込まる。欲望を手荒く扱かれて、和彦は上擦った声を上げて身をくねらせていた。
「俺の大事で可愛いオンナに、かすり傷一本でも負わせようものなら、それを口実に南郷を遠ざけることもできるが、あの男は、そんな下手は打たないだろう。こうして見る限り、乱暴に扱われた様子はないからな。乱暴どころか、じっくり感じさせてくれたんじゃねーか?」
肩甲骨の辺りに軽く噛みつかれ、和彦は小さく呻き声を洩らす。痛みはなく、ゾクゾクするような疼きが背筋を駆け抜けていた。
「俺は、南郷と直接揉めるつもりはない。それこそ、長嶺組や、オヤジの存在を快く思ってない連中を喜ばせるだけだからな。だが、オヤジを喜ばせるために、物わかりのいい息子でいるつもりもない」
背に、何度も情熱的に唇が押し当てられ、その合間に賢吾は言葉を続ける。
「――お前がバタバタしている間に、総和会会長と第二遊撃隊隊長に対して、ささやかな嫌がらせを仕掛けた。俺は少しばかりムカついていると、わからせるためにな」
「嫌、がらせ……?」
「そのうち、お前に教えてやる。いや、紹介してやる、だな。今は、背負い込んだ気苦労を少しずつ下ろしていって、精神的に落ち着くのが先だ。余計なことはしなくていいし、考えなくていい。――たっぷり、俺が甘やかしてやる」
話している間も動き続けた賢吾の手の中で、和彦の欲望は形を変え、熱くなっていた。指の腹で先端を撫でられ、喉を鳴らす。何もかも委ねられる男からの愛撫に、すでにもう和彦の理性は揺らぎ始めていた。
賢吾が話す内容を、懸命に頭に留めておこうとするが、愛撫に何度も気を取られかけ、そんな和彦の様子に賢吾も気づいたようだった。本格的に和彦の理性を突き崩すことにしたのか、柔らかな膨らみを慣れた手つきで揉みしだいてくる。
「あうっ、うっ、うぅっ――」
もし、英俊に無理やり連れ去られるような事態になっていたら、この大蛇に触れることは二度とできなかったのだ。そう思うと、情欲とはまた違う、強い感情に胸を揺さぶられる。多分これは、愛しいという感情だ。そしてこの感情は、この大蛇を背負う男に対して向けられている。
「――俺とオヤジは、嫌になるほど似ている」
ふいに賢吾が話し始める。和彦は、背に唇を押し当てたまま耳を傾ける。
「優しくて愛情深くて、淫奔でしたたかな先生の性質を、俺は、この世界に繋ぎとめるために利用している。俺が許した男たちと関係を持たせて、先生を雁字搦めにしているんだ。こんなことをするのは、俺ぐらいのものだと思っていたが……、さすがは、俺のオヤジといったところだな」
賢吾の胸元に手を回すと、いきなりその手を掴まれ、下腹部へと導かれる。触れた賢吾の欲望は、いつの間にか熱く高ぶっていた。吐息をこぼした和彦は、しっかりと握り込むと、緩やかに扱く。
「オヤジは、先生と南郷を繋ごうとしている。なんとなく、目的が見え始めてはいるが、まだはっきりとしたことは言えない。今問い詰めたところで、とぼけられるのがオチだろうな」
賢吾が引き戸のほうに顔を向けたので、和彦もつい反応してしまう。同じ家の中に守光もいるのだと思うと、自分が今、とてつもなく恥知らずな行為に及んでいるのだと認識させられる。怖気づいたとも言えるかもしれない。
和彦は慌てて体を離そうとしたが、賢吾がそれを許さなかった。腕を引っ張られて布団の上に転がされてうつ伏せになると、さらに浴衣を剥ぎ取られ、下着も強引に脱がされる。
「おいっ――」
「総和会という枠の中じゃ、俺がオヤジに対して取れる抵抗は高が知れてる。父子であることは強みだが、同時に弱みでもあるんだ。俺は組を守る責任があり、組員たちの生活も守ってやらなきゃいけない。だが、このオンナを手放すこともできない」
背に、賢吾の熱い体がのしかかってきて、押し潰されそうな圧迫感に息が詰まる。和彦は逃れようと抗ったが、きつく抱き締められると、息苦しさすら心地よく思えた。これは、賢吾の執着心の強さの表れだと感じたのだ。
「いっそのことお前を、どこかに隠しちまおうかとも思うが、そうなると、お前に焦がれている男たちに、俺が恨まれかねないからな。――咥え込んだ男を片っ端から骨抜きにするんだから、お前は本当に性質が悪い。性質が悪いが、だからこそ、愛しい」
いつになく切迫したバリトンの響きに、鼓膜が蕩ける。腰を抱えられ、賢吾の片手が両足の間に差し込まる。欲望を手荒く扱かれて、和彦は上擦った声を上げて身をくねらせていた。
「俺の大事で可愛いオンナに、かすり傷一本でも負わせようものなら、それを口実に南郷を遠ざけることもできるが、あの男は、そんな下手は打たないだろう。こうして見る限り、乱暴に扱われた様子はないからな。乱暴どころか、じっくり感じさせてくれたんじゃねーか?」
肩甲骨の辺りに軽く噛みつかれ、和彦は小さく呻き声を洩らす。痛みはなく、ゾクゾクするような疼きが背筋を駆け抜けていた。
「俺は、南郷と直接揉めるつもりはない。それこそ、長嶺組や、オヤジの存在を快く思ってない連中を喜ばせるだけだからな。だが、オヤジを喜ばせるために、物わかりのいい息子でいるつもりもない」
背に、何度も情熱的に唇が押し当てられ、その合間に賢吾は言葉を続ける。
「――お前がバタバタしている間に、総和会会長と第二遊撃隊隊長に対して、ささやかな嫌がらせを仕掛けた。俺は少しばかりムカついていると、わからせるためにな」
「嫌、がらせ……?」
「そのうち、お前に教えてやる。いや、紹介してやる、だな。今は、背負い込んだ気苦労を少しずつ下ろしていって、精神的に落ち着くのが先だ。余計なことはしなくていいし、考えなくていい。――たっぷり、俺が甘やかしてやる」
話している間も動き続けた賢吾の手の中で、和彦の欲望は形を変え、熱くなっていた。指の腹で先端を撫でられ、喉を鳴らす。何もかも委ねられる男からの愛撫に、すでにもう和彦の理性は揺らぎ始めていた。
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「あうっ、うっ、うぅっ――」
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