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第29話
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ガウンの紐を解かれ、Tシャツをたくし上げられて直に肌にてのひらが押し当てられる。胸元を荒々しく撫で回されたところでやっと和彦は、与えられる感触があまりに生々しいと感じる。その違和感のおかげで、目を開けられた。
意識にへばりついたような眠気を強引に引き剥がしているうちに、視界に入る光景をようやく認識できるようになる。
つけたままのテレビの明かりがぼんやりと壁を照らしていた。その壁に、大きな影が映っていた。
声を上げるより先に、飛び起きようとしたが、背後からがっちり抑え込まれているため、身動きが取れない。咄嗟に首を動かそうとして、寸前のところで恐怖が勝った。自分が誰の腕の中に捕らえられているか、本能的に悟ってしまったからだ。
和彦の怯えを堪能するかのように、背後からきつく抱き締められる。分厚いてのひらが動き回り、胸の突起を捏ねるように刺激される。そして、もう片方の手が下肢に伸び、両足の間をぐっと押さえつけてきた。
このときには和彦は完全に眠りから覚め、全身から冷や汗が噴き出す。本能的な怯えから声も出せず、それでもベッドから抜け出そうとしたが、逞しい両腕に捕らえられた体は動かない。
背後で気配が動き、耳元に獣の息遣いがかかる。ゾワッと鳥肌が立った。
「――別に、取って食いやしない」
耳に直接唇を押し当てて注ぎ込まれた声に、やはり、と和彦は思った。自分は今、南郷の腕の中にいるのだ。
「ど、して……」
和彦がようやく言葉を絞り出す間にも、南郷の手は油断なく動き続ける。さらには、唇も、舌も。
刺激を与えられ、強引に反応を促されて胸の突起が凝ってくると、待っていたように南郷の太い指に摘み上げられる。同時に、耳朶を舌で舐られ、唇で挟まれていた。不快さに、たまらず首をすくめて声を洩らす。
顔を見なくとも、和彦の反応の意味を察したのだろう。南郷が低く笑い声を洩らした。
「どんな男も咥え込んで甘やかす体のくせに、あんた自身は、俺が嫌いで堪らないんだな」
当然だと言いたかったが、そう言い放った瞬間、自分が縊り殺されるような気がして、和彦は唇を引き結ぶ。しかし、心の中を読んだのか、胸元をまさぐっていた南郷の片手が、思わせぶりな動きで喉元へと移動する。
喉にかかる分厚く硬い手の感触に、恐怖のため和彦は気が遠のきかける。圧倒的な力を持つ巨大な獣にのしかかられ、わけもわからないまま食われてしまう小動物の姿が脳裏に浮かぶ。
せめて抵抗をと思うが、与えられる痛みを想像すると、指すら動かせない。そんな和彦の臆病さを、南郷は嘲笑った。
「あんたは、慎重だ。常に、自分の言動が周囲の男たちに与える影響を考えている。だから、長嶺組長がどれだけの力を与えようが、その力を振るえない。自分で動くより、守ってくれる男たちに任せていたほうが、責任も痛みも負わなくて済むからな。――賢くて、狡いオンナだ。非力だが、弱くはない。優しげな見た目に反して、図太いほどに、したたかだ」
話しながら南郷は、スウェットパンツの中に無遠慮に手を突っ込んでくる。さすがに和彦は制止しようとしたが、一瞬見せた隙を、南郷は見逃さなかった。喉元にかかった手があごに移動し、強く掴まれる。頭ごと抱え込まれるようにして、強引に振り向かされていた。
眼前に迫ってきたのは、獰猛な両目だ。荒々しい本能だけを宿らせたような、力を振るうことに長けた男には似つかわしい目だと言える。和彦が何より恐ろしいと感じたのは、まるで凶器そのもののような南郷の目に、理知的な光がちらちらと見える点だ。
この男は、自分を粗野で暴力的に見せる利点を知り抜いている。だからあえて、外見から与える印象通りの言動を取っているのだ。
己を装える人間は、それだけ頭が切れるということだ。そして、本能のままに行動したりはしない。長嶺守光の側近とは、そういう男のはずだ。
沈黙した途端、食われてしまう――。理屈抜きでそう感じた和彦は、動揺と恐怖のため頭の中が真っ白になりかけながらも、懸命に口を動かす。
「……どうして、あなたがここに……? 二度とぼくに近づかないよう、言ったはずです」
「俺は承諾しなかったはずだが」
そう答えた南郷の手に、和彦の欲望は直に握り締められる。体が竦み上がったが、じっと見つめてくる南郷から目は離せなかった。和彦なりのささやかな抵抗に、南郷は唇の端に笑みらしきものをちらりと浮かべる。
「オヤジさんの大事なオンナに、何かあったら大変だ。俺なりに心配して、こうして護衛に加わったんだ。――あんたがここにいることは、ごく限られた人間しか知らない。そして、あんたに何かあったとき、独自に判断して対処できるのは、ここでは俺しかいないというわけだ」
意識にへばりついたような眠気を強引に引き剥がしているうちに、視界に入る光景をようやく認識できるようになる。
つけたままのテレビの明かりがぼんやりと壁を照らしていた。その壁に、大きな影が映っていた。
声を上げるより先に、飛び起きようとしたが、背後からがっちり抑え込まれているため、身動きが取れない。咄嗟に首を動かそうとして、寸前のところで恐怖が勝った。自分が誰の腕の中に捕らえられているか、本能的に悟ってしまったからだ。
和彦の怯えを堪能するかのように、背後からきつく抱き締められる。分厚いてのひらが動き回り、胸の突起を捏ねるように刺激される。そして、もう片方の手が下肢に伸び、両足の間をぐっと押さえつけてきた。
このときには和彦は完全に眠りから覚め、全身から冷や汗が噴き出す。本能的な怯えから声も出せず、それでもベッドから抜け出そうとしたが、逞しい両腕に捕らえられた体は動かない。
背後で気配が動き、耳元に獣の息遣いがかかる。ゾワッと鳥肌が立った。
「――別に、取って食いやしない」
耳に直接唇を押し当てて注ぎ込まれた声に、やはり、と和彦は思った。自分は今、南郷の腕の中にいるのだ。
「ど、して……」
和彦がようやく言葉を絞り出す間にも、南郷の手は油断なく動き続ける。さらには、唇も、舌も。
刺激を与えられ、強引に反応を促されて胸の突起が凝ってくると、待っていたように南郷の太い指に摘み上げられる。同時に、耳朶を舌で舐られ、唇で挟まれていた。不快さに、たまらず首をすくめて声を洩らす。
顔を見なくとも、和彦の反応の意味を察したのだろう。南郷が低く笑い声を洩らした。
「どんな男も咥え込んで甘やかす体のくせに、あんた自身は、俺が嫌いで堪らないんだな」
当然だと言いたかったが、そう言い放った瞬間、自分が縊り殺されるような気がして、和彦は唇を引き結ぶ。しかし、心の中を読んだのか、胸元をまさぐっていた南郷の片手が、思わせぶりな動きで喉元へと移動する。
喉にかかる分厚く硬い手の感触に、恐怖のため和彦は気が遠のきかける。圧倒的な力を持つ巨大な獣にのしかかられ、わけもわからないまま食われてしまう小動物の姿が脳裏に浮かぶ。
せめて抵抗をと思うが、与えられる痛みを想像すると、指すら動かせない。そんな和彦の臆病さを、南郷は嘲笑った。
「あんたは、慎重だ。常に、自分の言動が周囲の男たちに与える影響を考えている。だから、長嶺組長がどれだけの力を与えようが、その力を振るえない。自分で動くより、守ってくれる男たちに任せていたほうが、責任も痛みも負わなくて済むからな。――賢くて、狡いオンナだ。非力だが、弱くはない。優しげな見た目に反して、図太いほどに、したたかだ」
話しながら南郷は、スウェットパンツの中に無遠慮に手を突っ込んでくる。さすがに和彦は制止しようとしたが、一瞬見せた隙を、南郷は見逃さなかった。喉元にかかった手があごに移動し、強く掴まれる。頭ごと抱え込まれるようにして、強引に振り向かされていた。
眼前に迫ってきたのは、獰猛な両目だ。荒々しい本能だけを宿らせたような、力を振るうことに長けた男には似つかわしい目だと言える。和彦が何より恐ろしいと感じたのは、まるで凶器そのもののような南郷の目に、理知的な光がちらちらと見える点だ。
この男は、自分を粗野で暴力的に見せる利点を知り抜いている。だからあえて、外見から与える印象通りの言動を取っているのだ。
己を装える人間は、それだけ頭が切れるということだ。そして、本能のままに行動したりはしない。長嶺守光の側近とは、そういう男のはずだ。
沈黙した途端、食われてしまう――。理屈抜きでそう感じた和彦は、動揺と恐怖のため頭の中が真っ白になりかけながらも、懸命に口を動かす。
「……どうして、あなたがここに……? 二度とぼくに近づかないよう、言ったはずです」
「俺は承諾しなかったはずだが」
そう答えた南郷の手に、和彦の欲望は直に握り締められる。体が竦み上がったが、じっと見つめてくる南郷から目は離せなかった。和彦なりのささやかな抵抗に、南郷は唇の端に笑みらしきものをちらりと浮かべる。
「オヤジさんの大事なオンナに、何かあったら大変だ。俺なりに心配して、こうして護衛に加わったんだ。――あんたがここにいることは、ごく限られた人間しか知らない。そして、あんたに何かあったとき、独自に判断して対処できるのは、ここでは俺しかいないというわけだ」
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