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第28話
(24)
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和彦の視線は吸い寄せられるように、守光の背に向けられていた。浴衣に隠れてはいるが、この下には、毒々しい黄金色の体を持つ九尾の狐が潜んでいる。大蛇も怖いが、この狐はそれ以上に怖い。どうやって獲物を狙うのか、その手口すら和彦は想像がつかないのだ。
そんな狐の刺青を背負った男に『逃がさん』と言われれば、それは言霊となって和彦の心と体を縛りつけそうだった。
和彦の中に芽生えた怯えを読み取ったのか、守光がこう付け加える。
「――……あんたは振り回されていると感じているだろうが、長嶺の男たちも、あんたに振り回されている。これは、情だよ。あんたとわしらは、情を交わし合っている」
「情を、交わし合っている……」
「そう感じているのは、わしの勘違いかな?」
肯定も否定もできず口ごもる和彦に、首を回らせた守光がわずかに目を細める。
「わしの〈オンナ〉は慎み深い」
守光がゆっくりと体を起こし、布団の上に座る。手招きされて側に寄った和彦は、強い力で肩を抱かれた勢いで、守光にもたれかかった。
反射的に身をすくめたが、それ以上の反応はできない。凄みを帯びていながら、非常に静かな眼差しで見つめられると、怯えると同時に、奇妙な熱が体の奥で高まり始める。このことを自覚した瞬間にはもう、和彦の体は守光に支配されているのだ。
「さあ、わしと情を交わしてくれ」
賢吾に似た太く艶のある声で囁かれ、唇を塞がれそうになる。いつもなら、逆らえないまま身を任せてしまうのだが、今夜は事情が違う。寸前のところでわずかに頭を後ろを引き、和彦は抑えた声で訴えた。
「今夜は、千尋を刺激したくありません。それでなくても、ぼくが兄と会うことを知らされて、気が高ぶっているのに、こんなところを見られたら――」
「刺激すればいい。あれも、なかなか厄介な獣を背負うことにしたようだ。刺激して、高ぶらせて、そうやって成長させる。わしや賢吾、オンナであるあんたの役目だ」
千尋が入れようとしている刺青のことを指しているのだろう。守光の口ぶりに興味を惹かれた和彦だが、すぐにそれどころではなくなる。
「あっ……」
再び顔を寄せてきた守光が触れてきたのは唇ではなく、首筋だった。ひんやりとした唇を押し当てられ、生理的な反応から鳥肌が立つが、同時に、腰から疼きが這い上がってきた。
和彦の首筋や喉元に唇を這わせながら、守光の片手が浴衣の合わせから入り込んでくる。丁寧な手つきで胸元を撫でられたが、すぐに手を引いてしまう。一瞬、和彦は安堵しかけたが、守光は甘くなかった。
次に守光の手が這わされたのは、両足の間だった。和彦は反射的に逃れようとしたが、深く差し込まれた守光の手に、下着の上から敏感なものを掴まれる。腰が砕けたような状態となった和彦は、そのまま動けなくなった。
腰を抱き寄せられて下着を脱がされる。守光に背後から抱き締められる格好となると、両足を立てて開かされた。正面には、襖がある。もし誰かが守光の部屋に入ってきたら、まっさきに和彦のあられもない姿を目にすることになるのだ。
守光の手に直に、欲望を握り締められて、ビクリと背をしならせる。握られたものを緩やかに上下に扱かれ、和彦を身を震わせて愛撫を受け入れるしかない。浴衣の前を広げられ、胸元も撫でられる。
「興奮しているな。素直な体だ」
耳元でそう囁いた守光の息遣いが笑う。和彦のものは、扱かれるたびに熱を増し、しなり始めていた。先端を指の腹でくすぐられ、たまらず喉を鳴らす。
そのタイミングで、襖の向こうから声をかけられた。
「じいちゃん、先生を部屋に連れ込んでるだろ」
ハッと身を固くした和彦が応じる前に、襖が開く。スウェットパンツにTシャツ姿の千尋が姿を現した。髪をよく拭いていないらしく、滴る水滴が頬や首筋を濡らしている。
和彦がそこまで認識したとき、千尋もまた、和彦がどういう状況にあるのか認識したのか、まるで火が放たれたように切れ上がった目に激情が走る。
千尋が暴走すると、咄嗟に和彦は危惧する。しかし、守光は違った。
「――お前が大人になったところを見せてくれ」
そう千尋を言葉で煽り、見せつけるように和彦の体を撫で回す。和彦は、千尋から目が離せなかった。千尋もまた、和彦を射竦めるように見つめてくる。
息苦しいほどの緊迫感に、心臓が痛くなってくる。このまま気を失ってしまいたいと和彦が願ったとき、突然千尋が動いた。部屋に入ってきて後ろ手で襖を閉めると、荒々しい気配を振り撒きながら歩み寄ってきたのだ。そしてTシャツを脱ぎ捨てた。
「千尋……」
そんな狐の刺青を背負った男に『逃がさん』と言われれば、それは言霊となって和彦の心と体を縛りつけそうだった。
和彦の中に芽生えた怯えを読み取ったのか、守光がこう付け加える。
「――……あんたは振り回されていると感じているだろうが、長嶺の男たちも、あんたに振り回されている。これは、情だよ。あんたとわしらは、情を交わし合っている」
「情を、交わし合っている……」
「そう感じているのは、わしの勘違いかな?」
肯定も否定もできず口ごもる和彦に、首を回らせた守光がわずかに目を細める。
「わしの〈オンナ〉は慎み深い」
守光がゆっくりと体を起こし、布団の上に座る。手招きされて側に寄った和彦は、強い力で肩を抱かれた勢いで、守光にもたれかかった。
反射的に身をすくめたが、それ以上の反応はできない。凄みを帯びていながら、非常に静かな眼差しで見つめられると、怯えると同時に、奇妙な熱が体の奥で高まり始める。このことを自覚した瞬間にはもう、和彦の体は守光に支配されているのだ。
「さあ、わしと情を交わしてくれ」
賢吾に似た太く艶のある声で囁かれ、唇を塞がれそうになる。いつもなら、逆らえないまま身を任せてしまうのだが、今夜は事情が違う。寸前のところでわずかに頭を後ろを引き、和彦は抑えた声で訴えた。
「今夜は、千尋を刺激したくありません。それでなくても、ぼくが兄と会うことを知らされて、気が高ぶっているのに、こんなところを見られたら――」
「刺激すればいい。あれも、なかなか厄介な獣を背負うことにしたようだ。刺激して、高ぶらせて、そうやって成長させる。わしや賢吾、オンナであるあんたの役目だ」
千尋が入れようとしている刺青のことを指しているのだろう。守光の口ぶりに興味を惹かれた和彦だが、すぐにそれどころではなくなる。
「あっ……」
再び顔を寄せてきた守光が触れてきたのは唇ではなく、首筋だった。ひんやりとした唇を押し当てられ、生理的な反応から鳥肌が立つが、同時に、腰から疼きが這い上がってきた。
和彦の首筋や喉元に唇を這わせながら、守光の片手が浴衣の合わせから入り込んでくる。丁寧な手つきで胸元を撫でられたが、すぐに手を引いてしまう。一瞬、和彦は安堵しかけたが、守光は甘くなかった。
次に守光の手が這わされたのは、両足の間だった。和彦は反射的に逃れようとしたが、深く差し込まれた守光の手に、下着の上から敏感なものを掴まれる。腰が砕けたような状態となった和彦は、そのまま動けなくなった。
腰を抱き寄せられて下着を脱がされる。守光に背後から抱き締められる格好となると、両足を立てて開かされた。正面には、襖がある。もし誰かが守光の部屋に入ってきたら、まっさきに和彦のあられもない姿を目にすることになるのだ。
守光の手に直に、欲望を握り締められて、ビクリと背をしならせる。握られたものを緩やかに上下に扱かれ、和彦を身を震わせて愛撫を受け入れるしかない。浴衣の前を広げられ、胸元も撫でられる。
「興奮しているな。素直な体だ」
耳元でそう囁いた守光の息遣いが笑う。和彦のものは、扱かれるたびに熱を増し、しなり始めていた。先端を指の腹でくすぐられ、たまらず喉を鳴らす。
そのタイミングで、襖の向こうから声をかけられた。
「じいちゃん、先生を部屋に連れ込んでるだろ」
ハッと身を固くした和彦が応じる前に、襖が開く。スウェットパンツにTシャツ姿の千尋が姿を現した。髪をよく拭いていないらしく、滴る水滴が頬や首筋を濡らしている。
和彦がそこまで認識したとき、千尋もまた、和彦がどういう状況にあるのか認識したのか、まるで火が放たれたように切れ上がった目に激情が走る。
千尋が暴走すると、咄嗟に和彦は危惧する。しかし、守光は違った。
「――お前が大人になったところを見せてくれ」
そう千尋を言葉で煽り、見せつけるように和彦の体を撫で回す。和彦は、千尋から目が離せなかった。千尋もまた、和彦を射竦めるように見つめてくる。
息苦しいほどの緊迫感に、心臓が痛くなってくる。このまま気を失ってしまいたいと和彦が願ったとき、突然千尋が動いた。部屋に入ってきて後ろ手で襖を閉めると、荒々しい気配を振り撒きながら歩み寄ってきたのだ。そしてTシャツを脱ぎ捨てた。
「千尋……」
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