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第27話
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鷹津は油断ならない。長嶺組と手を組んでいる一方で、しっかりと動向は探っているのだ。
一瞬手を止めかけた和彦だが、鷹津に心の内を悟られたくなくて、何事もないふりをする。
「どうしてそんなことが気になる。ぼくが、長嶺組の都合に振り回されるのは、珍しいことじゃない」
「朝、お前が慌てた様子で電話をかけてきたから、何事かと思うだろ。いままで、少なくとも携帯に連絡してくるなと言ったことはなかったしな」
話す義理はないと突っぱねたかったが、それでは鷹津が引かないだろうと予測できた。和彦は手を動かしながら簡潔に答える。
「……連休の間、三田村と一緒だった」
鷹津は軽く鼻を鳴らしたものの、それ以上は何も言わなかった。おかげで、処置室の静けさを意識してしまい、和彦も声を発することができなくなる。
抜糸を終え、傷跡を覆うようにテープを貼ると、鷹津が慎重に手を動かす。物言いたげな視線を向けられたので、立ち上がった和彦は片付けをしながら説明する。
「縫い跡を固定するためだ。あんた絶対、抜糸してすぐに無茶をするだろ。特に手なんだから、注意しないと」
「お優しいことで。――お前、ヤクザなんかと関わらなきゃ、まともな医者をやってたんだろうな」
「余計なお世話だ。やることはやったんだから、さっさと出て行ってくれ。あんたが来るということで、長嶺組の人間にずっと駐車場で待ってもらっているんだ。ぼくも早く帰りたい――」
ここでふとあることが脳裏を過り、反射的に背後を振り返る。ブルゾンを掴んだ鷹津が、軽く首を傾げた。
「どうした?」
「いや……」
一度は口ごもった和彦だが、前に鷹津が言っていたことが気になり、それが今の自分にとっては大事だということもあって、切り出す。
「――前にあんた、ぼくの兄の国政出馬の話を、昔馴染みの新聞記者から聞いたと言ってたな」
「それがどうした」
「まだ、ぼくの実家の情報を集めているのか?」
怪訝そうな顔をした鷹津だが、和彦の真剣な様子から察するものがあったらしい。次の瞬間、ニヤリと笑った。
「何かあったみたいだな」
「……嬉しそうだな」
「お前に対する貸しが増えるのかと思ったら、こういう顔にもなる」
嫌な男だと、はっきりと声に出して呟いたが、すでに鷹津にとっては挨拶よりも聞き馴染んだ言葉になったようだ。簡単に聞き流された挙げ句、和彦は腕を掴まれた。
「おいっ――」
「話ならじっくり聞いてやる。どうせ俺は、長嶺やお前の動向を探ってないときは、暇だからな」
それが冗談なのか事実なのか判断がつかないうちに、鷹津に引きずられるようにして待合室へと連れて行かれる。突き飛ばされるようにしてソファに座り込むと、鷹津がドカッと隣に腰を下ろした。さらに、肩に腕を回してくる。
鷹津を睨みつけた和彦だが、腕を押し退けるまでには至らない。鷹津の腕の感触を意識して体を硬くしつつも、里見との連絡用に持っている携帯電話に、英俊から電話があったことと、言われた内容を端的に説明した。
「明らかに面倒な事態に巻き込まれているぼくを、実家に呼び戻そうとするんだ。出馬を公にする前に監視下に置きたいんだろう……と思うが、ぼくに手伝ってもらうと言ったんだ。佐伯家の人間として。あの家の人間が、ぼくにそんなことを言うなんて、いままでなかった」
「いないもの扱いにしていた次男を当てにするなんて、何かトラブルがあるんじゃないかと、お前は心配しているわけか」
鷹津の皮肉に満ちた物言いに、いまさら腹が立ったりはしない。
「……実家の心配はしていない。こちらの生活が心配なんだ」
「ヤクザの囲われものとしての生活か」
「皮肉が言いたいだけなら、もういい。あんたには頼らない――」
立ち上がろうとした和彦だが、鷹津にしっかりと肩を掴まれ動けない。さらにぐいっと引き寄せられ、耳に唇が押し当てられた。
「俺を、頼ろうとしているのか?」
「勢いで言っただけだ。深い意味はない」
顔を背けようとして、今度はあごを掴まれ、強引に鷹津のほうを向かされる。鷹津は、食い入るように和彦を見つめていた。普段であればドロドロとした感情の澱が透けて見える目は、すでにもう興奮の色を湛えている。
「――俺に何を頼みたいか、言えよ。お前のために、動いてやる」
そう言って鷹津が、抑えが利かなくなったように和彦の唇を塞いでくる。噛みつくような口づけを与えられ、勢いに圧倒されそうになりながら、なんとか鷹津を押し退けようとするが、それ以上の力で押さえ込まれる。
「んっ……、んうっ」
激しく唇を吸われ、苦しさに和彦が喘いだ瞬間を見逃さず、口腔に舌が押し入ってくる。あとはなし崩しだ。
一瞬手を止めかけた和彦だが、鷹津に心の内を悟られたくなくて、何事もないふりをする。
「どうしてそんなことが気になる。ぼくが、長嶺組の都合に振り回されるのは、珍しいことじゃない」
「朝、お前が慌てた様子で電話をかけてきたから、何事かと思うだろ。いままで、少なくとも携帯に連絡してくるなと言ったことはなかったしな」
話す義理はないと突っぱねたかったが、それでは鷹津が引かないだろうと予測できた。和彦は手を動かしながら簡潔に答える。
「……連休の間、三田村と一緒だった」
鷹津は軽く鼻を鳴らしたものの、それ以上は何も言わなかった。おかげで、処置室の静けさを意識してしまい、和彦も声を発することができなくなる。
抜糸を終え、傷跡を覆うようにテープを貼ると、鷹津が慎重に手を動かす。物言いたげな視線を向けられたので、立ち上がった和彦は片付けをしながら説明する。
「縫い跡を固定するためだ。あんた絶対、抜糸してすぐに無茶をするだろ。特に手なんだから、注意しないと」
「お優しいことで。――お前、ヤクザなんかと関わらなきゃ、まともな医者をやってたんだろうな」
「余計なお世話だ。やることはやったんだから、さっさと出て行ってくれ。あんたが来るということで、長嶺組の人間にずっと駐車場で待ってもらっているんだ。ぼくも早く帰りたい――」
ここでふとあることが脳裏を過り、反射的に背後を振り返る。ブルゾンを掴んだ鷹津が、軽く首を傾げた。
「どうした?」
「いや……」
一度は口ごもった和彦だが、前に鷹津が言っていたことが気になり、それが今の自分にとっては大事だということもあって、切り出す。
「――前にあんた、ぼくの兄の国政出馬の話を、昔馴染みの新聞記者から聞いたと言ってたな」
「それがどうした」
「まだ、ぼくの実家の情報を集めているのか?」
怪訝そうな顔をした鷹津だが、和彦の真剣な様子から察するものがあったらしい。次の瞬間、ニヤリと笑った。
「何かあったみたいだな」
「……嬉しそうだな」
「お前に対する貸しが増えるのかと思ったら、こういう顔にもなる」
嫌な男だと、はっきりと声に出して呟いたが、すでに鷹津にとっては挨拶よりも聞き馴染んだ言葉になったようだ。簡単に聞き流された挙げ句、和彦は腕を掴まれた。
「おいっ――」
「話ならじっくり聞いてやる。どうせ俺は、長嶺やお前の動向を探ってないときは、暇だからな」
それが冗談なのか事実なのか判断がつかないうちに、鷹津に引きずられるようにして待合室へと連れて行かれる。突き飛ばされるようにしてソファに座り込むと、鷹津がドカッと隣に腰を下ろした。さらに、肩に腕を回してくる。
鷹津を睨みつけた和彦だが、腕を押し退けるまでには至らない。鷹津の腕の感触を意識して体を硬くしつつも、里見との連絡用に持っている携帯電話に、英俊から電話があったことと、言われた内容を端的に説明した。
「明らかに面倒な事態に巻き込まれているぼくを、実家に呼び戻そうとするんだ。出馬を公にする前に監視下に置きたいんだろう……と思うが、ぼくに手伝ってもらうと言ったんだ。佐伯家の人間として。あの家の人間が、ぼくにそんなことを言うなんて、いままでなかった」
「いないもの扱いにしていた次男を当てにするなんて、何かトラブルがあるんじゃないかと、お前は心配しているわけか」
鷹津の皮肉に満ちた物言いに、いまさら腹が立ったりはしない。
「……実家の心配はしていない。こちらの生活が心配なんだ」
「ヤクザの囲われものとしての生活か」
「皮肉が言いたいだけなら、もういい。あんたには頼らない――」
立ち上がろうとした和彦だが、鷹津にしっかりと肩を掴まれ動けない。さらにぐいっと引き寄せられ、耳に唇が押し当てられた。
「俺を、頼ろうとしているのか?」
「勢いで言っただけだ。深い意味はない」
顔を背けようとして、今度はあごを掴まれ、強引に鷹津のほうを向かされる。鷹津は、食い入るように和彦を見つめていた。普段であればドロドロとした感情の澱が透けて見える目は、すでにもう興奮の色を湛えている。
「――俺に何を頼みたいか、言えよ。お前のために、動いてやる」
そう言って鷹津が、抑えが利かなくなったように和彦の唇を塞いでくる。噛みつくような口づけを与えられ、勢いに圧倒されそうになりながら、なんとか鷹津を押し退けようとするが、それ以上の力で押さえ込まれる。
「んっ……、んうっ」
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