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第27話
(2)
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「もしかして、レッスンのせい?」
「ああ。普段ジムでやっている運動とは、まったく違う筋肉を使った気がする。初めてで緊張していたから、体のあちこちに無駄な力が入ってたんだろうな」
だから、昼間からゆっくりと風呂に浸かり、しっかりと体を解そうと考えたのだ。
ちなみに、日曜日の午前中から千尋に連れて行かれた先は、ゴルフスクールだ。
本気で和彦をゴルフコースに連れ出すつもりらしく、そのためにはまず基礎を、ということで、勝手に体験レッスンを申し込んでいたのだ。しかも、レッスンプロによるマンツーマンの指導が受けられるという特別コースを。ゴルフ道具一式も一通り揃えてもらったため、いまさら嫌だとも言えず、和彦はやむなく人生で初のゴルフを経験したというわけだ。
和彦が慣れないクラブの握り方に四苦八苦している頃、千尋は別のレッスンプロから指導を受けていたそうだ。千尋もゴルフを習い始めたばかりだということなので、コースに出ると案外同じようなレベル同士、楽しめるかもしれない。
「……まあ、いつになるやらという話だが」
ぼそりと和彦が呟くと、何事かという顔で千尋が前に回り込んでくる。そんな千尋の頬を、やや手荒に撫でた。
「お前も、朝から動き回って疲れただろ。早く本宅に戻れ」
「全然。体力あり余ってるけど」
「……ぼくとお前の年齢差と体力差を考えろ」
千尋を押し退けて寝室に入る。
「ぼくはゆっくりと風呂に入ったら、昼寝する。疲れた」
「先生、冷たい……」
芝居がかったように恨みがましい声が背後から聞こえてきたかと思うと、いきなり抱きつかれた。驚いた和彦は声を上げ、体を捻ろうとする。
「千尋っ」
「――連休の間、ずっと先生に会えなかった俺に、そんなに冷たいこと言うわけ?」
突然耳元で低く囁かれ、和彦はドキリとする。千尋に対しての、後ろめたさの表れとも言えた。追い討ちをかけるように、拗ねた子供のような口調で千尋が続ける。
「連休の半分以上を総和会の別荘で、三田村と一緒に過ごして、帰ってきたらきたで、今度は組関係の仕事で拘束されてさ……。そういうときに限って、俺のほうは暇だったりするんだ。でも、けっこう気をつかったんだよ。先生に電話したいと思ったけど、邪魔しちゃ悪いから我慢したし」
「そういえば連休の間、やけに静かだと感じていたが、お前の声を聞いてなかったのか」
「ひでー。俺って、先生にとってその程度の存在?」
つい唇を緩めた和彦は、千尋の腕の中で身じろいで体の向きを変える。すかさず千尋が頬ずりをしてきたので、頭を撫でてやる。ここまで我慢していたものが、堪えきれなくなったのだろう。甘ったれの本領発揮とばかりに身をすり寄せてきて、その勢いに圧されて和彦の足元は乱れる。
「おい、逃げないから、少しは落ち着け――」
「無理。二人きりになって、興奮しまくり。……久しぶりの、先生の感触と匂いだ」
ゾクリとするような囁きを耳に注ぎ込まれ、反射的に頭を引いた和彦は予期するものがあって慌てて体を離し、後ずさる。千尋は一瞬、不思議そうな顔をしたが、すぐに意味ありげな笑みを浮かべ、一歩踏み出してくる。
さらに和彦は後ずさり、すぐに千尋が間を詰め――と繰り返していたが、とうとう部屋の端に追い詰められ、背に何かがぶつかる。入れ替えたばかりの窓ガラスだ。もともと頑丈なガラスを入れてはあったのだが、新しいガラスはさらに厚みを増し、和彦がぶつかったぐらいではびくともしない。
ささやかな駆け引きに満足した様子で千尋が悠然と顔を寄せてきたので、観念した和彦は口づけを受け入れる。
柔らかく唇を吸われ、唆されるように吸い返し、舌先を触れ合わせているうちに、少しずつ大胆になって舌を絡め、唾液を交わしてから、口腔に千尋の熱い舌を受け入れる。情熱に任せたやや強引な口づけだが、和彦はたっぷり甘やかして、差し込まれた舌を吸い、甘噛みしてやる。感じるのか、千尋がブルッと体を震わせた。
「――別荘にいる間、三田村と毎日セックスした?」
長く濃厚な口づけの合間に、乱れた息の下から千尋がそんな質問をしてくる。一方で、手は油断なく動き、和彦が着ているポロシャツをたくし上げていた。
「想像に任せる」
和彦がそう応じると、強い光を放つ両目に、間近からじっと見つめられる。大蛇が潜んでいると思わせる賢吾の目も怖いが、若くて細身でしなやかで、荒々しさよりも美しさを感じさせる獣のような千尋の目もまた、こういう状況では怖さを感じる。
「そういうこと言うと、俺すごい想像しちゃうよ? そして、ものすごく嫉妬して、興奮して、先生にいやらしいことをしたくてたまらなくなる」
「……若くして妙な性癖を持つと、厄介だぞ」
「ああ。普段ジムでやっている運動とは、まったく違う筋肉を使った気がする。初めてで緊張していたから、体のあちこちに無駄な力が入ってたんだろうな」
だから、昼間からゆっくりと風呂に浸かり、しっかりと体を解そうと考えたのだ。
ちなみに、日曜日の午前中から千尋に連れて行かれた先は、ゴルフスクールだ。
本気で和彦をゴルフコースに連れ出すつもりらしく、そのためにはまず基礎を、ということで、勝手に体験レッスンを申し込んでいたのだ。しかも、レッスンプロによるマンツーマンの指導が受けられるという特別コースを。ゴルフ道具一式も一通り揃えてもらったため、いまさら嫌だとも言えず、和彦はやむなく人生で初のゴルフを経験したというわけだ。
和彦が慣れないクラブの握り方に四苦八苦している頃、千尋は別のレッスンプロから指導を受けていたそうだ。千尋もゴルフを習い始めたばかりだということなので、コースに出ると案外同じようなレベル同士、楽しめるかもしれない。
「……まあ、いつになるやらという話だが」
ぼそりと和彦が呟くと、何事かという顔で千尋が前に回り込んでくる。そんな千尋の頬を、やや手荒に撫でた。
「お前も、朝から動き回って疲れただろ。早く本宅に戻れ」
「全然。体力あり余ってるけど」
「……ぼくとお前の年齢差と体力差を考えろ」
千尋を押し退けて寝室に入る。
「ぼくはゆっくりと風呂に入ったら、昼寝する。疲れた」
「先生、冷たい……」
芝居がかったように恨みがましい声が背後から聞こえてきたかと思うと、いきなり抱きつかれた。驚いた和彦は声を上げ、体を捻ろうとする。
「千尋っ」
「――連休の間、ずっと先生に会えなかった俺に、そんなに冷たいこと言うわけ?」
突然耳元で低く囁かれ、和彦はドキリとする。千尋に対しての、後ろめたさの表れとも言えた。追い討ちをかけるように、拗ねた子供のような口調で千尋が続ける。
「連休の半分以上を総和会の別荘で、三田村と一緒に過ごして、帰ってきたらきたで、今度は組関係の仕事で拘束されてさ……。そういうときに限って、俺のほうは暇だったりするんだ。でも、けっこう気をつかったんだよ。先生に電話したいと思ったけど、邪魔しちゃ悪いから我慢したし」
「そういえば連休の間、やけに静かだと感じていたが、お前の声を聞いてなかったのか」
「ひでー。俺って、先生にとってその程度の存在?」
つい唇を緩めた和彦は、千尋の腕の中で身じろいで体の向きを変える。すかさず千尋が頬ずりをしてきたので、頭を撫でてやる。ここまで我慢していたものが、堪えきれなくなったのだろう。甘ったれの本領発揮とばかりに身をすり寄せてきて、その勢いに圧されて和彦の足元は乱れる。
「おい、逃げないから、少しは落ち着け――」
「無理。二人きりになって、興奮しまくり。……久しぶりの、先生の感触と匂いだ」
ゾクリとするような囁きを耳に注ぎ込まれ、反射的に頭を引いた和彦は予期するものがあって慌てて体を離し、後ずさる。千尋は一瞬、不思議そうな顔をしたが、すぐに意味ありげな笑みを浮かべ、一歩踏み出してくる。
さらに和彦は後ずさり、すぐに千尋が間を詰め――と繰り返していたが、とうとう部屋の端に追い詰められ、背に何かがぶつかる。入れ替えたばかりの窓ガラスだ。もともと頑丈なガラスを入れてはあったのだが、新しいガラスはさらに厚みを増し、和彦がぶつかったぐらいではびくともしない。
ささやかな駆け引きに満足した様子で千尋が悠然と顔を寄せてきたので、観念した和彦は口づけを受け入れる。
柔らかく唇を吸われ、唆されるように吸い返し、舌先を触れ合わせているうちに、少しずつ大胆になって舌を絡め、唾液を交わしてから、口腔に千尋の熱い舌を受け入れる。情熱に任せたやや強引な口づけだが、和彦はたっぷり甘やかして、差し込まれた舌を吸い、甘噛みしてやる。感じるのか、千尋がブルッと体を震わせた。
「――別荘にいる間、三田村と毎日セックスした?」
長く濃厚な口づけの合間に、乱れた息の下から千尋がそんな質問をしてくる。一方で、手は油断なく動き、和彦が着ているポロシャツをたくし上げていた。
「想像に任せる」
和彦がそう応じると、強い光を放つ両目に、間近からじっと見つめられる。大蛇が潜んでいると思わせる賢吾の目も怖いが、若くて細身でしなやかで、荒々しさよりも美しさを感じさせる獣のような千尋の目もまた、こういう状況では怖さを感じる。
「そういうこと言うと、俺すごい想像しちゃうよ? そして、ものすごく嫉妬して、興奮して、先生にいやらしいことをしたくてたまらなくなる」
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