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第26話
(29)
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中嶋の手から逃れようとしたが、次の瞬間、もたれかかってきた体に押されてバランスを崩す。あっという間に和彦はその場でひっくり返り、獣のように素早い動きで覆い被さってきた中嶋が、〈女〉の顔をして言った。
「――ここで過ごす最後の夜なのに、三田村さんと寝てないんですね」
「あっ……、か、関係ないだろ、そんなこと……」
「でも先生、物欲しそうな顔していますよ」
「してないっ」
ムキになって言い返すと、不意打ちで中嶋に唇を塞がれた。妖しく蠢く舌先に唇をなぞられ、うろたえながら和彦は中嶋の肩を押し上げようとするが、どこかで危機感は乏しい。それは中嶋が、和彦に少しだけ近いものを持っている男だからだ。
他の男たちのように力強く圧倒してくることなく、触れ合うことを楽しむようにまとわりつき、いつの間にか互いに欲望を煽り、しっとりと絡み合う。それが和彦には新鮮で、興奮もしてしまう。おそらく、それは中嶋も同じなのだ。
「この四日間、先生と三田村さんの仲がいいところを、たっぷりと見せつけられましたからね。多少の意趣返しはさせてもらわないと――」
口づけの合間に、冗談とも本気ともつかないことを中嶋が呟く。油断ならない指は、パジャマの上着のボタンを外し始めていた。
これ以上続けると、さすがにマズイと思いながら和彦は、何げなく扉のほうを見る。そこに、人影が立っていた。
「三田村っ……」
声を上げ、反射的に体を起こそうとしたが、中嶋がしっかり覆い被さっているため、動けない。その中嶋は、驚いた素振りも見せずに三田村に話しかけた。
「三田村さん、そんなところに立ってないで、中に入ったらどうですか」
血相を変えて、中嶋を引き剥がしにかかるかと思った三田村だが、意外なことに、その中嶋の言葉に素直に従い、リビングに入って扉を閉めた。
「さすが三田村さんですね。こんなところを見ても、顔色一つ変えない。先生の幅広い人間関係に耐性がついているってことですか」
「それについては、俺の考えを先生は知っている」
そう言って三田村が、まっすぐ和彦を見つめてくる。耳元で蘇ったのは、さきほどベッドの中で三田村に囁かれた言葉だった。
『……俺にとって、先生は特別だ。どんな姿だろうが、しっかりと目に焼き付けておきたいぐらい、貴重なんだ』
誠実で優しい一方で、非常に情熱的でもある男は、上辺だけの言葉は口にしない。必要とあれば、態度で示してくれるだろう。たとえば、今――。
和彦と三田村の眼差しだけのやり取りに気づいたのか、中嶋が口元を緩め、こんな提案をした。
「三田村さんは、先生のいろんな姿を見ているからこその、その余裕なんでしょうね。だったら……、先生が〈男〉になっている姿を見たことありますか?」
中嶋が言わんとしていることを、即座に三田村は理解したようだ。わずかに目を見開いたものの、すぐに元の無表情に戻ると、三田村はハスキーな声をさらに掠れさせてこう言った。
「――……見たい。見せてくれ、先生」
予想外の三田村の反応に、咄嗟に言葉が出ない和彦は、意味なく唇を動かす。一方の中嶋は妖しい笑みを浮かべて、パジャマの上着のボタンをすべて外してしまった。次に自分のTシャツを脱ぎ捨てると、胸と胸を合わせてきた。ただ三田村の反応をうかがっていた和彦は、ここでようやく、中嶋を見上げる。
この状況で自分は、恥じらえばいいのか、怒ればいいのか、ただ戸惑って初心なふりをすればいいのかと思案するが、結論を出す前に中嶋の唇が重なってきた。
三田村の熱っぽい眼差しを意識しながら、中嶋と唇を啄ばみ合い、舌先を触れ合わせる。静かなリビングには二人の息遣いすらよく響き、そこに、大胆になっていく口づけの濡れた音が加わると、一気に淫靡さが増していた。
中嶋が、両足の間に腰を割り込ませてくる。さすがに和彦は慌てるが、余裕たっぷり表情で中嶋に言われてしまった。
「そういう顔をされると、俺が先生を抱きたくなるなー。別にそれでもかまいませんよ?」
「……初めてのとき、ぼくが手を握ってやったことも忘れて、ずいぶんでかい態度だな」
「三田村さんが側にいると、あんまり先生が可愛いので、ついからかいたくなるんです」
和彦はちらりと三田村を一瞥したあと、中嶋にしがみついて勢いよく体の位置を入れ替える。自分が上になることで、三田村が視界に入らなくなった。
真上から中嶋を見下ろしながら、引き締まった体にてのひらを丁寧に這わせる。最初はくすぐったそうに声を洩らして笑っていた中嶋だが、和彦の指がジーンズの前を寛げ始めると、途端に唇を引き結んだ。
「――ここで過ごす最後の夜なのに、三田村さんと寝てないんですね」
「あっ……、か、関係ないだろ、そんなこと……」
「でも先生、物欲しそうな顔していますよ」
「してないっ」
ムキになって言い返すと、不意打ちで中嶋に唇を塞がれた。妖しく蠢く舌先に唇をなぞられ、うろたえながら和彦は中嶋の肩を押し上げようとするが、どこかで危機感は乏しい。それは中嶋が、和彦に少しだけ近いものを持っている男だからだ。
他の男たちのように力強く圧倒してくることなく、触れ合うことを楽しむようにまとわりつき、いつの間にか互いに欲望を煽り、しっとりと絡み合う。それが和彦には新鮮で、興奮もしてしまう。おそらく、それは中嶋も同じなのだ。
「この四日間、先生と三田村さんの仲がいいところを、たっぷりと見せつけられましたからね。多少の意趣返しはさせてもらわないと――」
口づけの合間に、冗談とも本気ともつかないことを中嶋が呟く。油断ならない指は、パジャマの上着のボタンを外し始めていた。
これ以上続けると、さすがにマズイと思いながら和彦は、何げなく扉のほうを見る。そこに、人影が立っていた。
「三田村っ……」
声を上げ、反射的に体を起こそうとしたが、中嶋がしっかり覆い被さっているため、動けない。その中嶋は、驚いた素振りも見せずに三田村に話しかけた。
「三田村さん、そんなところに立ってないで、中に入ったらどうですか」
血相を変えて、中嶋を引き剥がしにかかるかと思った三田村だが、意外なことに、その中嶋の言葉に素直に従い、リビングに入って扉を閉めた。
「さすが三田村さんですね。こんなところを見ても、顔色一つ変えない。先生の幅広い人間関係に耐性がついているってことですか」
「それについては、俺の考えを先生は知っている」
そう言って三田村が、まっすぐ和彦を見つめてくる。耳元で蘇ったのは、さきほどベッドの中で三田村に囁かれた言葉だった。
『……俺にとって、先生は特別だ。どんな姿だろうが、しっかりと目に焼き付けておきたいぐらい、貴重なんだ』
誠実で優しい一方で、非常に情熱的でもある男は、上辺だけの言葉は口にしない。必要とあれば、態度で示してくれるだろう。たとえば、今――。
和彦と三田村の眼差しだけのやり取りに気づいたのか、中嶋が口元を緩め、こんな提案をした。
「三田村さんは、先生のいろんな姿を見ているからこその、その余裕なんでしょうね。だったら……、先生が〈男〉になっている姿を見たことありますか?」
中嶋が言わんとしていることを、即座に三田村は理解したようだ。わずかに目を見開いたものの、すぐに元の無表情に戻ると、三田村はハスキーな声をさらに掠れさせてこう言った。
「――……見たい。見せてくれ、先生」
予想外の三田村の反応に、咄嗟に言葉が出ない和彦は、意味なく唇を動かす。一方の中嶋は妖しい笑みを浮かべて、パジャマの上着のボタンをすべて外してしまった。次に自分のTシャツを脱ぎ捨てると、胸と胸を合わせてきた。ただ三田村の反応をうかがっていた和彦は、ここでようやく、中嶋を見上げる。
この状況で自分は、恥じらえばいいのか、怒ればいいのか、ただ戸惑って初心なふりをすればいいのかと思案するが、結論を出す前に中嶋の唇が重なってきた。
三田村の熱っぽい眼差しを意識しながら、中嶋と唇を啄ばみ合い、舌先を触れ合わせる。静かなリビングには二人の息遣いすらよく響き、そこに、大胆になっていく口づけの濡れた音が加わると、一気に淫靡さが増していた。
中嶋が、両足の間に腰を割り込ませてくる。さすがに和彦は慌てるが、余裕たっぷり表情で中嶋に言われてしまった。
「そういう顔をされると、俺が先生を抱きたくなるなー。別にそれでもかまいませんよ?」
「……初めてのとき、ぼくが手を握ってやったことも忘れて、ずいぶんでかい態度だな」
「三田村さんが側にいると、あんまり先生が可愛いので、ついからかいたくなるんです」
和彦はちらりと三田村を一瞥したあと、中嶋にしがみついて勢いよく体の位置を入れ替える。自分が上になることで、三田村が視界に入らなくなった。
真上から中嶋を見下ろしながら、引き締まった体にてのひらを丁寧に這わせる。最初はくすぐったそうに声を洩らして笑っていた中嶋だが、和彦の指がジーンズの前を寛げ始めると、途端に唇を引き結んだ。
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