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第25話
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せめて、賢吾にメールを送っておこうと思いはするものの、体がもう動かない。ふっと和彦の意識は遠のく。
普段であれば、このまま深い眠りについてしまうはずなのだが、意識の一部はひどく研ぎ澄まされている。慣れない場所で一人ということもあり、絶えず辺りの様子をうかがっているのだ。
総和会の男たちが同じ階に控えていて、何か起こるはずもないのに――。
自分が起きているのか眠っているのかわからない状態に陥り、浸っていると、前触れもなく異変は起こった。
マットの傍らに誰かが立っている気配を感じたのだ。
本能的な怯えから和彦は体を強張らせる。次にどんな行動を取るか、ほんの数瞬の間に考えて実行に移そうとしたが、その前に動けなくなった。顔全体にふわりと柔らかな感触が触れたからだ。それが薄い布の感触だとわかったとき、和彦の中で蘇ったのは、守光宅の客間での出来事だった。
驚きと戸惑いによって和彦が動けないのをいいことに、侵入者はいきなり大胆な行動に出る。マットの上に上がり、和彦の体にかかった毛布を剥ぎ取ったのだ。
急速に恐怖に支配され、顔にかかった布を外そうとしたが、すかさず片手で手首を掴まれてマットに押さえつけられる。大きくて力強い男の手だった。和彦の手首を折るぐらい簡単にできそうだ。言葉も発さない相手の意図を察し、和彦はささやかな抵抗すらできなくなる。
トレーナーの下に分厚く硬い手が入り込み、肌をまさぐられる。生理的な反応から鳥肌が立つが、相手は意に介さず、トレーナーをたくし上げて、無遠慮に撫で回してくる。手つきも、手の感触すらもまったく違うというのに、和彦の存在を探るかのように触れてきた守光のことが、頭から離れない。
手つきの荒々しさとは裏腹に、男は時間をかけて和彦の体に触れてきた。そして興味をひかれたように、胸の突起を特に念入りに弄り始める。
てのひらで捏ねるように転がされ、自分ではどうしようもできない反応として硬く凝ると、指の腹で押し潰され、再び反応を促すように乱暴に摘み上げられて、引っ張られる。痛みに小さく呻いた和彦は、ここでようやく、頑なに閉じたままだった目を開けた。
薄い布を通した電気の光に、一瞬目が眩む。だがすぐに、自分の上に馬乗りになっている相手の姿の輪郭を捉える。大柄な体つきをしていた。
凶悪な笑みを浮かべる男の顔がはっきりと、頭に浮かぶ。
嫌悪と恐怖が体を駆け抜け、和彦はたまらずもう一度、顔にかけられた布を取ろうとした。すると、布の上から両目を手で覆われた。和彦は身をすくめ、相手の行動を探る。
手荒く口元をまさぐられたかと思うと、熱い感触が唇に触れる。そして、塞がれた。呼吸を止められると、本能的に危機感を覚えた和彦は、闇雲に手を振り上げて侵入者を押しのけようとするが、相手はビクともしない。それどころか、和彦の抵抗すら楽しんでいるように、体重をかけて威圧してくる。
「うっ……」
熱く濡れた感触が、布を通して唇に這わされる。それが舌だとわかり、和彦は懸命に首を横に振ろうとしたが、再び片手が胸元に這わされ、凝ったままの突起を乱暴に摘まれた。息苦しさに喘ぐと、耳元に移動した唇に耳朶を噛まれる。――つい先日、車中でされたように。
侵入者は名乗ることなく、己の存在を和彦に知らせてくる。そうすることが和彦にとっては効果的だと知っているのだ。
両目を覆っていた手がゆっくりと退けられたが、和彦はもう、布を外そうとはしなかった。自分の上に馬乗りになっているのが誰であるか、目の当たりにするのが怖かったからだ。何より、暴力を振るわれ、痛い思いをするのが。
和彦が体を強張らせたままなのをいいことに、侵入者はふてぶてしく振る舞う。分厚い手で体を撫で回し、それどころかスウェットパンツと下着まで脱がせてしまう。羞恥よりも屈辱が上回り、和彦はぐっと歯を食い縛る。侵入者は、ためらうことなく下肢にまで手を這わせてきた。
「いっ――」
嫌だ、と言いかけたが、怯えている欲望を無遠慮に掴まれ、言葉は喉に張り付く。
弄ぶように、欲望を扱かれる。湧き起こるのは、違和感と不快さだった。和彦はわずかに顔を背け、無抵抗と同時に、無反応でいることを態度で示す。飽きれば、侵入者はすぐに体の上から退くと思いたかった――信じたかったのだ。
しかし、それは甘かった。そもそも和彦の周囲にいる男は、和彦を甘やかしはしても、甘い男は一人もいない。
「ううっ」
胸元に濡れた感触が押し当てられ、蠢く。舌で舐められているとわかり、嫌悪感から震えが起こる。
普段であれば、このまま深い眠りについてしまうはずなのだが、意識の一部はひどく研ぎ澄まされている。慣れない場所で一人ということもあり、絶えず辺りの様子をうかがっているのだ。
総和会の男たちが同じ階に控えていて、何か起こるはずもないのに――。
自分が起きているのか眠っているのかわからない状態に陥り、浸っていると、前触れもなく異変は起こった。
マットの傍らに誰かが立っている気配を感じたのだ。
本能的な怯えから和彦は体を強張らせる。次にどんな行動を取るか、ほんの数瞬の間に考えて実行に移そうとしたが、その前に動けなくなった。顔全体にふわりと柔らかな感触が触れたからだ。それが薄い布の感触だとわかったとき、和彦の中で蘇ったのは、守光宅の客間での出来事だった。
驚きと戸惑いによって和彦が動けないのをいいことに、侵入者はいきなり大胆な行動に出る。マットの上に上がり、和彦の体にかかった毛布を剥ぎ取ったのだ。
急速に恐怖に支配され、顔にかかった布を外そうとしたが、すかさず片手で手首を掴まれてマットに押さえつけられる。大きくて力強い男の手だった。和彦の手首を折るぐらい簡単にできそうだ。言葉も発さない相手の意図を察し、和彦はささやかな抵抗すらできなくなる。
トレーナーの下に分厚く硬い手が入り込み、肌をまさぐられる。生理的な反応から鳥肌が立つが、相手は意に介さず、トレーナーをたくし上げて、無遠慮に撫で回してくる。手つきも、手の感触すらもまったく違うというのに、和彦の存在を探るかのように触れてきた守光のことが、頭から離れない。
手つきの荒々しさとは裏腹に、男は時間をかけて和彦の体に触れてきた。そして興味をひかれたように、胸の突起を特に念入りに弄り始める。
てのひらで捏ねるように転がされ、自分ではどうしようもできない反応として硬く凝ると、指の腹で押し潰され、再び反応を促すように乱暴に摘み上げられて、引っ張られる。痛みに小さく呻いた和彦は、ここでようやく、頑なに閉じたままだった目を開けた。
薄い布を通した電気の光に、一瞬目が眩む。だがすぐに、自分の上に馬乗りになっている相手の姿の輪郭を捉える。大柄な体つきをしていた。
凶悪な笑みを浮かべる男の顔がはっきりと、頭に浮かぶ。
嫌悪と恐怖が体を駆け抜け、和彦はたまらずもう一度、顔にかけられた布を取ろうとした。すると、布の上から両目を手で覆われた。和彦は身をすくめ、相手の行動を探る。
手荒く口元をまさぐられたかと思うと、熱い感触が唇に触れる。そして、塞がれた。呼吸を止められると、本能的に危機感を覚えた和彦は、闇雲に手を振り上げて侵入者を押しのけようとするが、相手はビクともしない。それどころか、和彦の抵抗すら楽しんでいるように、体重をかけて威圧してくる。
「うっ……」
熱く濡れた感触が、布を通して唇に這わされる。それが舌だとわかり、和彦は懸命に首を横に振ろうとしたが、再び片手が胸元に這わされ、凝ったままの突起を乱暴に摘まれた。息苦しさに喘ぐと、耳元に移動した唇に耳朶を噛まれる。――つい先日、車中でされたように。
侵入者は名乗ることなく、己の存在を和彦に知らせてくる。そうすることが和彦にとっては効果的だと知っているのだ。
両目を覆っていた手がゆっくりと退けられたが、和彦はもう、布を外そうとはしなかった。自分の上に馬乗りになっているのが誰であるか、目の当たりにするのが怖かったからだ。何より、暴力を振るわれ、痛い思いをするのが。
和彦が体を強張らせたままなのをいいことに、侵入者はふてぶてしく振る舞う。分厚い手で体を撫で回し、それどころかスウェットパンツと下着まで脱がせてしまう。羞恥よりも屈辱が上回り、和彦はぐっと歯を食い縛る。侵入者は、ためらうことなく下肢にまで手を這わせてきた。
「いっ――」
嫌だ、と言いかけたが、怯えている欲望を無遠慮に掴まれ、言葉は喉に張り付く。
弄ぶように、欲望を扱かれる。湧き起こるのは、違和感と不快さだった。和彦はわずかに顔を背け、無抵抗と同時に、無反応でいることを態度で示す。飽きれば、侵入者はすぐに体の上から退くと思いたかった――信じたかったのだ。
しかし、それは甘かった。そもそも和彦の周囲にいる男は、和彦を甘やかしはしても、甘い男は一人もいない。
「ううっ」
胸元に濡れた感触が押し当てられ、蠢く。舌で舐められているとわかり、嫌悪感から震えが起こる。
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