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第25話
(13)
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そんな和彦の気持ちを知ってか知らずか、千尋は大きなあくびをしたあと、にんまりと笑いかけてきて、布団の上を軽く叩いた。ここに座れと言いたいらしい。
髪を拭いていたタオルを手に、和彦は渋々従う。すかさず千尋が肩を抱いてきた。
「先生、また一緒に寝よう。じいちゃんに知られたって、別にいいじゃん。俺だって、先生のことで主張できる権利がある」
「何を主張する権利だ」
「わかってるのに、聞くんだ」
さきほどの寝ぼけていた姿は演技だったのか、すでに千尋の両目は生気を漲らせ、強い光を湛えている。
和彦はまじまじと千尋の顔を覗き込み、頬を撫でてやる。おそらく千尋に犬の尻尾が生えていたら、今この瞬間、ブンブンと振っていることだろう。そんな想像をしてしまうぐらい、嬉しそうな表情を浮かべたのだ。
「――お前と一緒にいるときは、ぼくは、お前のオンナだ」
「悪いオンナの台詞だよなー、それ。オヤジやじいちゃんと一緒にいるときも、同じことを言うんだろ。言う相手が違うだけで」
「ぼくにそれを求めたのは、物騒で怖い、長嶺の男たちだ」
「だって俺たち、先生に骨抜きだからね」
千尋に優しく唇を啄ばまれ、すぐに舌先を触れ合わせて、相手をまさぐる。朝から交わすには露骨でいやらしい口づけへと変化するのは、あっという間だった。
執着心をぶつけてくるように、千尋の舌に荒々しく口腔をまさぐられる。和彦は、そんな千尋を受け入れ、応じていた。
ようやく唇が離されると、千尋は少し困惑したように洩らした。
「この部屋、なんか変な感じがする。ここで先生がじいちゃんに初めて……とか思うと、嫉妬より先に、すげー興奮するんだ。じいちゃんと張り合いたい気分になるっていうか」
「……前々から感じていたが、妙な性癖を持ってるだろ、お前」
とにかく自分の部屋に戻れと言いながら、和彦は千尋の体を布団から押し出そうとする。しかし千尋はごろりと横になり、あっという間に布団に包まってしまう。
「こらっ、千尋――」
「俺、先生に怒られるの好き」
もっとかまってくれと言わんばかりに千尋がじっと見上げてくるので、くしゃくしゃと髪を掻き乱してやる。嬉しそうに首をすくめる千尋を見下ろし、口元を緩めた和彦だが、自分自身を戒めることは忘れない。
甘ったれで子供っぽく見えるが、千尋の本質は猛々しい獣だ。必要とあればいつだって牙を剥く。〈オンナ〉である和彦だから、こうして無防備に触れられるのだ。
「やっぱり、長嶺の男は怖い……」
ぽつりと本音を洩らしたが、千尋の耳には届かなかったようだ。和彦が髪や頬を撫でていると、心地よさそうに吐息を洩らし、とうとう目を閉じてしまう。
軽く千尋の頬を抓り、眠ってしまったことを確かめた和彦は、そっと立ち上がる。千尋が眠っている場所で身支度を整えるのも気が引けるため、着替えを持って移動することにした。
千尋が使っていた部屋に行こうと、ダイニングの前を通りかかる。すると、電気がついていた。覗いてみると、老眼鏡をかけた守光がテーブルにつき、新聞を開いている。
こちらから声をかける前に、ふっと守光が顔を上げた。目が合ったときにはすでに、和彦は守光の放つ独特の空気に呑まれていた。立ち尽くしたまま、頭の中が真っ白になってしまう。
「――おはよう、先生」
守光のほうから声をかけられ、ようやく我に返る。慌てて頭を下げた和彦は挨拶を返した。そしてすぐに、あることが気になった。
「あの……、さきほどシャワーを使わせてもらったのですが、もしかして、うるさかったですか?」
「わしはいつも、この時間には起きているから、気にしなくていい。何より、あんたにはここで寛いでもらいたいんだ。自分が過ごしたいように過ごせばいい。〈身内〉が一つ屋根の下で何をしようが、いちいち気にかけたりはせんだろう」
相手が守光でなければ、素直にありがたいと受け止められる言葉だ。しかし和彦は、夜の間の自分の痴態がどうしても蘇り、羞恥心を刺激される。
守光はすべて知ったうえで、あえてこんなことを言うのだろうか――。
頭に浮かんだ疑問は、そのまま表情になって表れたらしい。守光は柔らかな笑みを口元に浮かべて老眼鏡を外すと、ゆっくりと立ち上がった。手招きされ、操られるように和彦はふらふらと歩み寄る。着替えは取り上げられ、イスの背もたれに掛けられた。
守光の手が首筋に這わされてから、浴衣の襟元を広げられた。胸元が露わになり、当然の権利のように守光が検分する。
「千尋がさんざん甘えたようだ、この様子だと」
熱を帯びて疼いている胸の突起を指先でくすぐられ、和彦はぐっと奥歯を噛み締める。情欲は、千尋にすべて奪い取られたと思っていたが、守光に触れられた部分から、ゾクゾクするような疼きが生まれてくる。
守光の片腕に腰を抱き寄せられ、首筋に唇が這わされる。唇はゆっくりと下りていき、甘い眩暈に襲われた和彦は咄嗟に目を閉じていた。首筋を愛撫される一方で胸の突起を弄られ続け、見る間に硬く凝っていくのがわかった。そして、守光の舌先に捉えられる。
千尋の荒々しさとは打って変わって、守光はじっくりと胸の突起を舌先で舐り、優しく吸い上げてくる。足元がふらついた和彦はテーブルに片手を突き、必死に体を支える。
「うっ、あぁ――……」
たまらず喘ぎをこぼすと、ふいに胸元への愛撫がとまる。和彦がゆっくりと目を開けると、眼前に守光の顔があり、自然な流れで唇を重ねていた。
千尋と濃厚な口づけを交わした直後に、その千尋の祖父である守光にこうして求められるのは、背徳心が芽生えるどころか、どこか儀式めいた厳かさがある。祖父と孫という血の繋がりのせいだろう。
血の繋がりといえば、賢吾と千尋の二人と体を重ねることがある。狂おしいほどの情欲に身を任せ、浅ましい獣となって父子と貪り合うのだ。そして今は、千尋の感触が残る体――粘膜で、守光を感じている。
「千尋が、わし相手に張り合おうという気概を持てたのは、あんたのおかげだな」
口づけの合間に、どこか楽しげな口調で守光が洩らす。純粋に、孫の成長を喜んでいるようでもあり、だからこそ和彦は、守光を畏怖していた。
守光はどこまでを計算して、行動しているのだろうかと考えて。
髪を拭いていたタオルを手に、和彦は渋々従う。すかさず千尋が肩を抱いてきた。
「先生、また一緒に寝よう。じいちゃんに知られたって、別にいいじゃん。俺だって、先生のことで主張できる権利がある」
「何を主張する権利だ」
「わかってるのに、聞くんだ」
さきほどの寝ぼけていた姿は演技だったのか、すでに千尋の両目は生気を漲らせ、強い光を湛えている。
和彦はまじまじと千尋の顔を覗き込み、頬を撫でてやる。おそらく千尋に犬の尻尾が生えていたら、今この瞬間、ブンブンと振っていることだろう。そんな想像をしてしまうぐらい、嬉しそうな表情を浮かべたのだ。
「――お前と一緒にいるときは、ぼくは、お前のオンナだ」
「悪いオンナの台詞だよなー、それ。オヤジやじいちゃんと一緒にいるときも、同じことを言うんだろ。言う相手が違うだけで」
「ぼくにそれを求めたのは、物騒で怖い、長嶺の男たちだ」
「だって俺たち、先生に骨抜きだからね」
千尋に優しく唇を啄ばまれ、すぐに舌先を触れ合わせて、相手をまさぐる。朝から交わすには露骨でいやらしい口づけへと変化するのは、あっという間だった。
執着心をぶつけてくるように、千尋の舌に荒々しく口腔をまさぐられる。和彦は、そんな千尋を受け入れ、応じていた。
ようやく唇が離されると、千尋は少し困惑したように洩らした。
「この部屋、なんか変な感じがする。ここで先生がじいちゃんに初めて……とか思うと、嫉妬より先に、すげー興奮するんだ。じいちゃんと張り合いたい気分になるっていうか」
「……前々から感じていたが、妙な性癖を持ってるだろ、お前」
とにかく自分の部屋に戻れと言いながら、和彦は千尋の体を布団から押し出そうとする。しかし千尋はごろりと横になり、あっという間に布団に包まってしまう。
「こらっ、千尋――」
「俺、先生に怒られるの好き」
もっとかまってくれと言わんばかりに千尋がじっと見上げてくるので、くしゃくしゃと髪を掻き乱してやる。嬉しそうに首をすくめる千尋を見下ろし、口元を緩めた和彦だが、自分自身を戒めることは忘れない。
甘ったれで子供っぽく見えるが、千尋の本質は猛々しい獣だ。必要とあればいつだって牙を剥く。〈オンナ〉である和彦だから、こうして無防備に触れられるのだ。
「やっぱり、長嶺の男は怖い……」
ぽつりと本音を洩らしたが、千尋の耳には届かなかったようだ。和彦が髪や頬を撫でていると、心地よさそうに吐息を洩らし、とうとう目を閉じてしまう。
軽く千尋の頬を抓り、眠ってしまったことを確かめた和彦は、そっと立ち上がる。千尋が眠っている場所で身支度を整えるのも気が引けるため、着替えを持って移動することにした。
千尋が使っていた部屋に行こうと、ダイニングの前を通りかかる。すると、電気がついていた。覗いてみると、老眼鏡をかけた守光がテーブルにつき、新聞を開いている。
こちらから声をかける前に、ふっと守光が顔を上げた。目が合ったときにはすでに、和彦は守光の放つ独特の空気に呑まれていた。立ち尽くしたまま、頭の中が真っ白になってしまう。
「――おはよう、先生」
守光のほうから声をかけられ、ようやく我に返る。慌てて頭を下げた和彦は挨拶を返した。そしてすぐに、あることが気になった。
「あの……、さきほどシャワーを使わせてもらったのですが、もしかして、うるさかったですか?」
「わしはいつも、この時間には起きているから、気にしなくていい。何より、あんたにはここで寛いでもらいたいんだ。自分が過ごしたいように過ごせばいい。〈身内〉が一つ屋根の下で何をしようが、いちいち気にかけたりはせんだろう」
相手が守光でなければ、素直にありがたいと受け止められる言葉だ。しかし和彦は、夜の間の自分の痴態がどうしても蘇り、羞恥心を刺激される。
守光はすべて知ったうえで、あえてこんなことを言うのだろうか――。
頭に浮かんだ疑問は、そのまま表情になって表れたらしい。守光は柔らかな笑みを口元に浮かべて老眼鏡を外すと、ゆっくりと立ち上がった。手招きされ、操られるように和彦はふらふらと歩み寄る。着替えは取り上げられ、イスの背もたれに掛けられた。
守光の手が首筋に這わされてから、浴衣の襟元を広げられた。胸元が露わになり、当然の権利のように守光が検分する。
「千尋がさんざん甘えたようだ、この様子だと」
熱を帯びて疼いている胸の突起を指先でくすぐられ、和彦はぐっと奥歯を噛み締める。情欲は、千尋にすべて奪い取られたと思っていたが、守光に触れられた部分から、ゾクゾクするような疼きが生まれてくる。
守光の片腕に腰を抱き寄せられ、首筋に唇が這わされる。唇はゆっくりと下りていき、甘い眩暈に襲われた和彦は咄嗟に目を閉じていた。首筋を愛撫される一方で胸の突起を弄られ続け、見る間に硬く凝っていくのがわかった。そして、守光の舌先に捉えられる。
千尋の荒々しさとは打って変わって、守光はじっくりと胸の突起を舌先で舐り、優しく吸い上げてくる。足元がふらついた和彦はテーブルに片手を突き、必死に体を支える。
「うっ、あぁ――……」
たまらず喘ぎをこぼすと、ふいに胸元への愛撫がとまる。和彦がゆっくりと目を開けると、眼前に守光の顔があり、自然な流れで唇を重ねていた。
千尋と濃厚な口づけを交わした直後に、その千尋の祖父である守光にこうして求められるのは、背徳心が芽生えるどころか、どこか儀式めいた厳かさがある。祖父と孫という血の繋がりのせいだろう。
血の繋がりといえば、賢吾と千尋の二人と体を重ねることがある。狂おしいほどの情欲に身を任せ、浅ましい獣となって父子と貪り合うのだ。そして今は、千尋の感触が残る体――粘膜で、守光を感じている。
「千尋が、わし相手に張り合おうという気概を持てたのは、あんたのおかげだな」
口づけの合間に、どこか楽しげな口調で守光が洩らす。純粋に、孫の成長を喜んでいるようでもあり、だからこそ和彦は、守光を畏怖していた。
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