血と束縛と

北川とも

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第24話

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 ここまで考えたところで和彦は、これは自惚れだと自戒する。急に恥ずかしくなった。
「――窓から落ちるなよ、先生」
 背後からおもしろがるような声をかけられ、慌てて体勢を戻す。振り返ると、浴衣姿の賢吾が立っていた。和彦より先に風呂に入ったあと、一階のロビー――とも言えない、狭い玄関横の応接セットに組員たちと陣取り、わずかなつまみとビールで酒宴を催していたのだが、もうお開きになったらしい。
 敷かれている二組の布団を見下ろした賢吾は、すぐに片方の布団を移動させ、ぴったりとくっつけてしまう。どういう意図からかは明白で、なんだか見てはいけないものを見た気になった和彦は、さりげなく視線を逸らし、再び外の桜を見下ろす。
「今日は、俺のわがままにつき合わせたな」
 賢吾の言葉に、和彦はちらりと笑みをこぼす。
「もう慣れた。それに、いまさらだ」
「先生はなんだかんだと言いながら、どんなわがままでも受け止めてくれるから、つい甘えちまうんだ。多分――他の男たちもな」
 わずかに体を強張らせると、すぐ背後に賢吾が立った気配を感じる。首筋に冷たい唇を押し当てられ、強烈な疼きが背筋を駆け抜けた。
 片腕で和彦を抱き締めながら、賢吾が窓を閉める。体の向きを変えられ、今日初めて賢吾と唇を重ねた。じっくりと丹念に唇を吸われながら、和彦はじっと賢吾の目を見つめる。大蛇の潜む目に、はっきりと情欲の熱っぽさを見て取り、心の中で安堵する。今の賢吾は、和彦の反応を試しているのではなく、本当に和彦を欲しているのだ。
「今、カチコミをかけられたら、俺はあっさりと殺られるだろうな。護衛はたった二人、簡単に蹴破れる古い旅館の玄関に、三階のこの部屋まで階段で一直線。先生と知り合う前までの俺なら、こんな危なっかしいところで泊まったりはしない」
「……ぼくの、せいだと言いたいのか……」
 ニヤリと笑った賢吾に、軽く唇を吸われる。
「違う。大事で可愛いオンナを喜ばせるために、俺は命を賭けているということだ」
「ものは言いようだ」
「ヤクザは恩着せがましいぞ。お前のためにここまでしたやった。だからお前も、俺のために尽くせ、と脅すんだ」
 次の瞬間には、和彦は布団の上に突き飛ばされ、賢吾が覆い被さってくる。体全体で賢吾の重みと熱さを感じ、目も眩むような高揚感に襲われる。すかさず浴衣と下着を剥ぎ取られたが、羞恥に身じろぐ間もなかった。
 両足を抱えられて大きく左右に広げられると、賢吾が顔を埋めてくる。いきなり口腔に欲望を含まれ、呻き声を洩らした和彦は身をしならせ、強い刺激から逃れようとしたが、無駄な足掻きでしかなかった。口腔で締め付けるように吸引され、先端にヌルヌルと舌が這わされると、まるで大蛇の毒が回ったように体が動かなくなる。ただ、空しく腰を震わせるだけだ。
「うっ、うっ……、もっと、優しくしてくれ……」
 賢吾の頭に手をかけて和彦は哀願するが、聞き入れるつもりはないらしい。賢吾の片手が柔らかな膨らみにかかり、手荒く揉みしだかれながら、弱みを指で弄られる。和彦は上擦った声を上げながら責め苦に近い愛撫に耐えていたが、欲望を舌で舐め上げられ、先端に唇を押し当てられる頃になると、自分の反応が変化していくのがわかった。
「んうっ……、はっ、あぁ――。あっ、あっ、い、ぃ」
 先端から滲み出る透明なしずくを唇で吸い取られながら、柔らかな膨らみをきつく揉まれる。そのたびに痺れるような快感が生まれ、はしたなく腰を揺らしていた。
 柔らかな膨らみすらたっぷり舐ったあと、内奥の入り口にまで舌が這わされる。蠢く熱い舌が中に入り込み、指まで挿入されてくる。内奥の襞と粘膜に唾液を擦り込むように指が出し入れされ、発情した肉を解すように掻き回される。
 さほど時間をかけられるまでもなく、布団の上で和彦は蕩けていた。息を喘がせ、汗ばんだ肌を紅潮させ、慎みを失った内奥をひくつかせる。全身で、賢吾を求めていた。顔を上げた賢吾は、そんな和彦を見下ろして、唇を緩めた。
「――先生は本当に、惚れ惚れするほどいいオンナだ。見た目は清廉で優しげな色男だが、中身は淫奔でしたたかでふてぶてしくて、怖い男たちを骨抜きにする性質の悪さだ。そんな先生が桜の下にいると、びっくりするぐらい様になる。春の陽射しも、桜の可憐さにも、ピクリとも心を揺らさない冷たい人間に見えたかと思うと、まるで子供みたいに無防備で無邪気にも見える」
 話しながら賢吾は、浴衣の懐からハンカチを取り出した。さきほど桜の花びらを包んだものだ。確か、部屋の隅に移動させた座卓の上に置いてあったはずだが、部屋に戻ってきた賢吾がいつの間にか忍ばせたらしい。

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