542 / 1,268
第24話
(24)
しおりを挟む
ここまで考えたところで和彦は、これは自惚れだと自戒する。急に恥ずかしくなった。
「――窓から落ちるなよ、先生」
背後からおもしろがるような声をかけられ、慌てて体勢を戻す。振り返ると、浴衣姿の賢吾が立っていた。和彦より先に風呂に入ったあと、一階のロビー――とも言えない、狭い玄関横の応接セットに組員たちと陣取り、わずかなつまみとビールで酒宴を催していたのだが、もうお開きになったらしい。
敷かれている二組の布団を見下ろした賢吾は、すぐに片方の布団を移動させ、ぴったりとくっつけてしまう。どういう意図からかは明白で、なんだか見てはいけないものを見た気になった和彦は、さりげなく視線を逸らし、再び外の桜を見下ろす。
「今日は、俺のわがままにつき合わせたな」
賢吾の言葉に、和彦はちらりと笑みをこぼす。
「もう慣れた。それに、いまさらだ」
「先生はなんだかんだと言いながら、どんなわがままでも受け止めてくれるから、つい甘えちまうんだ。多分――他の男たちもな」
わずかに体を強張らせると、すぐ背後に賢吾が立った気配を感じる。首筋に冷たい唇を押し当てられ、強烈な疼きが背筋を駆け抜けた。
片腕で和彦を抱き締めながら、賢吾が窓を閉める。体の向きを変えられ、今日初めて賢吾と唇を重ねた。じっくりと丹念に唇を吸われながら、和彦はじっと賢吾の目を見つめる。大蛇の潜む目に、はっきりと情欲の熱っぽさを見て取り、心の中で安堵する。今の賢吾は、和彦の反応を試しているのではなく、本当に和彦を欲しているのだ。
「今、カチコミをかけられたら、俺はあっさりと殺られるだろうな。護衛はたった二人、簡単に蹴破れる古い旅館の玄関に、三階のこの部屋まで階段で一直線。先生と知り合う前までの俺なら、こんな危なっかしいところで泊まったりはしない」
「……ぼくの、せいだと言いたいのか……」
ニヤリと笑った賢吾に、軽く唇を吸われる。
「違う。大事で可愛いオンナを喜ばせるために、俺は命を賭けているということだ」
「ものは言いようだ」
「ヤクザは恩着せがましいぞ。お前のためにここまでしたやった。だからお前も、俺のために尽くせ、と脅すんだ」
次の瞬間には、和彦は布団の上に突き飛ばされ、賢吾が覆い被さってくる。体全体で賢吾の重みと熱さを感じ、目も眩むような高揚感に襲われる。すかさず浴衣と下着を剥ぎ取られたが、羞恥に身じろぐ間もなかった。
両足を抱えられて大きく左右に広げられると、賢吾が顔を埋めてくる。いきなり口腔に欲望を含まれ、呻き声を洩らした和彦は身をしならせ、強い刺激から逃れようとしたが、無駄な足掻きでしかなかった。口腔で締め付けるように吸引され、先端にヌルヌルと舌が這わされると、まるで大蛇の毒が回ったように体が動かなくなる。ただ、空しく腰を震わせるだけだ。
「うっ、うっ……、もっと、優しくしてくれ……」
賢吾の頭に手をかけて和彦は哀願するが、聞き入れるつもりはないらしい。賢吾の片手が柔らかな膨らみにかかり、手荒く揉みしだかれながら、弱みを指で弄られる。和彦は上擦った声を上げながら責め苦に近い愛撫に耐えていたが、欲望を舌で舐め上げられ、先端に唇を押し当てられる頃になると、自分の反応が変化していくのがわかった。
「んうっ……、はっ、あぁ――。あっ、あっ、い、ぃ」
先端から滲み出る透明なしずくを唇で吸い取られながら、柔らかな膨らみをきつく揉まれる。そのたびに痺れるような快感が生まれ、はしたなく腰を揺らしていた。
柔らかな膨らみすらたっぷり舐ったあと、内奥の入り口にまで舌が這わされる。蠢く熱い舌が中に入り込み、指まで挿入されてくる。内奥の襞と粘膜に唾液を擦り込むように指が出し入れされ、発情した肉を解すように掻き回される。
さほど時間をかけられるまでもなく、布団の上で和彦は蕩けていた。息を喘がせ、汗ばんだ肌を紅潮させ、慎みを失った内奥をひくつかせる。全身で、賢吾を求めていた。顔を上げた賢吾は、そんな和彦を見下ろして、唇を緩めた。
「――先生は本当に、惚れ惚れするほどいいオンナだ。見た目は清廉で優しげな色男だが、中身は淫奔でしたたかでふてぶてしくて、怖い男たちを骨抜きにする性質の悪さだ。そんな先生が桜の下にいると、びっくりするぐらい様になる。春の陽射しも、桜の可憐さにも、ピクリとも心を揺らさない冷たい人間に見えたかと思うと、まるで子供みたいに無防備で無邪気にも見える」
話しながら賢吾は、浴衣の懐からハンカチを取り出した。さきほど桜の花びらを包んだものだ。確か、部屋の隅に移動させた座卓の上に置いてあったはずだが、部屋に戻ってきた賢吾がいつの間にか忍ばせたらしい。
「――窓から落ちるなよ、先生」
背後からおもしろがるような声をかけられ、慌てて体勢を戻す。振り返ると、浴衣姿の賢吾が立っていた。和彦より先に風呂に入ったあと、一階のロビー――とも言えない、狭い玄関横の応接セットに組員たちと陣取り、わずかなつまみとビールで酒宴を催していたのだが、もうお開きになったらしい。
敷かれている二組の布団を見下ろした賢吾は、すぐに片方の布団を移動させ、ぴったりとくっつけてしまう。どういう意図からかは明白で、なんだか見てはいけないものを見た気になった和彦は、さりげなく視線を逸らし、再び外の桜を見下ろす。
「今日は、俺のわがままにつき合わせたな」
賢吾の言葉に、和彦はちらりと笑みをこぼす。
「もう慣れた。それに、いまさらだ」
「先生はなんだかんだと言いながら、どんなわがままでも受け止めてくれるから、つい甘えちまうんだ。多分――他の男たちもな」
わずかに体を強張らせると、すぐ背後に賢吾が立った気配を感じる。首筋に冷たい唇を押し当てられ、強烈な疼きが背筋を駆け抜けた。
片腕で和彦を抱き締めながら、賢吾が窓を閉める。体の向きを変えられ、今日初めて賢吾と唇を重ねた。じっくりと丹念に唇を吸われながら、和彦はじっと賢吾の目を見つめる。大蛇の潜む目に、はっきりと情欲の熱っぽさを見て取り、心の中で安堵する。今の賢吾は、和彦の反応を試しているのではなく、本当に和彦を欲しているのだ。
「今、カチコミをかけられたら、俺はあっさりと殺られるだろうな。護衛はたった二人、簡単に蹴破れる古い旅館の玄関に、三階のこの部屋まで階段で一直線。先生と知り合う前までの俺なら、こんな危なっかしいところで泊まったりはしない」
「……ぼくの、せいだと言いたいのか……」
ニヤリと笑った賢吾に、軽く唇を吸われる。
「違う。大事で可愛いオンナを喜ばせるために、俺は命を賭けているということだ」
「ものは言いようだ」
「ヤクザは恩着せがましいぞ。お前のためにここまでしたやった。だからお前も、俺のために尽くせ、と脅すんだ」
次の瞬間には、和彦は布団の上に突き飛ばされ、賢吾が覆い被さってくる。体全体で賢吾の重みと熱さを感じ、目も眩むような高揚感に襲われる。すかさず浴衣と下着を剥ぎ取られたが、羞恥に身じろぐ間もなかった。
両足を抱えられて大きく左右に広げられると、賢吾が顔を埋めてくる。いきなり口腔に欲望を含まれ、呻き声を洩らした和彦は身をしならせ、強い刺激から逃れようとしたが、無駄な足掻きでしかなかった。口腔で締め付けるように吸引され、先端にヌルヌルと舌が這わされると、まるで大蛇の毒が回ったように体が動かなくなる。ただ、空しく腰を震わせるだけだ。
「うっ、うっ……、もっと、優しくしてくれ……」
賢吾の頭に手をかけて和彦は哀願するが、聞き入れるつもりはないらしい。賢吾の片手が柔らかな膨らみにかかり、手荒く揉みしだかれながら、弱みを指で弄られる。和彦は上擦った声を上げながら責め苦に近い愛撫に耐えていたが、欲望を舌で舐め上げられ、先端に唇を押し当てられる頃になると、自分の反応が変化していくのがわかった。
「んうっ……、はっ、あぁ――。あっ、あっ、い、ぃ」
先端から滲み出る透明なしずくを唇で吸い取られながら、柔らかな膨らみをきつく揉まれる。そのたびに痺れるような快感が生まれ、はしたなく腰を揺らしていた。
柔らかな膨らみすらたっぷり舐ったあと、内奥の入り口にまで舌が這わされる。蠢く熱い舌が中に入り込み、指まで挿入されてくる。内奥の襞と粘膜に唾液を擦り込むように指が出し入れされ、発情した肉を解すように掻き回される。
さほど時間をかけられるまでもなく、布団の上で和彦は蕩けていた。息を喘がせ、汗ばんだ肌を紅潮させ、慎みを失った内奥をひくつかせる。全身で、賢吾を求めていた。顔を上げた賢吾は、そんな和彦を見下ろして、唇を緩めた。
「――先生は本当に、惚れ惚れするほどいいオンナだ。見た目は清廉で優しげな色男だが、中身は淫奔でしたたかでふてぶてしくて、怖い男たちを骨抜きにする性質の悪さだ。そんな先生が桜の下にいると、びっくりするぐらい様になる。春の陽射しも、桜の可憐さにも、ピクリとも心を揺らさない冷たい人間に見えたかと思うと、まるで子供みたいに無防備で無邪気にも見える」
話しながら賢吾は、浴衣の懐からハンカチを取り出した。さきほど桜の花びらを包んだものだ。確か、部屋の隅に移動させた座卓の上に置いてあったはずだが、部屋に戻ってきた賢吾がいつの間にか忍ばせたらしい。
37
お気に入りに追加
1,391
あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…



塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。
そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる