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第24話
(6)
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「は、あぁっ、いっ、ぃ――……」
欲望を奥深くまで突き込まれ、三田村の腕の中で思いきり背を反らした和彦は、恍惚とするあまり、数秒の間、呼吸することを忘れてしまう。
ふっと我に返って三田村を見ると、驚くほど鋭い目をして姿見を凝視していた。荒い息の下、和彦はつい意地悪な質問をぶつける。
「……見惚れているのか?」
「ああ。先生の体に見惚れている。目に焼き付けている」
これ以上なく真剣な口調で三田村に返され、和彦のほうがうろたえる。三田村の頬を撫で、耳元に唇を寄せてぼそぼそと呟く。
「意外に男たらしだな、若頭補佐は」
「先生が……相手だからだ。俺みたいな男が持っている言葉も感情も、全部先生に与えたい。そうしても惜しくないと思っている」
ヤクザなどという物騒な存在のくせに、三田村は真摯で一途だ。対する自分は――。
いまさら、複数の男と関係を持っていることに後ろめたさはない。和彦がこの世界で安全に暮らすために必要なことだ。打算から始まった関係ではあるものの、どの男にも情を抱いているし、執着もしている。一方で、恐れてもいる。だからこそ、絶妙のバランスを保てているといえる。
「――きっと、こう思っているのは俺だけじゃない。先生を大事にしている男たちは、先生にいろんなものを与えたいと思っているはずだ」
「ぼくを逃がさないために?」
聞きようによって皮肉と取られても不思議ではない問いかけに、真剣な顔で三田村は頷いた。
「ああ。先生を、この世界から逃がさないために」
三田村の言葉の響きは、冷徹ですらあった。そこから、この男が胸に抱える覚悟を推し量れるようだ。
そして和彦は、三田村の覚悟に触発される。この世界で生きていくためには、生ぬるい感傷と思い出にすら折り合いをつけ、利用するべきだと思い知らされるほどに。
「……昔、逆のことを言った人がいたんだ」
三田村の背を撫でながら、甘く、一方でほろ苦くもある思い出をぽつぽつと語る。和彦の脳裏に浮かぶのは、里見の顔だった。
「早く、この世界から抜け出せって。そのために、自分の行きたい場所に行けるよう、賢く、強くなれと言って、いろんなことを教えてくれた」
「先生にとって、特別な人なんだな……」
「妬けるか?」
三田村は答えないまま、和彦の腰を掴んで揺さぶる。内奥で脈打つ欲望が一際大きくなり、その反応が何よりも雄弁に三田村の気持ちを物語っているようだ。
何度も激しく突き上げられ、いつにない三田村の荒々しさに翻弄されながら和彦も、自ら腰を前後に動かす。
「あっ、あっ、んうっ、うぅっ――」
三田村に掻き抱かれた次の瞬間、二度目の精が内奥に注ぎ込まれた。和彦は全身を小刻みに震わせ、押し寄せる快感に酔う。しかし、満たされた和彦とは違い、三田村の興奮はまだ鎮まっていなかった。抱き締めてくる腕は熱く力強く、内奥で震えるものはまだ逞しさを失っていない。
さらに求められているとわかり、息を乱しながら和彦は哀願する。
「三田村……、少し、待ってくれ、まだ、体に力が入らない」
「俺を煽ったのは、先生だ」
そう言って三田村に腰を抱え上げられ、内奥から欲望を引き抜かれる。途端に、注ぎ込まれたばかりの精が溢れ出してきた。もちろん姿見には、その光景がしっかり映っているだろう。三田村は、姿見のほうを見ながら、慎みを失っている内奥に容赦なく指を挿入してきた。
「うっ……」
和彦は甘い呻き声を洩らして、三田村の指を貪欲に締め付ける。精に塗れた襞と粘膜を擦り上げられるのが気持ちよかったが、何より和彦が感じたのは、三田村がぶつけてくる独占欲と執着心に対してだった。
夜が更けてからマンションを出た和彦は、足早にコンビニに向けて歩き出しながら、めまぐるしく思考を働かせていた。もちろん、コンビニで何を買おうかと考えているわけではない。
夕方、三田村と別れてから、和彦の頭の中はある男のことで満たされていた。里見だ。
これから、いつもの公衆電話から里見に連絡をするのだが、どんなふうに会話を交わせばいいのだろうかと、ずっと考えている。
自分が今、満ち足りた生活を送っており、それを守るために里見に助けてほしいと言ったらどうするか――。
先日電話をかけたとき、和彦は里見にこう問いかけ、それに対して里見は、交換条件を出すと答えた。
今夜は、中途半端に電話を終わらせないと決心していた。佐伯家の動向を知るためにはどうしても、里見は必要だ。住む世界が違い、和彦の味方であると確信が持てない以上、里見を共犯者にするのはありえないし、そうするつもりもない。ただ、少しだけ手を貸してほしかった。
欲望を奥深くまで突き込まれ、三田村の腕の中で思いきり背を反らした和彦は、恍惚とするあまり、数秒の間、呼吸することを忘れてしまう。
ふっと我に返って三田村を見ると、驚くほど鋭い目をして姿見を凝視していた。荒い息の下、和彦はつい意地悪な質問をぶつける。
「……見惚れているのか?」
「ああ。先生の体に見惚れている。目に焼き付けている」
これ以上なく真剣な口調で三田村に返され、和彦のほうがうろたえる。三田村の頬を撫で、耳元に唇を寄せてぼそぼそと呟く。
「意外に男たらしだな、若頭補佐は」
「先生が……相手だからだ。俺みたいな男が持っている言葉も感情も、全部先生に与えたい。そうしても惜しくないと思っている」
ヤクザなどという物騒な存在のくせに、三田村は真摯で一途だ。対する自分は――。
いまさら、複数の男と関係を持っていることに後ろめたさはない。和彦がこの世界で安全に暮らすために必要なことだ。打算から始まった関係ではあるものの、どの男にも情を抱いているし、執着もしている。一方で、恐れてもいる。だからこそ、絶妙のバランスを保てているといえる。
「――きっと、こう思っているのは俺だけじゃない。先生を大事にしている男たちは、先生にいろんなものを与えたいと思っているはずだ」
「ぼくを逃がさないために?」
聞きようによって皮肉と取られても不思議ではない問いかけに、真剣な顔で三田村は頷いた。
「ああ。先生を、この世界から逃がさないために」
三田村の言葉の響きは、冷徹ですらあった。そこから、この男が胸に抱える覚悟を推し量れるようだ。
そして和彦は、三田村の覚悟に触発される。この世界で生きていくためには、生ぬるい感傷と思い出にすら折り合いをつけ、利用するべきだと思い知らされるほどに。
「……昔、逆のことを言った人がいたんだ」
三田村の背を撫でながら、甘く、一方でほろ苦くもある思い出をぽつぽつと語る。和彦の脳裏に浮かぶのは、里見の顔だった。
「早く、この世界から抜け出せって。そのために、自分の行きたい場所に行けるよう、賢く、強くなれと言って、いろんなことを教えてくれた」
「先生にとって、特別な人なんだな……」
「妬けるか?」
三田村は答えないまま、和彦の腰を掴んで揺さぶる。内奥で脈打つ欲望が一際大きくなり、その反応が何よりも雄弁に三田村の気持ちを物語っているようだ。
何度も激しく突き上げられ、いつにない三田村の荒々しさに翻弄されながら和彦も、自ら腰を前後に動かす。
「あっ、あっ、んうっ、うぅっ――」
三田村に掻き抱かれた次の瞬間、二度目の精が内奥に注ぎ込まれた。和彦は全身を小刻みに震わせ、押し寄せる快感に酔う。しかし、満たされた和彦とは違い、三田村の興奮はまだ鎮まっていなかった。抱き締めてくる腕は熱く力強く、内奥で震えるものはまだ逞しさを失っていない。
さらに求められているとわかり、息を乱しながら和彦は哀願する。
「三田村……、少し、待ってくれ、まだ、体に力が入らない」
「俺を煽ったのは、先生だ」
そう言って三田村に腰を抱え上げられ、内奥から欲望を引き抜かれる。途端に、注ぎ込まれたばかりの精が溢れ出してきた。もちろん姿見には、その光景がしっかり映っているだろう。三田村は、姿見のほうを見ながら、慎みを失っている内奥に容赦なく指を挿入してきた。
「うっ……」
和彦は甘い呻き声を洩らして、三田村の指を貪欲に締め付ける。精に塗れた襞と粘膜を擦り上げられるのが気持ちよかったが、何より和彦が感じたのは、三田村がぶつけてくる独占欲と執着心に対してだった。
夜が更けてからマンションを出た和彦は、足早にコンビニに向けて歩き出しながら、めまぐるしく思考を働かせていた。もちろん、コンビニで何を買おうかと考えているわけではない。
夕方、三田村と別れてから、和彦の頭の中はある男のことで満たされていた。里見だ。
これから、いつもの公衆電話から里見に連絡をするのだが、どんなふうに会話を交わせばいいのだろうかと、ずっと考えている。
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先日電話をかけたとき、和彦は里見にこう問いかけ、それに対して里見は、交換条件を出すと答えた。
今夜は、中途半端に電話を終わらせないと決心していた。佐伯家の動向を知るためにはどうしても、里見は必要だ。住む世界が違い、和彦の味方であると確信が持てない以上、里見を共犯者にするのはありえないし、そうするつもりもない。ただ、少しだけ手を貸してほしかった。
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