血と束縛と

北川とも

文字の大きさ
上 下
524 / 1,268
第24話

(6)

しおりを挟む
「は、あぁっ、いっ、ぃ――……」
 欲望を奥深くまで突き込まれ、三田村の腕の中で思いきり背を反らした和彦は、恍惚とするあまり、数秒の間、呼吸することを忘れてしまう。
 ふっと我に返って三田村を見ると、驚くほど鋭い目をして姿見を凝視していた。荒い息の下、和彦はつい意地悪な質問をぶつける。
「……見惚れているのか?」
「ああ。先生の体に見惚れている。目に焼き付けている」
 これ以上なく真剣な口調で三田村に返され、和彦のほうがうろたえる。三田村の頬を撫で、耳元に唇を寄せてぼそぼそと呟く。
「意外に男たらしだな、若頭補佐は」
「先生が……相手だからだ。俺みたいな男が持っている言葉も感情も、全部先生に与えたい。そうしても惜しくないと思っている」
 ヤクザなどという物騒な存在のくせに、三田村は真摯で一途だ。対する自分は――。
 いまさら、複数の男と関係を持っていることに後ろめたさはない。和彦がこの世界で安全に暮らすために必要なことだ。打算から始まった関係ではあるものの、どの男にも情を抱いているし、執着もしている。一方で、恐れてもいる。だからこそ、絶妙のバランスを保てているといえる。
「――きっと、こう思っているのは俺だけじゃない。先生を大事にしている男たちは、先生にいろんなものを与えたいと思っているはずだ」
「ぼくを逃がさないために?」
 聞きようによって皮肉と取られても不思議ではない問いかけに、真剣な顔で三田村は頷いた。
「ああ。先生を、この世界から逃がさないために」
 三田村の言葉の響きは、冷徹ですらあった。そこから、この男が胸に抱える覚悟を推し量れるようだ。
 そして和彦は、三田村の覚悟に触発される。この世界で生きていくためには、生ぬるい感傷と思い出にすら折り合いをつけ、利用するべきだと思い知らされるほどに。
「……昔、逆のことを言った人がいたんだ」
 三田村の背を撫でながら、甘く、一方でほろ苦くもある思い出をぽつぽつと語る。和彦の脳裏に浮かぶのは、里見の顔だった。
「早く、この世界から抜け出せって。そのために、自分の行きたい場所に行けるよう、賢く、強くなれと言って、いろんなことを教えてくれた」
「先生にとって、特別な人なんだな……」
「妬けるか?」
 三田村は答えないまま、和彦の腰を掴んで揺さぶる。内奥で脈打つ欲望が一際大きくなり、その反応が何よりも雄弁に三田村の気持ちを物語っているようだ。
 何度も激しく突き上げられ、いつにない三田村の荒々しさに翻弄されながら和彦も、自ら腰を前後に動かす。
「あっ、あっ、んうっ、うぅっ――」
 三田村に掻き抱かれた次の瞬間、二度目の精が内奥に注ぎ込まれた。和彦は全身を小刻みに震わせ、押し寄せる快感に酔う。しかし、満たされた和彦とは違い、三田村の興奮はまだ鎮まっていなかった。抱き締めてくる腕は熱く力強く、内奥で震えるものはまだ逞しさを失っていない。
 さらに求められているとわかり、息を乱しながら和彦は哀願する。
「三田村……、少し、待ってくれ、まだ、体に力が入らない」
「俺を煽ったのは、先生だ」
 そう言って三田村に腰を抱え上げられ、内奥から欲望を引き抜かれる。途端に、注ぎ込まれたばかりの精が溢れ出してきた。もちろん姿見には、その光景がしっかり映っているだろう。三田村は、姿見のほうを見ながら、慎みを失っている内奥に容赦なく指を挿入してきた。
「うっ……」
 和彦は甘い呻き声を洩らして、三田村の指を貪欲に締め付ける。精に塗れた襞と粘膜を擦り上げられるのが気持ちよかったが、何より和彦が感じたのは、三田村がぶつけてくる独占欲と執着心に対してだった。




 夜が更けてからマンションを出た和彦は、足早にコンビニに向けて歩き出しながら、めまぐるしく思考を働かせていた。もちろん、コンビニで何を買おうかと考えているわけではない。
 夕方、三田村と別れてから、和彦の頭の中はある男のことで満たされていた。里見だ。
 これから、いつもの公衆電話から里見に連絡をするのだが、どんなふうに会話を交わせばいいのだろうかと、ずっと考えている。
 自分が今、満ち足りた生活を送っており、それを守るために里見に助けてほしいと言ったらどうするか――。
 先日電話をかけたとき、和彦は里見にこう問いかけ、それに対して里見は、交換条件を出すと答えた。
 今夜は、中途半端に電話を終わらせないと決心していた。佐伯家の動向を知るためにはどうしても、里見は必要だ。住む世界が違い、和彦の味方であると確信が持てない以上、里見を共犯者にするのはありえないし、そうするつもりもない。ただ、少しだけ手を貸してほしかった。

しおりを挟む
感想 80

あなたにおすすめの小説

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

朝起きたら幼なじみと番になってた。

オクラ粥
BL
寝ぼけてるのかと思った。目が覚めて起き上がると全身が痛い。 隣には昨晩一緒に飲みにいった幼なじみがすやすや寝ていた 思いつきの書き殴り オメガバースの設定をお借りしてます

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。 そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。

処理中です...