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第24話
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空になったグラスを受け取ろうと三田村が片手を伸ばしてきたが、反射的に躱す。不思議そうな顔をした三田村に腰を屈めてもらい、和彦はやっと、大事な〈オトコ〉に触れることができる。
片手を頬に押し当てると、気が緩んだように三田村は顔を綻ばせた。和彦はそっと目を細め、何度も三田村の頬を撫でてから、あごにうっすらと残る細い傷跡に指先を這わせる。ここまでされるがままになっていた三田村がふいに手を伸ばし、今度こそグラスを取り上げられる。
キッチンまで持っていく時間すら惜しむように、グラスを床の上に置いた三田村が立ち上がり、和彦は肩を掴まれてベッドに押し倒された。
体中で三田村の重みを感じた瞬間、気が遠くなるような高揚感が和彦の中を駆け抜ける。
「三田村……」
我ながら赤面したくなるような甘い声で呼びかけると、あっという間に三田村の表情が余裕のないものになる。だが、それは和彦も同じだ。三田村に荒々しく唇を塞がれると、もう何も考えられなくなり、すがりつくように三田村の背に両腕を回していた。
激しく互いの唇と舌を吸い合い、唾液を啜り合う。まるで口腔を犯すように三田村の熱い舌が押し込まれ、粘膜を舐め回される。その一方で、Tシャツを乱暴にたくし上げられていた。汗ばんだ大きなてのひらに脇腹や腹部を撫でられて、たったそれだけのことでゾクゾクするような疼きを感じる。
露わになった胸元に、三田村が濡れた唇を押し当ててくる。口づけの荒々しさとは打って変わって、じっくりと丁寧に。身につけているものすべてを脱がせてもらうと、今度は和彦が、三田村の着ているものに手をかける。
ジャケットを脱がせ、ネクタイを解き、ワイシャツのボタンを一つ、二つと外していたが、突然三田村が体を起こし、自らボタンを外し始める。三田村の体が露わになっていく様子を、和彦はぼうっと見上げる。三田村の体の熱さと感触を、身を捩りたくなるほど待ち焦がれていた。はしたないと感じながらも、早く欲しいと考えてしまう。
堅苦しいスーツを脱ぎ捨てた三田村は、明らかに高ぶっていた。覆い被さってきた三田村の体に両腕を回そうとした和彦だが、手首を掴まれてベッドに押さえつけられる。三田村は、和彦の体をじっと見下ろしてきた。
三田村の眼差しは、興奮と冷静さが同居していた。その眼差しの意味を、鼓動を速くしながら和彦は考える。答えらしきものを見つけ出すのに、さほど時間はかからなかった。
「――怖いか?」
低い声で和彦が問いかけると、三田村はスッと目を細めた。
「総和会会長の〈オンナ〉の体だと思ったら、怖くて手が出せないか?」
自分でも意外なほど、挑発的な言葉を発していた。和彦は見定めたかったのだ。自分がどれだけ複雑な事情に搦め取られ、厄介な立場に置かれようが、三田村は変わらず〈オトコ〉でいてくれるだろうかと。
三田村が一瞬でも怯む様子を見せたら、そのときは――。
本能的な恐怖に襲われそうになったが、振り払ってくれたのは他でもない、三田村だった。
「俺が先生を意識したとき、先生はすでに長嶺組組長の〈オンナ〉だった。その先生に、俺は手を出した。怖ければ、身を引くこともできたのに、そうしなかった。のぼせ上がった青臭いガキのように、我を通すことしか考えられなかったんだ。今も、その状態は変わらない。どれだけ先生の価値が増そうが、俺は引かない」
三田村はいつから、自分と守光の関係を知っていたのだろうかと、和彦は考える。いつ知ったにせよ、三田村は変わらない態度で接してくれた。つまり三田村は、何も語らないまま、自らの覚悟を示し続けていたことになる。
ヤクザの上下関係を思えば、賢吾のオンナである和彦と関係を持つだけでも、許されないことなのだ。それが、和彦が総和会会長のオンナとなったことで、三田村がますます複雑な立場に置かれるのは間違いない。
だが和彦は、三田村との関係を終わらせるつもりはなかった。
「……組長が言ってたな。あんたは、ぼくを長嶺組に留めておくための鎖だと。ぼくのために危険を冒したあんたを見捨てて、ぼくは逃げられない。腹が立つことに、その通りだった」
「正直、もう俺という鎖は必要ないはずだ。もっと太くて頑丈な鎖が、先生を拘束している。総和会会長のオンナになった先生は、どう足掻いてもこの世界から逃げ出せない」
「安心した、と言いたげだな」
手首を開放され、和彦は両手を伸ばして三田村の髪や頬を撫でる。
「それでもぼくには、三田村将成という鎖が必要だ。逃げ出さないためにじゃない。ぼくがどこかに吹き飛ばされそうになっても、今いる場所にしっかり繋ぎ止めてもらうために、必要なんだ。――ぼくのオトコは、あんただけなんだから」
「すごい、口説き文句だ、先生……」
片手を頬に押し当てると、気が緩んだように三田村は顔を綻ばせた。和彦はそっと目を細め、何度も三田村の頬を撫でてから、あごにうっすらと残る細い傷跡に指先を這わせる。ここまでされるがままになっていた三田村がふいに手を伸ばし、今度こそグラスを取り上げられる。
キッチンまで持っていく時間すら惜しむように、グラスを床の上に置いた三田村が立ち上がり、和彦は肩を掴まれてベッドに押し倒された。
体中で三田村の重みを感じた瞬間、気が遠くなるような高揚感が和彦の中を駆け抜ける。
「三田村……」
我ながら赤面したくなるような甘い声で呼びかけると、あっという間に三田村の表情が余裕のないものになる。だが、それは和彦も同じだ。三田村に荒々しく唇を塞がれると、もう何も考えられなくなり、すがりつくように三田村の背に両腕を回していた。
激しく互いの唇と舌を吸い合い、唾液を啜り合う。まるで口腔を犯すように三田村の熱い舌が押し込まれ、粘膜を舐め回される。その一方で、Tシャツを乱暴にたくし上げられていた。汗ばんだ大きなてのひらに脇腹や腹部を撫でられて、たったそれだけのことでゾクゾクするような疼きを感じる。
露わになった胸元に、三田村が濡れた唇を押し当ててくる。口づけの荒々しさとは打って変わって、じっくりと丁寧に。身につけているものすべてを脱がせてもらうと、今度は和彦が、三田村の着ているものに手をかける。
ジャケットを脱がせ、ネクタイを解き、ワイシャツのボタンを一つ、二つと外していたが、突然三田村が体を起こし、自らボタンを外し始める。三田村の体が露わになっていく様子を、和彦はぼうっと見上げる。三田村の体の熱さと感触を、身を捩りたくなるほど待ち焦がれていた。はしたないと感じながらも、早く欲しいと考えてしまう。
堅苦しいスーツを脱ぎ捨てた三田村は、明らかに高ぶっていた。覆い被さってきた三田村の体に両腕を回そうとした和彦だが、手首を掴まれてベッドに押さえつけられる。三田村は、和彦の体をじっと見下ろしてきた。
三田村の眼差しは、興奮と冷静さが同居していた。その眼差しの意味を、鼓動を速くしながら和彦は考える。答えらしきものを見つけ出すのに、さほど時間はかからなかった。
「――怖いか?」
低い声で和彦が問いかけると、三田村はスッと目を細めた。
「総和会会長の〈オンナ〉の体だと思ったら、怖くて手が出せないか?」
自分でも意外なほど、挑発的な言葉を発していた。和彦は見定めたかったのだ。自分がどれだけ複雑な事情に搦め取られ、厄介な立場に置かれようが、三田村は変わらず〈オトコ〉でいてくれるだろうかと。
三田村が一瞬でも怯む様子を見せたら、そのときは――。
本能的な恐怖に襲われそうになったが、振り払ってくれたのは他でもない、三田村だった。
「俺が先生を意識したとき、先生はすでに長嶺組組長の〈オンナ〉だった。その先生に、俺は手を出した。怖ければ、身を引くこともできたのに、そうしなかった。のぼせ上がった青臭いガキのように、我を通すことしか考えられなかったんだ。今も、その状態は変わらない。どれだけ先生の価値が増そうが、俺は引かない」
三田村はいつから、自分と守光の関係を知っていたのだろうかと、和彦は考える。いつ知ったにせよ、三田村は変わらない態度で接してくれた。つまり三田村は、何も語らないまま、自らの覚悟を示し続けていたことになる。
ヤクザの上下関係を思えば、賢吾のオンナである和彦と関係を持つだけでも、許されないことなのだ。それが、和彦が総和会会長のオンナとなったことで、三田村がますます複雑な立場に置かれるのは間違いない。
だが和彦は、三田村との関係を終わらせるつもりはなかった。
「……組長が言ってたな。あんたは、ぼくを長嶺組に留めておくための鎖だと。ぼくのために危険を冒したあんたを見捨てて、ぼくは逃げられない。腹が立つことに、その通りだった」
「正直、もう俺という鎖は必要ないはずだ。もっと太くて頑丈な鎖が、先生を拘束している。総和会会長のオンナになった先生は、どう足掻いてもこの世界から逃げ出せない」
「安心した、と言いたげだな」
手首を開放され、和彦は両手を伸ばして三田村の髪や頬を撫でる。
「それでもぼくには、三田村将成という鎖が必要だ。逃げ出さないためにじゃない。ぼくがどこかに吹き飛ばされそうになっても、今いる場所にしっかり繋ぎ止めてもらうために、必要なんだ。――ぼくのオトコは、あんただけなんだから」
「すごい、口説き文句だ、先生……」
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