血と束縛と

北川とも

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第23話

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 賢吾の言葉に含まれているのは、甘い毒だ。『独占欲』という単語にピクリと肩を揺らして、和彦は顔を上げる。楽しげに口元に笑みを刻んでいる賢吾だが、目はまったく笑っていない。それどころか、和彦の何もかもを暴こうとするかのように鋭い。
 昨夜の千尋同様、ある人物の存在を気にかけているのだろうか。それとも――。
 守光の顔に続いて、里見の顔が脳裏に浮かび、和彦はヒヤリとするような感覚を味わう。今この瞬間、思考のすべてを賢吾に覗かれていたらと、ありえないことを考えていた。
「……長嶺の男の独占欲は、物騒だ。前までのぼくなら、そういうのが疎ましくて、すぐに逃げ出していただろうな」
「先生は正直だ。自分を囲っている男の前で、そういうことを言うなんて」
「ぼくが何を言ったところで、逃がす気なんてないだろうし、逃がさない自信もあるんだろ」
「さあ、どうだろうな」
 さらりと応じた賢吾の口調から、それが本音なのかどうか判断することはできない。ただ、賢吾が自分に向ける強い執着を、和彦はしっかりと感じ取っていた。必要とあれば、この男はきっとなんでもするはずだ。
 感じた恐怖に小さく身震いした和彦だが、同時に、抗いがたい欲望の疼きも自覚していた。
 和彦は、手の中で逞しく脈打つ賢吾のものを撫でてから、眩暈がするような感情の渦に襲われる。欠片ほどは残っていた理性を手放し、おずおずとその場に跪いた。
「――……昨夜は、千尋をたっぷり甘やかしたようだな、先生。俺に、同じことをしてくれるのか?」
 和彦は、頭上からそんな言葉を投げかけてきた賢吾を睨みつけはしたものの、賢吾が着物の合間から露わにしたものは拒まなかった。
 自らの手で成長させた賢吾の欲望に顔を寄せ、舌を這わせる。昨夜千尋にしたように尽くしてやる。なんといっても和彦は、この男の〈オンナ〉だ。
 片手で賢吾のものを扱きながら、先端に唇を押し当てる。柔らかく吸い上げ、舌先でくすぐり、括れまで口腔に含んでから、唇で締め付ける。
「焦らすのが上手いな。できることなら、このまま畳の上に這わせて、後ろから尻を犯したくなる」
 露骨な賢吾の言葉に、和彦の体は熱くなってくる。羞恥ではなく、感じているのだ。
 後頭部に手がかかり、軽く力が加えられる。賢吾の求めがわかり、舌を添えながら欲望を口腔深くまで呑み込む。千尋ほど素直に快感を表現しない賢吾だが、口腔では確かに、逞しいものがドクドクと脈打っていた。
 狂おしい欲情に突き動かされて、情熱的な愛撫を施す。すぐに、自分自身の反応したものも気になり、着物の下に片手を忍び込ませた和彦は、賢吾の視線を気にかけつつも、自らの欲望も慰め始める。
「大胆なのか、慎ましやかなのか、わからねーな、今のその姿は」
 そう言って賢吾に優しい手つきで髪を撫でられたあと、口腔深くまで硬く張り詰めたものを突き込まれる。和彦は低く呻きはしたものの、ギリギリのところで吐き気を堪える。
 和彦の献身ぶりに満足したのか、賢吾はそれ以上手荒なことをせず、大きく息を吐き出してから、思いがけない話題を振ってきた。
「――オヤジが、総和会の花見会に先生を招待すると言い出した」
 驚いた和彦は一度動きを止めたが、すぐに賢吾のものを締め付けるように吸引する。
「俺としては、先生をあんな目立つ場に連れて行く気はなかったし、もし、先生同行でと言われた場合は、長嶺組の身内として連れていくのが筋だと考えていた。……まったく、面倒なことを言い出したものだ、総和会会長は」
 いろいろと言いたいことはあったが、賢吾のものを口腔に含んでいる状態ではそれも叶わない。それに賢吾のほうも、和彦の返事は求めていない様子だ。
「毎年顔を出している行事だが、総和会の威光を一方的に見せつけられているようで、どうも俺は苦手だ。日陰者のヤクザが大勢つるんで、明るい陽の下で花見なんざ、大胆すぎて空恐ろしくなる」
 獰猛ながら、警戒心が強くて慎重でもある大蛇は、物陰に身を潜めているのが似合っている。賢吾は言外に、自らのことをそう言っているようだ。
 話しながらも賢吾のものはますます熱く、大きくなっていく。限界が近いことを察した和彦は、欲望の根元を指で擦りながら、ゆっくりと頭を動かす。
「……俺は、自分のオンナを見せびらかすつもりはなかったが、オヤジは違ったようだ。この色男が自分のオンナだと、周知させるつもりだろうな。なんといっても、長嶺の男三人で共有している、特別なオンナだ」
 賢吾の息遣いがわずかに弾む。後頭部を押さえつけられた和彦は、思わず目を閉じ、口腔で欲望が爆ぜる瞬間を迎えた。迸った熱い精を受け止め、すぐに喉に流し込む。
 口腔で震える賢吾の欲望はまだ硬く、和彦は丹念に舐めてきれいにしてやる。そんな和彦のあごの下をくすぐりながら、賢吾が問いかけてきた。
「先生、長嶺の男たちの面子のために、花見会に出てくれるか?」
 問われるまでもなく、和彦に許された返事は一つしかないのだ。

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