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第22話
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「あのときは、本当に迷惑をおかけしました。それに、お世話になりました。俺自身、どうなることかとビクビクしていたんですが、結果として、何もかもいい方向に転んだ。先生のおかげですよ」
「……ヤクザにそこまで感謝されると、かえって怖いんだが……」
「大丈夫ですよ。怖いことも、痛いこともしません」
ふいに沈黙が訪れる。和彦は目を見開いて、ハンサムな青年の横顔を凝視していた。今言われた言葉を頭の中で反芻してようやく、中嶋がどういう意図から自分を誘ったのか理解する。
和彦は小さく声を上げると、口元に手をやった。中嶋は短く笑い声を洩らす。
「そう、深刻な顔をしないでください。少なくとも俺と先生の関係は、重たい事情も理屈も絡んでいない。俺の問題を先生は解決してくれて、あとに残るのは、気楽な友人関係と、享楽的な体の関係だけです」
「そう言われると、なんだかずいぶんな関係だな。君とぼくは」
「だけどこの世界じゃ、俺と先生の関係は、唯一無二のものですよ」
信号待ちで車を停めると、素早くシートベルトを外した中嶋が身を乗り出してくる。やや強引に唇を塞がれたが、次の瞬間には和彦は、中嶋と激しく唇を吸い合っていた。
中嶋との関係は本当に不思議だと、裸の体を擦りつけ合いながら、つい和彦は思っていた。他の男たちのように執着や愛情で繋がっているわけでもないのに、それでも体と心は欲情するのだ。それでいて、普段の関係はあくまで穏やかだ。
中嶋には秦という存在がいる以上、自分とのことはやはり浮気になるのだろうかと、ちらりと頭の片隅で考えて、なんだか和彦はおかしくなった。
複数の男と同時に関係を持つ自分が、他人の関係をとやかく言う権利はないと思ったのだ。何より、中嶋自身が気にしていないだろう。
せっかくビールを買い込んできたというのに、それを味わう間もなく、衝動に突き動かされて二人でベッドに倒れ込んでいた。あとは夢中だ。貪るような口づけを交わし、互いの肌に唇と舌を這わせて、欲望を高めていく。
和彦の両足の間に腰を割り込ませて、中嶋が熱くなったものを押しつけてくる。もちろん、和彦のものも高ぶっている。欲望同士がもどかしく擦れ合い、二人の口から同時に吐息が洩れていた。顔を見合わせ、照れた笑みを交わし合う。
「……まだ、先生相手だと、勝手がよくわかりません」
素直な中嶋の言葉に、和彦は苦笑する。
「それを言うなら、ぼくもだ。いつもこうして相手を見上げて、触れられているのを待っているんだが、君が相手だと――ことが進まないんだろうな」
「俺は、進めてもかまいませんよ。今すぐにでも、先生の中に入りたい」
これ見よがしに指を唾液で濡らした中嶋が、和彦の片足を抱え上げ、内奥の入り口をまさぐってくる。
「この間、俺は先生のこの中を犯したんですよね」
「そして君は、秦に犯された」
「強烈すぎて、いまだに夢に見ますよ。――また、やりたいですね」
中嶋が〈女〉の顔で笑い、それを見た和彦の胸が疼いた。
濡れた指がゆっくりと内奥に挿入されてくる。和彦は息を吐き出しながら顔を背け、露わにした首筋を中嶋に舐め上げられる。促されるように再び中嶋を見上げると、唇を啄ばみ合い、差し出した舌を絡めていた。
内奥から指が出し入れされたかと思うと、狭い場所をさらに解すように大胆に掻き回される。和彦は控えめに声を上げて腰を揺らす。
「……中、ヒクヒクしてますよ。それに、いい締まりだ。奥、掻き回されるの好きなんですか?」
言葉で和彦を煽りながら、中嶋が胸元に顔を伏せる。触れられないまま硬く凝った胸の突起に舌先を這わされ、和彦は上擦った声を上げていた。
「先生の体に触れるの、楽しいですよ。なんだかゾクゾクしてくる」
「ズルく、ないか……。君ばかり楽しむのは」
数秒の間を置いて、和彦が言おうとしていることを理解したのか、内奥から指を引き抜いた中嶋が今度はベッドに仰向けになる。和彦は、すぐに中嶋の上に覆い被さった。
中嶋の体にてのひらを這わせ、しなやかな筋肉の感触を堪能する。この体を秦が愛しているのかと考えると、倒錯した高揚感が湧き起こる。おそらく、秦と中嶋が絡み合う姿を目の前にしても、同じ高揚感を味わえるだろう。
身を起こしかけた中嶋の欲望をてのひらに握り込み、丹念に上下に扱いてやる。すぐに中嶋は声を洩らし、その声に誘われるように和彦は、汗ばみ始めた肌に唇と舌を這わせた。
「……ヤクザにそこまで感謝されると、かえって怖いんだが……」
「大丈夫ですよ。怖いことも、痛いこともしません」
ふいに沈黙が訪れる。和彦は目を見開いて、ハンサムな青年の横顔を凝視していた。今言われた言葉を頭の中で反芻してようやく、中嶋がどういう意図から自分を誘ったのか理解する。
和彦は小さく声を上げると、口元に手をやった。中嶋は短く笑い声を洩らす。
「そう、深刻な顔をしないでください。少なくとも俺と先生の関係は、重たい事情も理屈も絡んでいない。俺の問題を先生は解決してくれて、あとに残るのは、気楽な友人関係と、享楽的な体の関係だけです」
「そう言われると、なんだかずいぶんな関係だな。君とぼくは」
「だけどこの世界じゃ、俺と先生の関係は、唯一無二のものですよ」
信号待ちで車を停めると、素早くシートベルトを外した中嶋が身を乗り出してくる。やや強引に唇を塞がれたが、次の瞬間には和彦は、中嶋と激しく唇を吸い合っていた。
中嶋との関係は本当に不思議だと、裸の体を擦りつけ合いながら、つい和彦は思っていた。他の男たちのように執着や愛情で繋がっているわけでもないのに、それでも体と心は欲情するのだ。それでいて、普段の関係はあくまで穏やかだ。
中嶋には秦という存在がいる以上、自分とのことはやはり浮気になるのだろうかと、ちらりと頭の片隅で考えて、なんだか和彦はおかしくなった。
複数の男と同時に関係を持つ自分が、他人の関係をとやかく言う権利はないと思ったのだ。何より、中嶋自身が気にしていないだろう。
せっかくビールを買い込んできたというのに、それを味わう間もなく、衝動に突き動かされて二人でベッドに倒れ込んでいた。あとは夢中だ。貪るような口づけを交わし、互いの肌に唇と舌を這わせて、欲望を高めていく。
和彦の両足の間に腰を割り込ませて、中嶋が熱くなったものを押しつけてくる。もちろん、和彦のものも高ぶっている。欲望同士がもどかしく擦れ合い、二人の口から同時に吐息が洩れていた。顔を見合わせ、照れた笑みを交わし合う。
「……まだ、先生相手だと、勝手がよくわかりません」
素直な中嶋の言葉に、和彦は苦笑する。
「それを言うなら、ぼくもだ。いつもこうして相手を見上げて、触れられているのを待っているんだが、君が相手だと――ことが進まないんだろうな」
「俺は、進めてもかまいませんよ。今すぐにでも、先生の中に入りたい」
これ見よがしに指を唾液で濡らした中嶋が、和彦の片足を抱え上げ、内奥の入り口をまさぐってくる。
「この間、俺は先生のこの中を犯したんですよね」
「そして君は、秦に犯された」
「強烈すぎて、いまだに夢に見ますよ。――また、やりたいですね」
中嶋が〈女〉の顔で笑い、それを見た和彦の胸が疼いた。
濡れた指がゆっくりと内奥に挿入されてくる。和彦は息を吐き出しながら顔を背け、露わにした首筋を中嶋に舐め上げられる。促されるように再び中嶋を見上げると、唇を啄ばみ合い、差し出した舌を絡めていた。
内奥から指が出し入れされたかと思うと、狭い場所をさらに解すように大胆に掻き回される。和彦は控えめに声を上げて腰を揺らす。
「……中、ヒクヒクしてますよ。それに、いい締まりだ。奥、掻き回されるの好きなんですか?」
言葉で和彦を煽りながら、中嶋が胸元に顔を伏せる。触れられないまま硬く凝った胸の突起に舌先を這わされ、和彦は上擦った声を上げていた。
「先生の体に触れるの、楽しいですよ。なんだかゾクゾクしてくる」
「ズルく、ないか……。君ばかり楽しむのは」
数秒の間を置いて、和彦が言おうとしていることを理解したのか、内奥から指を引き抜いた中嶋が今度はベッドに仰向けになる。和彦は、すぐに中嶋の上に覆い被さった。
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