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第22話
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「あんたは、貴重だ。長嶺の男たちと相性がよく、他の物騒な男たちも上手く手懐けて使っている。荒事が苦手な日和見主義のようでいて、肝が据わっている。だからといって、わしたちのような極道というわけではない。だが、すでに堅気でもない。あんたの存在は、この世界にいるからこそ妖しさが際立つ」
守光の手がさらに深く両足の間に差し込まれ、命じられたわけでもないのに和彦は足を開いていた。
まるで検分するように、スラックスの上から敏感なものを押さえつけられ、唇を引き結ぶ。羞恥はあったが、驚きはなかった。賢吾に強引にオンナされたばかりの頃、怒りと戸惑いを覚えている和彦に、賢吾は車中で何度も体に触れてきた。あれは、賢吾なりの和彦に対する教育だったのだ。
どんな状況であれ、どのように扱われても、受け入れなくてはならないと。それが、ヤクザのオンナになる――されたということだ。
和彦の目を覗き込み、守光は柔らかな笑みを浮かべた。見ていると怖くなるような笑みだが、和彦は目は逸らさなかった。逸らせば、多分食われる。
「――忘れるな。あんたに特に価値を感じているのは、長嶺守光という男だ」
守光が囁き終えると同時に、唇が重なってくる。この瞬間、和彦が感じたのは恐怖でも嫌悪感でもなく、純粋な肉の疼きだった。我ながら度し難いと思うが、長嶺の男と相性がいいというのは、戯言では済まないところまできていた。その事実を和彦は、体で実感している。
唇を吸われているうちに、守光の舌が当然のように口腔に侵入してくる。おずおずと舌先を触れ合わせていると、守光の指に敏感なものをまさぐられる。
拒むこともできずうろたえる和彦に、守光が思いがけない問いかけをしてきた。
「賢吾に、激しく求められたかね?」
咄嗟に質問の意味が理解できず、和彦は目を見開く。
「えっ……」
「わしと旅行に行ったことを、感情的に責めるとも思えん。だとしたら賢吾が、あんたに対して取る行動は限られると思ってな」
意味ありげな守光の指の動きでやっと、何を聞かれているのか理解する。数日前の、賢吾との濃厚な交わりが蘇り、和彦の体は熱くなる。そんな和彦を、なぜか守光は満足そうに見つめていた。
「千尋はあの通り、あざといほどに喜怒哀楽をはっきりと表に出すが、賢吾は逆だ。本心は、親のわしに対してであろうが、見せることはない。いや、親だからこそ、だろうな。そういうふうに育てたのは、わしだ。その賢吾が――、あんたへの執着は隠そうともしない」
まるで和彦と賢吾の交わりを見ていたように、守光は言い切る。そんな守光の言葉を否定することは、和彦にはできなかった。事実、和彦の体には、賢吾の執着が刻み付けられている。それは言葉や愛撫、熱い欲望によるものだが、体を傷つけるよりもしっかりと残るのだ。
「あんたもよくわかっているだろう。長嶺の男は情が強い。賢吾や千尋だけじゃない。それはわしも同じだ」
守光の指がスラックスの前を寛げ、侵入してくる。和彦が短く息を吐き出すと、それすらいとおしむように唇を塞がれていた。めまぐるしく思考が働き、守光が実は何を言おうとしているのか懸命に考えようとしたが、そんなことは必要ないと諌めるように守光の指が蠢く。
父と子で、やることは同じだ。自分の〈オンナ〉に所有の証を刻みつけるように、淫らな愛撫を与えてくる。それに和彦は抗えない。
「――……あんたはこの先も、逆らえない力に上手く身を委ねていればいい。総和会と長嶺組がついている限り、悪いようにはしない」
口づけの合間に囁かれ、背筋が冷たくなるような怖さを感じながらも、和彦は小さく頷く。それ以外の返事を守光が求めていないことなど、数えきれないほど長嶺の男と体を重ねてきた〈オンナ〉は、本能で知っていたからだ。
「せっかくだ。最後まで可愛がってやろう。たっぷり蜜をこぼして見せてくれ、先生」
賢吾に似た声が淫らに囁いてきて、欲望をきつく握り締められた。
ターミナルから徒歩数分の場所にあるビル内は、夕方という時間帯や場所柄もあってか、非常ににぎわっていた。もう何日かすれば、初々しい社会人や学生たちの姿もどっと増えてくるだろう。
なんといっても、春だ。いろいろと変化の多い季節がすぐそこまで来ている。
春物のコートの裾を軽く揺らして、和彦は階段で地下へと下りる。
やや奥まった場所に、他の飲食店に比べて控えめな看板のかかった店があった。狭い入り口をくぐると、思いがけず奥行きのある空間が和彦を迎えてくれる。友人が先に到着していることを店員に告げると、個室の一つに案内された。
守光の手がさらに深く両足の間に差し込まれ、命じられたわけでもないのに和彦は足を開いていた。
まるで検分するように、スラックスの上から敏感なものを押さえつけられ、唇を引き結ぶ。羞恥はあったが、驚きはなかった。賢吾に強引にオンナされたばかりの頃、怒りと戸惑いを覚えている和彦に、賢吾は車中で何度も体に触れてきた。あれは、賢吾なりの和彦に対する教育だったのだ。
どんな状況であれ、どのように扱われても、受け入れなくてはならないと。それが、ヤクザのオンナになる――されたということだ。
和彦の目を覗き込み、守光は柔らかな笑みを浮かべた。見ていると怖くなるような笑みだが、和彦は目は逸らさなかった。逸らせば、多分食われる。
「――忘れるな。あんたに特に価値を感じているのは、長嶺守光という男だ」
守光が囁き終えると同時に、唇が重なってくる。この瞬間、和彦が感じたのは恐怖でも嫌悪感でもなく、純粋な肉の疼きだった。我ながら度し難いと思うが、長嶺の男と相性がいいというのは、戯言では済まないところまできていた。その事実を和彦は、体で実感している。
唇を吸われているうちに、守光の舌が当然のように口腔に侵入してくる。おずおずと舌先を触れ合わせていると、守光の指に敏感なものをまさぐられる。
拒むこともできずうろたえる和彦に、守光が思いがけない問いかけをしてきた。
「賢吾に、激しく求められたかね?」
咄嗟に質問の意味が理解できず、和彦は目を見開く。
「えっ……」
「わしと旅行に行ったことを、感情的に責めるとも思えん。だとしたら賢吾が、あんたに対して取る行動は限られると思ってな」
意味ありげな守光の指の動きでやっと、何を聞かれているのか理解する。数日前の、賢吾との濃厚な交わりが蘇り、和彦の体は熱くなる。そんな和彦を、なぜか守光は満足そうに見つめていた。
「千尋はあの通り、あざといほどに喜怒哀楽をはっきりと表に出すが、賢吾は逆だ。本心は、親のわしに対してであろうが、見せることはない。いや、親だからこそ、だろうな。そういうふうに育てたのは、わしだ。その賢吾が――、あんたへの執着は隠そうともしない」
まるで和彦と賢吾の交わりを見ていたように、守光は言い切る。そんな守光の言葉を否定することは、和彦にはできなかった。事実、和彦の体には、賢吾の執着が刻み付けられている。それは言葉や愛撫、熱い欲望によるものだが、体を傷つけるよりもしっかりと残るのだ。
「あんたもよくわかっているだろう。長嶺の男は情が強い。賢吾や千尋だけじゃない。それはわしも同じだ」
守光の指がスラックスの前を寛げ、侵入してくる。和彦が短く息を吐き出すと、それすらいとおしむように唇を塞がれていた。めまぐるしく思考が働き、守光が実は何を言おうとしているのか懸命に考えようとしたが、そんなことは必要ないと諌めるように守光の指が蠢く。
父と子で、やることは同じだ。自分の〈オンナ〉に所有の証を刻みつけるように、淫らな愛撫を与えてくる。それに和彦は抗えない。
「――……あんたはこの先も、逆らえない力に上手く身を委ねていればいい。総和会と長嶺組がついている限り、悪いようにはしない」
口づけの合間に囁かれ、背筋が冷たくなるような怖さを感じながらも、和彦は小さく頷く。それ以外の返事を守光が求めていないことなど、数えきれないほど長嶺の男と体を重ねてきた〈オンナ〉は、本能で知っていたからだ。
「せっかくだ。最後まで可愛がってやろう。たっぷり蜜をこぼして見せてくれ、先生」
賢吾に似た声が淫らに囁いてきて、欲望をきつく握り締められた。
ターミナルから徒歩数分の場所にあるビル内は、夕方という時間帯や場所柄もあってか、非常ににぎわっていた。もう何日かすれば、初々しい社会人や学生たちの姿もどっと増えてくるだろう。
なんといっても、春だ。いろいろと変化の多い季節がすぐそこまで来ている。
春物のコートの裾を軽く揺らして、和彦は階段で地下へと下りる。
やや奥まった場所に、他の飲食店に比べて控えめな看板のかかった店があった。狭い入り口をくぐると、思いがけず奥行きのある空間が和彦を迎えてくれる。友人が先に到着していることを店員に告げると、個室の一つに案内された。
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