血と束縛と

北川とも

文字の大きさ
上 下
481 / 1,268
第22話

(18)

しおりを挟む
「気持ちいいか、先生? 尻が締まりっぱなしだ」
 和彦は何も考えられず、夢中で頷く。賢吾の指が、繋がってひくつく部分を擦り上げてくる。それだけで、鳥肌が立ちそうなほど感じていた。
「いい顔だ。先生みたいな色男を、尻で感じさせているのが自分かと思ったら、限界まで奮い立っても仕方ねーよな。俺だけじゃない。先生を抱いている他の男も同じだろう」
 一度内奥から引き抜かれた欲望が、すぐにまた奥深くまで押し入ってくる。和彦は思いきり仰け反って、頭の中で閃光が走るような感覚を味わう。
「また、イッたのか。こんなにすぐイクなら、こいつはもう、縛ったままでいいか?」
 賢吾が怖い声で囁きながら、和彦の欲望に手をかけてくる。きつく縛められているせいで、少し感覚が鈍くなってきている。それでも、精を放ちたいという衝動だけは強くなっていた。
「い、や……。イ、きたい……。賢吾さん、早く――」
 内奥に収まっている欲望は凶暴に育っているというのに、和彦の顔を覗き込んでくる賢吾の表情は冴え冴えとしていた。
「――お前は、俺のなんだ?」
 突然の質問に、和彦は目を見開く。思わず口ごもると、欲望に食い込む皮紐を指でなぞられる。その感触に背を押されるように、和彦は震える声で答えた。
「あんたの、オンナだ……」
「俺は、誰だ?」
「……長嶺組、組長」
 よく言えた、ということか、唇に賢吾のキスが落とされる。
「お前は、長嶺組組長のオンナだ。これは、何があっても変わらない。変えるつもりもない」
 皮紐の縛めが解かれると同時に、内奥深くを抉るように突かれる。和彦は声も出せないまま絶頂に達し、賢吾が見ている前でたっぷりの精を迸らせた。
「――……お前は、大蛇の大事で可愛いオンナだ。しっかりと、この淫奔な体に刻み付けておけよ。どれだけの男と寝ようが、忘れられないぐらいしっかりと」
 大蛇の執着は怖くて淫らだ。そんなことを頭の片隅で考えながら和彦は、賢吾にしがみついて何度も頷いた。


 ビールを呷っていた賢吾が低く笑い声を洩らし、それが振動となって背に伝わってくる。つられるように和彦も小さく笑い声を洩らしてから、まだ汗に濡れている賢吾の背に唇を押し当てる。
 激しい情交の最中、喉が渇きすぎて和彦の声が出なくなり、賢吾が部屋にビールと水を運ばせてきた。一度は体を離したもののすぐに賢吾の熱さが恋しくなり、和彦は喉の渇きを潤してすぐに、賢吾の背にしなだれかかっていた。
 そして、ここぞとばかりに大蛇の刺青を愛撫する。
 汗を舐め取り、大蛇の鱗に丹念に唇を押し当て、巨体の輪郭に舌先を這わせる。柔らかく肌を吸っていると、賢吾に片手を取られ、まだ高ぶっている欲望を握らされた。
「大蛇だけじゃなく、こいつも可愛がってやってくれ。嫉妬して暴発しそうだ」
「……さっき、さんざん――」
 言いかけた言葉は、口中で消える。口にするにはあまりに露骨すぎる言葉だと気づいたからだ。
 大蛇の刺青を唇と舌で愛撫しながら、賢吾の欲望を緩やかに片手で扱く。
「いやらしいな、先生」
 笑いを含んだ声で賢吾が言い、和彦はぼそぼそと応じる。
「どっちがだ」
 体の奥がまだ疼いていた。声も出なくなるほど嬌声を上げ、よがり狂い、賢吾と獣のように絡み合ったというのに、情欲の火は燻ったままだ。体のほうは、いつもならとっくに限界を迎えているはずだが、手の中で脈打つ欲望を受け入れたくてたまらなかった。
 賢吾の見せた強い執着心によって、和彦の中で歯止めが壊れたのかもしれない。
 大蛇の刺青に対する愛撫が熱を帯びる。和彦は、大蛇が巨体を巻きつけている剣をじっくりと舐め上げ、その感触に呼応するように、手の中で賢吾の欲望が震える。
 今なら、とんでもなく淫らな〈オンナ〉になれそうだった。恥知らずな言葉で賢吾を求め、腰を突き出す姿勢すら、嬉々として取るだろう。
 しかしここで、情欲を一気に冷ますようなことを賢吾が言った。
「――パンは美味かったか、先生?」
 和彦はすぐには、賢吾の言葉の意味が理解できなかった。
「えっ……」
 動きを止めた和彦が戸惑っていると、賢吾が肩越しにちらりと振り返る。口元には薄い笑みが浮かんでいた。
「オヤジとの旅行に出かける前の話だ。秦と中嶋との夜遊びを楽しんだあと、わざわざ遠回りして買いに行ったパン屋があるんだろ。先生は、周りが世話を焼いてやらなきゃ、自分から美味いものを食おうとしないのに、その先生が自分で足を運んだぐらいだ。うちの者から話を聞いて、珍しいこともあるもんだと、気になっていたんだ」

しおりを挟む
感想 80

あなたにおすすめの小説

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

朝起きたら幼なじみと番になってた。

オクラ粥
BL
寝ぼけてるのかと思った。目が覚めて起き上がると全身が痛い。 隣には昨晩一緒に飲みにいった幼なじみがすやすや寝ていた 思いつきの書き殴り オメガバースの設定をお借りしてます

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

魔王に飼われる勇者

たみしげ
BL
BLすけべ小説です。 敵の屋敷に攻め込んだ勇者が逆に捕まって淫紋を刻まれて飼われる話です。

処理中です...