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第21話
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思いがけず苦々しげな秦の口調がおかしくて、つい和彦は笑ってしまう。
「つまり中嶋くんは、秦静馬という男に、そこまでのフォローは最初から期待していないということだな。さすが、君のことをよくわかっている」
「ひどい言われようだ……」
肩をすくめた秦が立ち上がる。まだ何も身につけていない後ろ姿を見て、反射的に和彦は視線を逸らす。理屈ではなく、秦の体は中嶋のものだと咄嗟に思ってしまったのだ。
「――中嶋の側にいてやってください。わたしはこれからちょっと、仕事の電話をしないといけないので」
手早く服を着込んだ秦が、携帯電話を片手に部屋を出ていく。ドアが閉まるのと同時に、眠っていると思っていた中嶋がパッと目を開いた。いつから起きていたのかは知らないが、和彦と秦の会話を聞いていたのは確かなようだ。
「君の恋人は薄情だな。ことが終わったら、さっさと仕事の電話をしに行ったぞ」
和彦がわざと意地悪く言ってみると、中嶋は食えないヤクザの顔でこう答えた。
「照れているんですよ、あれで。外見も言動も甘い人だけど、中身はそうじゃありませんから。いざとなると、人をどう甘やかしていいかわからないんです」
「……どうして君があの男じゃいけないのか、わかった気がする。秦にとって、君じゃないといけないんからだな」
素直に感心して見せると、中嶋は短く声を洩らして笑った。
「買いかぶりですよ、先生。俺と秦さんの関係は、映画や小説のように素敵なものじゃない。気が合ううえに、互いに利用し合う価値があって、今日確認できましたが、運よく体の相性も合ったというだけです」
それだけ合えば十分だろうと、和彦は心の中でそっと呟く。すると突然、中嶋が体を起こしたかと思うと、次の瞬間には和彦にのしかかってきた。
「先生にも同じことが言えますね」
「何、が……?」
「俺と気が合って、互いに利用し合う価値があって、体の相性も合っている」
「……君の主観だな。ぼくが同じことを思っているとは限らないだろ」
素直に賛同するのも癪で、ささやかな虚勢を張ってみたが、中嶋には通じなかった。突然唇を塞がれて、口腔にやや強引に舌を差し込まれる。胸の奥で燻っている種火があっという間に大きくなり、和彦は中嶋と舌を絡め合う。
和彦以上に中嶋は興奮していた。両足の間に腰を割り込まされ、蕩けたままの内奥の入り口に熱くなった欲望が擦りつけられる。子供のわがままを許すような気持ちで、和彦は再び中嶋を受け入れていた。
「んっ、んうぅっ――」
「先生も、俺と同じ感想ですよね?」
柔らかな物腰で、欲しい返事をもぎ取ろうとする辺りは、やはり中嶋も他のヤクザと同じだ。しかし和彦は、そんなヤクザのやり口に否応なく慣らされている。返事の代わりに中嶋の背に両腕を回した。
緩やかな律動を繰り返しながら、中嶋が意外なことを話し始める。
「俺の初めての相手……女の話ですが、年上だったんですよ。色気はあるけど、物腰は素っ気ない人で、ガキだった俺にはそれが堪らなく魅力的に見えて、夢中でした。遊ばれているとわかっていても、相手をしてもらえるだけで嬉しかったんですよ」
和彦は内奥で蠢くものを締め付ける。中嶋の思い出話に集中したいが、湧き起こる快感は無視できない。
「先生と一緒にいると、なんとなくその人を思い出します。物腰は柔らかくて、誰に対しても優しいけど、内面はよくわからないし、もしかしてすごく冷たい人なのかもしれないと、ときどき考えたりもするんです。……俺が、一筋縄でいかないような複雑な人ばかり好きになるのは、初めての相手の影響が大きいんでしょうね」
中嶋に内奥深くを強く突き上げられ、和彦は喉を反らす。露わになった喉元を舐め上げた中嶋に囁かれた。
「――先生の初体験のこと、聞いていいですか」
「聞いたら、それを組長に報告するのか……?」
「これは、しませんよ。俺と先生の秘密にしたい」
なんとか呼吸を整えた和彦は、間近から中嶋の目を見据える。
「……ぼくが高校生のときだ。相手は年上の男の人だったけど、ぼくを子供扱いはしなかった。いろんなことを教えてくれて、優しかった。いい思い出ばかりだ」
里見の顔が脳裏に蘇り、一瞬の切なさが胸を駆け抜ける。それをきっかけに、里見とともに築いた思い出に心が引き寄せられる。懐かしさより、恋しさを覚えた自分に和彦は戸惑う。
「先生?」
中嶋に呼ばれ、唇を軽く吸われる。和彦は揺れる気持ちを読み取られたくなくて、中嶋の肩に額を押し当てて表情を隠した。
「つまり中嶋くんは、秦静馬という男に、そこまでのフォローは最初から期待していないということだな。さすが、君のことをよくわかっている」
「ひどい言われようだ……」
肩をすくめた秦が立ち上がる。まだ何も身につけていない後ろ姿を見て、反射的に和彦は視線を逸らす。理屈ではなく、秦の体は中嶋のものだと咄嗟に思ってしまったのだ。
「――中嶋の側にいてやってください。わたしはこれからちょっと、仕事の電話をしないといけないので」
手早く服を着込んだ秦が、携帯電話を片手に部屋を出ていく。ドアが閉まるのと同時に、眠っていると思っていた中嶋がパッと目を開いた。いつから起きていたのかは知らないが、和彦と秦の会話を聞いていたのは確かなようだ。
「君の恋人は薄情だな。ことが終わったら、さっさと仕事の電話をしに行ったぞ」
和彦がわざと意地悪く言ってみると、中嶋は食えないヤクザの顔でこう答えた。
「照れているんですよ、あれで。外見も言動も甘い人だけど、中身はそうじゃありませんから。いざとなると、人をどう甘やかしていいかわからないんです」
「……どうして君があの男じゃいけないのか、わかった気がする。秦にとって、君じゃないといけないんからだな」
素直に感心して見せると、中嶋は短く声を洩らして笑った。
「買いかぶりですよ、先生。俺と秦さんの関係は、映画や小説のように素敵なものじゃない。気が合ううえに、互いに利用し合う価値があって、今日確認できましたが、運よく体の相性も合ったというだけです」
それだけ合えば十分だろうと、和彦は心の中でそっと呟く。すると突然、中嶋が体を起こしたかと思うと、次の瞬間には和彦にのしかかってきた。
「先生にも同じことが言えますね」
「何、が……?」
「俺と気が合って、互いに利用し合う価値があって、体の相性も合っている」
「……君の主観だな。ぼくが同じことを思っているとは限らないだろ」
素直に賛同するのも癪で、ささやかな虚勢を張ってみたが、中嶋には通じなかった。突然唇を塞がれて、口腔にやや強引に舌を差し込まれる。胸の奥で燻っている種火があっという間に大きくなり、和彦は中嶋と舌を絡め合う。
和彦以上に中嶋は興奮していた。両足の間に腰を割り込まされ、蕩けたままの内奥の入り口に熱くなった欲望が擦りつけられる。子供のわがままを許すような気持ちで、和彦は再び中嶋を受け入れていた。
「んっ、んうぅっ――」
「先生も、俺と同じ感想ですよね?」
柔らかな物腰で、欲しい返事をもぎ取ろうとする辺りは、やはり中嶋も他のヤクザと同じだ。しかし和彦は、そんなヤクザのやり口に否応なく慣らされている。返事の代わりに中嶋の背に両腕を回した。
緩やかな律動を繰り返しながら、中嶋が意外なことを話し始める。
「俺の初めての相手……女の話ですが、年上だったんですよ。色気はあるけど、物腰は素っ気ない人で、ガキだった俺にはそれが堪らなく魅力的に見えて、夢中でした。遊ばれているとわかっていても、相手をしてもらえるだけで嬉しかったんですよ」
和彦は内奥で蠢くものを締め付ける。中嶋の思い出話に集中したいが、湧き起こる快感は無視できない。
「先生と一緒にいると、なんとなくその人を思い出します。物腰は柔らかくて、誰に対しても優しいけど、内面はよくわからないし、もしかしてすごく冷たい人なのかもしれないと、ときどき考えたりもするんです。……俺が、一筋縄でいかないような複雑な人ばかり好きになるのは、初めての相手の影響が大きいんでしょうね」
中嶋に内奥深くを強く突き上げられ、和彦は喉を反らす。露わになった喉元を舐め上げた中嶋に囁かれた。
「――先生の初体験のこと、聞いていいですか」
「聞いたら、それを組長に報告するのか……?」
「これは、しませんよ。俺と先生の秘密にしたい」
なんとか呼吸を整えた和彦は、間近から中嶋の目を見据える。
「……ぼくが高校生のときだ。相手は年上の男の人だったけど、ぼくを子供扱いはしなかった。いろんなことを教えてくれて、優しかった。いい思い出ばかりだ」
里見の顔が脳裏に蘇り、一瞬の切なさが胸を駆け抜ける。それをきっかけに、里見とともに築いた思い出に心が引き寄せられる。懐かしさより、恋しさを覚えた自分に和彦は戸惑う。
「先生?」
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