血と束縛と

北川とも

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第21話

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 ベッドに転がって本を読んでいた和彦は、何げなく窓を見る。いつからなのか、雨が降っていた。
 珍しくのんびりとした日曜日を過ごしている和彦としては、こんな天気の中、絶対に外出はしたくなかった。それでなくても今日はひどく気温が低い。雨はさぞかし冷たいだろうと、想像するだけで身震いしたくなる。
 今日はひたすら部屋に閉じこもり、夕方まで本を読み、夜はワインを飲みつつDVDをダラダラと観る予定なのだ。
 秘密を抱えた自分は、沈滞しかかっている――。
 和彦は、なんとなく人に会いたくない心境を、そう分析している。今の環境で、秘密を抱えるのはそれだけでストレスになり、プレッシャーもかかる。なんといっても、和彦を取り巻くのは食えない男たちばかりなのだ。
 顔を合わせて、いつもとは違うと指摘されるのが、怖いのかもしれない。
 今日はこのまま、自分を放っておいてほしいという和彦の願いは、見事に一蹴された。
 本を読んでいたはずが、降りが強くなった雨に意識を奪われていると、閉めたドアの向こうで人の気配を感じる。
 和彦が体を起こしたのと、ドアが開いたのは、同じタイミングだった。
 スーツの上からコートを羽織った賢吾が姿を見せ、ベッドの上の和彦を見るなり、口元に笑みを刻む。
「寛いでるな、先生」
「日曜日だからな。……あんたは、出かけていたのか?」
 上体を起こしただけの姿で話すのもだらしないので、和彦はベッドの上に座る。それを待っていたように賢吾が側にやってきた。濡れている様子はないが、賢吾からはいつものコロンだけではなく、雨の匂いもした。
「仕事だ。土日は、先生とゆっくりしたいから、あまり動きたくねーんだがな」
「……あんたには悪いが、たった今まで、ぼくはゆっくりできていた」
「そのおかげで俺は、こうして先生を捕まえることができたわけか。――誰かと出かけようと思わなかったのか?」
 コートを脱ぎながらさらりと賢吾に言われ、和彦は警戒する。和彦が複数の男と関係を持つことを容認している賢吾だが、決して寛大というわけではない。他愛ない言葉の端から、和彦を試すような響きを感じ取ることがある。このとき和彦は、蛇がチロリと舌を出す姿をどうしても連想してしまう。
「今日は、どこにも出かける気はない。のんびりしたいんだ」
「だったら俺も、ここでのんびりと過ごすことにしよう」
 そう言って賢吾が腰を屈め、髪を撫でてくる。和彦はじっとされるがままになりながら、大蛇が潜んだ男の目をじっと見つめる。
 息も止まりそうな圧迫感を胸の辺りに感じ、和彦はぎこちなく視線を逸らしてベッドを下りる。賢吾が脱いだコートを抱えてリビングへと向かった。
「先生、昼メシは食ったのか?」
 コートハンガーにコートをかけていると、背後から賢吾に軽く抱き締められる。
「宅配ピザを頼んだ。寒いから、外に出るのが億劫だったんだ」
「だったら晩メシは、俺と一緒にいいものを食いに出るぞ」
「……ということは、確実に夕方まではここにいるということか」
「なんだ、俺がいると困るか?」
 また反応を試すようなことを言われ、和彦は振り返って賢吾にきつい眼差しを向ける。
「さっきから、なんなんだ。言いたいことがあるなら、はっきり言ってくれ」
「――鷹津との、夜景を見ながらのデートは楽しかったか?」
 この瞬間、和彦はわずかに動揺していた。鷹津と会ったことは、賢吾にメールで報告してある。ただし余計なことは一切省き、あくまで簡潔に。もちろん夜景を見たなどとは、言っていない。つまり、細かな状況を賢吾に報告した人物がいるということだ。
「中嶋くんか……」
「先生の護衛につく人間には、きちんと行動報告をさせている。それが例え総和会の人間であろうが、先生の側にいるからには、そのルールは守ってもらう。中嶋の報告は詳細なだけじゃなく、なかなか詩的で、俺もその場にいるような感覚を味わえた」
 賢吾がジャケットのボタンを外そうとしたので、和彦も手伝ってやる。
「鷹津があの場所を選んだのは、別に詩的な感覚からじゃない。……会ったのは、誕生日に奢ってもらった礼もしたかったからだ。それと――」
「佐伯家の動向が気になるか?」
 顔を上げた和彦に、賢吾が薄く笑いかけてくる。
「珍しいことに、鷹津から組に連絡が入って、佐伯家の最近の動向について聞かれた。あいつはあいつで、独自のルートで佐伯家を探っている……と、俺は感じた」
「餌が欲しくて、ぼくが頼まなくても勝手に動いているようだ」
「モテる〈オンナ〉は大変だな」

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