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第21話
(13)
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寒さ以外のものから、和彦は大きく身震いする。大蛇を背に宿した男の冷たい目を、ふいに思い出したのだ。
「……里見さんに対して、やましい気持ちはない。佐伯家の情報を得たいだけだ」
「そんな理由があるのに、長嶺に打ち明けていないのはどうしてだ」
鷹津は真剣な顔で、和彦の目を覗き込んでくる。賢吾に代わって、自分が和彦の言葉の真意を探ろうとしているかのように。
「あの人は、堅気だ。ぼくとは違う。――ヤクザと交わらせたくない」
「ヤクザから、昔の男を守りたいってことか。健気だな」
そうじゃない、と和彦は声に出さずに呟く。決して、そんなきれいな理由だけではないのだ。
里見に迷惑をかけたくないという想いはある。そしてもう一つ、和彦自身の今の生活と、自分を大事にしてくれる男たちがいる世界を壊したくないという想いが。
一人で気ままに生活をしているときは、無視していればそれでよかった佐伯家だが、今は、里見まで利用する姿勢に、たまらなく嫌な予感がするのだ。
「まあ、何かあったとして、ケリをつけるのはお前だ。俺は美味い餌がもらえれば、それでいい」
鷹津のその言葉で、肩に回された腕の感触をいまさらながら意識する。和彦は、鷹津にきつい眼差しを向けた。
「ぼくはもう、あんたに餌を食わせたぞ。前払いを求めたのは、そっちだからな」
「……覚えていたか」
「当たり前だっ」
鷹津の腕を押し退けようとしたが、力が緩むことはない。ニヤニヤと笑っている鷹津に対して、和彦は折れるしかなかった。
「電話でも言ったが、明日も仕事があるんだ。ゆっくりはできない――」
言葉の途中で鷹津にあごを掴み上げられ、強引に唇を塞がれる。最初は応える気のなかった和彦だが、執拗に唇を吸われ、歯列を舌先でまさぐられているうちに、体の奥が熱くなってくる。視線を伏せ、舌先を触れ合わせていた。
まるで、求め合っている恋人同士のように唇と舌を吸い合う。そのうち口づけが深くなり、口腔を鷹津の舌でまさぐられ、舐め回される。当然のように舌を絡め合い、唾液を交わす。
鷹津と交わす口づけは、いつも長くて激しい。獣じみて下品でいやらしく――感じるのだ。
ようやく唇が離され、和彦は息を喘がせる。その反応に鷹津は満足したようだった。
「里見をまだ調べるか?」
ひどく優しい声で問われ、十秒ほど考えてから和彦は首を横に振る。
「もう、いい……。気になることがあれば、改めてまた頼むことにする」
「お前はもっと頻繁に、俺に仕事を頼むべきだな。餌をもらえる回数が足りなくて、腹が減る」
「……刑事に頻繁に頼める仕事なんて、ぼくにあるわけないだろ。」
「なんなら、餌だけくれてもいいんだぜ。例えば、里見の件の口止め名目で、とかな……」
露骨に意味ありげな物言いをされ、和彦は鷹津を睨みつける。別れの言葉もなく、足早に中嶋の元に戻った。
鷹津との口づけを見ていたであろう中嶋は、まず和彦にこう声をかけてきた。
「――お疲れさまです」
和彦は思わず苦笑を洩らす。
用は済んだとばかりに鷹津はさっさと車に乗り込み、走り去っていく。それを見送ってから、和彦も後部座席に乗り込もうとして、動きを止めた。
「……助手席に乗りたいんだが、いいか?」
和彦の頼みに、考える素振りも見せず中嶋は頷く。
「もちろんですよ」
後部座席に乗っている限り、どうしても中嶋との立場の違いを意識させられる。それに、話しているときの表情がよく見えないのが嫌だった。
鷹津と会った目的を、確実に中嶋は探ってくる。それを躱しつつ和彦は、人恋しさを紛らわせるようにたっぷりと話したい心境なのだ。
「……里見さんに対して、やましい気持ちはない。佐伯家の情報を得たいだけだ」
「そんな理由があるのに、長嶺に打ち明けていないのはどうしてだ」
鷹津は真剣な顔で、和彦の目を覗き込んでくる。賢吾に代わって、自分が和彦の言葉の真意を探ろうとしているかのように。
「あの人は、堅気だ。ぼくとは違う。――ヤクザと交わらせたくない」
「ヤクザから、昔の男を守りたいってことか。健気だな」
そうじゃない、と和彦は声に出さずに呟く。決して、そんなきれいな理由だけではないのだ。
里見に迷惑をかけたくないという想いはある。そしてもう一つ、和彦自身の今の生活と、自分を大事にしてくれる男たちがいる世界を壊したくないという想いが。
一人で気ままに生活をしているときは、無視していればそれでよかった佐伯家だが、今は、里見まで利用する姿勢に、たまらなく嫌な予感がするのだ。
「まあ、何かあったとして、ケリをつけるのはお前だ。俺は美味い餌がもらえれば、それでいい」
鷹津のその言葉で、肩に回された腕の感触をいまさらながら意識する。和彦は、鷹津にきつい眼差しを向けた。
「ぼくはもう、あんたに餌を食わせたぞ。前払いを求めたのは、そっちだからな」
「……覚えていたか」
「当たり前だっ」
鷹津の腕を押し退けようとしたが、力が緩むことはない。ニヤニヤと笑っている鷹津に対して、和彦は折れるしかなかった。
「電話でも言ったが、明日も仕事があるんだ。ゆっくりはできない――」
言葉の途中で鷹津にあごを掴み上げられ、強引に唇を塞がれる。最初は応える気のなかった和彦だが、執拗に唇を吸われ、歯列を舌先でまさぐられているうちに、体の奥が熱くなってくる。視線を伏せ、舌先を触れ合わせていた。
まるで、求め合っている恋人同士のように唇と舌を吸い合う。そのうち口づけが深くなり、口腔を鷹津の舌でまさぐられ、舐め回される。当然のように舌を絡め合い、唾液を交わす。
鷹津と交わす口づけは、いつも長くて激しい。獣じみて下品でいやらしく――感じるのだ。
ようやく唇が離され、和彦は息を喘がせる。その反応に鷹津は満足したようだった。
「里見をまだ調べるか?」
ひどく優しい声で問われ、十秒ほど考えてから和彦は首を横に振る。
「もう、いい……。気になることがあれば、改めてまた頼むことにする」
「お前はもっと頻繁に、俺に仕事を頼むべきだな。餌をもらえる回数が足りなくて、腹が減る」
「……刑事に頻繁に頼める仕事なんて、ぼくにあるわけないだろ。」
「なんなら、餌だけくれてもいいんだぜ。例えば、里見の件の口止め名目で、とかな……」
露骨に意味ありげな物言いをされ、和彦は鷹津を睨みつける。別れの言葉もなく、足早に中嶋の元に戻った。
鷹津との口づけを見ていたであろう中嶋は、まず和彦にこう声をかけてきた。
「――お疲れさまです」
和彦は思わず苦笑を洩らす。
用は済んだとばかりに鷹津はさっさと車に乗り込み、走り去っていく。それを見送ってから、和彦も後部座席に乗り込もうとして、動きを止めた。
「……助手席に乗りたいんだが、いいか?」
和彦の頼みに、考える素振りも見せず中嶋は頷く。
「もちろんですよ」
後部座席に乗っている限り、どうしても中嶋との立場の違いを意識させられる。それに、話しているときの表情がよく見えないのが嫌だった。
鷹津と会った目的を、確実に中嶋は探ってくる。それを躱しつつ和彦は、人恋しさを紛らわせるようにたっぷりと話したい心境なのだ。
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