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第21話
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何分か前まで、畳の上に転がって雑誌を読みながら、思い出したように和彦に話しかけていた千尋だが、すっかり寝入っているようだ。
どうせ昼寝をするなら、自分の部屋に戻ればいいのにと、和彦は小さく苦笑を洩らす。千尋としては、和彦が退屈しないよう、つき合っているつもりなのだろう。
呉服屋から戻ってすぐに、賢吾が見ている前で熱を測らされ、微熱が出ていることがわかった。普段の和彦であれば気づきもせずに動き回っている程度の熱だが、さすがに今は無茶できないと、こうして休んでいるというわけだ。
和彦は姿勢を戻し、再び天井を見上げる。
千尋の寝息を聞きながら思うのは、長嶺の本宅で自分は大事にされているということだ。クリニック経営という役目を負い、物騒であったり、訳ありの男たちを結びつけてもいる和彦に何かあったら面倒なのだと、捻くれた考え方もあるだろうが、決してそれだけではない。
間違いなく、長嶺の男たちは和彦を大事にしてくれていた。そして、長嶺と関わりを持つ男たちも――。
甘い眩暈に襲われて、反射的にきつく目を閉じた瞬間、障子が開く音がした。ゆっくりと目を開くと、真上から賢吾に顔を覗き込まれる。
不思議でもなんでもなく、和彦が布団を敷いて横になっているのは賢吾の部屋なのだ。
傍らに胡坐をかいて座り込んだ賢吾は、何も言わず和彦の顔を見つめてくる。
「……別に、側にいてもらわなくても大丈夫だ」
向けられる視線の圧力に耐えかねて、和彦は口を開く。賢吾は口元を緩めながら、千尋をちらりと見た。
「千尋は側に置いて、俺だけ追い払うのか?」
「甘ったれの子犬は、側でおとなしくしてくれているからな。大蛇に側にいられると、気が休まらない」
和彦の邪険な物言いに対して、もちろん賢吾は機嫌を損ねたりしない。
「大蛇を怖がるような可愛いタマじゃねーだろ、先生は」
そう言って和彦の頬を手荒く撫でてくる。
「――体はつらくないか?」
「熱も大したことはないし、つらくもない。本当は、こうして布団に寝ているのも大げさなぐらいなんだ」
「本当に?」
さりげなく賢吾に念を押され、特に不思議に感じるでもなく頷く。次の瞬間、賢吾がニヤリと笑った。その表情を目にして、自分の迂闊さを悟った和彦は慌てて起き上がろうとしたが、そのときには賢吾の手は布団の中に入り込んでいた。
「何、してっ……」
「車の中で言っただろ。熱が出ているかどうか、じっくり確かめてやると」
意味ありげな手つきで浴衣の上から体をまさぐられる。和彦は賢吾の手を布団から押し出そうとするが、あっという間に帯を解かれたところで無駄な抵抗はやめた。
「諦めたか?」
澄ました顔で問いかけてきた賢吾を睨みつける。
「……病み上がりの体で、あんたみたいな男とじゃれ合えるかっ……」
「じゃれ合う? 違うな。俺は先生の熱を測ってやろうとしているんだ」
そう嘯きながら賢吾は布団を捲り、和彦の上に覆い被さってきた。思わず顔を背けると、熱い舌にじっくりと首筋を舐め上げられ、耳朶に歯が立てられる。和彦はたまらず小さく呻き声を洩らし、一気に体を熱くする。
熱がぶり返したわけではない。従順な和彦の体は、賢吾の重みを感じただけで、官能に火がついたのだ。
無造作に下着を脱がされて、欲望を握り締められる。息を詰める間もなかった。欲望を手荒く上下に扱かれ、堪え切れずに声を上げた次の瞬間には、隣で寝ている千尋の存在を意識する。この父子とともに何度も淫らな行為に及んでいる和彦だが、だからといって慣れているわけではない。やはり抵抗はあるし、羞恥心は芽生える。
「――千尋が起きたら、仲間に入れてやろう」
楽しい悪戯を唆すような口調で賢吾が言い、和彦は返事の代わりに唇を噛み締める。感じやすい先端を、賢吾が爪の先で弄ってくるのだ。
そして、柔らかな膨らみを揉みしだかれる。
「ふっ……、ううっ」
腰をビクビクと震わせながら、和彦は賢吾の肩にすがりつく。強い刺激による和彦の体の強張りを解くように、賢吾に優しく唇を吸われ、同時に、弱みを指先でまさぐられる。ゾクゾクするような感覚が背筋を駆け上がってきて、下肢が甘く痺れる。すでにもう、この怖い男にすべての感覚を支配されていた。
「病み上がりだっていうのに、普段と変わらない感度のよさだな。もう濡れてやがる」
欲望の先端を指の腹で擦られ、すでに滲み出ている透明なしずくをヌルヌルと塗り込められる。もっと反応して見せろと恫喝するような愛撫だが、悔しいほど気持ちいい。
どうせ昼寝をするなら、自分の部屋に戻ればいいのにと、和彦は小さく苦笑を洩らす。千尋としては、和彦が退屈しないよう、つき合っているつもりなのだろう。
呉服屋から戻ってすぐに、賢吾が見ている前で熱を測らされ、微熱が出ていることがわかった。普段の和彦であれば気づきもせずに動き回っている程度の熱だが、さすがに今は無茶できないと、こうして休んでいるというわけだ。
和彦は姿勢を戻し、再び天井を見上げる。
千尋の寝息を聞きながら思うのは、長嶺の本宅で自分は大事にされているということだ。クリニック経営という役目を負い、物騒であったり、訳ありの男たちを結びつけてもいる和彦に何かあったら面倒なのだと、捻くれた考え方もあるだろうが、決してそれだけではない。
間違いなく、長嶺の男たちは和彦を大事にしてくれていた。そして、長嶺と関わりを持つ男たちも――。
甘い眩暈に襲われて、反射的にきつく目を閉じた瞬間、障子が開く音がした。ゆっくりと目を開くと、真上から賢吾に顔を覗き込まれる。
不思議でもなんでもなく、和彦が布団を敷いて横になっているのは賢吾の部屋なのだ。
傍らに胡坐をかいて座り込んだ賢吾は、何も言わず和彦の顔を見つめてくる。
「……別に、側にいてもらわなくても大丈夫だ」
向けられる視線の圧力に耐えかねて、和彦は口を開く。賢吾は口元を緩めながら、千尋をちらりと見た。
「千尋は側に置いて、俺だけ追い払うのか?」
「甘ったれの子犬は、側でおとなしくしてくれているからな。大蛇に側にいられると、気が休まらない」
和彦の邪険な物言いに対して、もちろん賢吾は機嫌を損ねたりしない。
「大蛇を怖がるような可愛いタマじゃねーだろ、先生は」
そう言って和彦の頬を手荒く撫でてくる。
「――体はつらくないか?」
「熱も大したことはないし、つらくもない。本当は、こうして布団に寝ているのも大げさなぐらいなんだ」
「本当に?」
さりげなく賢吾に念を押され、特に不思議に感じるでもなく頷く。次の瞬間、賢吾がニヤリと笑った。その表情を目にして、自分の迂闊さを悟った和彦は慌てて起き上がろうとしたが、そのときには賢吾の手は布団の中に入り込んでいた。
「何、してっ……」
「車の中で言っただろ。熱が出ているかどうか、じっくり確かめてやると」
意味ありげな手つきで浴衣の上から体をまさぐられる。和彦は賢吾の手を布団から押し出そうとするが、あっという間に帯を解かれたところで無駄な抵抗はやめた。
「諦めたか?」
澄ました顔で問いかけてきた賢吾を睨みつける。
「……病み上がりの体で、あんたみたいな男とじゃれ合えるかっ……」
「じゃれ合う? 違うな。俺は先生の熱を測ってやろうとしているんだ」
そう嘯きながら賢吾は布団を捲り、和彦の上に覆い被さってきた。思わず顔を背けると、熱い舌にじっくりと首筋を舐め上げられ、耳朶に歯が立てられる。和彦はたまらず小さく呻き声を洩らし、一気に体を熱くする。
熱がぶり返したわけではない。従順な和彦の体は、賢吾の重みを感じただけで、官能に火がついたのだ。
無造作に下着を脱がされて、欲望を握り締められる。息を詰める間もなかった。欲望を手荒く上下に扱かれ、堪え切れずに声を上げた次の瞬間には、隣で寝ている千尋の存在を意識する。この父子とともに何度も淫らな行為に及んでいる和彦だが、だからといって慣れているわけではない。やはり抵抗はあるし、羞恥心は芽生える。
「――千尋が起きたら、仲間に入れてやろう」
楽しい悪戯を唆すような口調で賢吾が言い、和彦は返事の代わりに唇を噛み締める。感じやすい先端を、賢吾が爪の先で弄ってくるのだ。
そして、柔らかな膨らみを揉みしだかれる。
「ふっ……、ううっ」
腰をビクビクと震わせながら、和彦は賢吾の肩にすがりつく。強い刺激による和彦の体の強張りを解くように、賢吾に優しく唇を吸われ、同時に、弱みを指先でまさぐられる。ゾクゾクするような感覚が背筋を駆け上がってきて、下肢が甘く痺れる。すでにもう、この怖い男にすべての感覚を支配されていた。
「病み上がりだっていうのに、普段と変わらない感度のよさだな。もう濡れてやがる」
欲望の先端を指の腹で擦られ、すでに滲み出ている透明なしずくをヌルヌルと塗り込められる。もっと反応して見せろと恫喝するような愛撫だが、悔しいほど気持ちいい。
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