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第19話
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「違う。……ぼくの誕生日まで、落ち着かない日が続きそうだと思ったんだ」
「へえ、なんか心当たりあるの?」
「心当たりというか――」
澤村と会う件で秦に協力を求めたことを、賢吾には報告してある。秦と中嶋と連れ立って動いて、賢吾の耳に入らないはずがない。だったら最初から報告しておいたほうが、精神的に楽だと考えたのだ。そもそもあの男に隠し事など、したくはなかった。バレたときが怖すぎる。
自分が生まれた日を迎えるだけだというのに、神経を遣い、根回しし、煩わしいと思う一方で、気遣われる自分の立場がくすぐったくもある。そういう状況に慣れない和彦の心理は、『落ち着かない』と表現するしかなかった。
和彦の気持ちにすり寄るように、千尋が甘えた声で尋ねてくる。
「先生、部屋に寄っていい?」
わずかに体温が上がるのを感じながら和彦は、千尋の頬を優しく撫でてやった。
グラスに注いだオレンジジュースを飲んでいると、まるで人懐こい犬のように背後から千尋がじゃれついてきた。腰に回された剥き出しの腕に何げなく触れると、まだ濡れている。和彦は、手の甲をパシッと叩いて注意した。
「千尋、しっかり拭かないと、風邪を引くぞ。それと、何か着ろ」
「えー、どうせすぐに脱ぐじゃん」
明け透けなことを言う千尋を、肩越しに振り返って軽く睨みつける。シャワーを浴びたばかりの千尋は、かろうじて腰にタオルを巻いているが、ほぼ裸だ。滑らかな肌を水滴が伝い落ち、しなやかな筋肉に覆われた体を、さらに魅力的に見せている。
きれいな千尋の体の中で、左腕だけは様子が違う。かつては生々しく見えたタトゥーが、部分的に色が薄くなり、代わりに赤みの強いケロイドが目立っている。ようやく痛みが取れて包帯を外したそうだが、それも数日のことだ。来週には、またレーザーを当てるらしい。
和彦は体の向きを変えると、傷に触れないように気をつけながら、タトゥーを指先でなぞる。千尋は小さく笑い声を洩らして、和彦の耳に唇を押し当ててきた。
「先生のほうが、痛そうな顔してる」
「……患者の傷を診るのは、全然平気なんだがな。よく知っている体にできた傷だと、なんだか自分が痛めつけられているように感じる」
「よく知ってる、か……。本当に俺の体のこと、よく知ってる?」
挑発的なことを言った千尋に片手を取られ、タオルの上から欲望に触れさせられる。和彦も負けじと挑発的に言い返した。
「少なくとも、〈これ〉のことは、お前の体のどこよりも知っているつもりだ」
指先でまさぐった千尋のものは、すでに硬くなりつつある。
「先生、大胆」
「お前のノリに合わせてやっただけだ。こんな恥ずかしいこと、お前以外の誰に言えるっていうんだっ……」
「だったらついでに、恥ずかしいこともしてほしいな」
照れたように笑った千尋だが、向けられる眼差しは、否とは言わせない傲慢さに満ちている。
和彦は唇を吸われ、耳朶を舐られてから、露骨な命令を下された。立ったままの千尋の前に膝をつくと、腰に巻かれたタオルを床に落とす。すでに発情している千尋のものを、片手で扱き始めた。
和彦の手の中で欲望はあっという間に成長し、熱くしなる。興奮を抑え切れなくなったのか、千尋が和彦の濡れた髪を掻き乱し、とうとう頭を押さえつけてくる。逆らうことなく和彦は、ゆっくりと唇を開いて千尋のものを口腔に含んだ。
「先、生っ――」
千尋が頼りない声を上げ、この瞬間、和彦の中にゾクリとするような疼きが駆け抜ける。自分にできる限り、この青年を甘やかし、快感を味わわせたくなる。その衝動が、今の和彦の欲望の源となっていた。
千尋のものを口腔深くまで呑み込み、柔らかく吸引する。熱く湿った粘膜と舌を駆使して、吸い付き、まとわりつく感覚を与えて千尋を高ぶらせていくと、頭にかかった手に力が加わり、喉につくほど深く欲望を押し込まれる。
和彦は苦しさに小さく声を洩らし、唇の端から唾液を滴らせていた。それに気づいた千尋が、慌てた様子で頭から手を放す。
「ごめん、先生っ……。苦しかったよね」
「……大丈夫だ」
そう答えて和彦は、すぐに千尋のものに舌を這わせる。いつの間にか、着込んでいたバスローブの前が乱れ、和彦の肩が露になる。千尋は慰撫するように剥き出しの肩に触れ、次いで、首筋を撫で上げてきた。和彦がくすぐったさに首をすくめると、次の瞬間、強い力で肩を掴まれた。
「先生、ベッドに行こう」
有無を言わさず引き立たされ、寝室へと連れて行かれる。
ベッドに押し倒され、覆い被さってきた千尋に唇を塞がれそうになったが、すかさず和彦は千尋の口元をてのひらで覆って拒む。不満そうな顔をした千尋に、子供を諭すような口調で言った。
「へえ、なんか心当たりあるの?」
「心当たりというか――」
澤村と会う件で秦に協力を求めたことを、賢吾には報告してある。秦と中嶋と連れ立って動いて、賢吾の耳に入らないはずがない。だったら最初から報告しておいたほうが、精神的に楽だと考えたのだ。そもそもあの男に隠し事など、したくはなかった。バレたときが怖すぎる。
自分が生まれた日を迎えるだけだというのに、神経を遣い、根回しし、煩わしいと思う一方で、気遣われる自分の立場がくすぐったくもある。そういう状況に慣れない和彦の心理は、『落ち着かない』と表現するしかなかった。
和彦の気持ちにすり寄るように、千尋が甘えた声で尋ねてくる。
「先生、部屋に寄っていい?」
わずかに体温が上がるのを感じながら和彦は、千尋の頬を優しく撫でてやった。
グラスに注いだオレンジジュースを飲んでいると、まるで人懐こい犬のように背後から千尋がじゃれついてきた。腰に回された剥き出しの腕に何げなく触れると、まだ濡れている。和彦は、手の甲をパシッと叩いて注意した。
「千尋、しっかり拭かないと、風邪を引くぞ。それと、何か着ろ」
「えー、どうせすぐに脱ぐじゃん」
明け透けなことを言う千尋を、肩越しに振り返って軽く睨みつける。シャワーを浴びたばかりの千尋は、かろうじて腰にタオルを巻いているが、ほぼ裸だ。滑らかな肌を水滴が伝い落ち、しなやかな筋肉に覆われた体を、さらに魅力的に見せている。
きれいな千尋の体の中で、左腕だけは様子が違う。かつては生々しく見えたタトゥーが、部分的に色が薄くなり、代わりに赤みの強いケロイドが目立っている。ようやく痛みが取れて包帯を外したそうだが、それも数日のことだ。来週には、またレーザーを当てるらしい。
和彦は体の向きを変えると、傷に触れないように気をつけながら、タトゥーを指先でなぞる。千尋は小さく笑い声を洩らして、和彦の耳に唇を押し当ててきた。
「先生のほうが、痛そうな顔してる」
「……患者の傷を診るのは、全然平気なんだがな。よく知っている体にできた傷だと、なんだか自分が痛めつけられているように感じる」
「よく知ってる、か……。本当に俺の体のこと、よく知ってる?」
挑発的なことを言った千尋に片手を取られ、タオルの上から欲望に触れさせられる。和彦も負けじと挑発的に言い返した。
「少なくとも、〈これ〉のことは、お前の体のどこよりも知っているつもりだ」
指先でまさぐった千尋のものは、すでに硬くなりつつある。
「先生、大胆」
「お前のノリに合わせてやっただけだ。こんな恥ずかしいこと、お前以外の誰に言えるっていうんだっ……」
「だったらついでに、恥ずかしいこともしてほしいな」
照れたように笑った千尋だが、向けられる眼差しは、否とは言わせない傲慢さに満ちている。
和彦は唇を吸われ、耳朶を舐られてから、露骨な命令を下された。立ったままの千尋の前に膝をつくと、腰に巻かれたタオルを床に落とす。すでに発情している千尋のものを、片手で扱き始めた。
和彦の手の中で欲望はあっという間に成長し、熱くしなる。興奮を抑え切れなくなったのか、千尋が和彦の濡れた髪を掻き乱し、とうとう頭を押さえつけてくる。逆らうことなく和彦は、ゆっくりと唇を開いて千尋のものを口腔に含んだ。
「先、生っ――」
千尋が頼りない声を上げ、この瞬間、和彦の中にゾクリとするような疼きが駆け抜ける。自分にできる限り、この青年を甘やかし、快感を味わわせたくなる。その衝動が、今の和彦の欲望の源となっていた。
千尋のものを口腔深くまで呑み込み、柔らかく吸引する。熱く湿った粘膜と舌を駆使して、吸い付き、まとわりつく感覚を与えて千尋を高ぶらせていくと、頭にかかった手に力が加わり、喉につくほど深く欲望を押し込まれる。
和彦は苦しさに小さく声を洩らし、唇の端から唾液を滴らせていた。それに気づいた千尋が、慌てた様子で頭から手を放す。
「ごめん、先生っ……。苦しかったよね」
「……大丈夫だ」
そう答えて和彦は、すぐに千尋のものに舌を這わせる。いつの間にか、着込んでいたバスローブの前が乱れ、和彦の肩が露になる。千尋は慰撫するように剥き出しの肩に触れ、次いで、首筋を撫で上げてきた。和彦がくすぐったさに首をすくめると、次の瞬間、強い力で肩を掴まれた。
「先生、ベッドに行こう」
有無を言わさず引き立たされ、寝室へと連れて行かれる。
ベッドに押し倒され、覆い被さってきた千尋に唇を塞がれそうになったが、すかさず和彦は千尋の口元をてのひらで覆って拒む。不満そうな顔をした千尋に、子供を諭すような口調で言った。
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