血と束縛と

北川とも

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第18話

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「これが、総和会会長と長嶺組組長が会うということだ。話した内容なんて関係ない。会ったという事実が、重いんだ。……俺が、ここに近づきたがらないのも納得できるだろ?」
 車が走り出してすぐに、和彦の手を握った賢吾が、皮肉っぽい口調で言った。完全に気が抜けた和彦は、シートに深く身を預ける。
「だったら、会長が長嶺の本宅を訪ねてくることは?」
「帰ってくる、という表現のほうが正しいんだろうな。あの家を建てたのはオヤジだ。俺は、長嶺組を継いだと同時に、あの家も継いだ。……まあ、総和会会長の肩書きがある間は、オヤジは本宅の敷居は跨がないだろう。決め事というわけじゃないが、ケジメというやつだ」
「……ぼくはヤクザじゃないが、なんとなく、わかる気がする。背負っているものに対して、責任があるということだろ」
「そうだ。総和会と長嶺組の位置は近いが、まったく違う組織だ。何か事が起これば、この二つの組織が反目し合うこともありうる――」
 賢吾の言葉に例えようもなく不吉なものを感じ、思わず和彦は身震いする。そんな和彦を、賢吾はやけに楽しげな表情で見つめていた。
「怖いか、先生?」
 肩を抱き寄せられ、素直に賢吾に身を預ける。
「怖い……。あまり、物騒なことは言わないでくれ」
「心配するな。俺は、臆病で慎重な蛇だ。総和会とは上手くつき合っていくつもりだし、オヤジが会長であるという旨みを最大限利用するつもりだ。俺が蛇でいる限り、組は安泰だ」
 よかった、と意識しないまま洩らした自分に、和彦は驚く。口元に手をやり、一人でうろたえていると、わざわざ賢吾が顔を覗き込んできた。
「どうやら、俺が思っている以上に、先生は長嶺組の将来を考えてくれているようだな」
「……別に、そんなつもりは……。ただ、身内同士の揉め事は見たくないだけだ」
「先生が言うと、ヤクザ同士の腹の探り合いも、微笑ましく感じられる」
 バカにされているのだろうかと思い、そっと眉をひそめると、ふいに賢吾が表情を消した。大蛇を潜ませた目が、心の底まで抉ってくるように見つめてきた。
「揉め事は見たくないと言っている本人が、揉め事の火種になる可能性について、じっくりと話し合いたい。――これから先生の部屋に寄ってもかまわないか?」
 賢吾がなんのことを言っているか、すぐに察した和彦は、恐怖に総毛立ちながらも拒否できなかった。
 顔を強張らせながら頷くと、賢吾は手荒な手つきで後ろ髪を撫でてきた。


 和彦の身に何が起こったか、話をするより、体を調べたほうが早い――というのが、賢吾の考えのようだった。部屋に帰るなり、和彦はベッドに連れ込まれ、身につけていたものをすべてを剥ぎ取られた。
 仰向けとなった和彦は、見下ろしてくる賢吾の視線をすべて受け止める。強い眼差しに肌を焼かれそうで、本能的なものから身を捩りたくなるが、必死に堪える。いつでも気をつけているつもりだが、今は特に、賢吾の機嫌を損ねたくなかった。
 大蛇に体を締め上げられているようだと思いながら、和彦はぎこちなく息を吐き出す。
 体の上に馬乗りになった賢吾も、すでにスーツを脱ぎ捨てている。そのため、肩にのしかかるように描かれた大蛇の巨体の一部が見えるのだ。
 恐怖で身がすくんでいるはずなのに、検分するように賢吾の大きな両手にじっくりと肌を撫で回されていると、じんわりと体が熱くなってくる。硬いてのひらの感触に、心地よさすら覚えていた。
 それに、賢吾の動きに合わせて、肩から腕、腿に描かれた大蛇の巨体が蠢き、しなっているようだ。おぞましくも生々しい刺青がひどく艶かしく見え、和彦は視覚で官能を刺激される。
「うっ……」
 すでに硬く凝っている胸の突起を指の腹で捏ねられ、小さく声を洩らす。執拗に突起を指で弄った賢吾がふいに胸元に顔を伏せ、熱い息が肌に触れる。それ以上に熱い舌にベロリと突起を舐め上げられて和彦は、全身を駆け抜けるような快美さを感じた。
 痛いほど強く突起を吸われ、歯を立てられる。同時に、両足の間に片手が差し込まれると、欲望を握り込まれた。いつもであれば、羞恥と戸惑いに苛まれながらも、賢吾の愛撫に容易に体を開く和彦だが、今朝はそういうわけにもいかない。数時間前まで、〈誰か〉を受け入れていた体だ。罪悪感と疲労感が、重くのしかかってくる。
 賢吾のほうも、いつも通りの愛撫を施しながら、冷静な目でじっと和彦を見下ろしていた。
「――最近は、ほとんど見なくなった表情をしているな」
 低い声で賢吾が囁いてくる。軽く唇を啄まれた和彦は、同じく囁くような声で応じた。
「何……?」

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