血と束縛と

北川とも

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第18話

(19)

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 ここで、和彦の体をまさぐっていた手がふっと離れ、布越しに見ていた影が大きく動く。何をしているのかと思って目を凝らしていると、いきなり視界がいくらか明るくなった。どうやら、布団の傍らに置いてあるライトをつけたようだ。ただ、明るさを最小に絞ってあるせいか、顔にかけられた布の色すら判別できない。
 それでも相手にとっては、和彦の体の反応をつぶさに観察するには困らない明るさなのだろう。
 身を起こした和彦の欲望の輪郭を指先でなぞったかと思うと、先端を擦り上げられる。このときの滑る感触で、自分がすでに先端を濡らしていることを知り、和彦は体を熱くする。そんな和彦を煽るように、さらに愛撫を与えられる。弄んでいるとも、可愛がっているともいえる手つきで。
 否応なく和彦の呼吸は乱れ、意思に反して腰が揺れる。すると、相手の興味は別の場所に移ったのか、片足を抱え上げられた。秘裂をくすぐるように指先が行き来し、内奥の入り口を探り当てられる。
 さすがに飛び起きようとした和彦だが、相手のほうが上手だった。秘裂に、トロリと何かが垂らされ、滑りを帯びた感触に和彦は身をすくめて動けなくなる。一瞬、唾液かとも思ったが、塗り込めるように秘裂に指を滑らされると、それが潤滑剤だとわかる。
「ふっ……」
 予期した通り、内奥の入り口をこじ開けるようにして指が入り込んできた。異物感に呻き声を洩らしていると、それに重なるように、内奥の襞と粘膜に潤滑剤を擦り込んでいく湿った音が重なる。
 ねっとりと内奥を撫で回されてから、指が引き抜かれる。和彦は息を喘がせながら、同時に内奥の入り口も喘ぐようにひくつかせる。こんな状況にありながらも和彦の体は、与えられる愛撫に順応し、受け入れつつあった。
 虐げられ、痛みを与えられれば、悲鳴ぐらい簡単に上げられるのだが、相手からは一切加虐的なものは感じられない。冷静に的確に和彦の体を探り、官能を引き出していくだけだ。
 慎重に内奥を解されながら、施される潤滑剤の量が増やされる。比例するように、指が出し入れされるたびに響く湿った音は大きくなり、淫靡さを増していく。同時に、否応なく内奥から快感を引き出されていた。
 付け根まで挿入された指が、内奥深くで淫らに蠢く。繊細な動きに、たまらず和彦は細い声を上げていた。
「はっ、あっ、あぁっ――」
 襞を掻かれ、粘膜を撫で上げられると、狂おしいほどの肉の愉悦が全身を巡る。
 溢れ出るほどたっぷりの潤滑剤を内奥に施される頃には、敷布団の上で身悶え続けた和彦は全身を汗で濡らし、浅く速かった呼吸は、大きく深いものへと変わっていた。いつの間にか、両手首を縛っていた紐も解けている。だが、相手は紐を結び直そうとはしなかった。必要ないと知っているのだ。
 和彦は、布越しにぼんやりと透ける相手の姿を見つめる。両手が自由な今、布を取って相手の顔を確認するのは容易だ。しかし、手を持ち上げることはできない。
 どれだけ快感に思考が侵されようが、それだけはやってはいけないと本能が制止していた。なんといっても和彦は、自分が逆らえない力に対して巧く身を委ねることで、今いる世界を生きている。相手も、和彦がどんな判断をするか計算の上で、こんなことをしている。
 目的を持って――。
 両足を抱え上げられ、大きく左右に開かれる。和彦は両手でしっかりと、敷布団の端を握り締めていた。
 たっぷり与えられた潤滑剤と刺激で、はしたないほど綻んだ内奥の入り口に熱い感触が押し当てられる。嫌悪とも恐怖ともつかない感情に突き動かされ、逃げ出したくなった。
 その瞬間、この家の主に言われたことが脳裏を過る。掛け軸の若武者が添い寝をしてくれるかもしれない、という言葉だ。今にして、あれが冗談ではなかったのだと知る。
 和彦が布越しに見ているのは、胸をざわつかせるほど美しい若武者の姿だ。
 そう思い込むことを、和彦は求められているのだ。
 言葉の深意が、この異常な事態を受け入れさせる気遣いのためなのか、従順さを試すためなのか、それは知りようがないが、なんにしても和彦の体はあさましいほど反応してしまう。
 火がついたように激しい欲情が燃え上がり、煩悶する。そんな和彦の体を敷布団の上に縫い止めるように、潤滑剤で潤んだ内奥を押し開かれた。
「うっ、ううっ――……」
 感じやすくなっている襞と粘膜を強く擦り上げられ、あまりの刺激に一瞬和彦の意識が遠のく。我に返ったとき、下腹部が濡れている感触に気づいた。絶頂に達し、精を噴き上げたのだ。
 荒い呼吸を繰り返しながら和彦は、完全に相手に支配される。内奥深くに欲望を呑み込まされてしっかりと繋がっていた。
 不思議なほど、組み敷かれて犯されているという意識は湧かなかった。恐怖や羞恥といった感情も薄れ、夢の中で交わっているような現実感のなさだ。そのくせ、体ははっきりと相手の欲望を感じている。
 同時に耳は、乱れることのない、深く落ち着いた息遣いを聞いていた。ただ、相手は一切言葉を発しなかった。和彦に、必要以上の情報を与える気はないらしい。
「あっ……ん」
 内奥にしっかりと埋め込まれ、興奮による淫らな蠢動を堪能するように動かなかった欲望が、ふいに揺れる。完全に虚をつかれた和彦は、上擦った声を上げて身悶える。
 誤魔化しようがなかった。正体の知れない相手に貫かれて、和彦の体は快感を貪り始めていた。
 ゆっくりと内奥を突き上げられながら、和彦は布越しに相手を見つめる。目を凝らせば、相手の顔を捉えられるぐらい距離が近い。和彦はそこに若武者の美しい顔を重ね、決して相手にしがみつかないよう、必死に頭上の枕を握り締める。
 繋がってはいるものの、触れ合うことのない交わりは、和彦から時間の感覚を奪っていた。
 激しさとは無縁の律動を、丹念にゆっくりと繰り返されたかと思うと、ふいに動きが止まる。その代わり、和彦の体に両てのひらが這わされ、じっくりと撫で回されるのだ。よがり狂って甲高い嬌声を上げるほどではないが、律動と愛撫を交互に与えられるのは、拷問に近い。
 和彦はずっと息を喘がせていた。何時間も甘い責め苦を与えられているような錯覚を覚え、悦楽に溺れていると思った。少し前に、二度目の絶頂を迎えて精を放ったというのに、もう和彦のものは身を起こし、相手の手に弄ばれている。
「……も、う……、許して、ください――」
 たまらず掠れた声で訴えると、内奥深くを小刻みに突かれ、腰から背筋へと痺れるような快感が這い上がる。
 背を反らして深い吐息を洩らした和彦は、はっきりと感じていた。相手の精が、内奥に注ぎ込まれる感触を。
 その瞬間、恍惚とするほどの絶頂感が、和彦の体を駆け抜けた。

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