血と束縛と

北川とも

文字の大きさ
上 下
373 / 1,268
第18話

(12)

しおりを挟む
 絡め合っていた舌をようやく解いてから、中嶋に抱き締められる。和彦も、中嶋の背に両腕を回し、しなやかで強靭な熱い体の感触を確かめる。ヤクザの男たちと体を重ねてはいるが、同じヤクザでありながら、中嶋の体はまったく違う存在感を持っており、それがとても不思議に感じられる。
 ふいに身じろいだ中嶋が、耳に唇を押し当て囁いてきた。
「――先生、いいことを教えてあげましょうか?」
 和彦は、中嶋の髪を撫でて応じる。
「ヤクザがそんな猫撫で声を出すときは、絶対ロクなことを言わないんだ」
「いいことですよ。……自分の身を守るという意味で」
 意味ありげな物言いに、嫌でも興味をそそられる。和彦は、間近にある中嶋の顔を見つめた。
「なんだ」
「南郷さん、女を抱き殺しかけたことがあるそうですよ」
 さすがに和彦が絶句すると、その反応に満足したのか、中嶋の唇に微かな笑みが刻まれる。会話の内容の物騒さと表情が、見事に一致していない。
「第二遊撃隊には、南郷さんがいた組から連れてきたという組員が何人もいるんです。そういう人たちは、まあ、南郷さんの強烈なシンパみたいなものです。だからこそ、南郷さんのことをよく知っていて、ウソは言わない。……昔、堅気の女に惚れたそうです。でも、迫力のあるあの外見に、仕事もヤクザ。普通の女なら、泣いて逃げ出す。当然、南郷さんが惚れた女も拒絶しましたが、追い掛け回して、半ば恫喝してモノにした」
 和彦は、女に迫る南郷の姿が容易に想像できた。なんといっても先日、和彦は南郷に首を絞められかけたのだ。情景としては大差ないだろう。
「そこまでして手に入れた女を、片時も離さず、抱き殺しかけた……。よっぽど欲しかったんでしょうね。力加減もできないほど」
「……確かに、いいことを聞いた。ただし、ぼくにどう関係あるんだという気もするが……」
「南郷さんが先生に興味を持った時点で、無関係じゃないでしょう」
「ぼくに興味を持ったというより、あれは――」
〈長嶺賢吾のオンナ〉に興味があるようだった。
 和彦が心の中で呟くと、そんな和彦の心を探るように、中嶋がじっと見下ろしてくる。寸前までの妖しく甘い気配は微塵もなく、食えないヤクザの目をして。
 ソファの上でじゃれ合う時間は終わったと和彦は感じ、中嶋も察するものがあったのか、あっさりと体を起こす。ついでに和彦も、引っ張り起こしてもらった。
 和彦は素早く格好を整えると、ワイシャツのボタンをはめる中嶋の姿を見ていられず、用もないのにキッチンに逃げ込む。いまさらだという気もするが、なんとなく気恥ずかしくなったのだ。
 少しして、きちんとジャケットとコートを羽織った中嶋がカウンター越しに声をかけてきた。
「先生、俺はこれで帰ります。水はもらって帰りますね」
 ペットボトルを軽く掲げて見せられ、和彦はぎこちなく頷く。
「ああ……。タクシーを呼ぼうか?」
「少し歩いてから捕まえますよ。その間に、体の熱を冷ましたいので」
 中嶋を見送るために玄関まで一緒に行く。
 ドアを開けようとした中嶋がふと動きを止め、振り返る。何か忘れたのだろうかと和彦が首を傾げると、ニヤリと笑って中嶋が言った。
「楽しかったですよ、先生」
 一瞬返事に詰まった和彦だが、視線を逸らしつつ、ぼそぼそと応じた。
「――……ぼくもだ」

しおりを挟む
感想 80

あなたにおすすめの小説

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

魔王に飼われる勇者

たみしげ
BL
BLすけべ小説です。 敵の屋敷に攻め込んだ勇者が逆に捕まって淫紋を刻まれて飼われる話です。

塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。 そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。

処理中です...