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第18話
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絡め合っていた舌をようやく解いてから、中嶋に抱き締められる。和彦も、中嶋の背に両腕を回し、しなやかで強靭な熱い体の感触を確かめる。ヤクザの男たちと体を重ねてはいるが、同じヤクザでありながら、中嶋の体はまったく違う存在感を持っており、それがとても不思議に感じられる。
ふいに身じろいだ中嶋が、耳に唇を押し当て囁いてきた。
「――先生、いいことを教えてあげましょうか?」
和彦は、中嶋の髪を撫でて応じる。
「ヤクザがそんな猫撫で声を出すときは、絶対ロクなことを言わないんだ」
「いいことですよ。……自分の身を守るという意味で」
意味ありげな物言いに、嫌でも興味をそそられる。和彦は、間近にある中嶋の顔を見つめた。
「なんだ」
「南郷さん、女を抱き殺しかけたことがあるそうですよ」
さすがに和彦が絶句すると、その反応に満足したのか、中嶋の唇に微かな笑みが刻まれる。会話の内容の物騒さと表情が、見事に一致していない。
「第二遊撃隊には、南郷さんがいた組から連れてきたという組員が何人もいるんです。そういう人たちは、まあ、南郷さんの強烈なシンパみたいなものです。だからこそ、南郷さんのことをよく知っていて、ウソは言わない。……昔、堅気の女に惚れたそうです。でも、迫力のあるあの外見に、仕事もヤクザ。普通の女なら、泣いて逃げ出す。当然、南郷さんが惚れた女も拒絶しましたが、追い掛け回して、半ば恫喝してモノにした」
和彦は、女に迫る南郷の姿が容易に想像できた。なんといっても先日、和彦は南郷に首を絞められかけたのだ。情景としては大差ないだろう。
「そこまでして手に入れた女を、片時も離さず、抱き殺しかけた……。よっぽど欲しかったんでしょうね。力加減もできないほど」
「……確かに、いいことを聞いた。ただし、ぼくにどう関係あるんだという気もするが……」
「南郷さんが先生に興味を持った時点で、無関係じゃないでしょう」
「ぼくに興味を持ったというより、あれは――」
〈長嶺賢吾のオンナ〉に興味があるようだった。
和彦が心の中で呟くと、そんな和彦の心を探るように、中嶋がじっと見下ろしてくる。寸前までの妖しく甘い気配は微塵もなく、食えないヤクザの目をして。
ソファの上でじゃれ合う時間は終わったと和彦は感じ、中嶋も察するものがあったのか、あっさりと体を起こす。ついでに和彦も、引っ張り起こしてもらった。
和彦は素早く格好を整えると、ワイシャツのボタンをはめる中嶋の姿を見ていられず、用もないのにキッチンに逃げ込む。いまさらだという気もするが、なんとなく気恥ずかしくなったのだ。
少しして、きちんとジャケットとコートを羽織った中嶋がカウンター越しに声をかけてきた。
「先生、俺はこれで帰ります。水はもらって帰りますね」
ペットボトルを軽く掲げて見せられ、和彦はぎこちなく頷く。
「ああ……。タクシーを呼ぼうか?」
「少し歩いてから捕まえますよ。その間に、体の熱を冷ましたいので」
中嶋を見送るために玄関まで一緒に行く。
ドアを開けようとした中嶋がふと動きを止め、振り返る。何か忘れたのだろうかと和彦が首を傾げると、ニヤリと笑って中嶋が言った。
「楽しかったですよ、先生」
一瞬返事に詰まった和彦だが、視線を逸らしつつ、ぼそぼそと応じた。
「――……ぼくもだ」
ふいに身じろいだ中嶋が、耳に唇を押し当て囁いてきた。
「――先生、いいことを教えてあげましょうか?」
和彦は、中嶋の髪を撫でて応じる。
「ヤクザがそんな猫撫で声を出すときは、絶対ロクなことを言わないんだ」
「いいことですよ。……自分の身を守るという意味で」
意味ありげな物言いに、嫌でも興味をそそられる。和彦は、間近にある中嶋の顔を見つめた。
「なんだ」
「南郷さん、女を抱き殺しかけたことがあるそうですよ」
さすがに和彦が絶句すると、その反応に満足したのか、中嶋の唇に微かな笑みが刻まれる。会話の内容の物騒さと表情が、見事に一致していない。
「第二遊撃隊には、南郷さんがいた組から連れてきたという組員が何人もいるんです。そういう人たちは、まあ、南郷さんの強烈なシンパみたいなものです。だからこそ、南郷さんのことをよく知っていて、ウソは言わない。……昔、堅気の女に惚れたそうです。でも、迫力のあるあの外見に、仕事もヤクザ。普通の女なら、泣いて逃げ出す。当然、南郷さんが惚れた女も拒絶しましたが、追い掛け回して、半ば恫喝してモノにした」
和彦は、女に迫る南郷の姿が容易に想像できた。なんといっても先日、和彦は南郷に首を絞められかけたのだ。情景としては大差ないだろう。
「そこまでして手に入れた女を、片時も離さず、抱き殺しかけた……。よっぽど欲しかったんでしょうね。力加減もできないほど」
「……確かに、いいことを聞いた。ただし、ぼくにどう関係あるんだという気もするが……」
「南郷さんが先生に興味を持った時点で、無関係じゃないでしょう」
「ぼくに興味を持ったというより、あれは――」
〈長嶺賢吾のオンナ〉に興味があるようだった。
和彦が心の中で呟くと、そんな和彦の心を探るように、中嶋がじっと見下ろしてくる。寸前までの妖しく甘い気配は微塵もなく、食えないヤクザの目をして。
ソファの上でじゃれ合う時間は終わったと和彦は感じ、中嶋も察するものがあったのか、あっさりと体を起こす。ついでに和彦も、引っ張り起こしてもらった。
和彦は素早く格好を整えると、ワイシャツのボタンをはめる中嶋の姿を見ていられず、用もないのにキッチンに逃げ込む。いまさらだという気もするが、なんとなく気恥ずかしくなったのだ。
少しして、きちんとジャケットとコートを羽織った中嶋がカウンター越しに声をかけてきた。
「先生、俺はこれで帰ります。水はもらって帰りますね」
ペットボトルを軽く掲げて見せられ、和彦はぎこちなく頷く。
「ああ……。タクシーを呼ぼうか?」
「少し歩いてから捕まえますよ。その間に、体の熱を冷ましたいので」
中嶋を見送るために玄関まで一緒に行く。
ドアを開けようとした中嶋がふと動きを止め、振り返る。何か忘れたのだろうかと和彦が首を傾げると、ニヤリと笑って中嶋が言った。
「楽しかったですよ、先生」
一瞬返事に詰まった和彦だが、視線を逸らしつつ、ぼそぼそと応じた。
「――……ぼくもだ」
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