365 / 1,268
第18話
(4)
しおりを挟む
内奥深くを抉るように突き上げられ、上体を捩りながら身悶える。
「あっ、あっ、い、ぃ――。三田村、三田村っ」
ふいに内奥から、逞しい欲望が引き抜かれた。和彦の胸元から腹部にかけて、生暖かな液体が散る。三田村の精だ。
快感の心地よい余韻に浸りながら和彦は、自分の胸元に指先を這わせて、三田村の欲望の残滓をいとおしむ。そんな和彦の様子を、三田村は食い入るように見下ろしていた。
いつの間にか、携帯電話の着信音は止んでいた。
「早く、かけ直さないと……」
呼吸が落ち着くのを待ってから、和彦は声をかける。すぐにベッドを下りるかと思った三田村だが、ティッシュペーパーを何枚か取ると、和彦の体の汚れを拭おうとする。
「自分でやるっ」
和彦は慌てて三田村の手を止め、ティッシュペーパーを奪い取った。
「ぼくはいいから、電話してくれ。若頭補佐の仕事を邪魔したなんて噂になったら、ぼくが困る。……確かに、邪魔したのはぼくだが……」
ぼそぼそと呟くと、しっかり耳に届いたらしく、三田村が短く噴き出す。
スウェットパンツを穿いただけの姿で三田村がテーブルに歩み寄り、和彦は向けられた後ろ姿を目で追いつつ、手早く後始末をする。本当はバスルームに駆け込むのが一番だが、下肢に力が入らない。それにできることなら、電話のあと、また三田村とベッドの上で睦み合いたかった。
だが和彦の願いは、三田村の電話の応対を聞く限り、無理なようだ。
体を起こした和彦が髪を掻き上げたとき、ちょうど電話を終えて振り返った三田村と目が合う。
「……先生、すまない、今の電話は――」
「ぼくに、仕事が入ったんだろ」
「総和会からだ」
ベッドを下りようとした和彦は動きを止める。眉をひそめつつ、三田村に問いかけていた。
「最近、総和会からの仕事が多くないか?」
「総和会が面倒を見ている医者は、何人かいる。俺が思うに、その医者に回していた仕事が、先生に回ってきているんじゃないか。……総和会なりの、先生を信頼しているという証かもしれない」
三田村の言葉に、先日、料亭で守光から言われたことを思い出す。和彦の身を、総和会で預からせてもらえないだろうかという話だ。もしかして自分は、総和会に取り込まれようとしている最中なのだろうかと、つい深く考えてしまう。
「それは、いいことなんだろうか……」
和彦はぽつりと洩らしたが、長嶺組の人間である三田村には答えにくい質問だったらしい。何も言わず、乱れた髪を撫でて直してくれた。
「すでに迎えの車がこちらに向かっていて、もうすぐ着くらしい」
「だったら、シャワーを浴びる時間もないな。患者がいるのに、待たせるわけにはいかないし」
「すまない……」
差し出された手を掴んで立ち上がった和彦は、三田村の頬を撫で、そっと唇を重ねる。
「あんたが謝ることじゃないだろ。これがぼくの、今の仕事だ」
ささいな刺激でまた三田村が欲しくなりそうで、すぐに和彦は体を離し、簡単に汗だけを拭ってから服を身につける。ただ、まだ火照った顔だけはどうにかしたくて、洗面所に駆け込み、冷たい水で洗った。
鏡を覗き込むと、まだ頬は赤みを帯び、目が潤んでいる。さすがにこんなだらしない顔をして、明るい陽射しの下を歩くことはできないが、幸か不幸か今は夜だ。
車で移動しているうちに、少しはマシな顔になるだろう。和彦は軽く自分の頬を叩いてから洗面所を出る。トレーナーを着込んだ三田村が、コートを手に立っていた。
コートに袖を通した和彦は、玄関まで見送ってもらう。
「帰りは明け方になるかもしれないから、遠慮せず寝ててくれ。明日は仕事があるんだし」
靴を履いて振り返ると、三田村にそう言い含める。生まじめで律儀な若頭補佐なら、和彦の帰りを起きて待っていると思ったのだ。案の定、三田村はそのつもりだったらしい。決まり悪そうに微苦笑を浮かべる。
「もしかすると、たまたま目が覚めたときに、先生が帰ってくるかもしれない」
「それでも、ベッドの中にいてくれ。帰ってきてすぐに、暖かいベッドに潜り込みたいから」
「……わかった」
三田村の優しい眼差しに頷いて返して、玄関のドアを開ける。総和会の人間が部屋の前で待機しているのではないかと身構えていたのだが、誰もいない。ほっとしつつ振り返った和彦は、三田村に向けて軽く手を上げた。
ドアが閉まると同時に、慌しく一階へと降りる。すでにマンションの前には、一台の車が停まっており、傍らに、辺りを警戒する男が立っていた。和彦に気づくなり、素早く駆け寄ってくる。
「先生、車に乗ってください」
「あっ、あっ、い、ぃ――。三田村、三田村っ」
ふいに内奥から、逞しい欲望が引き抜かれた。和彦の胸元から腹部にかけて、生暖かな液体が散る。三田村の精だ。
快感の心地よい余韻に浸りながら和彦は、自分の胸元に指先を這わせて、三田村の欲望の残滓をいとおしむ。そんな和彦の様子を、三田村は食い入るように見下ろしていた。
いつの間にか、携帯電話の着信音は止んでいた。
「早く、かけ直さないと……」
呼吸が落ち着くのを待ってから、和彦は声をかける。すぐにベッドを下りるかと思った三田村だが、ティッシュペーパーを何枚か取ると、和彦の体の汚れを拭おうとする。
「自分でやるっ」
和彦は慌てて三田村の手を止め、ティッシュペーパーを奪い取った。
「ぼくはいいから、電話してくれ。若頭補佐の仕事を邪魔したなんて噂になったら、ぼくが困る。……確かに、邪魔したのはぼくだが……」
ぼそぼそと呟くと、しっかり耳に届いたらしく、三田村が短く噴き出す。
スウェットパンツを穿いただけの姿で三田村がテーブルに歩み寄り、和彦は向けられた後ろ姿を目で追いつつ、手早く後始末をする。本当はバスルームに駆け込むのが一番だが、下肢に力が入らない。それにできることなら、電話のあと、また三田村とベッドの上で睦み合いたかった。
だが和彦の願いは、三田村の電話の応対を聞く限り、無理なようだ。
体を起こした和彦が髪を掻き上げたとき、ちょうど電話を終えて振り返った三田村と目が合う。
「……先生、すまない、今の電話は――」
「ぼくに、仕事が入ったんだろ」
「総和会からだ」
ベッドを下りようとした和彦は動きを止める。眉をひそめつつ、三田村に問いかけていた。
「最近、総和会からの仕事が多くないか?」
「総和会が面倒を見ている医者は、何人かいる。俺が思うに、その医者に回していた仕事が、先生に回ってきているんじゃないか。……総和会なりの、先生を信頼しているという証かもしれない」
三田村の言葉に、先日、料亭で守光から言われたことを思い出す。和彦の身を、総和会で預からせてもらえないだろうかという話だ。もしかして自分は、総和会に取り込まれようとしている最中なのだろうかと、つい深く考えてしまう。
「それは、いいことなんだろうか……」
和彦はぽつりと洩らしたが、長嶺組の人間である三田村には答えにくい質問だったらしい。何も言わず、乱れた髪を撫でて直してくれた。
「すでに迎えの車がこちらに向かっていて、もうすぐ着くらしい」
「だったら、シャワーを浴びる時間もないな。患者がいるのに、待たせるわけにはいかないし」
「すまない……」
差し出された手を掴んで立ち上がった和彦は、三田村の頬を撫で、そっと唇を重ねる。
「あんたが謝ることじゃないだろ。これがぼくの、今の仕事だ」
ささいな刺激でまた三田村が欲しくなりそうで、すぐに和彦は体を離し、簡単に汗だけを拭ってから服を身につける。ただ、まだ火照った顔だけはどうにかしたくて、洗面所に駆け込み、冷たい水で洗った。
鏡を覗き込むと、まだ頬は赤みを帯び、目が潤んでいる。さすがにこんなだらしない顔をして、明るい陽射しの下を歩くことはできないが、幸か不幸か今は夜だ。
車で移動しているうちに、少しはマシな顔になるだろう。和彦は軽く自分の頬を叩いてから洗面所を出る。トレーナーを着込んだ三田村が、コートを手に立っていた。
コートに袖を通した和彦は、玄関まで見送ってもらう。
「帰りは明け方になるかもしれないから、遠慮せず寝ててくれ。明日は仕事があるんだし」
靴を履いて振り返ると、三田村にそう言い含める。生まじめで律儀な若頭補佐なら、和彦の帰りを起きて待っていると思ったのだ。案の定、三田村はそのつもりだったらしい。決まり悪そうに微苦笑を浮かべる。
「もしかすると、たまたま目が覚めたときに、先生が帰ってくるかもしれない」
「それでも、ベッドの中にいてくれ。帰ってきてすぐに、暖かいベッドに潜り込みたいから」
「……わかった」
三田村の優しい眼差しに頷いて返して、玄関のドアを開ける。総和会の人間が部屋の前で待機しているのではないかと身構えていたのだが、誰もいない。ほっとしつつ振り返った和彦は、三田村に向けて軽く手を上げた。
ドアが閉まると同時に、慌しく一階へと降りる。すでにマンションの前には、一台の車が停まっており、傍らに、辺りを警戒する男が立っていた。和彦に気づくなり、素早く駆け寄ってくる。
「先生、車に乗ってください」
41
お気に入りに追加
1,391
あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

朝起きたら幼なじみと番になってた。
オクラ粥
BL
寝ぼけてるのかと思った。目が覚めて起き上がると全身が痛い。
隣には昨晩一緒に飲みにいった幼なじみがすやすや寝ていた
思いつきの書き殴り
オメガバースの設定をお借りしてます
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…


ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる