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第18話
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内奥深くを抉るように突き上げられ、上体を捩りながら身悶える。
「あっ、あっ、い、ぃ――。三田村、三田村っ」
ふいに内奥から、逞しい欲望が引き抜かれた。和彦の胸元から腹部にかけて、生暖かな液体が散る。三田村の精だ。
快感の心地よい余韻に浸りながら和彦は、自分の胸元に指先を這わせて、三田村の欲望の残滓をいとおしむ。そんな和彦の様子を、三田村は食い入るように見下ろしていた。
いつの間にか、携帯電話の着信音は止んでいた。
「早く、かけ直さないと……」
呼吸が落ち着くのを待ってから、和彦は声をかける。すぐにベッドを下りるかと思った三田村だが、ティッシュペーパーを何枚か取ると、和彦の体の汚れを拭おうとする。
「自分でやるっ」
和彦は慌てて三田村の手を止め、ティッシュペーパーを奪い取った。
「ぼくはいいから、電話してくれ。若頭補佐の仕事を邪魔したなんて噂になったら、ぼくが困る。……確かに、邪魔したのはぼくだが……」
ぼそぼそと呟くと、しっかり耳に届いたらしく、三田村が短く噴き出す。
スウェットパンツを穿いただけの姿で三田村がテーブルに歩み寄り、和彦は向けられた後ろ姿を目で追いつつ、手早く後始末をする。本当はバスルームに駆け込むのが一番だが、下肢に力が入らない。それにできることなら、電話のあと、また三田村とベッドの上で睦み合いたかった。
だが和彦の願いは、三田村の電話の応対を聞く限り、無理なようだ。
体を起こした和彦が髪を掻き上げたとき、ちょうど電話を終えて振り返った三田村と目が合う。
「……先生、すまない、今の電話は――」
「ぼくに、仕事が入ったんだろ」
「総和会からだ」
ベッドを下りようとした和彦は動きを止める。眉をひそめつつ、三田村に問いかけていた。
「最近、総和会からの仕事が多くないか?」
「総和会が面倒を見ている医者は、何人かいる。俺が思うに、その医者に回していた仕事が、先生に回ってきているんじゃないか。……総和会なりの、先生を信頼しているという証かもしれない」
三田村の言葉に、先日、料亭で守光から言われたことを思い出す。和彦の身を、総和会で預からせてもらえないだろうかという話だ。もしかして自分は、総和会に取り込まれようとしている最中なのだろうかと、つい深く考えてしまう。
「それは、いいことなんだろうか……」
和彦はぽつりと洩らしたが、長嶺組の人間である三田村には答えにくい質問だったらしい。何も言わず、乱れた髪を撫でて直してくれた。
「すでに迎えの車がこちらに向かっていて、もうすぐ着くらしい」
「だったら、シャワーを浴びる時間もないな。患者がいるのに、待たせるわけにはいかないし」
「すまない……」
差し出された手を掴んで立ち上がった和彦は、三田村の頬を撫で、そっと唇を重ねる。
「あんたが謝ることじゃないだろ。これがぼくの、今の仕事だ」
ささいな刺激でまた三田村が欲しくなりそうで、すぐに和彦は体を離し、簡単に汗だけを拭ってから服を身につける。ただ、まだ火照った顔だけはどうにかしたくて、洗面所に駆け込み、冷たい水で洗った。
鏡を覗き込むと、まだ頬は赤みを帯び、目が潤んでいる。さすがにこんなだらしない顔をして、明るい陽射しの下を歩くことはできないが、幸か不幸か今は夜だ。
車で移動しているうちに、少しはマシな顔になるだろう。和彦は軽く自分の頬を叩いてから洗面所を出る。トレーナーを着込んだ三田村が、コートを手に立っていた。
コートに袖を通した和彦は、玄関まで見送ってもらう。
「帰りは明け方になるかもしれないから、遠慮せず寝ててくれ。明日は仕事があるんだし」
靴を履いて振り返ると、三田村にそう言い含める。生まじめで律儀な若頭補佐なら、和彦の帰りを起きて待っていると思ったのだ。案の定、三田村はそのつもりだったらしい。決まり悪そうに微苦笑を浮かべる。
「もしかすると、たまたま目が覚めたときに、先生が帰ってくるかもしれない」
「それでも、ベッドの中にいてくれ。帰ってきてすぐに、暖かいベッドに潜り込みたいから」
「……わかった」
三田村の優しい眼差しに頷いて返して、玄関のドアを開ける。総和会の人間が部屋の前で待機しているのではないかと身構えていたのだが、誰もいない。ほっとしつつ振り返った和彦は、三田村に向けて軽く手を上げた。
ドアが閉まると同時に、慌しく一階へと降りる。すでにマンションの前には、一台の車が停まっており、傍らに、辺りを警戒する男が立っていた。和彦に気づくなり、素早く駆け寄ってくる。
「先生、車に乗ってください」
「あっ、あっ、い、ぃ――。三田村、三田村っ」
ふいに内奥から、逞しい欲望が引き抜かれた。和彦の胸元から腹部にかけて、生暖かな液体が散る。三田村の精だ。
快感の心地よい余韻に浸りながら和彦は、自分の胸元に指先を這わせて、三田村の欲望の残滓をいとおしむ。そんな和彦の様子を、三田村は食い入るように見下ろしていた。
いつの間にか、携帯電話の着信音は止んでいた。
「早く、かけ直さないと……」
呼吸が落ち着くのを待ってから、和彦は声をかける。すぐにベッドを下りるかと思った三田村だが、ティッシュペーパーを何枚か取ると、和彦の体の汚れを拭おうとする。
「自分でやるっ」
和彦は慌てて三田村の手を止め、ティッシュペーパーを奪い取った。
「ぼくはいいから、電話してくれ。若頭補佐の仕事を邪魔したなんて噂になったら、ぼくが困る。……確かに、邪魔したのはぼくだが……」
ぼそぼそと呟くと、しっかり耳に届いたらしく、三田村が短く噴き出す。
スウェットパンツを穿いただけの姿で三田村がテーブルに歩み寄り、和彦は向けられた後ろ姿を目で追いつつ、手早く後始末をする。本当はバスルームに駆け込むのが一番だが、下肢に力が入らない。それにできることなら、電話のあと、また三田村とベッドの上で睦み合いたかった。
だが和彦の願いは、三田村の電話の応対を聞く限り、無理なようだ。
体を起こした和彦が髪を掻き上げたとき、ちょうど電話を終えて振り返った三田村と目が合う。
「……先生、すまない、今の電話は――」
「ぼくに、仕事が入ったんだろ」
「総和会からだ」
ベッドを下りようとした和彦は動きを止める。眉をひそめつつ、三田村に問いかけていた。
「最近、総和会からの仕事が多くないか?」
「総和会が面倒を見ている医者は、何人かいる。俺が思うに、その医者に回していた仕事が、先生に回ってきているんじゃないか。……総和会なりの、先生を信頼しているという証かもしれない」
三田村の言葉に、先日、料亭で守光から言われたことを思い出す。和彦の身を、総和会で預からせてもらえないだろうかという話だ。もしかして自分は、総和会に取り込まれようとしている最中なのだろうかと、つい深く考えてしまう。
「それは、いいことなんだろうか……」
和彦はぽつりと洩らしたが、長嶺組の人間である三田村には答えにくい質問だったらしい。何も言わず、乱れた髪を撫でて直してくれた。
「すでに迎えの車がこちらに向かっていて、もうすぐ着くらしい」
「だったら、シャワーを浴びる時間もないな。患者がいるのに、待たせるわけにはいかないし」
「すまない……」
差し出された手を掴んで立ち上がった和彦は、三田村の頬を撫で、そっと唇を重ねる。
「あんたが謝ることじゃないだろ。これがぼくの、今の仕事だ」
ささいな刺激でまた三田村が欲しくなりそうで、すぐに和彦は体を離し、簡単に汗だけを拭ってから服を身につける。ただ、まだ火照った顔だけはどうにかしたくて、洗面所に駆け込み、冷たい水で洗った。
鏡を覗き込むと、まだ頬は赤みを帯び、目が潤んでいる。さすがにこんなだらしない顔をして、明るい陽射しの下を歩くことはできないが、幸か不幸か今は夜だ。
車で移動しているうちに、少しはマシな顔になるだろう。和彦は軽く自分の頬を叩いてから洗面所を出る。トレーナーを着込んだ三田村が、コートを手に立っていた。
コートに袖を通した和彦は、玄関まで見送ってもらう。
「帰りは明け方になるかもしれないから、遠慮せず寝ててくれ。明日は仕事があるんだし」
靴を履いて振り返ると、三田村にそう言い含める。生まじめで律儀な若頭補佐なら、和彦の帰りを起きて待っていると思ったのだ。案の定、三田村はそのつもりだったらしい。決まり悪そうに微苦笑を浮かべる。
「もしかすると、たまたま目が覚めたときに、先生が帰ってくるかもしれない」
「それでも、ベッドの中にいてくれ。帰ってきてすぐに、暖かいベッドに潜り込みたいから」
「……わかった」
三田村の優しい眼差しに頷いて返して、玄関のドアを開ける。総和会の人間が部屋の前で待機しているのではないかと身構えていたのだが、誰もいない。ほっとしつつ振り返った和彦は、三田村に向けて軽く手を上げた。
ドアが閉まると同時に、慌しく一階へと降りる。すでにマンションの前には、一台の車が停まっており、傍らに、辺りを警戒する男が立っていた。和彦に気づくなり、素早く駆け寄ってくる。
「先生、車に乗ってください」
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